Report 6 区立清丸魔導高等学校(6)
賢治は怒り心頭に発していた。
徳長から事前に、唐紅と廣銀の人間には気を付けろと言われていた。しかし、まさかここまで露骨で幼稚な嫌がらせをしてくることは予想していなかった。
さらには、同盟と関わりの深い星野まで家柄に気圧されて何も言えなくなるという状況に対し賢治は、怒りを通り越してブチギレてしまった。
「あぁ? 見学の小学生二人は、黙ってろよ」
廣銀が嘲笑するように言った。
「黙るのは貴様なのだ。この恥知らずめ」
現世が声の高さに似合わぬ厳かな口調で言った。
「貴様、廣銀家という立派な家の出自でありながらこのような不正を行うとは、恥ずかしくないのか? 違うというのならば、申し開きをするのだ」
すると廣銀は、嘲弄のため息を大きくつき、見下しきった態度で頼んでもいない講釈を語り始めた。
「最近、術師界入りしたヤツらがどこで我が家の名を知ったか知らないが……。どうもゴカイしているようだな。廣銀家はいわゆる保守六大家の一角を担う家だ。保守六大家・別名『魔導貴族』とは、五星院家、山吹家、群青家、唐紅家、廣銀家、黄金田家の六家系からなる。魔導貴族は、術師界の成立前どころか神代の時代より魔術に通じてきて、蓄積された技術と先天的に恵まれた霊力とを持ち合わせた、術師界のエリートなんだよ。今風に言えば、『勝ち組』ってことさ。つまり、選ばれた存在ってことだ! その選ばれし俺が、こんな中途で術師界に入ってきたお前らなんぞに弁明する必要なんて、どこにあるんだ?」
「要するに貴様は、不正したことを認めるということなのだな?」
傲然と居直って権威をちらつかせる廣銀に対して、現世は全く物怖じをしない声で問い返した。
「テメー、話を……」
「うるせえよ。話を聞いてねえのは、てめえだろうが」
賢治が怒りに震える声音で言った。
「答えろよ。合図の後に、唱えたのか、唱えてねえのか」
ドンッ!
次の瞬間、賢治は顔面に大きな衝撃を受けた。
水でつくり出された弾丸が、賢治目がけて飛んできたのだ。
廣銀が《ウォーター・ブレッド》を詠唱したのである。
「やかましいんだよ、このド底辺が!! 黙ってろ!!」
廣銀は顔を真っ赤にして、そう叫んだ。
「この……痴れ者があああああッ!!」
現世は廣銀目がけて飛んで行こうとした。
しかし、賢治に捕まれた。
「離すのだ賢治!!」
「……ここで暴れたら、相手の思うツボだ。相手にする価値はねえ」
賢治はそうすごんで、廣銀をにらみつける。
「……っ!」
思わぬ反抗的な態度に廣銀は怯んで、唐紅の背後にソソッと隠れる。
「星野先生と唐紅先生!! 何で、この者はおとがめなしなのだ!! どう見たって反則なのだ! 小学生でも分かるように説明するのだ!!」
「……わきまえない見学者に、説明は不要だよ」
唐紅がそう言いながら、賢治たちに近づく。
そして、二人にしか聞こえない声量で言った。
「まったく残念だよ、『門』の保有者だからって優しくしてあげたのに……。授業の邪魔だ。徳長さんに来てもらって、お引き取り願おうか……」
「なっ……!!」
信じがたい言葉だった。
不正を居直り、見学者に対して暴力を振るった生徒の肩を持つ教員が、一体どこにいるというのだろうか。
「ぎゃははは、ざまー見ろ! ここはてめーらみてーな底辺どもに相応しい場所じゃねーんだよ!」
唐紅の対応に安堵したのか、廣銀は哄笑しながら前へ出てきた。
「そんなに気に食わねーってんなら、今この場で聞いてやろうか。中途で入ってきたド底辺どもと廣銀家の令息であるこの俺、どっちの言うことが正しいと思うかをな!」
廣銀がそう聞く。
すると――
目目
目目 目目
目目 目目 目目
目目 目目 目目 目目 目目 目目 目目 目目 目目 目目 目目 目目 目目 目目 目目 目目 目目 目目 目目 目目 目目 目目 目目 目目 目目 目目 目目 目目 目目 目目 目目 目目 目目 目目 目目 目目
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――48の白い目が、賢治たちに突き刺さった。
体感的にはその十倍にも百倍にも感じられるプレッシャーが、賢治と現世を押しつぶす。
(……)
「本気で賢治たちを軽蔑している」という侮蔑心。
「面倒ごとに関わりたくない」という無責任さ。
その両方に満ちた視線の弾幕が賢治を、内臓ごと吐きたくなるような不快感の頂点へと達させた。
そして――
プツン。
賢治の頭の何かがキレた。
廣銀がほくそ笑んで賢治に杖を向けて、挑発を重ねた。
「ほら、どうだ!! これでも納得いかないってんなら、もう一度頭を冷やして――」
そこで廣銀の言葉は、「ふぎゅう」という絞られるような声をあげて途切れた。
まっすぐ前に伸ばされた賢治の杖から速射された半径70センチ強の火の玉が、顔面に直撃したからだ。
爆発。そして轟音。
顔を歪めた廣銀が、爆炎の中に呑まれる。
賢治は、《ファイアボール》の短縮詠唱したのである。
「……ッ!!! て゛ぇ゛め゛ぇ゛え゛ぇ゛ら゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!」
煮えくり返るはらわたからの雄叫びをあげながら、賢治はこの状況に対する認識を切り替えた。
悪は、廣銀家と唐紅家だけじゃない。
ここは既に、敵の巣窟であった。
理不尽に苦しめられる者への思慮の欠片も持ち合わせぬ、残忍な連中の魔窟である。
一刻も早く、桐野以外のこの場にいるものを全員薙ぎ払って脱出するべきだ、と。
「考えを変えよう。おぬしたちは、全員『敵』なのだ。現世たちを敵に回した代償……、これは高くつくのだよ」
そしてそれは、現世も同じことを考えていたようだ。
二人が揃って、清丸高への敵意を表明する。
「――ほう。確かに、高くつくなあ」
すると、唐紅が陰惨な笑みを浮かべて言った。
「これは暴力だ。君たちは、処分を受けなくてはならない。……勝負の横やりに対する処分は、やはり勝負によってつけさせてもらおう」
「勝負……? 何をするおつもりですか?」
これまで口を閉ざしていた星野が、ようやく口を開いた。
「試合だよ。『全員「敵」』って今、因幡さんが言ったじゃないか。その言葉の責任は取ってもらうよ。
――君たち二人は、堺桐野さんを除いた清丸魔導高校全校生徒333人と相手してもらおう。
全員に勝てたら、さっきの僕の審判は取り消してあげてもいいよ。万が一にも、そんなことはありえないけどね」
「望むところだッ!! 全員ブチ倒してやる!!」
少し頭が冷えた賢治が、唐紅にそう敢然と言い返す。
傲然と嗤う唐紅の背後では、煤だらけになった廣銀が「こひゅっ」と煙を吐き出して痙攣していた。




