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Report 8 人狼の医師と飛行箒暴走族(2)

(¡Ey(エイ)......! こりゃあ、面白いことになってきたね)


 イソマツは物陰に隠れて、維弦と罵詈罵詈燦駄集の戦いを興味本位で観戦していた。

 少年たちは、維弦を包囲するように距離をとり始める。


「舐めやがって……! 調子こいてんじゃねえぞ、おんしゃあ!」


 コバルトブルーのロン毛をたなびかせた波小僧(なみこぞう)の亜人の少年が、原型の留めていないほどにサドルやら翼やらマフラーガードやらがついた金ピカの改造飛行箒を走らせて叫んだ。

 ロン毛に続いて、別の波小僧の少年二人が追走し始める。高度4メートルくらいの地点で、維弦を取り囲むように回り始めた。


「俺たち遠州の(ゆう)、罵詈罵詈燦駄集を二人も倒したのは誉めてやるだに!」と、ロン毛。

「だが、テメエはここから永遠に出られねえ!」と、ドレッドヘアー。

「喰らいやがれッ、波小僧三兄弟最終奥義ッ」と、スポーツ刈り。


 三人は、息を合わせて一斉に詠唱する。


「「「《トライアングル・グラヴィティサイヴレーショォオオオンンッ!!》」」」


 掲げた杖の軌跡に、鈍い銀色の霊光が残留する。等距離を取りながら回る三つの杖が、一つの光線でつながれる。そして出現する――廻る三角形の外接円。

 集合呪文(しゅうごうじゅもん)。複数人の術師が詠唱することで力場を展開する呪文である。


「「「ブッ潰れろおおおッ!!」」」


 グウウウ――ウウウゥゥゥウンッ。

 円の中の重力が上昇する。強烈な重力霊波動が、維弦を襲った。


「……《ユーベルブーハート・グロースランケ》!!」


 維弦が《オーバーグロウン・グレイトヴァイン》のドイツ語読み呪文を唱えると、首から下げた聴診器(・・・・・・・・・)が光り、濃緑の円陣が地面に出現した。

 隠し杖(ヒドゥンワンド)。杖の形をしていない導体のことをそう呼ぶのだ。

 円陣から三本のつるが伸びて、波小僧の箒を捕らえた。円陣が崩れる。《トライアングル・グラヴィティサイヴレーション》の力場が解けた。


「ヒッ――ぎゃあんっ!」

「あ、兄――()ャアッ!」

「ひええっ!」


 三人は地上へと引っ張られ、やがてつるに巻き取られて飛行箒ごと固められてしまった。


「そ、そんな……。あの三兄弟の集合呪文から抜けられるなんて……」


 後頭部を「卍」に刈り上げた少年が言った。

 維弦を遠巻きにするように、少しづつ後退する少年たち。どうやら士気が下がりつつあるようだ。


「ビビってんじゃねえぞ! 呪文も超能力も使える『ダブル』なんは、俺たちだって同じだにッ」


 (とき)の声を上げるのは、真っ白な特攻服に身を包んだ角刈りアイパーの白坊主(はくぼうず)の少年だった。二メートルを超える巨体の彼につりあった大型の飛行箒・マサムネ1100SSZ(ダブエスゼット)からは、特徴的な赤いグラデーションの排出霊気が吐き出されていた。


「遠州罵詈罵詈燦駄集・特攻隊長(トルーパー)白拍子孝則(しらびょうしたかのり)! 推参ッ!」


 白拍子は真っ白な特攻服を翻して、維弦に向かって愛機を急発進させた。


「し、白拍子さん!!」

「そ、そうだ。特攻隊長がこう言ってんだ。ビビってんじゃねえ!」


 鼓舞された少年たちは、白拍子に続いた。


「くっ――」


 まず、白拍子のマサムネによる突撃を避ける維弦。


「うらあああああっ!」

「でやあああああっ!」

「チェストオオオッ!」


 避けたところに、三人の飛行箒の操縦士が待ち構えていた。各々が鉄パイプを手に維弦に襲い掛かる。


「〔狼爪旋風斬(ろうそうせんぷうざん)!〕」


 維弦はダイヤモンドのように硬く研ぎ澄まされた爪で、鉄パイプを残らず叩き切った。


「「「ふぎゃあっ!」」」


 三人の操縦士は、衝撃波で後方へと飛ばされた。


「――!? ゲホッゲホ」


 だがその時、白い煙がどこからともなく噴き出して維弦を包み込んだ。


「出た! 白拍子さんの〔狼煙の吐息(ホワイト・ブレス)〕!」


 遠巻きにしていた茶髪の少年が叫んだ。

 煙の中から、黒い影が急接近してくる。

 フシュ――ウウウウウウ。

 白拍子がきな臭い煙を吐き出しなら、舞い戻ってきた。


「白拍子さン肺は『火煙肺葉(かえんばいよう)』っちゅう特殊な臓器で、細かい発火器官が備わっているに! 煙吸っても耐えられで、煙つくって吐き出すこともできんさぁ! そのまま窒息してしまえに!」

「この距離なら避けられねえに! 勝った!」


 少年たちが快哉を叫ぶ。

 白拍子のマサムネの速度は既に時速60キロ以上。白拍子の獲物である木刀が、維弦の目と鼻の先に迫る。


(さあて、それはどうかな……?)


 だがイソマツは、維弦がこの程度でどうにかなる相手だとはまったく考えていなかった。


「ウゥゥゥゥルァアアアアッ――」


 ガッツン!!

 維弦は白拍子の木刀を左手でがっつりと掴み、真正面から受け止めた。

 それから、マサムネの操縦桿を握った。


「な、なにッ!?」


 驚いて声をあげる白拍子。

 維弦に捕まれた右手が動かない。シンク・コレクティブ・クリックを左に回して排出霊気量をあげても、びくともしなかった。


「嘘だらっ! マサムネがどんだけン馬力持っているけ!? 信じれんッ!!」

「ば、化物だに……!」


 口々に狼狽えだす少年たち。

 白拍子は諦めず、自前の超能力を行使する。


「くっ――〔爆煙破(ばくえんは)!〕」


 白拍子と維弦の間の空気中のチリが、赤く発火し始める。


Waun(ヴァオン)!!」


 維弦はこれに応答するように、咆哮をあげた。

 強烈な閃光と真紅の煙が、二人の術師を一瞬覆い隠す。

 だが同心円状に広がる琥珀色の霊波動に守られた維弦は、全く爆煙の熱を受けていなかった。


(ヒュー。〔冥狼咆哮波・(えん)〕――術師の目の前に霊力場の盾をつくる能力だね。しっかし実力差がありすぎて、勝負にならないなあ。〔冥狼咆哮波〕だけでも勝てたんじゃないかな?)


 イソマツは感心の口笛を吹いた。


「ウウゥ……ラアアアアアッ!!」

「うおおおおおっ!?」


 維弦は、白拍子の右手を握る自らの右手に力を入れて、そのまま白拍子を横へと引き倒した。


「うごぉ!」


 地面に叩きつけられた白拍子はマサムネを手放して、三、四転し、純白の特攻服を砂ぼこりで汚した。


「し、白拍子さんが……」


 予想外の事態に、少年たちは声も出せずに呆然と見守っている。


「がっは……。じ、次元が違えだに……。だけんが……、俺ァあの野郎を……。風由青空をぶっ殺すまでは、膝をつくわけにはいかねえんだにッ!! そこんどけえええっ!」


 しかし白拍子は、それでも諦めることなく立ち上がり、維弦に殴りかかった。

 だが、維弦はそれを難なく(かわ)した。そして――


「――()ッ!!」


 維弦の右ストレートが、白拍子のボディにめり込んだ。

 白拍子は、「ぐっ……ほ」とうめき声をあげてその場に昏倒した。


「ト……特攻隊長がやられただに!」


 どうやら、白拍子が一番格の使い手だったようだ。少年たちの士気が一気に削がれていく。

 維弦はハイライトに火をつける。戦いが始まってから、二本目だった。


「どうした、もう終わりか? だったらこいつらつれて、とっとと帰れよ」


 維弦が白拍子の襟首を掴み、ぶっ倒れている少年たちを見回しながら言った。


「――どけい! そン人は、いくらお前らがやっても敵わねえズラ!」


 後ろから、よく通る若々しい声が響いた。


「ヘ……総長(ヘッド)!」

金城(きんじょう)さん」


 少年たちの視線が、青いボディをした飛行箒にまたがっていた少年に集まる。

 金と黒のメッシュのリーゼントが特徴的で、金色の特攻服といい、二昔以上前の暴走族然とした容姿をしていた。

 どうやらこの、金城と呼ばれた少年が罵詈罵詈燦駄集のリーダーらしい。


「まさか……、アンタにこんなところでお目にかかれるとは驚きズラ」

「総長、あの医者のことをご存知なんで?」


 後頭部に「卍」の少年が、金城に訊いた。


「……俺が超能力目覚めるン前、汎人界にいた頃、昔神奈川にとんでもなく強いヤツがいたって聞いたことがあるズラ。そいつは燃えるような真っ赤な赤毛をなびかせ、県内の名だたるチーマーや半グレを片っ端から倒していったという。ついには関東・中部から、そいつを倒す為に強者たちが続々と押し寄せていったという。けれども、男は全員ぶちのめしてしまった。――誰とも組まずに、たった一人で。その男は、畏れと侮蔑を込めてこんなあだ名で呼ばれるようになったズラ。『紅い狼(レッドウルフ)』と……」


 少年たちは、金城の話を聞いて思わず神妙な表情になる。


「紅い狼……。聞いたことあんぞ、その名前」

「十年位前に、汎人界でやたら強いヤツがいたって先輩の先輩が……」

「暴力団の息子が総長やっている平塚ン暴走族を、たった一人で倒したってヤツだら?」


 ひそひそと話し込む少年たち。

 それから、維弦の顔を見る。

 燃えるように紅い髪。三十前後くらいの顔立ち。人間離れした術の数々。


「ま、まさか……」


 維弦と金城を除き、その場にいたものは一人残らず顔が青ざめていく。


「その本当の名前は、羽山維弦! お前らの目の前にいる医者こそが、湘南最強と謳われた紅い狼(レッドウルフ)ズラ! ……まさか、術師だとは思わなかったズラが……」

「おい、てめえ。人のプライバシーは公共の場でべらべらと喋るんじゃねえって、学校で習わなかったのか」


 金城は飛行箒を降りて、維弦の方へ向かってくる。


「お気に触ったようなら謝ります、羽山さん。おれっちは、金城大典(きんじょう だいすけ)いいます。生ける伝説と言われるアンタにお会いできて光栄ズラ」


 金城は、腰を曲げて礼をした。


「てめえが総長(かしら)か……。こいつら連れて、とっとと帰れ。風由と何があったかなんて知ったこっちゃねえが、てめーらのやってることはただの犯罪だ。これ以上やるなら魔導警察にしょっぴいて貰うぞ」

「……アンタは、家族がやられてもそんなこといえるだらあ?」

「家族?」

「ああ。おれっちたちは家族も同然、その肉親もまた家族ズラ。そいつが、風由にやられたんだにい」

「……ああ、金城の言うとおりだ」


 意識を取り戻した白拍子が、維弦と金城の会話に割り込んできた。


「タカちゃん!」


 金城が、心配そうに名前を呼んだ。

 白拍子は維弦の目を見据えて、はっきりとこう言った。


「俺ン家族がッ! 風由のクソ野郎に怪我させられたんだ!! 俺の生き別れた『座敷童』の弟がッ!!」

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