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Report 14 妖誅(7)

〈交戦状況〉


 イソマツ&桐野 VS 壬(灯) → 丙を追跡していたら、九品川と太七川の分岐点で壬(灯)が乱入し逃がしてしまう。

 徳長 VS 甲 → フィールダーに甲を乗せたまま爆走中

 円島魔導警察署 VS ? → 何者かが庁舎に霊動鎧で突っ込む。


〈残存敵対勢力〉


 甲   丙   戊   庚   辛   壬   干




【Side - 戊】


 時間は、十分前に遡る。


 冠谷前駅からほど近い地下道で戊は、頭長高(とうちょうこう)が2メートルに満たない一機の霊動鎧の前に立っていた。

 下肢はしゃがんだ状態だ。これが、霊動鎧の停車状態である。

 この日のために戊は、結成当初より自作機「レイジング・ソイル」を製作し続けてきた。


 戊は、人間で言うところの左脇腹についているフラップタイプのドアハンドルをつかんだ。引っ張ると、頭から腹にかけて半分前開きにゆっくりと開く。そこには、もたれかかるシートやいくつものレバーやペダルがあった。コックピットである。

 戊はレイジング・ソイルの太ももに足をかけて、コックピットに乗り込む。そしてドアの内側にあるグリップをつかんで、自分のところへ引き寄せる。ドアはカチッという音がして閉まった。

 シートベルトを締めて、足下の四つのペダルのうち左から二番目のクラッチペダルを踏む。ペダルを踏みながらキーを差し込んで捻る。

 すると、エンジンが音を立てて稼動し始めた。

 戊は、前開きのドアに搭載されたハンドルの根元にあるスイッチを前に捻る。すると、頭部に搭載されたヘッドライトが激しく光り出した。

 それからハンドルの脇にあるパーキングブレーキのレバーを前に入れて、一番左のペダルを踏んだ。すると、機体が曲がった膝を伸ばして立ち上がった。スクワットペダルである。これで霊動鎧はしゃがんだり立ったりすることができる。

 それから左から二番目のペダルと三番目のペダル――クラッチペダルとブレーキペダルを同時に踏んで、シート左脇のシフトレバーを「1」に合わせる。そしてブレーキペダルから足を離して一番右のアクセルペダルを踏み込んでいくと同時に、左足のクラッチペダルを少しづつ上げていく。

 グ、ググ……ガション!


 右足が動き、地面を踏みしめた。

 霊動鎧が動作し始めたのだ。


 次に左足を出し、霊動鎧はゆっくりと歩行を開始する。

 戊は、完全にクラッチペダルから左足を離す。霊動鎧は順調に歩行し始めて、あらかじめ開けて置いた鉄の扉の枠を潜り通路へ出た。

 そこは封鎖されたトンネルであった。

 歩き始めたとはいえ、霊動鎧の歩みは鈍い。戊はクラッチペダルをいっぱいに踏んで、シフトレバーを「2」に入れた。そしてクラッチペダルを離す。すると、霊動鎧の歩く速度が加速し始めた。

 同じやり方で戊は「3」に入れ直す。するとさらに、霊動鎧の歩き方に勢いがついた。

 目の前を見やると、トタンで封じられた出口が見えてきた。戊はシート右脇に搭載されたグリップレバーの先端のスイッチを押しながら、カーブレールに沿って前へと動かす。

 すると霊動鎧の右手が、握りしめられた状態でまっすぐ前に突き出されたのだ。

 バォン!

 トタンは、けたたましい音を立てて殴り倒された。

 林のなかの廃道を少し走ると、すり鉢の縁にあたる円状の大道路に出た。眼下には、清丸町一丁目を象徴するアーケード商店街が広がっていた。進行方向にある下り坂は、アーケードの西端と、標的である円島魔導警察署の合流地点だった。


「……4速!」


 クラッチを踏んで、シフトレバーを「4」に入れる。

 歩行スピードはさらにあがって、転がり落ちるように下り坂を一気に駆けていく。八階建ての円島魔導警察署の庁舎が、見る見る大きくなっていく。

 坂と商店街の合流点である交差点の信号は「赤」だった。当然のことながら無視をする。何台かの車がクラクションを鳴らして避ける。

 庁舎入口の前に立っていた警杖型導体を持った魔導警察官が、異変を察知して駆けつけてくる。


「止まれ!!」


 警察官たちは、警告の後すぐに《サイコバインディング・ペンタグラム》を唱える。

 だがレイジング・ソイルは絡みつく霊力の鎖を、いとも簡単に引き千切っていった。

 戊は、両脇のグリップレバーを頭頂部のスイッチを押しながら前へと動かした。

 機体の両手が前へと突きだされる。そして――

 グワッシャアアアン!!!

 重さ2.5トン、時速43km/hの突撃に、防弾用の魔導合成強化ガラスはいとも簡単に粉砕された。

 それと同時に戊は、アクセルを離しながらブレーキを踏みこんでいった。

 ハンドルを右にゆっくりと切りつつブレーキを踏み切ったら、今度はクラッチを完全に踏み込む。それからゆっくりとブレーキを離しながら、クラッチを緩めていった。

 するとレイジング・ソイルは、総合受付の机に激突一歩手前で停まった。


「《ビルディング・プレート》!!」


 何人かの警察官が、警棒型導体を取り出して呪文を唱えた。

 レイジング・ソイルの四方を囲むように地面から壁がせり上がってくる。閉じ込める気だ。

 しかし、であった。


「ふんぬッ!!」


 戊はコックピットの中で霊力場を展開する。

 すると機体が彼の霊力場に反応して、同一の霊波動を外部へ拡散し始めたのだ。

 ゴ、ゴ、ゴ――ゴゴゴゴゴゴ。

 レイジング・ソイルの周囲の地面が、断崖に打ち寄せる波のように激しくうねりだす。大地の怒濤(どとう)に魔導警官たちが生成した《ビルディング・プレート》の壁が傾き、隙間が生じる。

 戊はアームレバーを操作して、壁と壁の間をこじ開ける。

 超能力伝導装置(サイキッカー)。霊動鎧のアタッチメントの一つで、操縦者の超能力の霊力場を外部に展開することができるのだ。「土転(つちころ)び」の亜人である戊は、その名と同じ〔土転び〕という超能力を持っている。これは地面に振動を与えて他人を転ばせることのできる力であるが、戊のそれは完全に波打つように変形させることができるという、(すこぶ)る付きの威力を誇っていた。

 戊は方向転換をして、入口の方へ向く。そして再発進をした。

 カン、カンッ。

 背部に魔導拳銃による弾丸を何発か受けたか、全く堪えなかった。

 二速、三速と、急ピッチで速度を上げる。そして入口を通過しようとした、その時だった。

 ガクン――


(!?)


 頭部に何かが覆い被さって、機体が振動した。

 戊が上を見上げると、そこには五分刈りの男がフロントガラス越しにこちらを見ていた。


「停まれ!! 機動捜査隊の池田だ! 器物損壊と建造物侵入、公務執行妨害の現行犯で逮捕する!!」


 ハンドル脇のインストゥルメントパネルに搭載されたバックカメラのモニターには、駐車場のパトロールカーが今にも発進しそうだった。

 ここでブレーキをかければ、間違いなく囲まれてしまう。そこで手こずれば、瞬く間に魔導機動隊の霊動鎧部隊が到着するだろう。そうなれば陽動は早々に終わってしまう。捕まることは覚悟の上とはいえ、できる限り時間は稼がなければならない。

 戊は速度を落とすことなく、今くだってきた坂道を上った。

 いずれは根負けして、振り落とされるはずだ。生身の人間が霊動鎧を止められるはずがない。

 そう考えた戊は、この無謀な刑事を乗せたまま二丁目方面へと逃走を図ることにした。


 


   ★


【Side - 徳長】


 右前輪を切られたフィールダーは蛇行運転をしながら、隠水の森の方へと爆走していた。しかしそれでも守宮の男は振り落とされず、へばりついたままだった。

 徳長は考える。どうやってこの状況を打破するべきかを。


(くそっ! 急停車と同時に烈風衝を放って振り落とすか!?)


 その時、運転席側のドアが激しい音を立てて落下した。ドアヒンジが斬られたのだ。


「……!」


 風通しが良くなった運転席へ、守宮男が這いながら乗り込んでくる。


「徳長涼二!! 覚悟ッ!!」


 そして右手の刀身を徳長に向けてまっすぐ突き出した。


「ぐうっ!」


 刃は徳長の右頬をかすめる。

 この一撃を回避したことにより〔風縛〕による操作を怠った――一瞬のことだった。

 グワシャッ!!

 激しい衝撃。直後、天と地がひっくり返った。

 フィールダーがガードレールに激突して、宙に投げ出されたのだ。

 徳長は助手席側のドアを開けて、外へ出る。〔烈風衝〕を小刻みに出して、その反作用で自らの身体を空中で繰りつつ、眼下の隠水の森へ軟着陸しようとした。

 しかし、であった。

 ヴァボッ!!!!! 

 フィールダーは落下するとともに大爆発を起こした。


「うわあっ!」


 徳長はとっさに爆風へ向かって〔烈風衝〕を放ち、爆炎の直撃を免れる。

 だがその分勢いづいて空を激しく舞い、威力が殺されぬまま茂みの中へと墜落した。

 がさりっ。

 衝撃で、肺腑(はいふ)が息が絞り出された。


「ぐ……ふっ」


 ゆっくりと立ち上がり、身体の状態を確認する。

 ――ビキッ。


(……!)


 右腕を動かそうとすると、鎖骨に激痛が走った。

 

(……ダメだ。初撃で完全に右の鎖骨をやられてしまった)


 それだけじゃない。胸の下のあたりにも燃えるような痛みを覚えた。

 どうやら肋骨に、何本かヒビを入れてしまったらしい。

 徳長は左手を虚空に伸ばす。すると、何もない空間に彼の愛刀である歳星(さいせい)が出現した。それから丹下左膳(たんげさぜん)のように、歳星の鞘の部分を口でくわえて左手で抜刀する。

 あの守宮侍はどこにいるのか。

 徳長は、勁路を含めた身体の全感覚器官を総動員して索敵を試みる。


(――!?)


 殺気を感じた。咄嗟に右へと転がる。

 その直後、コンマ4秒前まで自分の頭部があった場所に斬撃が見舞われた。

 守宮侍が大樹の幹に逆さに張り付きながら、右腕一本で刀を振るったのだ。


(くっ、フィールダーから飛び降りた際に運良くこの大木の枝に引っかかり、待ち伏せていたのか!)


 バッ――

 守宮侍が幹から離れ、徳長に斬りかかってきた。


「とぉぉぉくぅなぁがあああッ、りょぉぉぉうぅじィィィッ!!!!!」


 鬼の形相で守宮侍が叫んだ。その顔は〔変化〕を解いて守宮の肌になっており、固い鱗に覆われていた。


「拙者はマガツが十干の一人、(きのえ)……。幾年(いくとせ)経とうとも、名前が変わっても、そっ、そっ、そそその(かお)を忘らいでかッ!!!!!」


 興奮しすぎて、吃音気味になっている。全身の血管が破裂しそうなほど、くっきりと浮き出ていた。


「ええ……。私の方も、忘れるはずがありません……」


 対照的に徳長は、落ち着き払った声色だった。


「私が暗殺した岩村田藩(いわむらだはん)藩士・伊東樹一郎(いとう きいちろう)の従者である化け守宮の青年……ですね」


 そう徳長は、悔悟と哀しみの念を込めて言った。

 だがそれが、甲の逆鱗に触れた。


「貴様があの人の名を口にするなッ!!!!!」


 殺気(ジャキッ)――

 甲が刀の刃先を徳長に向けると、彼の気合に呼応しているかのように刀身が高らかに鳴った。


「応よ、そうとも……。拙者こそが岩村田藩徒頭(かちがしら)伊東(いとう)三樹三郎(みきざぶろう)!! 貴様が無惨にも斬り捨てた、伊東樹一郎の元武家奉公人だッ!!! 主君が仇、今こそ討ち取らせて貰うッ!!!」




   ★


【Side - 桐野】


 信じられなかった。信じたくなかった。

 だが丙の逃亡を手伝った壬こと灯の姿を目の当たりにして、桐野の希望は絶望へと転じようとしていた。

 九品川と太七川の分岐点で、桐野、イソマツ、灯の三者は留まり、にらみ合いの状態を続けていた。


「灯……」


 桐野はいつになく弱々しく、かつて自分を救ってくれた恩人の名前を口にする。だが当の本人は、それを言葉で応えることはなかった。


 スッ……。

 灯が懐から、水の入った小瓶を取り出した。


「!」


 イソマツが〔バクチク〕の火球を放つ構えを取る。

 だが桐野は、未だに動けずにいた。


(瓶のなかの水……!)


 白銀衆を襲った襲撃犯は、小瓶のなかの川の水を凶器にしていた。

 桐野の不安が、確信に変わった。


「――〔川流槌(せんりゅうつい)〕」


 ボンッ!!

 灯がそう言うやいなや、瓶の中の水がコルクを突き破り、一つの弾丸となって桐野たち目がけて放たれた。


「¡Fo(フォッ)!(チッ!)」


 イソマツが人差し指を水の弾丸に向けて、〔バクチク〕の火球を放つ。

 火球と水の弾丸が衝突すると、ジュワッという蒸発して相殺された。

 しかし、であった。


「〔川流蛇(せんりゅうだ)〕」


 イソマツたちの飛行箒のすぐそばが光った。イソマツはヨークを引いて、飛行箒を上昇させる。

 川面から、水のビームが大きく放物線を描いて飛行箒のマフラーをかすめた。


「〔川流槌(せんりゅうつい)――跳ね魚・門構(もんがまえ)〕」


 川の両岸が光り出す。無数の水のビームが上空目がけて発射された。

 バンッ!

 一発がマフラーを直撃して、大きく衝撃を受ける。


「¡Ay(アイ)!(わっ!)」

「うわあっ!」


 飛行箒に乗る二人が思わず声をあげた。 

 イソマツはやむなく下降する。

 上を見上げると、両岸から跳び上がった川流槌がアーチのように放物線を描いていた。桐野たちは岸にも上空へも、逃げられなさそうだ。


「灯ッ……!!」

「……人違いだな。私はマガツの十干が一人、(みずのえ)だ」


 灯は、ひどく酷薄とした声音でそう言った。その表情に、一昨々日のような柔和さはどこにも見受けられなかった。

 桐野はギリッと歯ぎしりをする。


「………………………………クッ、ううっ」


 そして、杖を灯に向けた。


「――うああああああッ!!!」


 川の両岸や川底など、様々なところから石の弾丸や岩のプレートなどが無秩序に生成される。《リッパー・ストーン》や《ビルディング・プレート》などの地術系の具現化呪文を手当たり次第に短縮詠唱しているのだ。だがそのどれも形は歪で、無軌道な方向へと生成される。正確さを完全に欠いた、いつもの桐野では考えられない暴れぶりであった。

 しかし、灯はそれらをものともしなかった。

 灯の周囲の川面から、無数の水の槌が生成された跳ね魚のように飛び上がる。それらは灯を取り囲み、彼女に迫る石や岩の生成物を片っ端から破壊していった。


「〔川流槌〕+〔川流蛇〕――〔魚鱗円舞(ぎょりんえんぶ)〕! ……お前たちは、私がここで食い止める。抵抗するなら、ここで二人とも川底に沈んでもらう」

 

 そう灯は、研ぎ澄まされたサファイアの瞳で桐野たちを見据えて言った。

 その表情は、完全に覚悟を決めた者の顔であった。相手が誰であろうと使命を貫くために排除する、と。

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