暗雲
放課後、私は学校のある場所へ向かっていた。
登校した時に、机の中の手紙が入っていたからだ。
手紙には差出人が無く、放課後、二人だけで会いたいと書かれて場所が記されていた。
私は女子から人気なので、たまにこう言う事がある。
だいたいは女子から告白されるパターンだ
そう言う時は
「私にはローラと言う心に決めた人が居るのよ」
と言うと、あきらめてくれる。
容姿も胸も、ローラの名前を出されたら勝てるはずがないのだ。
もちろん、付き合っているわけではないが、断る理由として随分重宝した。
おかげで最近、ローラと私が付き合っていると言う噂が出たけどね。
そんな噂も
「まぁそんな噂どこから出たのでしょう」
とローラは何故か嬉しそうに言う。
(その噂の出どころは私なのよねぇ)
手紙で指定された場所は建て替え工事区画Bブロックで、まだ工事が始まっておらず人の目を気にする必要がないので密会に好都合だ。
”立ち入り禁止”の看板を通り抜けて工事区画に入ると、一人の女の子が立っていた。
「遅いじゃない、エリス・バリスタ」
「また貴女なの!カーラ」
そこに立っていたのは、カーラ・マンデイだった。
「ご用件は何かしら?」
「タカポンから手を引きなさい」
「はい?」
「貴女、随分タカポンと仲がいいじゃない」
「それほど親しいわけでは…」
「私の目はごまかせないわよ!」
「貴女最近、タカポンと仲睦まじくお話してるわよね」
「いえ、とある事情により一方的に話しかられてただけなので…」
(それもカーラが切り裂いた制服が原因なんだけど…)
「貴女が髪の毛を切ったら急に貴女に興味を持ち始めたわ」
(いや、髪の毛は切ってないから!)
どうしてみんな私が髪の毛を切った事にしたがるんだろう。
おおよその事情は察した。カーラはタカボンに恋心を抱いているのである。
そして私とタカポンの仲を疑っている。
「本当に誤解ですの…」
「タカポンの態度でわかるのよ、貴女に好意を寄せているって」
「私にどうしろと?」
「タカポンに近寄らないでもらえるかしら?」
「隣の席なので物理的に無理ですわ」
「だったら私は貴女を排除するだけよ」
これはもう、いくら説明しても無駄なパターンなのだろう、嫉妬で正常な判断が下せなくなっている。
これ以上は平行線を辿るだけだ、ならば時間の無駄である。
「お話はお伺いさせていただきましたわ、もう、帰っても宜しいかしら?」
「逃げる気?」
「お話なりませんわ」
私はその場を立ち去るため、彼女に背を向け歩きはじめた。
背後から声が聞こえる
「貴女にタカポンは絶対に渡さないから!覚えておきなさい」
それから数日経ったぐらいだろうか、自分に関して色々と良くない噂が流れ始めた。
イジメをしているとか、男子と淫行をしているとかと言った類である。
(まぁだいたい犯人は想像つくけど)
放課後帰ろうとしている時、担任のセシリアがやってきて呼び止められた。
「エリス・バリスタさん、ちょっと来てもらえるかしら」
「……」
「警戒しないで、変な事はしないから指導室にいらっしゃい」
「……」
「そんなに露骨に嫌な顔しないでくれる?」
そう言われたので、渋々先生の後をついて行く。
指導室は進路相談や生活指導を行う個室だ。
2人で指導室に入ると、机を挟んで向かい合わせで椅子に腰かけた。
「カーラ・マンデイから被害届が出ているわ、エリス・バリスタから攻撃魔法を受けて負傷したと届け出がありました、医師の診断書と友人の証言もあります」
「心当たりありませんが」
「被害にあった場所は建て替え工事区画Bブロックよ、その場所に向かう貴女を見たと言う生徒も数名居るわ」
(あの手紙、既にトラップだったのか…)
「その場所には行きましたが、会って話をしただけですわ」
貴族の令嬢に傷を負わせたとなると事態はややこしくなる。
いわゆるキズモノにされたと言う事になり、かなりの揉め事になるのは必至だった。
家と家の争いに発展する事もあるのだ。
(また厄介な絡め手を仕掛けてきたわね…)
「それともうひとつ、男子生徒との淫行…」
「あるわけないでしょ!」
「でしょうね」
「あっさり信じてくれるのですね」
「だって男子生徒と淫行しているのはサキュバスの私だもの」
(お前が犯人かー!)
「それはそれとして…被害届が出ている以上、こちらとしても動かないわけにはいかないのよ」
(さらりと話題変えたわね)
「今後、どうなるのでしょうか」
「3日後に貴女とカーラ・マンデイを呼んで調査委員会が開かれます、そこで証拠の提出と証人の証言が行われるわ」
「また面倒な事になっていますのね」
「無実を主張するならば、貴女はその証拠と証言を嘘だと証明しなければならないのよ」
「無理だと言ったら?」
「処分が下されるわ、示談が成立すれば停学程度で済みそうね、決裂すれば学園追放…最悪は投獄もあり得るわね」
攻撃魔法は刃物などの武器と同等とされている。
つまり人に向かって攻撃魔法を放つ事は武器を持って襲いかかったのと同じ扱いを受けるのだ。
「事実上、私を断罪する会ね」
「そうなるでしょうね」
「その診断書を書いた医師の名前と、証言をしている生徒の名前を教えて欲しいのですが…」
「言っちゃいけない決まりなのよ」
「先生が男子生徒と淫行したせいで私に迷惑がかかってるのよ、ペナルティですわ」
「あらそこを突いてくるのね…いいわ、名前教えて帳消しになるのなら」
私が噂されて被害を受けているのだ、迷惑料として情報を頂く事にした。
「医師の名前はジェイク・ラムリー、貴族専門の個人開業医ね、三番街に診療所があるわ」
「場所まで教えてくれるのですね」
「どうせ行くのでしょう?」
「ええ、他に方法がないでしょう」
「生徒の方はフィリップ・ デンプシーよ」
「どこかで聞いたような…」
「貴女、クラスメイトの男子の名前くらい覚えなさいよ」
「あっ…」
「まぁ目立たない子だと言うのは否定しないわ」
「先生、情報提供ありがとうございます」
私は椅子から立ち上がった。
「貴女に残された猶予は3日間よ」
「わかっていますわ」
私は指導室を後にした。