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Report 7 地獄の大連戦――賢治&現世 VS 清丸高の生徒333人(2)

「まず君たちには、僕が顧問を務める風紀委員の生徒26人と戦ってもらう。順番は、一般役員21名の後に、役職持ち5名と言った感じだ。それからは残りの生徒が、一年生、二年生、三年生の順に控えている」


 唐紅が、賢治たちにそう告げた。

 清丸高の風紀委員は、各学年各クラスから2名ずつ選出される。


「普通に、学年順にすればよいではないか。何故そのような面倒なことをするのだ?」

「――口の利き方に気を付けろ。僕は君に発言権を与えていない」


 現世の指摘に、唐紅がすごんで跳ねつけた。


「風紀委員は、僕が見込んだこの学校選りすぐりの使い手……。彼らは確実に、君らの出鼻をくじくだろう。消耗しきった君たちは、他の生徒との戦いでも無様に負け続けるんだ……」

「誰であろうと関係ない。全員ぶっ倒すまでだ」


 賢治が言った。

 その挑発に、唐紅は初めて表情を歪ませた。


「……僕はさっきから、何度私語を慎めと言っている? これだから底辺のクズどもはッ……!!」


 それから鼻で「フン」と笑い、賢治たちをスタートポイントまで案内した。


「まあいい。これから公開処刑される大罪人の、最後の悪あがきだ。大目に見ようじゃあないか」


 所定の位置についた賢治。唐紅は審判を行うポジションへ向かう。


「一年A組、廣銀識人! 前へ!!」


 群衆の中から、煤だらけになった緑色のマントを着た廣銀が出てきた。


「ぶっ殺してやる……! 調子こいてんじゃねーぞ、このド底辺がッ!!」


 廣銀は賢治をにらみつけて言った。その表情からはさっきまでの嘲笑が消えて、殺意を全開にしていた。


「これからルールを説明する!」


 唐紅が宣言する。


「公正性を確保するため試合形式は、審判が決まり手や効果を判断する『スタンダード』ではなく、『プッシュアウト』とする!」


 そう言って唐紅が自分の杖を掲げる。

 すると、賢治と廣銀の足許に半径50センチほどの光る円が出現した。


「何だ!? この円は……!」


 賢治が言った。


「『プッシュアウト』で自陣となる円なのだ。互いの術師はこの円に入ったまま術を掛け合い、そこから出てしまったものが負けなのだ。あと、足首から上が地面についても負けなのだ」

「つまり、『精霊術の押し相撲』ってことか?」

「そういうことなのだ。たしかに『決まり手』を審判が判断する『スタンダード』よりは公正性が確保できるのだが、求められる技術は異なる。おのれ唐紅め……」

「まあいいさ、とりあえずやるしかない」


 唐紅が、賢治と現世の「門」の能力についてぼかしながら、プッシュアウトの説明を続ける。


「……本来これは一対一で行う形式だが、特例として一対二で行う。この場合は、青梅賢治が円の外に出るか膝から上が地面につけば負けとなる。因幡現世は、試合開始から終了までその変化(へんげ)を解かないことを条件とする。また力場展開や、二人で術を行使する際に相談すること以外の方法で、青梅賢治をサポートすること――例えば青梅賢治が倒れそうになったところを、身体で支えるなどといった行為を禁止する」


 ルールの子細を説明し終えると、唐紅は号令をかける。


「――用意!」


 賢治と廣銀は、杖を相手に向かって構える。

 しかし、であった。

 

(――ん?)


 廣銀は既に、小声で何かブツブツとつぶやていた。


「賢治、足許!!」


 現世が突然叫んだ。

 賢治は足許を見る。

 そして、驚愕した。 


 いつの間にか自分が、青く光る円陣とその上に出現した濡れた氷の上に立っていた。


 考えるまでもない。廣銀が何らかの呪文を唱えたのだ。

 

「始めっ!」


 だが唐紅は当然のごとくスルーして、号令をかけた。

 同時に、賢治は両足が後方へと滑っていった。


「うわわっ!」

「賢治ッ!!」


 賢治は前傾姿勢になって足先に重点を置くことで、何とかその場に留まった。


「《ジャイロケット・アイシクル――for three times》!!」


 廣銀の杖から、三つの氷柱が飛んでくる。


「プ、《プロ》――」

短縮詠唱(たんしゅく)なのだ!! 間に合わん!!」


 現世に言われるまま賢治は、《プロテクティブ・シールド:ハイドロキネシス》を短縮詠唱する。廣銀に向けられた杖の先に、淡い空色の円陣ができあがる。

 直後、豪速の氷柱が二つ、賢治の《プロテクティブ・シールド:ハイドロキネシス》に激しく衝突した。直撃したら、骨の一本や二本では済まないだろう。廣銀は賢治を、確実に再起不能にするつもりだ。


「《Replay, Replay, Replay, Replay, Replay, Replay, Replay, Replay》yyyyyyyy!!!」


 廣銀は、再唱の指示呪文を8回連続で唱えた。

 24の氷柱が、殺意の込められた速度で立て続けに賢治を襲う。

 シールドは衝突の衝撃全てを受け流すことはできず、賢治は徐々に後ろへ押されていく。


「ギャーハッハッハ!! どーちたの? さっきまでの勢いはよぉ!! てめえはここで、一生歩けねー身体にしてやるぜ!! 廣銀家に楯突いたことを思い知りやがれこのド底辺がッ!! そんな吹き飛んじまいそうな薄っぺらい盾でこの氷柱を防げるかぁー!? 《Replay, Replay, Replay, Replay》yyyyyyyy!!」


 下品な哄笑(こうしょう)をあげる廣銀。

 賢治は踏ん張りながら、《プロテクティブ・シールド:ハイドロキネシス》で氷柱の猛攻を防いでいる。シールドにはヒビが入り始め、今にも砕けそうだった。


「反省の様子は全くないようなのだな……」


 怒りに震える声で、現世が言った。


「賢治。あの者に一切の遠慮はいらぬ。カンプ(・・・)なきまでに叩きつぶせ」

「……ああ」

「なぁに、ぼそぼそと喋ってやがる!! てめえを潰したら次はそのガキの番だ!! ドサクサに紛れて氷柱でブチ抜いてやるぜ!! 本のまま貫通したら本体も穴が開くのかなぁ!? ガキに穴ァ開けるのは趣味じゃねえけど、しゃあねぇよなあ!! ぎゃっははははは!!」


 その一言が、賢治の堪忍袋の緒を切った。

 賢治の霊力場が一瞬で膨れ上がる。

 その熱で両足の周囲のアイスバーンが解け、あと一歩で自陣の外に出るというところで踏み止まった。

 パキン!

 賢治の《プロテクティブ・シールド:ハイドロキネシス》が砕けた。

 今まさに飛んできている12の氷柱の後ろには、《Hold》で空中に維持している86の氷柱があった。

 賢治と現世、絶体絶命か。

 だが――


「て゛め゛え゛え゛え゛え゛――ッ」


 咆哮。 

 賢治の杖から、半径1メートルの火の玉が速射された。

 《ファイアボール――MAX》を短縮詠唱したのである。

 賢治に向かって飛んでいた12の氷柱が巨大な火の玉に触れ、一瞬で蒸発した。


「いっ!? 《Shoot, all》!!」


 あわてた廣銀は86個全ての氷柱を発射して、ファイアボールにぶつけた。

 ボ、ボ、ボシュウ!!

 猛烈な蒸気が吹き荒れて、賢治たちと廣銀の間が真っ白に渦巻いた。

 ――だがそれでも、ファイアボールは止まらなかった。

 50センチほどに削り取られたものの、勢いは殺されないままで廣銀の目と鼻の先に迫る。

 

「!!!!!」


 廣銀は「《プロテクティブ・シールド・パイロキネシス――MAX》」を短縮詠唱する。地面にめり込む2メートル大の巨大な淡いマゼンタの円陣が、廣銀の杖先に展開された。

 ファイアボールが霊力の盾に触れて、爆発を起こす。

 防げた、という安堵の表情が廣銀に浮かび上がった――次の瞬間だった。


「てめえてめえてめえてめえてめえてめえてめえてめえ、てめえてめえてめえてめえてめえてめえてめえてめええええええッ!!」


 賢治は《ファイアボール――MAX, and for sixteen times》を短縮詠唱した。

 16発の約2メートルの火の玉が数珠つなぎのように、廣銀めがけて飛んでいく。

 それが廣銀の霊力の盾に触れた瞬間、耳をつんざく轟音が教室内に響き渡った。


「うひっ、ひっ、ひっ、ひぅっ――ぅわあぁぁぁぁあん」


 パキン!

 九発目の《ファイアボール》が、廣銀の《プロテクティブ・シールド:パイロキネシス》を砕く。

 ドッグォオオオオ――ン。

 そして、全てが爆炎に包まれた。

 残る八発の極大のファイアボールが、全て炸裂したのである。

 舞い上がる砂ほこり。黒煙。残り火がちらちらと光る。

 やがて砂煙が晴れてくると、そこには凄絶な光景が広がっていた。

 光る円の外から吹き飛ばされて真っ黒になった廣銀を中心にして、地面が無数のクレーターで窪んでいた。

 観戦していた最前列の生徒たちは、皆一様に《プロテクティブ・シールド:パイロキネシス》を詠唱し、杖先に掲げていた。一様に目を見開き、呆然としながら。


「……」


 そして審判の唐紅もまた、口をポカンと開けたまま立ち竦んでいだ。


「……どうしたのだ唐紅先生? 判定は、明らかであろう?」


 現世が言った。


「し……勝者、青梅賢治と因幡現世ペア……」


 唐紅はわなわなと顎を震わせて、やっとのことでそう宣言した。

 誰も何も言えない、と言った感じだ。

 当然のことと言えば、当然である。

 賢治と現世は、「数か月前に術師界入りして順応プログラムをもうすぐ終えそうであり、転入先を探している」と説明されているはずだ。

 それなのに、術師界のエリートであるはずの廣銀家の人間を圧倒してしまった。


「……こ、こほぉ……」


 消し炭同然に汚れきった廣銀が、黒い煙を吐き出した。


「おい。誰か、現世の家族と相棒をブジョクしたこのボロクズをさっさと退けるのだ」


 現世が観戦している生徒たちに向かって、冷厳な声で言った。


「――それから、唐紅先生」


 現世に名前を呼ばれた唐紅は、ビクリと肩を震わせ「は、はいっ!」と答えた。


「今度、明らかな不正をスルーするようなナメた審判をしたら、あのボロ雑巾と同じ姿になると思え。よいな?」


 現世は堂々と脅迫をした。

 唐紅は首がもげるのではないかという勢いで、ブンブンブンと縦に首を振った。

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