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Report 6 区立清丸魔導高等学校(5)

「《リッパー・ストーン――For four times》!」


 先に動いたのは桐野だった。

 彼女の足許に浮かんだ円陣から、四つの石の弾丸が生成される。


「《Hold! ――To C and D !!》」


 桐野は二つの石を空中にキープし、残りの二つを廣銀に向かって発射する心算だ。


(……廣銀は、わたしの得意な術系統や戦術を知り尽くしている。加えて慎重でディフェンシブな戦術を取ることの多いアイツなら、初手は必ず《シールド》を張るはずだ)


 事前に対戦相手の情報――例えば得意な術系統や戦術など――を得て、それに即した予測を立てておく。それはある程度、実戦練習を経験した術師なら誰でもやることだ。

 しかし実施の試合では、完全に予測通りに事が運ぶことなどありえない。そうしたとき、相手の取った行動に対して適切な対応をする判断力が必要となる。これら情報収集力、予測能力、判断力の基礎を、桐野は対戦ゲームから培った。


「《プロテクティブ・シールド:ゲオキネシス》!」


 桐野の予測は当たった。

 廣銀の杖先にうっすらと灰色に輝く円陣が出現する。地術系の攻撃を防ぐ防御呪文だ。

 発射された石の弾丸は、《プロテクティブ・シールド》に触れて砕けた。


「《Shoot, to C !! ――MAX》!」


 桐野は、空中に浮遊させたままだった石の弾丸の一つを、さっきよりも勢いよく発射させる。

 パキン!

 それは見事に《プロテクティブ・シールド》に命中した。灰色の盾は、ダメージが許容量を超えて砕け散った。 


「《Shoot, to D!》」


 桐野は、最後の《リッパー・ストーン》を発射する。


「《ジャイロケット・アイシクル ――For three times, and hold to B, C》!」


 廣銀は杖先から、先端が丸まった三つの氷柱を生成する。

 そのうちの一つを発射して、桐野の《リッパー・ストーン》に命中させた。互いにぶつかり合って、両方とも空中で砕け散った。


「《Shoot, all!!》」


 廣銀は、残った二つの氷柱を桐野めがけて発射する。


「《フローティング・ストーン》!」


 桐野の《リッパー・ストーン》の欠片がベージュの光を帯びて、放たれた矢のように飛びあがる。そして突っ込んでくる氷柱を迎撃、粉砕した。


「《フローズン・バリケード》!」


 この隙を好機と取ったか、廣銀が唱えた。


「《アブラカダブラ》!」

「《アブラカダブラ》!」


 カウンター呪文の応酬。制したのは廣銀だった。両者、合計勁路負担率は25。

 打ち消されなかった《フローズン・バリケード》は、廣銀の足元に水色の円陣がつくる。円陣の周からは、天に向かうように網目状の氷のバリケードを形成していく。


「《オーバーグロウン・グレイトヴァイン》!」


 桐野が唱えると、廣銀のすぐ近くに濃緑の円陣が浮かび上がり、無数のつるが伸びる。《フローズン・バリケード》のバリケードが取り囲まれ、少しづつヒビが入っていく。壊れるのも時間の問題だ。


「《ドロッピング・スノーマン》!」


 廣銀が詠唱すると、地面に白い魔法陣が浮かんだ。そこからピサの斜塔のように傾斜した、細長い鉄の柱が伸び上がっていく。鉄柱には雪の結晶の刻印が無数に彫られている。


「《スクラップ・ストリップ》!」


 桐野がそう唱えると、銀色に輝く光の帯が杖の先から放出される。術によって即席に練成されたような、簡単な魔道具を破壊する呪文だ。勁路負担は10。合計勁路負担率は35。


「《アブラカダブラ》!」


 廣銀が唱える。廣銀の合計勁路負担率は50。

 桐野は対応しなかったので、《スクラップ・ストリップス》は打ち消された。

 鉄柱が出来あがると、その先端に雪だるまが一瞬で生成された。


「《Fall!》」


 廣銀は、桐野の頭上を指さして指示呪文を唱えた。

 すると鉄柱の先端に雪だるまが、桐野の頭上に向かって落下した。


「《ディフェンシブ・ドーム:ハイロドキネシス――MAX》!」


 桐野の足元を中心に淡い水色の円陣が出現し、その縁から光のドームが生成される。

 雪だるまがドームにぶつかって地面に転がった。すると、ドームにひびが入った。


「《Replay, ――Replay!》」


 ドズン! ドズン!

 ひとつ、またひとつと、立て続けに雪だるまが落ちてきてはドームのひびを広げていく。

 《ディフェンシブ・ドーム》は全方位に張ることができて、その間は別の呪文を唱えられるという利点があるが、その力場の防御力と耐久力は《プロテクティブ・シールド》の半分以下でしかないというデメリットがあるのだ。

 落下した雪だるまたちが立ち上がり、桐野の周囲を取り囲んでいく。


「ははっ、あともう一息だ!! 《Rep――」


 だが、廣銀は詠唱を止めた。

 不意に、彼の頭上に影が差したためだ。


「……!」


 廣銀は、息を呑んだ。

 彼の背後には、毛玉のように複雑に絡み合ったつるの(かたまり)が浮かんでいたのだ。


(やっと気づいたか……だが遅い!)


 桐野は《ディフェンシブ・ドーム》で時間を稼いでいる間、地中を通じて《オーバーグロウン・グレイトヴァイン》の力場を操作していた。廣銀の背後につるを伸ばし、絡み合うつるの塊を造り上げていたのだ。


「《ハードノッティング・ヴァインズショット》!」


 桐野が詠唱する。

 二本の《オーバーグロウン・グレイトヴァイン》のつるが引っ張られ、固く固く引き絞られた植物の砲丸が空中にできあがった。半径50センチはくだらないであろうそれは、廣銀の頭上にセットされた。


「《Fall!(降下)》」


 ブチッ、ブチブチ――

 桐野が唱えると、つるの大玉を持ちあげているつるが避け始める。


「ひっ……、《ディフェンシブ――》」


 廣銀は慌てて防御呪文を唱える。

 だが、間に合いそうになかった。つるの大玉は、今にも支えている部分が引き千切れて落下しそうだったからだ。


「そこまで!」


 唐紅の合図があった。

 桐野は落下しかけたつるの砲丸を廣銀の頭上からどけて、力場を収束させた。

 《ディフェンシブ・ドーム》も消え、つるの砲丸はほどけて地面に落ちる。

 しかし、であった。


 雪だるまの陰から氷柱が、貫通して桐野目がけて飛んできた。


「――!? がはっ!」


 氷柱は桐野の右わき腹に激突して、桐野は地面を転がった。

 目の前を見ると――廣銀の杖の先端に浮かび上がる、《ジャイロケット・アイシクル》の円陣がすうっと消えるところが見えた。

 その事実が示すことは一つ。


 制止の合図があった後に廣銀が短縮詠唱をしたということだ。


 桐野が抗議の声を上げようとした――そのときであった。


「――勝者、廣銀識人!」


 聴き間違えかと思える唐紅の審判が、響き渡った。

 桐野は空いた口が塞がらなかった。

 そして、激しい怒りが一瞬にして沸き立った。


「げほっ……唐紅先生。今のは明らかに、先生の合図があった後に詠唱しましたよね?」


 煮えたぎる怒りを抑えて、桐野は唐紅に抗議する。

 だが、唐紅はさらに信じ難いことを言う。


「いや、詠唱する意志表示(・・・・・・・・)は僕の合図の前にやっていた。だから有効だよ」

「そんな……!」

「それに、例え合図のあとに詠唱を行ったにせよ、君は力場を収束するのが早すぎだ。いけないよ。これは剣道において、残心を怠るのと同じだ。術師たるもの、いかなるときでも構えを解くのはよろしくない」


「ちょ、ちょっと待ってください唐紅先生!」


 星野が、桐野と唐紅のやり取りに割って入る。


「いくらなんでもそれはないでしょう! どう考えても、廣銀くんの反則負けです!!」


 目を三角にして、怒りの抗議をする星野。

 すると、唐紅が星野の耳元でこう囁いた。


「いいんですか、星野先生……? 大学院で研究を続けられなくなっても」 


 星野の顔色が、さあっと青ざめた。


「日魔の魔導物理学研究科は、唐紅家および廣銀家と固い協力関係にある……。あんまり、僕たちの面子を潰すようなことを言わない方がいいのではないですか?」


 それは、余りにも明白な脅しであった。

 星野は黙り込み、無言で引き下がった。


「……!」


 桐野は、さらなるショックを受けた。 

 守ってくれるなんてことは期待していなかった。しかし、同盟と関わりが深い人間が、同盟の術師が窮地に陥っているのにも拘らず、我が身可愛さに簡単に引き下がってしまうという体たらくに、言葉も出なかった。



 ……「ウソじゃない! 本当にそこにいたんだよ!」……「堺さん、いい加減にしなさい! 何もないじゃない!!」……「ウソじゃない。……ウソじゃないもん」……



 桐野の胸中に、過去の出来事がフラッシュバックする。


(……そうだ。わたしの言うことなんて、誰も信じない。信じられるのは、自分だけ。そんなのは、ものごころついたときに決めたじゃないか……)


 何を行っても無駄だ。

 桐野がそんな風に諦めかけたその時――


「おい」


 声変わりのしていない、しかし妙にドスの効いた少年の声が響いた。


「おかしいだろ、おい。今の……」


 見学していた賢治が、拳をカタカタと握りしめてこちらをにらみつけていた。


(……青梅!?)


 突然の乱入者に、生徒たちがざわめき出す。


「茶髪が堺に杖を向けたのは、間違いなく合図の後だった……。今の審判は不当だ」


 賢治は、明らかに怒っていた。

 目上の者に敬語を使うのも忘れるほど。

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