Report 14 妖誅(8)
〈交戦状況〉
イソマツ&桐野 VS 壬(灯) → 太七川を下りながら戦闘中。
徳長 VS 甲 → 隠水の森(月輪山側)で戦闘中。
池田 VS 戊 → 魔導警察署に霊動鎧で突っ込んで立ち去るところを、池田が飛び乗った。
〈残存敵対勢力〉
甲 丙 戊 庚 辛 壬 干
【Side - 指導医→維弦】
「サンモニクス鉗子」
維弦がそう言うと、先端が沿った細長い鉗子を男性看護師が差し出した。
受け取ると、維弦は即座に霊力場を展開した。
ポウ、と鉗子の先端が青白く光る。
手術台には、右半身を上にして側臥位で患者が乗せられている。切開部は、右手の甲から右肩甲骨部にまで至っている。
ここは、清丸町魔導病院の第三手術室だ。
いま維弦は、初老の指導医の許で魔導神経外科の手術を執刀しているのである。
患者の切開部には、筋肉や骨の間に青白く光る血管のようなものがいくつも見受けられた。
勁路である。
専用の呪文によって反応させ、本来なら見ることができない体内の勁路を視覚できるようにしているのだ。
患者の勁路は複雑に絡み合っていて、末梢神経に影響を与えている状態だった。
全身群発型勁路捻転症候群。
通常なら交わるはずのない勁路同士がひっついて、絡まってしまう病気である。霊力場を繊細に展開する必要がある職業に長年ついていた人が罹患し易く、この患者も金属魔道具職人である。
したがってこの手術の目的は、絡まった勁路を魔導物理的方法で解いて、元に戻すことである。
だが、それは言うほど簡単ではない。
少しでも間違えれば、指に霊力が伝わらなくなり、二度と魔道具を作ることができなくなってしまうだろう。
維弦は慎重に、しかして確実に鉗子を切開部へ入れていく。
(手術開始から12時間……。この厄介な症例に対して、なんという集中力だ)
監修していた指導医が、心の中で感嘆した。
手指に関わる勁路手術は複雑なため、研修医を終え専門医となって5年は経験を積まないと、まずは執刀を任されない。維弦は、5年ある研修医期間を終えてまだ二か月しか経っていない。
そうであるにも関わらず、この困難な手術に対してメスを握ることを許された。指導医の監修の許とはいえ、これは普通では考えられないことである。
医者として卓絶した腕を持った維弦に、その場にいた全員が畏敬の念を抱かざるを得なかった。
(患者の進行度はステージ4……。本来ならば、まずこんな若造に任せられることなどあるまい。だが、羽山は違う。ベテラン医ですらこう易々とは……)
維弦は絡まった勁路を、一つ一つ確実に解いていった。
それからどれだけ時間が経ったか。
ようやく最後の一本を解き終わった。
「捻転部、解消完了。後処理に入ります」
維弦は釣り針状の縫合針を完全に慣れた手つきで操り、切開部を縫い付けていく。
やがて全ての処置が終わり、無事手術は修了した。
「手術を終了します。皆さん、ありがとうございました」
維弦は一礼する。
それから顔を上げて、指導医の方を向く。
「千子先生」
突然呼ばれた指導医は、やや狼狽えて「な、なんだ?」と問い返す。
「手術中、ほとんどご指摘をいただけなかったのですが……。何か気になったところとか、ありませんでしたか?」
「い、いや。特にない。一から十に至るまで、つつがなくできていた。頑張ったな」
「……わかりました。ありがとうございます」
その後は会話という会話もなく、粛々と後片付けが行われ、手術室は閉じられた。
★
(頭痛え……)
13時間に渡る手術を終えて体力と気力が限界だった維弦は、ほうほうの体で二階にある医局に向かった。各医科部長と院長には専用の部屋があるのだが、それ以外の魔導医師は医科に関わらず一つの医局にまとめられている。
扉を開けると、誰もいなかった。
目指すは、窓際の長いソファー。それをベッド代わりにして、維弦は仮眠を取ろうとしていた。
窓の外の景色は非常にどんよりとしていて、今にも雨が降ってきそうだった。風が非常に強く、ガタガタと窓枠が震えていた。
(しっかし、この強風と空の暗さ……。頼むから竜巻とか起こらないでくれよ)
その時、維弦の視界にあるものが入った。
病院の正面より二段下の坂を、一つの影が病院の前に近づいてきた。
霊動鎧だ。
一機の霊動鎧が一丁目方面から向かって来たのだが、その上に信じがたいものが乗っかっていた。
池田だった。
霊動鎧に覆い被さって、今にも振り落とされそうであった。
運転席のある胸部に向かってしきりに怒鳴っている。停止するように呼びかけているのだろう。
「何やってんだアイツ……!」
維弦は慌てて窓を開けて、窓枠に足をかける。
そして、勢いよく跳躍する。
二段下の坂まで、進行方向に12メートル、鉛直方向に7メートル。常人ならまず飛べず、着地したら無事では済まない距離を――人狼の筋力を以って維弦はひとっ跳びに済ませてみせた。
ダンッ!!
着地すると、直後に霊動鎧が目と鼻の先まで迫ってきた。
「羽山!?」
池田が維弦に気づいた。
霊動鎧が進行方向を変えて、維弦を避けようとした。
だが維弦はかえって霊動鎧の方へ向かい、右足部を抱え込むようにタックルした。
時速41km/h、2.5トンの重量の衝撃が、維弦を襲った。
「Grrrrrrrrr!!!」
だが何とか持ち堪え、その場に踏ん張ろうとするも――二秒で蹴り上げられてしまった。
「ぐっ……!」
維弦は宙を半回転する。しかし、諦めなかった。
ガシッ!
空中で右腕にしがみつく。振り落とそうと前へ突き出されるが、伸長した爪をひっかくように突き立てて堪えた。すると今度は、拳を天に突き上げようとする。維弦は足を右肩にかけつつ、パッと手を放して首にしがみついた。
「お、お、おおお前!! 何やってんだ!! 一般市民が手出しするんじゃねえ!!!」
池田が維弦を叱責した。
「無茶し過ぎなんだよ。コイツ何したんだ?」
「署に突っ込んだんだよ!! 恐らくマガツの幹部だ!!」
「――! 何だと!?」
維弦は進行方向と逆の方を向く。
すると、何機ものパトカーが円環道路に進入し始めていて、一丁目方面からは何機もの白い飛行箒が浮かんでいた。後者は魔導航空機動隊だろう。
ガクン――
霊動鎧が突然方向転換をして、円環道路から外れた道に入る。
「う、うわわっ!」
維弦と池田は振り落とされないよう、首にしがみつき直す。
両サイドが林の中を突き進む霊動鎧。その先には錆だらけの門が敷かれていた。
霊動鎧が両腕を前へ突き出す。
グワシャッ!!
錆びて朽ちた門は、一たまりもなくこじ開けられてしまった。
「ぬおおっ!」
錆と鉄粉の霰を受けて顔を伏せる池田と維弦。
門の先は、開けた場所だった。
「ここは……ひのわ園か?」
維弦がつぶやく。
全てのゴンドラの窓がひび割れている観覧車、錆だらけのコーヒーカップ、本当に何かが出そうなお化け屋敷、今にも崩れ落ちそうなジェットコースターのレール、メッキが剥がれたおぞましい怪物が円を成すメリーゴーランド……そこは紛れもなく、閉園した遊園地の廃墟だった。
(そういや、俺が術師界に入ったときは、既に閉園していたっけ……)
ギャキィッ!!
霊動鎧が突然、胴体を捻りながら急停車した。
「うおおっ!!」
池田が堪え切れずに振り落とされた。
「池田!! くそっ――」
維弦が助けようと手を伸ばす。
しかし、であった。
白衣の襟を掴まれた。
霊動鎧の右前腕を内側に折り曲げ、握られた拳をいったん開いて、掴んだのだ。
維弦は抵抗する間もなく、地面へ叩きつけるように放り投げられた。
「ぐはっ!」
霊動鎧が手放してから落下するわずかな時間、維弦は空中でわずかに姿勢を変えて、出来る限りの受け身を取った。だが、完全にダメージを回避することはできなかったようだ。
肺の空気が引き絞られるような衝撃、視界の明滅。そして――
メギャッ!!!
維弦の胸を、2.5トンの踏みつけがトドメと言わんばかりに押しつぶした。
★
【Side - 丙】
「はっははは!! ザマーミロ、クソガキども!!」
壬の手助けによりイソマツと桐野の追跡から逃れた丙は、森の中を疾走しながら高笑いしていた。
「魔導航空警察隊が動き出したか……。予定通り南側から汎人界に出て、そのまま向かうか」
丙はそう言いながら、システム・パネルを覗き込む。
そこには、レーダーが表示されていた。このレーダーは霊力場を探知するアタッチメント機能であり、平面の位置だけじゃなく高度も探知することができる。そのため、高い高度に位置しており、かつ膨大な力場を展開して高速度で移動する光は、飛行箒の操縦者だと推測できるのだ。
五分ほど前から一丁目方向より、大きな光点がいくつも出現しては、せわしなく動いている。戊が魔導警察署に突撃したのだろう。
彼が向かっているのは、円島の南にある離浜港である。ここはかつては石炭や石材などの輸出入に使われていたが、現在は廃倉庫が並んでいて避難港としてしか使われていない。つまり、後ろ暗いことをするにはもってこいの場所なのだ。
干の指示によれば、17時には逃亡用の船を手配してくれる運び屋が来てくれるとのことだった。
「……!?」
丙はレーダーに、不審な反応を見つけた。
一瞬だけ、光点が出現して消えたのだ。
本当に一瞬だけであったが、丙は二ドット分だけ自分の方へその光点が動いたことを見逃さなかった。
(このレーダーは、力場が乱れる界境に入られると捕捉できなくなる……。だが、さっき出現した点は界境ではない。まさか……ステルス飛行箒か!?)
飛行箒の中には、霊力場レーダーによって感知されないステルス霊力場を展開する機能が搭載されたものがある。だがこれは極めて高価なもので、所轄の魔導航空機動隊が所有できるような代物ではない。
(普通はあり得ないが、実際レーダーは反応した……。くそっ! どうなってんだ!!)
丙が使っているレーダーは、空部軍団でも使われていた高性能品だ。一世代前とはいえ、そうそう誤作動を起こすとは考えにくい。
だが見つけてしまった以上、対応しなくてはならない。
(さっき出現した地点は、俺からまだ遠い……。だったら、こっちが先に界境へ逃げ込んでやる……!)
丙はグリップを緩め、ヨークを右に曲げる。
ぐわんっ。
視界が歪む。界境に入ってしまった。
だが丙は、すぐに界境を出ることは避けた。ゆっくりとUターンしつつ、離浜の方へと方向転換をする。
――ゥゥウウン。
(!)
エンジンの音が近づいてくるのを、丙の耳は感知した。
戦慄する丙。痙攣するように、後ろをバッと振り向いた。
そこには、丙を追尾している一機の飛行箒がいた。
「お……緒澤平祐!!」
丙が追跡者の名前を口にした。
「おや、おれのことをご存知とは。その通りですよ、国防魔導軍空部軍団士官学校48期生・阿南泰樹さん」
仮面の下で丙は、驚愕の表情を浮かべる。
「ははは。この程度のことで『なんで俺の正体に気づいた』って顔しないでくださいよ、先輩」
能面のようにのっぺりとした笑みを浮かべる平祐は、飄々とそう言った。
「魔導工業高校時代は、ご自分の超能力を再現した魔道具を独力で発明されたそうで。しかし成績が良かったため、特技兵ではなく士官候補生として入隊されたと。まあ、将来性を考えれば順当な判断だと思います。――人の運がなかったのですね」
ビキビキッ……。
丙は仮面の裏で、額の静脈をくっきりと浮き立たせた。
「てめえ……。どこまで知ってやがる」
「戦闘箒のシミュレーションで最高成績を取ったことや、教練担当だった反亜人主義の先輩にイジメ抜かれて中退したとか色々」
グワンッ。
丙の周囲に、淡い紫の炎が舞った。それは螺旋を描きながら、平祐へと迫っていく。
魔道具「吸魂車輪」が再現する輪入道の超能力――〔魂吸火車〕である。
この炎が平祐を取り囲んだとき、平祐の意識は阿南の肉体に奪われることになる。
「今の言葉、寿命を縮めたな」
そうなれば意識を失った平祐の身体は、間違いなく墜落する。
これほどのスピードでそうなれば、肉体は不可逆的に損壊するであろう。つまり、「死」だ。
(ガキどもや何の罪もない界境警備隊は見逃してやったが……、お前はここで始末しなければ危険だ。後輩であろうと容赦はしねえ……!)
丙がこの術を直接行使しなかった理由はいくつかある。
一つは、単純に良心の問題である。そうする必要のない人間を、無暗に墜落死させたくはない。
もう一つは、利便性に欠けることである。〔魂吸火車〕を使った場合は阿南自身が動かなければならないが、「吸魂車輪」であれば車輪と肉体を誰かに引き渡すこともできる。
最後は、他人の精神を己が身に引き入れること自体が勁路に多大な負担を与えることである。勁路負担率は毎分1ずつかかるため、肉体に留めて置けるのは1時間40分が限界である。この負担がなくなるには、精神が元の肉体に戻るか、元の肉体が死ななければならない。
今この超能力を行使したのは、以上のすべての条件をクリアできるからである。
紫の炎はまさに、平祐へ届かんとしていた。
(〔魂吸火車〕でコイツの魂を俺の体内に留めて置けるのは75分。だがそんなのは、コイツが墜落死すれば何の問題にもならねえ! ――さあ、堕ちろッ!!)
だが、その目論見は外れた。
パシンッ!!
平祐の周囲が、プリズムの淡い七色に包まれる。
《マインド・ウォール》――理術と識術の合系術で、精神防御結界呪文。勁路負担は50。
「くっ、《ディスペル・ライト》!!」
丙は飛行箒に搭載してあるアタッチメント・ワンドを使い、術解呪文を詠唱する。丙の合計勁路負担率50。
「《アブラカダブラ》」
相手も同じように搭載しているアタッチメント・ワンドで対応する。平祐の推測合計勁路負担率は75。
直後、グリップを左に握り込む。そして、
「《シャドーバヨネット:CQCタイプ》」
と続けて唱える。
平祐の右手に、漆黒の霊刃が生成される。
直後――横薙ぎに斬り抜けようとした。
「うおおッ!!?」
丙は慌てて回避する。
マスクが刃に掠った。
パカッ。
マスクが割れて、アデノイドが膨らんだ痩せぎすの阿南の顔が顕わになる。
「て、てててめえっ正気かッ!! ひっ、人質ごと斬る気かよッ!!」
「狙ったのは紐だけですよ」
「馬鹿!! 自分の腕を過信するんじゃねえッ!! このスピードで空中に放り出された人間を捕まえるのが、どれだけ大変だと思っているんだ!!!」
「えー? このくらい魔導航空兵ならできる人いますって。あ、そうか。先輩、中退しているからわからなかったんですね。いやあ、失敬失敬」
ブチンッ。
堪忍袋の緒が切れた。
「てんめえええええッ!!!」
平祐に向けた丙の杖先から、火球や火炎放射が四方八方に放たれた。
様々な火術系の攻撃呪文を、怒りに任せるまま短縮詠唱しているのだ。
だが、そんな単調な攻撃が飛行箒を巧みにさばく平祐に当たるはずもなく――
「《ダウジング・アーティファクト》」
射程内の魔道具を探知する呪文を唱えられた。
「……ッ!!」
丙は慌てて霊力場を一旦閉じ、攻撃呪文の短縮詠唱を取り止めて、力場を再展開してから《アブラカダブラ》を短縮詠唱した。丙の合計勁路負担率75。
だが、間に合わなかった。
ヴ……ゥゥゥン。
力場の波が広がるのを、丙は感じた。
空中に《アブラカダブラ》の円陣が一瞬浮かんだが、遂行不能のまま立ち消えてしまった。
「――なるほど、そこか」
平祐が不敵な笑いを浮かべて、目線を丙の左胸に向ける。
(……やべえ!! 左ポケットに入れた吸魂車輪の位置を探り当てられた!!)
ギュウンッ!!
平祐が急加速する。
「ひっ!」
怯んだ丙は、ヨークを左に向けて回避しようとした。
ガキンッ!!
「ぐはっ!」
避けきれなかった。平祐の霊力の銃剣が、左胸に入っていた車輪を砕いた。
衣服の切り口から赤い光が溢れ出る。その光は、丙が背負った賢治の肉体に吸い込まれていった。
賢治の精神が、肉体に戻ったのだ。
「し、しまった!!!」
「……う? うん?」
賢治が意識を取り戻した。
そして――
「――!? うわぁぁぁぁあああッ!!?」
悲鳴をあげた。
無理もない。目を覚ましたら後ろ向きに空を飛んでいた、などという異常事態に遭遇すれば誰でもそうなる。
「こ、コラ!! 暴れるんじゃないッ!!!」
丙が慌てて賢治を制止させようとした――その時、だった。
ぐわんっ。
阿南の視界が強烈に歪む。そして――
何の気配もなく、大きく曲がった大木が目の前に出現した。
天地が逆になる。
明らかに飛行箒の操作ミスなどではなく――界境の霊力場現象だ。
丙はいつの間にか、界境の危険な領域に飛びこんでしまったのだ。
「!!!!!」
ヨークを全力で右に曲げて、グリップを逆方向に捻る。
――グワシャッ!!!
幹への衝突が避けられたが、枝葉に突っ込んでしまった。
「ぐわああああ――ッ!!!」
「ぎゃあああああ!!!」
ぐるぐると回転しながら、丙と賢治は墜落していった。
地面が視界いっぱいに広がってくる――
★
【Side - 戊】
戊は、霊動鎧ことレイジングソイルの足をゆっくりと退けた。
踏みつけにされていた維弦は、ぴくりとも動かない。
当然だ。2.5トンの金属の塊に胸を押しつぶされたのだ。心臓と肺が破裂して、即死したに違いない。
スマートフォンを開く。そこには、維弦の写真が表示されていた。
画像フォルダには、徳長や桐野、イソマツなど、同盟の関係者を写した顔写真の画像がいくつも保存されていた。それらは、証明写真など学校や職場などから盗み撮ったものから、明らかに盗撮と思われるものまであった。
これらは全て、干から受け取ったものだ。
(本作戦において、羽山維弦は第一次排除対象……。同盟に所属する術師では最高レベルの戦闘力を持つ術師で、マガツにとって脅威となり得る存在だ。戦闘になったら迷うことなく殺害せよと、干からは命じられている)
戊は両手を合わせて、目をゆっくりと閉じる。
「恨んでくれて構わない……。こんなものはただの自己満足だ」
パトカーのサイレンが、徐々に大きくなってくる。
足許で横たわっている刑事は、失神しているようだ。
レイジング・ソイルを方向転換させ、入口の方へと向かい直す。
「さて……。最後の一仕事といくか」
戊がシート脇に隠された、黒いボタンを見つめながら独りつぶやいた――その時だった。
Grrrr......
「――!?」
かすかに聞こえる唸り声。
今までに感じたことのないほどの、異様で威圧的な霊波動。
インストゥルメントパネルのモニターに、バックカメラの映像を表示させる。
信じがたいことにそこには――立ち上がった維弦の姿があった。




