1 顔合わせ
初投稿です。
拙いものですが、空より広い心で許していただけると幸いです。
「大切なご令嬢なので、心して接するように」
近衛隊長にそう耳打ちされ、ぐっと顔を上げました。
王宮に上がり、ひと月。
国王陛下の御前で、そのご令嬢と初めて対面した時のことでございます。
ほう、と。はしたなくも見惚れてしまいました。
そのくらい、美しい少女だったのです。
見事な黄金色の髪に琥珀色の瞳。きめ細やかな肌。
整ったご容姿もさることながら、その立ち姿。微笑み。そして……
「リュエンシーナと申します。
どうぞよろしくお願い致します、エスファニア様」
ご令嬢――リュエンシーナ様は、それは綺麗なお辞儀をされました。
これから一緒に仕事をする《先輩》だとはいえ、没落貴族の娘である私に。
この国では王宮に上がれるのは身分、職種、性別に関係なく15歳からです。
子どもは早ければ5歳、遅くとも7歳になれば教育が始まります。
方針や方法は親が決めますが、上位貴族の子女であればガヴァネスと呼ばれる女性の家庭教師がつくのが普通です。
彼女には、よほど良いガヴァネスがついていたのでしょう。
もしかしたら国王陛下がお付けになったのかもしれません。
15歳になった貴族の令嬢が行儀見習いとして、王宮に上がり侍女となる。
それは珍しいことではありません。
しかし、そういうご令嬢は大抵、皆わがままで鼻っ柱が――いえ。
気位が高く上司だろうと下位の者になど頭を下げないのが普通なのです。
たとえ国王陛下の御前であっても。
それはそれでしつけ甲斐が――いえ。
教え甲斐があると侍女長が腕をならしておりましたが。
リュエンシーナ様は《そういう》ご令嬢方とは違うようでした。
それも道理でしょう。
彼女は国王陛下が直々に王宮に招かれた方。
国王陛下の、大の親友の御息女。
国王陛下が御子息、王太子殿下の妃にと望まれた方なのですから。
そして私は、彼女のために、王宮へ上がるよう命じられたのです。
7年ぶりの王宮。
しかも国王陛下が王太子妃にと望まれているご令嬢を押し付けられ――いえ。
任された時は不安でしたが……この方であれば。
重かった肩が少し軽くなった気がしました。
私も今やすっかり身についた淑女の微笑みを浮かべ、丁寧に挨拶を返します。
一方、リュエンシーナ様もやはり緊張されていたようです。
初めての王宮。
国王陛下以外は見ず知らずの人間ばかり。
親元を離れ、そこでこれから暮らそうというのですから当然です。
私との顔合わせを終え、リュエンシーナ様はほっとしたのでしょう。
国王陛下に、先ほどとは違う笑顔を向けられました。
読んでいただきありがとうございます。