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Report 11 憎悪を萌すもの(2)

「先生。術師界の用事なのに術師界に入らないって、何か変な感じです」


 賢治が言った。

 ここは、徳長のカローラ・フィールダーの車内である。

 運転席にはもちろん持ち主である徳長、助手席には桐野、後部座席に賢治、現世、イソマツの順で座っていた。

 青梅邸で賢治と現世を乗せて、高級住宅と田園が点在する道を走り抜ける。南中に近づきつつある太陽が、車内をこうこうと照らしてくる。


「円島自治区は、同盟の力が強いですからね。魔導警察までなら妥協できても、帝国時代の弾圧の象徴だった陰陽師となると、反対も苛烈になるものです」

「土地くらい、行政措置でなんとかなるのでは?」

「それがどうにもならないのが、政治の世界というものです」


 賢治と徳長がそんな会話を交わしているのは、本日聴取が行われる陰陽保安局東部支局が汎人界の円島市にあるからである。

 陰陽保安局の地方支局は、術師界の行政組織であるのにもかかわらず術師界にはない。これは、陰陽寮が宮内省の内部部局だった時代から庁舎が存在していた土地を、そのまま使っているためである。特に円島自治区は同盟の反対が強く、自治区内の土地を未だに接収できていない。


「皆さん。この間何度も説明したように、私は聴取の部屋を監視することはできても、皆さんと同伴することはできません。しかも、聴取は一人一人に対して行われます。相手はプロです。下手に隠そうとしたらすぐさま見抜かれて、さらに厳しい追及がなされるでしょう。ですから、訊かれたことに対しては素直に答えてください」


 賢治は不安な面持ちで「……わかりました」と答えた。


「さて……。そろそろ着きますよ」


 県道888号線に入って南進すると、フロントガラスの向こうに月輪山(つきのわやま)を背にしつつ太七川(たしちがわ)に沿って建てられた大きな施設が見えた。それが目指す、陰陽保安局東部支局であった。

 東部支局は地上5階建てのバウハウス風のポストモダン建築であり、一見して大学や博物館のようにも見える。だが、巨大な窓の部分は全てマジックミラーになっており、外から内部を窺うことはできない。汎人界では宮内庁の関連施設ということになっているが、出入りする人間はどう見ても警察職員特有の厳格な雰囲気をまとっている。

 徳長は、敷地内の駐車場に車を停めた。賢治、イソマツ、現世は慣れた様子でサッと車から降りる。

 続いて助手席の桐野も降りようとした。だが、

トントン、

と、徳長がサイドブレーキを指で叩いたため、その場に留まった。


「皆さん、入口で待っていてくれませんか? すぐに行きますので」


 徳長がそう言うと、賢治たちは無言で従った。

 車内に残された桐野と徳長。

 二人きりの空間で徳長は、桐野と目が合うなり頭を下げた。


「今朝は大変申し訳ありません。あなたの言うとおり、完全に私の八つ当たりでした」


 それは、謝罪の言葉だった。


「いいですよ……今更」


 桐野はそれを、あっさりと流そうとした。

 しかし、徳長は言葉を続ける。


「いいえ、よくありません。私の役割は、あなたたちが術師として、人間として一人前になるために、育み、教え、守ることです。それなのに、教え子であるあなたに当たってしまうなどあってはならないことです。(あがな)いの言葉も浮かびません」

「……」


 その余りにも愚直な徳長の態度に、桐野は静かな苛立ちを覚えた。


「……だったら先生。そのつぐないとして――」


 そして、いつになく湿っぽい声音でこう言い放った。


「全てを捨てて、わたしをここから連れ去ってくれますか? あの日(・・・)のように、わたしを苛む全てのものから、わたしを逃がしてくれますか? 世界中を敵に回しても、わたしだけ(・・・・・)を守り抜いてくれますか?」


 リアリストの彼女らしくない逃避と夢想に満ちた言葉を口にした桐野は、どこか遠くを見つめるような目で徳長にそう言った。

 不意を突かれたようで、徳長はものすごく狼狽(ろうばい)した。いつも冷静な彼が、こんな表情を見せるのは極めて珍しいことだった。


「……桐野さん。……本当に、申し訳ありません……」


 自責に満ちた、憔悴(しょうすい)し切った声で徳長はそう言った。

 すると桐野はフウ、とため息をついた。


「――冗談です。今のわたしは青梅と現世の保護役です。そのことにわたしは満足していますし、その責務は果たすつもりです。変なことを言ってごめんなさい」


 諦念とも嘲りとも言えない声音で、桐野はそう言い捨てて車外へと出た。


(何て不器用な人なんだろう。そして、わたしも……)




   ★


「んだよ、クソッ!! 停学二週間に加え、一週間追加ってどういうことだッ!!」


 廣銀識人(ひろがね しると)はテーブルに拳を叩きつけた。

 置いてあった花瓶が跳ねて床に落ち、けたたましい音をあげて割れた。


「うるせえよ! 停学になったのはてめーだけじゃねーんだよ! 俺だって一週間の停学食らっちまったんだから、しょうがねえだろ!」


 ヒノキの椅子に腰かけている成人(しげと)が識人に向かって言った。

 二人の兄弟がケンカしている3LDKのそこそこに豪奢なつくりのマンションの一室は、亜人差別を標榜する反社会的術師結社「白銀衆(しろがねしゅう)」の円島支部事務所である。


 彼らは先週の金曜日に、自分たちが在籍する清丸魔導高校の生徒である堺桐野と、彼女の身内である見学者・青梅賢治と因幡現世に対して、学校現場にあるまじき粗暴な振る舞いを見舞った。そのことに彼らの保護者である徳長涼二は激怒し、学校に猛抗議をした。その対応として清丸高は、今回の騒動に関与した生徒職員全員に処罰を与えたのであった。

 生徒の中で最も重かったのは、廣銀識人だった。彼の行動は、授業の実戦練習において桐野にあるまじき反則行為を行い、賢治と現世に危害を加えて、この騒動の発端となった。そのことを(とが)められ、彼は二週間の停学を食らったのだった。 

 これが正式に言い渡されたのが、今週の月曜日であった。

 そして金曜日の今日、廣銀兄弟が反社会的術師結社「白銀衆」の構成員であることの嫌疑がかかり、二人にはそれぞれ停学一週間の処罰が追加で下ったのであった。


「黙れよキモオタ!! お前に俺の気持ちがわかってたまるかよ!」

「はあ? 調子こくなよてめー。元はと言えば、てめーのせいだろ。あんなビッチにちょっかい出すからこんなことになんだろ」

「んだと、てめえ……」

「入学一週目でアドレス交換できなかった腹いせで反則行為とか、マジでDQNの発想だわ。あーあ、こんな弟持った俺マジ不幸だわ。不幸だー!! なんち――」


 そこで成人の挑発は止まった。

 識人に、割れた花瓶の破片を突きつけられたからだ。


「……おい。てめえ、実の兄貴に何してんだよ」

「てめえなんざもう、兄貴でも何でもねえ。今まで魔術の腕だけは認めていたから大人しくしてたが、もう限界だ。魔術がなけりゃてめえなんざカス同然で、簡単にぶっ殺せるんだよ」


 成人は、ジーパンのベルト周りを触った。

 そこで杖を、洗面所に置き忘れたことを思い出した。

 すると成人は、ガクガクと震えて両手をあげた。


「わ、わわ、悪かった、識人。お、俺が言い過ぎた。だだだだから、その破片を引っ込めてくれ」

「本当に悪かったと思っているか?」


 成人は、コクコクと痙攣(けいれん)するように二回頷いた。


「だったらキモオタらしく、裸になって『イエッタイガー』でもやってもらおうか」

「なっ、誰がそんなことを――」


 成人が反論しようとすると、識人は破片を首筋に当てた。


「は、ははははい、やりますです、はい……」


 成人がジーパンのベルトに手を当てた。

 その時、だった。


 ドーン!


 玄関の扉が、激しい音を立てて開かれた。

 識人は、そちらの方へと視線をやる。

 すると、空の小瓶を扉のあった方向へ向けている黒いパーカーの人物が立っていた。ニット帽を目深に被り、サングラスとマスクをしていて、顔は全く見えない。


「なんだ、テメエ……」


 識人は、ベルトにつけていたワンドケースから杖を取り出そうとした。

 だが、ニット帽の人物の方が早かった。

 彼だか彼女だかわからないこの闖入者(ちんにゅうしゃ)は、水の入った数個の小瓶を宙に投げた。

 そして――




   ★


「二等陰陽保安士のエルワン・和久(かずひさ)・ジロー=カバントゥ・五星院ごじょういんだ」

「さ、三等陰陽保安士の、明日葉萌(あすは もえ)です! 本日はよろしくお願いします!」


 賢治の目の前に立つ、二人のダークスーツに身を包んだ男女が自己紹介をした。

 賢治は、小柄な身体に見合った小さな三つ編みを揺らす明日葉の方にはほとんど目もくれず、五星院と名乗る極めて屈強なアフリカ系の男性に注目した。サングラスをしているため表情は読み取りにくいが、ただでさえ深い顔の彫を一層深めており、友好的な態度でないことはありありと伝わった。


(……五星院って、たしか廣銀が魔導貴族がどうとか言っていたよな。そして陰陽道の名家……。ということは、退魔連合と関係の深い人間ってことか。用心しないとな)


 そんなことを考えながら賢治は「……青梅賢治です」と挨拶を返した。


「座って」


 エルワンの指示に従って、賢治はパイプ椅子に着く。

 横には、大きな鏡が設えられている。


(あの向こうから徳長先生と……あとは、積雲教授? って人がこっちを監視しているのか……)

「今日呼ばれた理由は知っての通り、君と因幡現世が保有している『門』を狙われ、反社会術師結社マガツに三回も襲撃を受けた件についてである。これら三件の事件において君が知っている事実と、君が因幡現世と出逢ってから今までに起こった出来事のうち関連することを、全て話してもらおう。これは、こちらの確認の意味もあり、また君自身の認識を確かめるためでもある」


 エルワンは威圧的な態度でこう切り出した。


「まずは、因幡現世と出逢った先月の28日。あの日、君は月輪山の麓にいたらしいな」

「はい。落ち着いて本を読める、お気に入りの場所があったんです」

「そこで君は、マガツの構成員・癸――本名、日夏譲(ひなつ じょう)に追われる因幡現世と遭遇した。これは全くの偶然だったんだな?」


 そんなこと聞いてどうするんだ、と賢治はイラつき、「偶然以外に何だというのですか?」と返した。


「青梅賢治、口の利き方に気をつけろ。君からしたら『何故そんなことをいちいち聞くんだ』という気持ちになるのは当然と言えば当然だ。しかし、我々は君たちのことを文章でしか知らない。明らかに不快な表情をしたり、不躾(ぶしつけ)な訊き返し方をしたりするならば、反抗的な態度とみなして厳しく追及せざるを得ないのだよ」


 賢治は、エルワンの言い方に引っかかるものを覚えたが、必要以上に挑発的な返し方になったしまったことは事実であった。自分が不利にならないためにも、自省するべきだと判断した。


「……わかりました、すみません。はい、本当に偶然です」

「因幡現世と接触する以前、君は在籍している高校のクラスの副担任として潜伏している徳長涼二と接してきた。この日まで、彼が術師であることも知らなかったのか?」

「はい、もちろん知りませんでした」

「それ以前に、術師界および術師との接点はなかったのか?」


 青い三角帽、青いマント、中指・人差し指・親指が抜けた白手袋、先の折れ曲がったトリネコの杖、黒いさらさらのロングヘアー、いたずらっぽい笑みを浮かべる女性……。

 不意に、賢治の頭の中にサッちゃんのイメージが浮かび上がった。

 その直後、賢治の神経に緊張が走った。


 サッちゃんのことを悟られてはならない。


 瞬間的に、賢治はそう思った。

 まず当時汎人であった賢治に術を見せた彼女は、犯罪者であるからだ。

 それと、現世との出逢いの前後に賢治は彼女が出てくる白昼夢を見たこと。そのことを口にすれば、賢治と現世の関連性について厳しい指摘が来ることが予想されるからだ。

 しかし、徳長からは「訊かれたことに対しては素直に答えてください」と言い含められている。

 賢治は悩んだ。

 だが少しでも逡巡すれば、エルワンはきっと何かを隠していることを気づき、厳しく追及してくるだろう。

 判断の猶予はない。

 賢治は、即答せざるを得なかった。


「――はい、ありません」


 この間、約2.5秒。

 賢治にしては、早く判断できた方だった。

 賢治は眼球を泳がせることなく、エルワンと明日葉を見る。

 視界の中央にいるエルワンは両手を鼻の上で組んで、サングラスに隠れた視線を全く変わらない角度でこちらに向け続けている。何を考えているのか、相変わらずわからない。

 だが、視界の端にいる明日葉の反応が少し気にかかった。

 明日葉が、少し目をパチクリさせたのだ。


(しまった! 何か勘付かれたか……!?)


 賢治は、固い(つばき)をゴクリと呑み込んだ。


「……いいだろう。では、次の質問に入る」


 どうやら、やり過ごせたようだ。

 だが、ここで胸をなでおろすことはもちろんのこと、少しでもホッとした素振りを見せれば、間違いなく追及が来る。

 賢治は気を抜くことなく、始終緊張したまま質問に対して、できる限りてきぱきと答えていった。


 


   ★


「皆さん、本当にお疲れ様でした」


 徳長がハンドルを握りながら労わるようにそう言った。

 聴取を終えた四人は術師界へ帰ることにした。図画トンネルの中で検問を待っていて、これから因幡邸への帰路に着くところだ。


「モニター越しに見ていましたが、皆さん厳しい尋問に対して本当によく耐えました。今日のお昼は、お寿司でも出前し(とり)ましょうか」

「¡Guay(グァイ)!(わーい!)」

「おおおお!! 涼ちゃん太っ腹なのだ!」


 イソマツと現世が二人して歓喜の声をあげる。

 

「あの……先生」


 だが賢治は、不安な声で徳長に話しかける。


「聴取のとき、サッちゃんのことと、彼女の白昼夢を見たことを隠してしまいました」


 すると徳長は、一呼吸置いてからこう答える。


「ええ……、見ていたので分かります。現世さんと出会う前のあなたの、術師界との関わりについて訊かれたときですよね?」

「はい、そうです。サッちゃんのことが頭に浮かんだのですが、すぐに彼女のことをいうべきではないと考えて取りやめました」

「言わなくて正解です。よく隠し通しました」

「本当に勘付かれなかったのでしょうか?」

「何か気取られたにしても、あれだけじゃ何もわかりませんよ。変な勘繰りをさせないためにも、この情報を与えなかったのは正しい判断です」


 サンバイザーに搭載したハンズフリーキットが着信を通知する。

 表示された名前は緒澤平祐だった。

 徳長は、霊波感知機能で応答する。


『徳長さん、白銀衆のニュース見ました?』

「いえ。今まで用事がありましたので。何かあったんですか?」

『一時間半ほど前、廣銀成人と廣銀識人が白銀衆の事務所マンションで、ニット帽を目深に被った人物に襲撃を受けました』


 廣銀兄弟の名前が出されて、車内に緊張が走った。


(廣銀兄弟だと……! やはり、白銀衆だったのか!!)

『手口は風由のときと全く同じで、小瓶に入れられたどこかの川の水を弾丸のように打ち出す水術系の術です。突然の襲撃で、二人はあっという間に昏倒したみたいですね。かろうじて意識があった識人が《ジャイロケット・アイシクル》を唱えたのですが、襲撃犯のニット帽をかすめるだけで終わりました』


 平祐がそう言うと、桐野が何故か驚いた顔をした。


「川の水を……、弾丸のように……」


 何事か考える素振りをしているが、徳長はそれに気づかない。意識はハンズフリーキットの方へと向けられていた。


『それで清丸町魔導病院に搬送されたんですが、そこに二人の叔父であり白銀衆の首領である廣銀蔵人(ひろがね くろうど)がやってきて多いに暴れましてね。維弦につまみ出されました。まあそんなことはどうでもいいんですが、そのとき蔵人の側近がヘンなことを蔵人に耳打ちしましてね』

「ヘンなこと?」

『「Wisperにこんなメッセージが」って言って蔵人にタブレットを見せたんですけど、それを見るなり蔵人は「特別訓練魔導学校(トクマ)の糞ジンガイどもめ!! よくも甥っ子たちを!!」って叫んでタブレットをぶち壊してしまったらしいんです』

「特別訓練魔導学校……? 廣銀兄弟を襲った犯人が、特別訓練魔導学校の生徒だということですか?」

『ええ、そういうことです。俺、Wisperの白銀衆公式アカウントのパスワードを入手していたんで、捨て端末でアクセスしてメッセージ欄を見てみたのですが、案の定捨てアカと思しきアカウントから剣呑なメッセージが入ってましたわー。スクショしたのをそっちに送りますね』


 さらっと不正アクセス防止法違反を犯した宣言がされたことは無視して徳長は、「ちょっと停車します」と言ってフィールダーを、因幡邸前の坂の林へ寄せて駐車した。

 スマートフォンを取り出して、平祐から送られたメールを確認する。

 賢治は覗くつもりはなかったが、視界の中にスマホの画面が入ってしまった。



 円島特別訓練魔導学校に、白銀衆の団員を襲撃しているマガツの幹部が在籍している。


@Byuoig5531



 徳長の顔つきが、見る見る険しくなっていった。


「あの……。トクマって、何ですか?」


 しかし賢治は、やや空気を読めていない口調でこう質問をした。


「特別訓練魔導学校とは、術師界成立以前から生きていたり人里から離れたところで暮らしていたりなどの理由で社会生活が困難な亜人や、途中から術に目覚めて術師界入りしたはいいが勉強についていけず生活に適応できない元汎人の術師などが、教育を受ける学校です。小学校、中学校、高校に準じた学校教育を受け、術師界で生きるための自立を支援することを目的としてるのです」

「え……。ということは、亜人がたくさん通っていることですよね? そこに自分たちを襲った犯人がいるって知った白銀衆の連中が、次にやることは……」


 賢治はその先の言葉を言わなかった。

 言わずとも、明らかだったからだ。


『……徳長さん? 聞いてますか、徳長さーん』

「はい……。今、メールを確認したところです」

『白銀衆はWisperのアカウントで、トクマにカチこむ声明を出しました。トレンドにも『円島特別訓練魔導学校 白銀衆』って上がっていてですね……、白銀衆と思しき厳ついレザージャケットに身を包んだ連中が、トクマの方向へ向かっている写真がボロボロあがっていますねえ』


 その時、助手席の桐野が「先生、円島特別訓練魔導学校(まるしまトクマ)のほう……」と窓の向こうを指さした。

 ここから500メートルくらい先、日輪山の麓の住宅街から、赤い光がパチパチときらめく。それから、細い黒煙があがった。


「皆さん、ここで降りてください」


 深刻な表情をして徳長がそう言った。

 賢治は言われるままに従って車から降りた。


「すみません、お寿司は中止です。私はこれからトクマに向かいます。皆さんは因幡邸に戻り、今日は一歩も外に出ないでください。賢治くんと現世さんは泊まっていってください」


 そしてフィールダーは発進してしまった。

 取り残された四人。

 桐野は何故か、ずっと思い詰めた様子でブツブツと何かつぶやいている。


「……なあ、ちょっと様子を見に行ってみないか?」


 賢治が言った。


「あれー? 賢治くん悪い子だねえ。さっき先生に釘を刺さればかりじゃないの?」

「ああ。そうだ、これは先生との約束を破る行為だ……。だけど白銀衆って、廣銀兄弟みたいなどうしようもないクズみたいな奴らが集まっている術師結社なんだろ? そんなのが、社会的に立場の弱い亜人の人たちに寄ってたかってって……許せるかよ」


 賢治はこの短い間に何度となく、術師界における差別や偏見に苦しめられる人や、能力至上主義が生み出した「歪み」を目の当たりにしてきた。

 そして今、その「歪み」に抑圧されてきた亜人の人たちが、危険な目に遭おうとしている。これを見過ごす気には、どうしてもなれなかった。


「よくぞ言った賢治!」


 現世が割り込んできた。


「取るに足らない伝聞に踊らされる暴漢どもが、今まさに何の罪もない者を襲おうとしている……。これを見過ごせるものか!!」


 イソマツはやや冷めた目で、「キリちゃんはどう?」と言った。


「……私も行ってみたい」


 賢治は意外に思った。

 保護役としての立場から、賢治と現世がそのような危険な場へ自ら赴くのは、絶対に止めに入ると思っていたからだ。それも、徳長との約束を破ってまでとなると余計に。


「フーン、キリちゃんもか。じゃあ三体一で決議は取れたってことで、僕も従うよ」

「さあ、行くぞ! 善は急げなのだ!!」


 そう言って現世は、賢治を引っ張って駆け出した。

 四人は円状の道路を反時計回りに歩き出し、円島特別訓練魔導学校へと向かって行った。

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