Report 4 清丸町(4)
「うぜーな、まだついて来るよアイツ……」
桐野が小声で言った。
いけだやを後にした後、己と思しき大男はまた賢治たちを追尾し始めたのだ。
賢治たちは男を撒くために、すり鉢状である清丸町の高い所へ高い所へと上がっていった。すると、目の前にはもう隠水の森が見えていた。
「イソマツ、涼ちゃんからの返信はまだなのだ?」
「うん。ただ待っているだけじゃなく、僕らも少し仕掛けた方がいいかもね」
「お、おい。どうするんだよ。アイツ、何だか段々近づいているぞ!」
狼狽える賢治。
男と賢治たちの距離が近づいている。このまま詰められるのはまずい。
「お、イソマツ。さてはおぬし、あそこへ逃げ込むつもりだな」
「あそこ? あそこってどこだ?」
「それはね……」
「シッ! あの男に聞かれたらどうするんだ! 青梅も、少し考えて訊けよ」
後ろを振り向くと、家々の屋根がもうあんなに小さく見えるようなっていた。目の前はまだまだ平らな道であるが、奥に進めば進むほど木の数が段々多くなってくる。
ケヤキの木が四本不揃いに並んでいるところで、イソマツと桐野が足を止める。
そして後ろを思い切り振り返って、〔バクチク〕の火球を発射した。
「――!」
男は驚き、懐に手を入れる。杖か、または別の武器でも出すつもりか。
「うおっ!?」
だが間に合わず、火球は男の右肩に着弾して爆発した。
男は衝撃で後ろに倒れる。
「こっち!」
桐野は賢治の手を引っ張った。
そして賢治以外の三人は、一気に駆け出す。
イソマツが、三番目と四番目のケヤキの木の間を指さす。
「賢治くん、一緒に入るんだ! せーのっ、せっ!」
賢治は指示に従い、イソマツたちと一緒に木と木の間を潜り抜ける。
ず、ず、ず、ずうんっ……。
賢治は一瞬、妙な圧迫感と足が浮かされる感覚に襲われた。
そして、目の前の景色に違和感を覚える。
木々が明らかに多くなっていて、平坦な道だったはずの目の前には小高い丘ができている。
後ろを振り向く。
賢治は、寒気を感じた。
――四本のケヤキの木が、消えていたのである。
「……イソマツ! 一体、どうなってんだ!?」
「これは僕にも分からない。霊的結界の一種だと思うんだけれど、仕組みがさっぱりだ」
「ぼやぼやしていてはおられんぞ! あの男が仕組みに気づき、追って来るかもしれぬ」
現世が先導して四人は、けもの道が走る小さな丘を登る。
そこには、奇妙なものが設えられていた。
地下への下り階段だった。
階段の上には屋根もなにもなく、用途がさっぱり分からない。まるで、城から通じる隠し通路の出口のような外観だった。
「……」
賢治は、あるものを見て怖気が走った。
入口の周りに、紙切れがたくさんくっついている。
雨風にさらされ、何が書かれてあるかは分からない。だがその紙が何で、何のために貼り付けてあるかは、容易に想像がついた。
「な、なあ。お札貼ってあるんだけど……?」
「大丈夫だって。何度も来てるし。さ、入るよ」
イソマツが階段を降りていく。
「オ、オイッ! 待ってくれよ!」
「《ウィル・オー・ザ・ウィスプ!》」
桐野が唱える。光り輝くエネルギー球が杖先から飛び出し、賢治たちの周りに漂う。鬼火が階段の下を照らす。それは非常に強い光量を保ち、隅々まで照らしてくれる。
カツーン、カツーン……。
賢治たちの足音が反響する。深い階段の底には、かなり長い道が敷かれているということだ。
階段を降りると、狭いトンネルのようなところに出た。先は暗闇に包まれており、光球では照らしきれない。
「なあ、この地下道は一体何なんだ?」
「円島地下迷宮……。現世たちの秘密のダンジョンなのだ」
「ダンジョン、だと?」
「例えば、閉山してしまった小さな鉱山、塞がれた防空壕の跡、建設計画途中で中断したトンネル、戦前のわずかな間だけ通っていた短い地下鉄、閉鎖された地下商店街の跡……。円島の地下ではそうした諸々の地下通路がどんどんつながっていって、いつの間にか巨大な迷宮になってしまったのが円島地下迷宮なのだ」
賢治は、周りに落ちているものを見てみる。錆びきってしまったアルミ缶。朽ち果てた木製のベンチ。見知らぬ地名が書かれたバス停。砕けた瓦。廃タイヤ。ラムネの瓶。そこには、かつてこの地下や周囲にあったであろう生活の痕跡が見て取れた。
「なるほど。しかし、危険はないのか?」
賢治がそう訊くと、桐野とイソマツが答えた。
「涼二先生からも『入っちゃダメ』って言われてる。でも、今はそんなこと言ってられないだろ」
「ま、道さえ間違えなければ大丈夫だよ。何度も来ていて、マップはインプットされているし。庭みたいなもんさ」
桐野の《ウィル・オー・ザ・ウィスプ》以外の光源が、トンネルの向こうから差し込んでくる。この先はどうやら、天然の洞窟になっているようだ。
「……!」
トンネルを抜けて飛びこんできた光景に、賢治は息を呑んだ。
天井の裂け目から、外の光が降り注いでいる。足下には、小さな川がちょろちょろと音を立てて流れていた。浮遊する微粒子が光に反射して、きらきらと輝いている。
(街の下に……、こんな場所があるなんて)
「キレイでしょ?」
ふとイソマツが声をかける。
「僕が最初、現世ちゃんやキリちゃんとここに来たときも、同じことを思った。……
僕さ。親を亡くしてからある施設にいたんだけど、あんまりいいところじゃなくてさ……。こんな綺麗な光景を見てこなかったんだ。それがさ、家族と一緒に冒険してこんな素晴らしいものを見られて、すごく嬉しかったんだよね。……こんな時だけれど、賢治くんにも見せられて良かったなあ」
「イソマツ……」
そういうイソマツは、どこか遠くを見ているような目をしていた。
賢治はそのイソマツの言葉に、表情に、彼のウェットな一面を垣間見たような気がした。そして、心に何かぬくい感情が染み入っていくのを賢治は感じた。
「さ、歓談はここまでだ。進むよ!」
イソマツは、またいつもの調子に戻って賢治にそう言った。
この空間の出口は二つあった。
洞穴になっている道と、錆びついた扉の道の二種類だった。
イソマツの先導で、扉の方へと進む。
扉を開くと、赤錆だらけの狭い通路だった。鉄と埃の匂いが立ち込めていて、賢治は少し顔をしかめた。
「――今、現世たちは清丸町の南を大回りして一丁目に向かっているのだ。だから、ここは月輪山との境界付近なのだな。近くに白八川の上流があって、さっきの水はそこから流れ込んできたものなのだ」
「ここをずっといけば、月輪山の中腹辺りに出るんだよ。そっからの帰り道はなだらかで、四丁目までまっすぐ行けるんだ。このルートで撒くよ」
現世とイソマツが説明する。
「あ。ちょっと待って欲しいのだ。靴紐がほどけてしまったのだ」
現世が言う。桐野が《ウィル・オー・ザ・ウィスプ》の光球を近づけて、照らしてあげる。
賢治は壁に貼り付けられた鉄板にもたれて、待つことにした。
「……ん!?」
賢治は違和感に覚えた。壁が動いた気がしたのだ。
「賢治くん、そこダメッ!」
イソマツが叫んだ。
賢治は驚く。だが、離れようとしたときは遅かった。
「うわっ、わっ――わああああああああああああッ!!」
ぐるんっ。コンクリの鉄板部分が壁の奥へ倒れる。
ぽっかり開いた大穴に、賢治は落ちてしまった。
「賢治ッ!」
スニーカーの靴紐を結び終えた現世が、賢治を追って飛び込む。
桐野とイソマツの二人も、慌ててその中に飛び込んだ。
ズシャアアアアアアア。
「――ぎゃああああああああああ!! なななななな、何だよこれええええええッ」
賢治はすさまじいスピードで、パイプ状のスライダーを滑り落ちていく。
涙が、上に流れていく。角度は極めて急で、真っ逆さまに落ちないのが不思議なくらいだ。
「……けーんーじーぃぃぃぃぃぃ!」
頭上から声が聞こえる。
「――現世!? これ、何とかしてくれえええええっ!」
「少し先で、通路が塞がっているはずだ! そしたら、横に開いてある穴に飛び込むのだ!」
現世のいうとおり、先は通路の脇から突き出た石版のようなもので塞がれていた。《ビルディング・プレート》による錬成物であろう。
賢治は足で踏ん張り、少しでも衝撃をやわらげようとする。
「う、お、お、おおお――あでっ!」
石版にぶつかり、ようやく止まった。左肩と腰に鈍痛を覚えながら、賢治は横を見る。そこにはたしかに、現世の言った通りの横穴があった。
賢治はそこへ入る。
「……ゼェゼェ。し、死ぬかと思った」
ズザーッ。
すぐに現世たちが降りてきた。
「¡Hola! 賢治くん。大丈夫かい?」
イソマツがそう言うと、賢治は怒鳴り返した。
「全然大丈夫じゃねえよ! 何なんだよこれっ!」
「多分、工事のときに資材を運んだり、廃棄物を処理したりするのに使ってたんだろうね。ダストシュートみたいなものさ」
「……いま地震とか来たら、オレたち永遠にここから出られないな」
桐野が石版をぺたぺたと触って、何かつぶやいている。
「わたしがつくった石版、まだ残ってたんだ……」
★
横穴は、同じようなパイプ通路だった。恐らく同じ用途で使われていて、さっきのと合流するようにつくられたのだろう。今度は勾配がかなりゆるやかだったので、賢治たちはよじ登ることができた。
賢治がこのスライダーを降りてしまったため、四人はルート変更を余儀なくされた。
一番上には鉄板のフタがされている。それは、さっきと完全に同じつくりの出入口であった。
またスライダーの外も、同じようなコンクリの通路だった。
「なあ……、ここどの辺なんだ? ずいぶん滑り落ちたはずなんだけど」
賢治がイソマツに訊く。
「多分、四丁目と一丁目の境目あたりだね。魔導警察署の近くじゃないかな。ここから北東に向かえば、一丁目のアーケード商店街の裏路地に出られるハズさ」
「本当かよ……。しかしこの地下には、他にもこんなのがあるのか?」
「いっぱいあるよ。かなり多くの工事が中断したり、かつて使われていたダストシュートがそのまま残されていたりするから」
「……この島、よく六年前の震災のとき地盤沈下しなかったな」
イソマツと桐野の先導で、四人は通路を進む。
けれども二十分ほどさまよい続けると――
「イソマツ。そこ道、違う。こっち」
桐野はT字の右側の道を指す。
「¿Qué?(へ?) こっち一丁目の方向じゃなかったっけ?」
イソマツはT字の左側の道を指す。
「何言ってるのだ。このT字に出てはいけないのだ」
現世はT字の元来た道を指す。
「……」
一同、沈黙。
「おい。まさか……」
賢治が語尾を濁し、信じたくない口ぶりでイソマツに訊く。
「……ごめん。三人とも道わかんなくなっちゃった☆(ペロリ)」
「おいっ! どうするんだよ! 何が庭だッ!!」
「だってえ、この道に出たの二年前に一回だけなんだもん」
「そもそも、青梅がスライダーに落ちたのが悪い」
「あんなの教えてくれなきゃ避けられるわけねーだろ! 初心者に責任転嫁すなッ!」
ギャーギャー言い合う三人。
「ハックション! ううむ、寒くなってきたのだ……」
現世が言った。地上と地下とでは、五度以上の気温差がある。
スタジャン一枚である現世は、とても寒そうに手をこすり合わせていた。
「現世……!」
その様子を見ていた桐野は、現世に背後から抱き着いた。
「ごめんね現世。ほら、これで少しは温かくなった?」
現世の両手を握り締めて温めてあげている桐野。
しかし温めているはずの桐野の方が、何故か頬を紅潮させ、目元を緩め、息を荒くしていた。
すりすりすり、ぎゅっぎゅぎゅっぎゅ、わきわきわき、さすさすさす、ハァハァハァハァ。
「……サラサラの髪……石鹸の匂い……細い肩……楓のように小さな手……堪らない……」
(マタタビに酔っ払った猫のような目をしてやがる……)
「よだれは拭いた方がいいと思うなー」
呆れ顔の賢治とイソマツ。不満そうな現世。
「むー……。それより、ゲーティアに化けた方が快適なのだ」
「……!」
赤くなっていた桐野の顔が、一瞬で青く染まる。
自分の体温よりも自前の力の方が役に立つと言われてしまった桐野は、立つ瀬のないといった表情をしていた。
(……ん? ゲーティア……そうだ!)
アイデアが閃いた賢治は「それだ、現世!」と、現世の方を向いて突然叫んだ。
「『ゲーティア』の中に、地下の道案内してくれるヤツが居たよな?」
「おるぞ! それは『第六十二席の悪魔・ヴォラク』だな! そうと決まったら、早速展開なのだ!」
「《Expand!》」
賢治がそう唱えると、力場が展開される。
ゲーティアになった現世は、「ヴォラク」の項を右ページに表示する。
「《地龍総裁ヴォラク――召喚!》」
賢治がそう唱えると、もはやおなじみとなった二つの三角形の円陣が出現する。目の前の円陣から、五十センチほどの小さな悪魔が召喚された。
それは身体がモグラ、頭と尻尾が子どものドラゴンという奇妙な怪物だった。
【62.地龍総裁ヴォラク President of Mole Dragon, Valac】
戦闘力 C(攻撃 C 体力 C 射程 B 防御 D 機動 C 警戒 B)
霊力 D 教養 E 技術 B 崇高 D 美 C 忠誠心 A 使役難易度 IV
「ヴォラク、地上へ出れる出口を探してくれ!」
賢治がそう命令するとヴォラクは「チヂューッ!」と鳴き出して、トコトコと通路の奥へ走り出した。
ヴォラクはフルフルと同様、人語を解せない。しかし召喚主の脳波や感情を読み取り、召喚主の行きたいルートを道案内してくれる善良な精霊なのである。
「チヂュヂュッ、ヂュッ!」
ヴォラクが立ち止まる。飛び跳ねて、壁の横穴を指差した。
そこから、かすかに光がもれだしている。
それは賢治たちの心に、安堵をもたらした。
「やった! でかしたぞ、ヴォラク!」
賢治は、ヴォラクの頭を軽くなでる。ヴォラクは、嬉しそうに鳴き声をあげた。
横穴の奥には、鉄のハシゴが設置されていた。
桐野が《ウィル・オー・ザ・ウィスプ》の光球を、はしごの上へと移動させて照らし出す。
「¡Ay......!(うーん) 石のフタで閉じ込められているね……。途中で壁の材質が変わっているところから、ここは元々水路で、あれは井戸だったんじゃないかな?」
「《ファイアボール》で吹っ飛ばすか?」
「いや、それは危ない。わたしが《ビルディング・プレート》を斜めに作って、フタを突き上げる」
そう言って桐野は、ハシゴを上り始めた。
全ての術には、その力場が届く限界の範囲というものがある。それを「射程」と呼ぶのだ。
力量による個人差はあるが、現代実践魔術の呪文には全て平均値が求められている。例えば《ビルディング・プレート》の平均射程は杖の先から5メートル。桐野の場合は5メートル46センチと平均よりやや広いが、それでも下からでは届かない。
桐野は蓋から2メートル辺りのところで止まり、壁に向かって唱える。
「《ビルディング・プレート》!」
カーブした壁から直方体の突起がゆっくりと伸び、フタにぶつかった。そしてそのまま突き上げる。外の様子が分かるくらいに空いたところで桐野は、「《Converge》!」と唱えて力場を閉じた。
桐野は、隙間から外の様子を伺った。そして、隙間の外に杖を向けて詠唱する。
「《オーバーグロウン・グレイトヴァイン!》」
杖の先から緑色の光線が放物線を描いて放たれる。
すると何本かの蔓が石のフタに絡みついた。井戸の外で、生成したようだ。
そして蔓は、そのまま井戸のフタを引っ張った。
ズズゥウウン……。
石のフタが音を立てて井戸の口のそばへ落ちた。
外の景色が見える。
そこは、木造の天井だった。
井戸の周囲に東屋でも建てられているのだろうか。
桐野が井戸の外へ出た。
「キリちゃーん、どうだーい?」
イソマツが聞いた。
口から顔を出した桐野が「神社に建てられた木造の小屋みたい」と言った。
「扉の閂は鍵がないから、簡単に開く。誰にも見つからないうちに、さっさと出るよ」
「《帰還》!」
賢治は、ヴォラクを帰還させた。太陽の光に弱いヴォラクは、一緒に出られないからだ。
賢治がハシゴを昇り終える。
井戸を封じるように建てられた小屋は、三畳ほどしかなかった。傍らには、桐野の《オーバーグロウン・グレイトヴァイン》で生成した蔓が床の木板を突き破っていた。
賢治は、桐野が開けてくれた扉からさっさと出ることにした。
扉を出てきて目に飛び込んだのは、鳥居、手水舎、動物の像、石柱……そして本殿だった。
(オレが知っている神社そのまんまだ……。神道ってそれこそ汎人の側の宗教ってイメージだけど、術師界でも根付いているのか?)
「全員出たから閉めるよ――《ビルド・ディストラクション》」
桐野は井戸の中に生成した石版に向けて唱える。
するとまず、《オーバーグロウン・グレイトヴァイン》の力場が収束して蔓が朽ちた。
《ビルド・ディストラクション》の灰色の光線が、石版に当たる。すると石版は粉々に砕けて、井戸の中へと音を立てて崩れた。
地術系の生成物を破壊する呪文である。
そして《オーバーグロウン・グレイトヴァイン》を再び唱えて、古井戸のフタを引っ張り上げて再び閉じた。
「イソマツ、涼ちゃんからは返信は来たのか?」
現世が聞いた。
「うん。『すぐ行くから場所を教えてくれ』って」
イソマツのスマートフォンの表示は、「圏外」から「4G」に切り替わっていた。
「こらーッ!! お前ら井戸小屋で、何をやっているんだ!!」
女性の怒鳴り声が響いた。
びっくりして振り向く賢治たち。
そこには、ピンク色の髪をした巫女がいた。
神職に相応しくない髪の色だけでも異質なのに、彼女の顔はさらに異様であった。
「ぎゃあ!? お化けッ!!」
賢治は、彼女の顔を見るなり指をさして悲鳴をあげた。
巫女の女性は、目が一つしかなかったのである。
片方の目が失明しているという意味ではない。
本来なら眉間に当たるところに、眼球が一つだけ埋め込まれているのだ。
「馬鹿者! 一つ目の亜人なのだ!」
現世が、賢治の言動を叱咤する。
「あーっ! 古井戸を開けやがったな、この悪ガキども!」
「待って欲しいのだ! 現世たちは曲者に追われて逃げてきたら、偶然ここに辿り着いてしまったのだ!」
「やかましい! 曲者はお前らだろうが!」
「¡Gua! こりゃ、捕まったらコトだ。逃げるが勝ち!」
イソマツが、賢治の襟をつかんで駆け出そうとした。
その時、賢治の視界に異変が起こった。
「わっ、何だ!?」
右足が突然、賢治の意思に反して止まってしまったのだ。
(――詠唱はなかった。超能力か!)
「話を聞いてください。私たちは、因幡氏の家の者です」
桐野が言った。
「因幡……、だと?」
巫女の女性が、一つしかない眉を曲げて訝しげに言った。
どうやら因幡の名前が効いたようだ。
「故意ではないとはいえ、忍び込んだことは謝ります。ですからお願いします、私たちを匿ってください」
「……ただのイタズラってわけじゃ、なさそうだね。いいよ、こっち来な」
女性がそう言うなり、賢治の右足が急に動くようになった。
力場が閉じられた――術が解かれたのだ。




