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Report 9 茶番の終局(2)

「用意!」


 唐紅の号令が響く。

 賢治と廣銀は杖を突きつけ合い、互いにこの上なく敵意に満ちた視線を向けていた。


「――始めッ!」

「《ファイアボール――MAX》!」


 唐紅の号令の直後に、賢治は呪文を詠唱した。


「《ベクター・チェンジ》!!」


 だが力場の進行方向を変更する呪文で対応された。勁路負担率25。


「《Replay》!!」


 賢治はこちらに向かって来る《ファイアボール》に対して、同じ火力の《ファイアボール》をぶつける。

 賢治と成人のちょうど間で爆発が起こる。


(《スタン・フラッシュ》にしなくて良かった……。《ファイアボール》ならこうやって、二発目で相殺するということも可能だが、《スタン・フラッシュ》だと《プロテクティブ・シールド:フォトンキネシス》を張らなくてはならない。それをやってしまうと、跳ね返された《スタン・フラッシュ》の力場を防ぎ切るまでオレは動けなくなる! 相手に主導権を握らせてしまうのはまずい!)


 しかし、爆風が起こった瞬間に成人が「《エレクトロ・シュート――MAX》!!」と唱えた。

 ゾクン――

 その瞬間、賢治は感じた。


(これは……、力場が急激に膨れ上がる感覚!! 悔しいが、霊力だけならオレたちと同等かそれ以上だ!!)

「賢治! 《アブラカダブラ》なのだ!」

「《アブラカダブラ》!」


 賢治は、成人の《エレクトロ・シュート》を打ち消す。合計勁路負担率50。


「召喚なのだ!」


 ゲーティアの右ページ側には、既に召喚する召喚精霊の情報を出力していた。

 それは顔のない人間の肖像だった。書物を脇に抱え、アカデミックドレスにモルタルボードを着込んだ学者風の格好だった。肖像の上部には「71 Duke of Library, Dantalion」と記されている。


「――《文蔵(ぶぞう)公爵ダンタリオン――召喚(Exvocation)!》」


 賢治が唱えると、二つの円陣が出現する。

 賢治の目の前の円陣から、様々な言語で綴られた光の文字が浮かび上がる。光り輝く霊気の文章が凝縮され、やがてそれは人の形になった。


 【71. 文蔵公爵ダンタリオン Duke of Library, Dantalion】

  戦闘力 A(攻撃 A- 体力 C 射程 A 防御 A- 機動 D 警戒 A)

  霊力 A- 教養 SS 技術 A 崇高 B 美 A- 忠誠心 B 使役難易度 IV


「ご用件は何でしょうか。青梅賢治様」


 だが、その人影から響いた声は想像とは異なるものだった。


「――いいっ!? 女の子!?」


 ダンタリオンは、女性の姿をしていた。

 格好は肖像どおりである。しかし顔の部分は、眼鏡の奥で上目遣いにじとっと見つめる、インテリ風のミディアムボブの少女だった。


「《サモン・ディポーテーション》!!」


 成人が詠唱する。彼の杖から光線が放たれる。

 召喚精霊を強制的に「帰還」させる呪文だ。勁路負担率15。合計勁路負担率40。

 賢治は躊躇なく対応しようとする。


「くっ! 《アブラ――》」


 だが、予想外のことが起こった。

 ダンタリオンがその白魚のような手で、賢治の塞いだのだ。


(――)

「《アブラカダブラ》」


 ダンタリオンが唱えた。

 彼女の持つ開かれたハードカバーの魔導書がカッと光り出して、そこから《アブラカダブラ》の力場が展開された。

 成人の《サモン・ディポーテーション》は打ち消された。


「じゅ、呪文を唱えられるのか……君」


 賢治は、唇に触れたダンタリオンのしなやかな手の柔らかさと若い女性特有の甘酸っぱい彼女の匂いに、ドキドキしながらそうつぶやいた。

 ダンタリオンは無表情のまま、右手のチョキを右目の横に持っていって「いえーい」と言った。


「ダンタリオンは超能力ではなく、呪文を使える召喚精霊なのだ。これで、何度も相手が打消呪文や力場干渉呪文を打ってきても対応できるのだ!」

「く、くそっ!! なんだその萌えるメガネっ娘は!! ぜ、全然羨ましくなんかないんだからねっ! ……《アーマード・マンティコア ――For two times!!》」


 そう廣銀が唱えると、ビビッドなグレーの円陣が二つ出現した。

 そこから現代的な機械兵器で武装された、人に近い彫の深い顔つきをしたライオンの姿をとった妖獣が出現した。地中海地域より古来伝わる伝説の妖獣、マンティコアである。


「《スコールズ・カスケード》」


 ダンタリオンが唱えた。

 円陣が展開され、小さな暗雲が出来上がる。空中の水分子を集め、滝のような雨を局地的に降らせる呪文だ。


「フンッ! 魔道具(アーティファクト)業を誇る廣銀家が、防水加工もしていない魔道具を装備した召喚精霊を召喚すると思っているのか!」


 成人が吠えた。 

 だがダンタリオンは全く意に介せず「《チャージ・ボルテックス》」と唱えた。ダンタリオンの魔導書が光り、そこから電撃が放たれる。対象に命中するまで一定時間、空間に帯電し続けることのできる電術系の攻撃呪文だ。

 だが直後に、灰色の円陣が二体の《アーマード・マンティコア》の足許に出現。成人の短縮詠唱だ。《チャージ・ボルテックス》の電撃は地中へ流された。


「馬鹿の上塗りだな! そんな小学生でも思いつくシナジーを対策してないわけねーだろ! 電術系の霊力場と発生した電流を全て大地に受け流す付属(アタッチド・)呪文(スペル)、《サイコ・アーシング・コンダクター》で無効化だ! ――さあ、その無表情を甚振ってアンアン言わせてやんよぉ!」


 成人は舌なめずりをしながら、二体のアーマード・マンティコアをダンタリオンへ差し向ける。マンティコアは、その前足につけられた爪型の武器を振り上げた。

 だが、ダンタリオンは顔色一つ変えずにそっと「《リカーファクション・ショックウェイブ――MAX》と唱える。


「!? ――《ターゲット・アルタレーション》!」


 その瞬間、余裕の表情をしていた成人が顔色を変えて詠唱する。呪文の対象を変更する呪文だ。

 成人の合計勁路負担率65。

 だがダンタリオンは、すかさず対応した。


「《ゴー・ストレート》」


 ある呪文の力場に、力場操作呪文を受け付けないようにする反力場操作呪文である。これで《リカーファクション・ショックウェイブ――MAX》は、成人の《ターゲット・アルタレーション》を受け付けなくなる。勁路負担率は10。ダンタリオンの合計勁路負担率40。

 《リクァーファクション・ショックウェイブ――MAX》は当初のダンタリオンの狙い通り、二体のアーマード・マンティコアの足許で霊力場を展開した。ぬかるんだ地面に激しい振動が起こって、二体のアーマード・マンティコアの足許に亀裂が走り、そこから泥水が噴き出した。そして――


『グェィヤアアア――』

「お、俺のマンティコアがあああ!」


 地面に帯電していた《チャージ・ボルテックス》の力場が、二体のマンティコアを襲った。二体のマンティコアは感電し、その場に麻痺して留まっている。


「《サイコ・アーシング・コンダクター》は、強固な地盤があってこそ。液状化現象によって地盤をそのものをかき乱されれば、水たまりの中にアース線を入れているのと同じ。そうなったら、《チャージ・ボルテックス》の餌食(えじき)になるのは必然です」

 

 ダンタリオンは、右手の人差し指で「チッチッチッ」の仕草をしながら、淡々とした口調で言った。

 賢治は彼女のことを、感心した目つきで見つめていた。


(す、すごい……。ここまでシナジーを連続させて、的確に対応するとは……)

「《チャージ・ボルテックス》」


 トドメである、二発目の《チャージ・ボルテックス》を詠唱するダンタリオン。

 成人が情けない悲鳴をあげて、懇願する。


「や、やめてくれ! 負けを認める!」

「――! 止まれ、ダンタリオン」


 その声を聞いた賢治は、ダンタリオンに制止の命令をさせる。

 ダンタリオンは、賢治の命令通りに《チャージ・ボルテックス》の力場を二体のマンティコアから離れた場所で滞留させた。

 それと同時に、《スコールズ・カスケード》の大雨が時間切れで力場を閉じた。


「負けを認めるから、これ以上俺のマンティコアをいじめないでくれ! 見ていられねえ! なっ、お前も同じ召喚精霊術師(サマナー)同士なら俺の気持ちわかるだろ!?」

「どうするのだ賢治……?」

「どうするも何も『負けを認める』と言った以上、何もできぬ。審判! 相手が降参を――」


 勝敗が決したと誰もが思った、次の瞬間であった。


「《カニバル・サイボォォォォォグ》!!」


 成人が絶叫した。

 二体のアーマード・マンティコアの背後に黄色と黒のまだら模様の円陣が出現する。そこからうねうねと動く朽ちた機械の集合体がせり上がってきて、二体のアーマード・マンティコアを呑み込んだ。


「クッ! 《アブラカ》――ぐうっ!」

 

 ダンタリオンは唱えようとしたが、飛んできた鋭利な石の欠片に魔導書を弾かれた。

 成人が《リッパー・ストーン》を短縮詠唱したのだ。


 賢治が「ダンタリオン!」と悲鳴をあげた。


 彼女の両手からは、ところどころ黒い血のようなものが流れ、それが空気に触れると本のページのようなものに変化しては、空中で粒子となって霧散していった。


「私は大丈夫です、賢治様……。それより対応してください。魔導書の再生成には15秒ほどかかってしまいます」

「ぎゃっははは!! もう()せーよバーカ!!」


 成人の哄笑が響いた。

 彼の言うとおり、もう《カニバル・サイボーグ》の力場は展開し始めていて、《アブラカダブラ》で打ち消すことはできなかった。

 二体のアーマード・マンティコアがいた場所には、生体と機械がぐちゃぐちゃに絡みついてグロテクスな姿をしたマンティコアが一体(・・)立っていた。


()ぁれがそんな理由で『負けを認める』か、頭お花畑のバーカ!!」


 成人の、他人を侮辱しきった高笑いが演習室に響く。

 この態度に現世は、腹から怒声を張り上げて唐紅に抗議をする。


「おい唐紅! おぬしもあの者が『負けを認める』とさっき言ったのを聞いたであろう!? さっさと試合を終了させるのだ!!」

「そんなこと言ったっけ? 君たちの呪文の雨音のせいで聞こえなかったなあ……」


 唐紅は、わざとらしく聞いていなかったフリをした。


「貴様――」

「《ファイアボール――MAX》」


 賢治は、恐ろしく低い声でポツリと言った。

 賢治のトネリコの杖先から、半径2メートル大の火の玉が放たれた。

 するとカニバル・サイボーグはその霊力を吸収してしまった。


「ヒッヒッヒ! こいつが俺の奥の手よ! こいつには召喚条件があって、二体以上の召喚精霊を生贄に捧げる必要がある!! 召喚精霊を喰らい、霊力を喰らい、己の血肉と化す!! 《サモン・ディポーテーション》も霊力として喰っちまうから、帰還させることもできねえ! ――てめえらも貪り喰われやがれ!!」


 成人が嘲るようにそう言った。

 だが賢治は、全く意に介することなく次の呪文を詠唱した。


「《サイコバインディング・ペンタグラム――MAX》」

「賢治!? それはまだ練習中の呪文だぞ!」

「――大丈夫だよ、現世」


 そう賢治が現世に言った。


「……」


 すると現世は、血の気が失せた(おび)える表情を見せて黙り込んだ。

 剛胆な彼女にしては珍しいことで、よほど今の賢治の顔が怖かったのだろう。

 カニバル・サイボーグの下に、光る白い六芒星の円陣が出現する。そこから霊力の鎖が出てきて、しばりつけた。


「ッたく人の話を聞かねえ頭の固い野郎だなホント……。霊力は全て吸収するって言っただろ。考えろよクソが」


 自分のやったことを棚に上げて、賢治をなじる成人。

 その時であった。


 ぐぉぉぉぉぉ――


 カニバル・サイボーグが悲鳴のような音をあげて、バラバラに崩れてしまった。

 両断するように召喚陣が出現して、カニバル・サイボーグが消滅した。


「な、何ぃぃぃぃぃ!!?」


 成人は驚愕した。


「……霊力を吸収するタイプの召喚精霊は、霊力を吸収できる『許容量』ってものがある。お前のカニバル・サイボーグはそれを超えたんだ」

「そ、そんな馬鹿な! 俺は前に識人と実験したんだ! 識人の霊力を限界まで吸収してもまだ堪えられたのに!」

「それは万全の状態の話だろ……? 今こいつは《サイコバインディング・ペンタグラム》によるダメージを常に受け続けているんだ。その状態で霊力を吸収し続けるなんて荒技を行ったら、堪え切れなくなるのが道理だろ……」


 淡々と述べる賢治。


「賢治様、魔導書の再生成が完了しました」

「……ダンタリオン、《チャージ・ボルテックス》だ」

「承知しました、《チャージ・ボルテックス》」


 ダンタリオンは《チャージ・ボルテックス》を成人目がけて放った。


「ひいっ! 《サイコ・アーシング・コンダクター》!!」

「《アブラカダブラ》」


 成人が自分の対象に取って唱えた《サイコ・アーシング・コンダクター》を、ダンタリオンが打ち消した。ダンタリオンの合計勁路負担率65。

 ビビビビビッ。

 《チャージ・ボルテックス》の電流が、成人を感電させる。


「ひぎゃああああああああ!」


 悲鳴をあげる成人。

 《チャージ・ボルテックス》の制限時間が終わって力場が閉じられようとした時である。


「ダンタリオン、《Replay》」

「《Replay》」


 ビビビビビッ。

 賢治はダンタリオンに《チャージ・ボルテックス》の再唱を指示した。


「びええええええええっ!!」


 電流から解放されて倒れそうになった成人だったが、二発目の《チャージ・ボルテックス》の力場によってまたまっすぐ立たされてしまった。

 電撃で痙攣させられ、大地に接触することも、円の外に出ることもできない成人。賢治は彼から、失神するしか敗北する手段がない状態をつくりあげたのだ。

 はっきり言って、拷問といっていい。


「お前の弟にオレの仲間が傷つけられたとき、こう思ったよ……。『この学校のヤツらはみんなクズだ。ぶっつぶしてやる』って」


 泣き叫ぶ成人とは対照的に、賢治は静かに語り始める。


「でも、そうじゃなかった。何人かと戦って、彼らの戦いぶりを通じて、直接言葉をかけられて、オレは知った。この人たちは、唐紅やお前ら兄弟のようなクソ野郎のくだらない自尊心に付き合わされているけれど、魔術を勉強する気持ちはとても真剣なんだ」


 二発目の《チャージ・ボルテックス》が霊力場制限時間で閉じられようとしたとき、賢治はすかさず三発目の指示をダンタリオンに出す。

 ビビビビビッ。


「ぎええええええええっ!!」

「……でもオレは、彼らを傷つけた。戦ってしまった。勝ってしまった。……ああ、これが『戦争』なんだと思った。最前線にいる敵は、必ずしも悪人じゃなくて、運命のほんの少しのかけ違いで、敵になってしまっただけなんだ。そんな悪人じゃない人を傷つけて、倒さなきゃいけない。そんな悲しく虚しい戦争の火種をつくった戦犯は唐紅と廣銀識人と……お前もだ、廣銀成人」


 賢治はカッと目を見開き、そして腹の底からの怒声を彼に浴びせかけた。


「てめえに、あの人たちの上に立つ資格はねえッ!!! 骨と皮のまずそうなバーベキューになるまで電気処刑を受けさせてやるッ!!!!!」

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