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Report 7 地獄の大連戦――賢治&現世 VS 清丸高の生徒333人(3)

「だ、第2戦目! 一年A組、左見琴音(とみ ことね)! 前へ!」


 一年A組の保健委員二人が心底嫌そうな顔で、廣銀をその場から引きずって退場させたところで、唐紅の号令が教室内に響いた。

 呼び出されたセミショートの女子生徒が前に出る。

 だが、その足取りは重かった。


(ああああ、嫌だ嫌だ。何であたしがあんなアブねークソDQN(ドキュン)と戦わなきゃいけないんだ!)


 左見は、賢治と現世に対する罵言を心の中で繰り返し吐いた。

 賢治の霊力は自分を遥かに上回っていた。しかもやられた相手は、魔導実戦術部の新人ホープとして期待されていた存在だ。自分などが勝てるわけがない。しかも賢治はどうやら、自分たちに怒りを向けている。その中には左見も含まれているに違いない。

 唐紅の「礼」という号令がかかる。

 頭を下げながらも左見は、心の中では対戦相手への敬意を払うのも忘れて、桐野への八つ当たりをしていた。


(何もかも堺のせいだ! どうせ練習なんだから、最初っから廣銀のバカに花持たせてやればよかったんだよ! お前のつまらない意地で、とばっちりを食らわせるな!)


 左見は頭をあげる。

 そこには、まだ怒りが収まらない様子で眉間に皺を寄せ、こちらをにらむ賢治が立っていた。

 左見は一瞬怯みそうになったが、グッとこらえてにらみ返した。


(……キモいんだよ、このド底辺ども! ここはお前らなんかが来る場所じゃないんだ! さっさと出ていけ!!)


「――用意!」


 唐紅の号令がかかる。

 両者、杖を構える。

 賢治は、剣道の正眼に似たフロント・ポジション。

 左見は、フェンシングの構えに似たサイドウェイ・ポジション。

 左見が詠唱する呪文は決まっていた。


 《リフレクティブ・ヴェール:パイロキネシス》


 これは、指定した系統の術を跳ね返すバリアを張る呪文である。勁路負担率は50。

 高校二年レベルの呪文だが、左見は既にこれを短縮詠唱する技術を持っていた。だが勁路負担がかかる呪文は短縮詠唱すると、その負担率は一般的に二倍になる。つまり、左見はそれ以上呪文を唱えることができなくなるということだ。したがって《リフレクティブ・ヴェール:パイロキネシス》が決め手にならなかったら、その時点で左見は負けるということだ。

 一発限りの大勝負だが、左見はこれ以外に勝つ手段が思いつかなかった。


「始めっ!」


 唐紅の号令と同時に、目の前がパッと赤く光った。


「えっ――あぐふっ!!」


 半径10センチ大の《ファイアボール》が、相手へ向けていた右わき腹に命中し、爆発した。

 バランスを崩した左見は、地面に倒れた。


「左見琴音、接地! ――勝者、青梅賢治と因幡現世ペア!」


(そ……、そんな。力場を展開する間もないなんて……!)


 賢治は《ファイアボール》の威力を絞って、識人との戦いのときよりも数段早く生成し、弾速を上げたのだった。




   ★


「第3戦目! 一年B組、刃香冶慎(ばっこうや しん)! 前へ!」


 唐紅の号令に従って、出っ歯が目立つ小柄な男子生徒の刃香冶慎が前に出る。


(これまでの戦い方からして、アイツはまたきっと、初手ファイアボール短縮詠唱を仕掛けるに違いない……。《アブラカダブラ》で打ち消しても再唱されっから、意味がない。だとしたら、オレがやれることは一つしかねえ……)


 前の二戦を見て刃香冶は、対策を練っていた。


(左見が短縮詠唱しようとしたのは、恐らく《リフレクティブ・ヴェール》だ。だが、高度な呪文は力場を展開するのに時間がかかる。それじゃあ、いくら詠唱の時間を節約しても意味がない……。《プロテクティブ・シールド》を張っても、オレ程度の霊力じゃすぐ砕かれちまう。だったら、単純な力場操作呪文で対応するしかないんだ)


 唐紅の「――用意!」という号令が響く。


(オレがやるのは、一つの呪文の力場の進行方向を変えることができる《ベクター・チェンジ》! これを短縮詠唱するしかねえ! 上手くいけば、相打ちくらいには持って行けるだろう……)


「始めっ!」


 唐紅の号令の直後、刃香冶の狙い通りに賢治の杖の先が光った。


(今だ! 《ベクター・チェンジ》!!)


 賢治の《ファイアボール》が打ち出された直後、刃香冶の《ベクター・チェンジ》が短縮詠唱された。経路負担率は25だが、短縮詠唱したので二倍の50。


「……!」


 刃香冶から50センチもない地点で、半径10センチ程度の火の玉が急に止まる。《ベクター・チェンジ》がかかったのだ。


(あ、危ね~! あとちょっと遅れてたら、終ってたわ……)


 ほっ、と一息ついたのも束の間だった。

 賢治の杖の先が再び光った。

 さっきのとは比較にならないほど大きな《ファイアボール》が三発続けて打ち出された。


「――!?」


 《ベクター・チェンジ》によって方向転換した《ファイアボール》が、巨大な三発の《ファイアボール》目がけて飛んでいく。


(や、やめろッ――)


 慌てて《プロテクティブ・シールド:パイロキネシス》を短縮詠唱しようとする刃香冶の抵抗も虚しく、四つのファイアボールは玉突き衝突をした。

 ボッ――ボボボォォーン。

 刃香冶から2メートルも離れていない場所で豪快な誘爆が起こった。


「ぎぃぃぃやああああッ!!」


 この大爆発は、刃香冶の小柄な身体を吹き飛ばすのに十分な威力だった。

 ごろごろと転がる刃香冶。

 ほうほうの体で顔をあげると、10メートルほど先に《プロテクティブ・シールド:パイロキネシス》を短縮詠唱を成功させた賢治と現世のペアがいた。


「ああ、もう! ガリ勉な見た目なのに、なんでこんな脳筋な戦い方なんだよ……! やってられっか!」


 刃香冶は大の字で地面に倒れ、盛大にぼやいた。少し遠くで唐紅が、「刃香冶慎、場外! 勝者、青梅賢治と因幡現世ペア!」と号令をかけた。




   ★


(ひいぃぃ~! いやだぁ~、やりたくないぃぃ!!)


 前髪をあげてポンパドールにしている小柄な女子は、刃香冶の試合を見ながらそう思った。

 一年B組、小林山心愛(こばやしやま ここあ)。次の賢治と現世の対戦相手である。


(き、棄権しよ! 棄権しよう!! それしかない!)


 彼女は下から片手で数えられる程度の成績の持ち主だ。成績優秀なA組の二人をああも圧倒した相手に、自分なんか到底かなう訳がない。そう考えた小林山は、棄権を決意した。


「おいお前、まさか棄権する気じゃねえだろうな……?」


 だが小林山は背後から、ドスの効いたアルトですごまれて右肩をつかまれた。

 振り向くとそこには、青色のマントを着たポニーテールの女子生徒が立っていた。


「あ、あ、あああ麻塩(あさじお)先輩ぃ!!」


 小林山が所属している部活動の先輩であり、風紀委員でも先輩である、麻塩美羽である。麻塩は、ひたいに青筋を浮かべながら小林山に喝を入れる。


「てめえ、それでも風紀委員か!? 魔導実戦術部の一員か!? ああ!?」

「ひいぃぃ~!」


 小林山は、麻塩のことが苦手だった。

 部活動中は毎日のように彼女に絞られ、へとへとになるまで練習させられるのだ。

 また風紀委員の活動においても、彼女にしょっちゅうダメ出しをされていた。部活はまだしも、じゃんけんで負けて入った委員会で、なんでこんな目に遭わなきゃいけないんだと、委員会活動があるたびに思っていた。


「いいか! アタシたち風紀委員には、校内の治安を守る義務がある!! どんな理由があろうと、命令が出されたら動かなきゃいけねーんだ!」

「で、でも……。なんか周りの声を聞いていたら、先に手を出したのは廣銀君みたいだし、悪いのはこっちなんじゃ……」

「廣銀の馬鹿のしりぬぐいや、唐紅のヤローの言いなりは、たしかにアタシも気に食わない。だが、命令に背けば規律が緩む! 出陣命令が下された兵士が、『敵の方が正しいかもしれない』って戦場から逃げ出すことのが許されるのか!?」

「ゆ、許されまひぇん……」

「だったらさっさと戦場に行って、お前の責務を果たしてきやがれッ!!」

「ぎゃん!」


 麻塩は、小林山の背中をバシッと平手で叩いて前へ押し出した。


「第4戦目! 一年B組、小林山心愛、前へ!」


 唐紅の号令が響く。

 小林山の緊張は頂点に達する。

 後ろを振り向くと、麻塩が般若の形相でにらみつけていた。


(うぅぅ~……、もうこの学校やめたい……。模試ではC判定を超えたことなんて一度もなかったのに、何で受かっちゃったんだろ……。入学しても周りと釣り合わなくて辛いだけなんてわかっていたんだから、滑り止めに行けば良かったんだ……)


 今更考えても仕方がないことで頭の中がぐるぐるしながら、涙目でとぼとぼと指示された場所まで歩く小林山。


「用意!」


 顔をあげる小林山。

 ――ギラッ。

 こちらを、眼光だけで射殺さんばかりににらみつけている賢治と目があった。


(――)


 恐怖のあまり、小林山の頭が真っ白になる。


「始めッ!!」


 プツン、と糸が切れたように小林山は考えることをやめた。

 ふわふわと妙な浮遊感に侵された頭の奥に、試合が始まったら最初にやるべきことが閃いて――身体を通して現象した。 


 賢治の杖の先端が、赤く光った。

 それとほぼ同時に、彼の杖の目と鼻の先に《アブラカダブラ》の三角形の円陣が出現した。

 パキィン!

 小林山は、《アブラカダブラ》の短縮詠唱を成功させ、《ファイアボール》を打ち消した。

 勁路負担率は25×2の50。

 賢治はすぐさま《ファイアボール――For three times》の短縮詠唱を行ったが、このわずかな空白時間が小林山に主導権を握らせた。


「……」


 失神寸前で身体をまっすぐさせることできない小林山はふら~、っとのけぞって杖を上に傾けたまま《プロテクティブ・シールド:パイロキネシス》を短縮詠唱する。

 杖の先に、淡いマゼンタに光る霊力の盾が出現した。


 三発の《ファイアボール》の軌道と直交しない角度で傾けられた盾は、火の玉を爆発させることなく受け流した。


(……え?)


 この意外な展開に、清丸高の一年生たちは――小林山も含め――息を呑んだ。

 賢治の《ファイアボール》を見た彼らは、その凄絶な威力に驚嘆してしまい、冷静な判断ができなくなっていた。

 飛翔物に対し直撃を避けて受け流すように防御呪文の力場を設置するのは、基礎的な戦闘技術である。だが、そのような基礎で通じる相手ではないと、最初の魔導実戦術部のエース候補である廣銀が倒されたという番狂わせによって、思い込まされてしまったのだ。


(私、まだ負けてないの?? ――ウソ!?)


 ようやく正気に戻り、目の前の状況を認識する小林山。


「いいぞ小林山! 主導権は今お前にある!! お前なら勝てるッ!! 行けッ!!」


 背後で麻塩の応援が響いた。


(――そっか。今まで練習してきたからだ。だから自然と身体が動いたんだ……!)


 小林山は先輩の応援を背に、気を持ち直す。

 そして今までの経験から、次に唱えるべき呪文が頭に浮かんだ。


(頑張れ私……! 私が唯一得意なあの呪文(・・・・)なら……勝てる!)


 《プロテクティブ・シールド:パイロキネシス》の盾が最後の火の玉を受け流すと同時に、力場を閉じて呪文を唱える。


「《リクァーファクション・ショックウェイブ》!」


 賢治の足許に、灰色の円陣が出現する。


「迷うな賢治! 対応しろ!」


 現世が叫んだ。


「ア、《アブ―》」


 賢治は一瞬の躊躇(ちゅうちょ)の末に《アブラカダブラ》を唱えようとしたが、遅かった。《リカーファクション・ショックウェイブ》が、力場を展開し始める。


「うわっ!?」


 賢治の足許の力場が微震が起こし、地面の一部を泥水と化して彼の足を滑らせた。

 《リカーファクション・ショックウェイブ》とは、微震を起こして液状化現象を引き起こす地術系の呪文である。

 小林山は呪文をかけ続ける。この呪文は霊力の続く限り、力場を展開し続けることができる。

 ドロドロにぬかるみ、振動する地面の上に立つ賢治はもはや、立っているのもやっとの状態だった。

 勝った! そう小林山は確信した。

 しかし、であった。


「《ファイアボール――for sixteen times, and Minimam!!》」


 賢治がぬかるみに向かって杖を向け、そう唱える。16個のスーパーボール大の《ファイアボール》が泥の中で小さな爆発を起こす。

 すると、液状化した地面が蒸発して焼き固められた。


(えっ!?)


 思いもつかない《ファイアボール》の使い方に小林山は驚愕した。

 賢治の足許の地面からは水分がなくなり、《リカーファクション・ショックウェイブ》で地面を激しく振動させることができなくなった。


「力場を閉じろ!! 防御だ!!」


 麻塩が後ろで叫ぶ。

 小林山は慌てて《リカーファクション・ショックウェイブ》の力場を閉じて、《プロテクティブ・シールド:パイロキネシス》を短縮詠唱しようとした。


「《Replay!! ――MAX!!》」


 威力と速度を最大にした《ファイアボール》が、小林山目がけて飛んでくる。

 《プロテクティブ・シールド:パイロキネシス》を短縮詠唱する小林山――だが、傾けるのを忘れてしまった。

 《ファイアボール》は正面衝突して、大爆発を起こす。


「きゃああああ――ッ!!」


 《プロテクティブ・シールド:パイロキネシス》は砕けてしまい、爆発の余波が小林山を襲った。

 小柄な彼女は後方へ1メートル以上吹き飛ばされてしまう。


「小林山、場外! 勝者、青梅賢治と因幡現世ペア!」


 小林山は所定の最初の位置に戻る。


「礼!」


 唐紅が号令をかけると、賢治と小林山は頭を下げて一礼した。

 すると悔し涙が零れ落ち、地面を濡らした。




   ★


「さっきから《ファイアボール》しか使ってねーじゃねーか! 日本最高の魔導進学校を馬鹿にしているのか……!」

「俺らなんて、舐めプで十分だってのか……。まじクソウゼエ」


 観戦していた清丸高の生徒たちが、賢治と現世の悪口を叩く。


(違う……。アイツは舐めているんじゃない)


 それを耳をした桐野は、心の中でぼやいた。

 

(本当に《ファイアボール》しか使えないんだよ青梅はッ……!!)


 桐野は焦っていた。

 賢治は魔術を学び始めて、まだ三週間。何年も魔導教育を受けてきた清丸高の生徒たちには、経験も知識も圧倒的に不足している。


(青梅がまともに使える呪文は《ファイアボール》、《スタン・フラッシュ》、《アブラカダブラ》、《ウィル・オー・ザ・ウィスプ》、《プロテクティブ・シールド》の五種類。《ウィル・オー・ザ・ウィスプ》は戦闘用呪文じゃないから、実際には四種類だ。詠唱に成功した呪文はあと二つほどあるが、どっちも不完全で実戦で使える段階に至っていない。

 さっきの小林山のときでも躊躇(ちゅうちょ)したように、この後の試合のことを考えると《アブラカダブラ》は慎重に使わないといけない。4回使えば勁路負担率は100になってしまい、この日はもう術を使えなくなる。その瞬間、青梅の負けが確定的になる。したがって、都合3回しか唱えられないという訳だ。

 ゲーティアの召喚精霊は高校生のレベルを完全に超えているが、一日に3回しか召喚することができない。だから、余程の相手でなければ召喚は行えないということになる……。

 切れるカードが圧倒的に少ない。……途中で息切れして戦えなくなるのは、明白だ)


 桐野は周りを見る。

 審判をしている唐紅に代わって、体格の良い風紀委員の男子二名、そして裏切って唐紅に従った星野が桐野を見張っていた。


(何とかしてコイツらの目を盗み涼二先生に連絡を取って、この馬鹿げた試合を終わらせなきゃいけない……。考えろ、何か方法はないのか……!)




   ★


「《ファイアボール》!!」


 賢治が詠唱した。

 半径50センチメートルほどの火球が、対戦相手の女子生徒目がけて飛んでいく。女子生徒は、《プロテクティブ・シールド:パイロキネシス》を軌道に対して直交にならないように傾けて展開していた。

 しかし、であった。

 火球は《プロテクティブ・シールド:パイロキネシス》の盾に触れた瞬間に激しく爆発し、霊力の盾を砕いた。


「あうっ!」


 爆炎を受けた女子生徒は、吹っ飛ばされて尻餅をついた。緑色の三角帽が脱げ、中にしまっていた三つ編みが躍り出た。


五十物七海(いそも ななみ)、接地! 勝者、青梅賢治と因幡現世ペア!」


 唐紅が、賢治と現世の勝利を宣言をする。

 五十物は元の場所に戻り、号令と同時に礼をした。


「うう……。わざと《ファイアボール》の力場を不安定にして、爆発しやすいようにするなんて……」


 五十物がぼやきながら、その場を去っていく。


「これで風紀委員の一年生は全員倒した……。次は二年生か……」


 賢治がつぶやいた。

 桐野によると、一年生は5クラスある。1クラスから役員を二名選出するルールであるのと、かつ一年生には役職持ちがいないため、次の11試合目が必然的に二年生の試合となるわけだ。


「なあ現世。さっきの練習だと『すごい』って思ったんだけど、実際試合をしてみるとどの生徒も大したことないな……悪いんだけど。最初の廣銀(クソ野郎)がマシに感じられるレベルだ」


 賢治は、ぼそっと現世に言った。

 そう感じるのも無理はない。最初の廣銀と、第4試合の小林山を除いて、試合開始から15秒ともっていないのだから。


「まあ、高校生なら進学校と言えどこんなものであろう。もっとレベルの低い高校だと『そもそも試合にならないのが普通』という話も、桐野や涼ちゃんから聞いたことがあるのだ」

「堺は優秀なんだな」

「というより、目的が違い過ぎるのだ。桐野は『保護役』の任務を果たすために涼ちゃんから訓練を受けておるが、普通の高校生は当然ながらそうではない」

「まあ、実戦なんて想定するわけがないからな……」 

「だが賢治、油断はするなよ。第4試合のデコ助どのときは、少し危うかったぞ」


 やや肩すかし気味の賢治に、現世は釘を刺した。

 そう言われて賢治は、小林山と戦った第4試合を思い出した。あのときは、《アブラカダブラ》を唱え損ねて一瞬劣勢に陥った。


「ああ、あのポンパドールの女子か。あのときはちょっとヒヤッとしたな」

「そうなのだ。気を引き締めるのだぞ」

「第11戦目! 二年A組、一雨大貴(いちゅう だいき)!! 前へ!!」


 唐紅が号令をかける。

 風紀委員の集団の中から、赤い三角帽とマントを着た身長の高い男子生徒が前に出てきた。

 帽子の下に見える顔は、鼻が平たく、唇が厚く、エラが張った輪郭と、失礼な人間からは「野暮ったい」と心ない言葉を言われそうな容貌をしていた。しかし歩く姿はきびきびとして、立ち振る舞いは洗練されており、見た目で人を判断する浅はかな無礼者を一蹴せんばかりの気迫に満ちていた。


「礼!」


 唐紅の号令と共に、賢治と一雨が頭を下げる。

 そして顔をあげると、一雨と目が合った。

 こげ茶色の前髪の下に浮かぶ両目は、怖気がするほど鋭く、澄んでいた。

 賢治は、背筋がゾクリとした。

 それからこう直感した。


(この人おそらく……いや、間違いなく『強い』!)


 賢治は、杖を握る右手が震えた。

 だが、恐怖によるのそれとは違うように感じた。

 武者震いというのか。賢治にとって、初めての感覚だった。


「唐紅先生。少し、彼と話す時間をいただけませんか?」


 不意に、一雨が口を開いた。

 明瞭な力強いバリトンだった。


「何だと?」


 唐紅は、少しばかり眉をひそめた。


「お願いします」


 一雨は頭を下げて唐紅に言った。


「……わかった。お前ならいいだろう。ただし、手短かにな」


 すると唐紅は「しぶしぶ」といった様子で許可を与えた。

 一雨は「ありがとうございます」と礼を述べて、賢治たちの方へ向き直した。


「青梅賢治くんに因幡現世さん……だったな。俺は二年の一雨大貴だ。魔導実戦術部の副部長を務めている」


 自己紹介をする一雨。

 やや面食らった賢治たちも、一応挨拶を返すことにした。


「……青梅賢治です」

「因幡現世なのだ」

(なんだ……? 何が狙いだ……?) 


 それから一呼吸置いて一雨は、驚くべきことを口にした。


「大変差し出がましいことを口にするのを、先に詫びておく。――俺に、《ファイアボール》の早撃ち(クイックドロウ)は通用しない。やれば、君たちは負けることになる」

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