その日
溜飲は下がらないが、
諦めがついたころ『その日』は来た。
安藤にとっては別に何てことのない日であった。
水曜日だ。
総務課の女性が子供の参観会で休み、
代表番号の電話を安藤が受けていた。
セールスの電話を社長にまわしてしまい、
えらく怒られた。
短気な社長はよく声を荒げるが、
ねちねちとひきずることはない。
安藤もそれほど気にしない。
何てことのない1日、7月10日である。
だから、安藤はその日もアスクルに明日を投票した。
体感にして翌日、アスクルに表示されていたのは
『43』という数字であった。
詐欺だ、騙されたのだ。
そう思いながら、安藤はどこかで気づいていた。
だから毎日欠かさず投票した。
カラクリを知ってしまえば、もぅ無視はできない。
それはタネを知っている手品のように、
それははじめて習った足し算のように、
知らなかったことには、もうできない。
騙されたのだと、自分を騙してきただけだ。
震える手でテレビをつける。
「おはようございます、7月10日、
7時のニュースをお伝えします」
安藤のお気に入りのアナウンサーが
昨日と同じ服装で笑っていた。
チャンネルを変えても変えても
7月10日が揺るがない。
笑っている、笑っている、
世界のカラクリを知ってもなお、
騙されたと平静を装う安藤を。
笑えない、笑えない、
世界のカラクリに直面して、
安藤は自分を騙せなくなった。
アスクルは明日を拒否した。
安藤の望んだ明日はこなかった。
『多数決』で明日が拒否された。
安藤にして、はじめての二度目の今日がはじまった。