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アスクル  作者: カガワ
2/7

通話

混乱する頭で安藤は考えた。

電話は、明るい未来社の綿串と名乗る男からだった。

おめでとう、といっているが、何かに当選したのか?

いや、くれるとは一言もいっていない。

『明るい未来につながる』

商品を自分に紹介するという。


安藤は明るい未来社など知らない。

商品の応募もした覚えはない。


詐欺紛いのセールスか。

安藤は安心した。


セールスの電話なら、今まで何度も経験がある。

大丈夫だ、なにも不安なことはない。

曖昧な返答をさけ、はっきりと断るだけ。

だが、その前にききたいことがある。

むくりむくりと、安藤の心がまた起き上がる。


「綿串さん、でしたっけ。

 なんでこの番号を知っているのですか俺は」

「はい、『つながる電話』を使用しておりますので」

安藤が息つぎする間に回答があった。

「つ、つながる電話、ですか」

「はい、『つながる電話』でございます。

 この電話はつなげたい相手に必ずつながります。

 こちらの電話のおかげで私、

 お客様に困ったことはありません」

「いやいや、そうじゃなくて、

 俺はなんで俺の番号を知っているかを

 聞いているんですよ」

「いえ、番号は存じ上げません。

 ですが、私、電話をかける前に

 安藤さまの事を念じながらかけたのです。

 安藤さま、安藤さま、安藤さま、って具合に。

 『つながる電話』はそれだけでつながります、

 『つながる電話』でございますから」

詐欺というのは、ギリギリ信じられるか信じられないかの境界を攻めるか、責めるものだと思っていた。

だが、これはなんなのだ。

あまりに滑稽が過ぎる。

ところが、電話口の男にふざけた様子はない。


わからない、わからない、


判断は鈍り、

非常識に目がくらみ、

不安に胸を締め付けられ、

閉塞感に息がつまり、

ホラ話だとわかっているのにー


「しかしながら、今回安藤さまにご紹介するのは、

 『つながる電話』ではないんです。

 確かにこの電話は便利ですがね、

 安藤さまの明るい未来とは

 つながっておりませんので」


もぐらは空を飛ばないと言い聞かすように、

綿串はことさら優しい口調になった。

綿串が丁寧であればあるほど、

安藤は自分が間違った事を

言っているような気がしてくる。


まぁ、ひとつ、私、綿串のお話をお聞きください。

損はさせません、えぇ、えぇ、

むしろ聞かないほうが損なのです。


安藤さまに、

世界のカラクリを1つお教えいたしましょう。


さぁ、安藤さま、

明日はどうやって来るのかご存知ですか。

おふふ、東を指差していらっしゃいますか。

それは『どちら』から来るのか、でございます。

そうではなく、どうやって来るのかです。


時間がくれば?

えぇ、えぇ、そうですね。

『投票権』がない方はそうなります。


でもそうではないのです、

明日とは『多数決』で決められているのです。

多数決で明日を望む声が多ければ明日が来ますが、

少なければ今日が繰り返されているのです。

多数決、

といっても誰でも投票できるわけではありません。

多くの方は投票することなく、

『多数決』で決められていることさえ知らないまま、

明日を受けとり続け、

最期の明日を待つのみの人生なのです。


さすがでごさまいますね、

お察しがよくて助かります。

安藤さまにご紹介したいのは、

この『投票権』であり、

投票するための道具、【アスクル】でごさいます。


【アスクル】は世界に100台あります。

100人の所有者による投票で

明日がくるか来ないか決まっています。

ぞっとしませんか?

たった100人、

その方々によって世界の明日は

決まっているのですから。


知らなければよかったですか?

信じられませんか?

ご安心ください、安藤さま、

そのどちらも『アスクル』を

お求めいただくだけで解決します。


さぁさ、安藤さま、どうなさいますか、

世界のカラクリを知ってしまった。

知らない安藤さまにはもぅ、もどれないのです。


判断と判決、曖昧ではない『は』を求められれば、

非常識と非現実と否定と、多くの『ひ』を噛み砕き、

不安と不思議と不公平と、数多の『ふ』を飲みほして、

平穏と平静、かけがえの無い『へ』を求めれば


そこに、明るい未来がございます。


『ほ』んとうですか?


えぇ、『ほ』んとうですよ。


『ほ』しいです。


「本日はありがとうございました」


そうして、つながる電話は切れ、

安藤の部屋は本来の静けさを取り戻した。

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