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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

《 なろうラジオ大賞 》

森の怪物

作者: 丹部柿太郎

 その森には怪物が棲んでいる。中に入り、帰って来た者はない。


 そのように噂される小さな森があった。とはいえ困る者はいなかった。怪物が森の外に出てくることはない。中に入るのは度胸試しをしたい愚か者か、一時の隠れ家にしようとする犯罪者だけ。一般民にはなんの害もないのだ。


 その森の入り口に一人の騎士が立っていた。彼は貴族の末席にかろうじて座る男だった。普通の人生を送っていたならば、こんな森に来ることはなかっただろう。

 だけれど彼は王女と恋に落ちてしまったのだ。


 そんな騎士に王は、森の怪物の首を持って来たら娘との結婚を許すと言ったのだった。王女は泣いて騎士を引き留めたけれど、彼はどうしても愛する人と一緒になりたかった。

 そうしてここへやって来たのだった。


 森へ入った騎士は、すぐに異常さに気がついた。生き物の気配がない。鳥の声も動物が動く音もしない。気のせいか空気も淀んでいる。

 それでも勇気を奮い立たせ進んでいくと、やがて開けた場所に出た。真ん中に切り株がひとつ。そこに中年の男が座り、しくしくと泣いていた。


 どう見ても人間だが化けた怪物かもしれない。騎士はそう考えて離れた場所から、どうされましたと声をかけた。

「腹が減った」男が答える。「森から出られない。食べる物もない」

 騎士は怪しみながらも雑嚢からパンを取り出して男にほら、と放った。だがその足元に落ちる。


 男は泣くのを止めて顔を上げた。

「ああ、肉だ!」

 男は立った。と思ったら、一足跳びに騎士の目前に来た。


 騎士は驚く間もなく、頭からバリバリと喰われてしまったのだった。




 ◇◇



 切り株に座って騎士が泣いている。腹は空いているし、森から出ることができない。

 そこに姫が現れた。騎士の名前を繰り返し呼び駆け寄る。


「ああ、肉だ!」

 騎士は叫び、胸元に飛び込んできた姫をむんずと掴む。一瞬にして頭が巨大化し口が裂ける。


 今まさに姫の頭に喰らいつこうとした瞬間、化け物の動きが止まった。

「……私の名前?……姫の声?」


 化け物になった騎士は、肉、姫、とふたつの単語を何度も繰り返し呟き、最後に姫を放り投げた。

 腰に差した剣を抜き、剣身を両手で握りしめる。そして愛する人の名を叫びながら自らの胸に付き立てた。


 森に姫の悲鳴が響き渡る。




 ◇◇




 その森には怪物が棲んでいる。美しい女性の怪物だ。捕まったら、こう言えばいい。そうしたら解放してくれるから。


「あなたが探している騎士は、森の反対側にいましたよ」




お詫び


うっかりミスで、ジャンルを異世界恋愛にしていました。

恋愛ものと思って読んでしまっま方、申し訳ありません。


ホラーに変更しました。

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