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78 プロローグ
前回のあらすじ
カレンの声が治るかも
「……ま、眩しい」
窓から差し込む光に顔を照らされ、強制的に目覚めさせられた俺はむくりとベットの上から起き上がる。
……しかし、昨日は少々飲みすぎてしまったようだ。俺もせっかくのマットの誕生日パーティーだし、ランクアップ試験も合格したこともあって、ロココちゃんに勧められるまま、ぐいぐいと飲んでいたら、かなりの量を飲んでしまった。
おかげで今日はいつもより、起床時間がかなり遅い。
体をぐーっと反らせ、眠っていた時のこりをほぐしていると、コンコンっと、この部屋の扉をノックする音が響く。
「マナブ、起きているかの?」
この声はエメさんだ。
金髪碧眼の大変可愛らしい美幼女である。シルクちゃんのおばあさんらしいが見た目は十歳のお子ちゃまにしか見えない。
何でもエルフのクォーターらしい。エルフは長命種族だから、その血が混ざっているエメさんは見た目通りの年齢ではないってことだ。
異世界って本当に不思議だね。
まあ、それは置いておいて、今はそのエメさんだ。彼女がわざわざ俺の部屋まで来るとはどうしたんだろうか。
いつもはシルクちゃんが起こしに来てくれるのだが今日は趣向を変えてエメさんが起こしに来てくれたのだろうか?
それならお越しされる事はやぶさかではない。もうすでに起きているが、ここは寝たふりをしてエメさんにまた起こしてもらうとしよう。
そう考えるまでわずがコンマ二秒。
素早くベットへと再ログインすると、シーツを被り寝たふりをした。
そして再び、ノックの音。
「マナブ〜、まだ寝ているのかの〜」
ドア越しに聞こえてくるエメさんの声。
そうですよ〜俺はまだ寝ていますよ〜──と心の中で呟いていると、ガチャリと扉の開く音。
どうやらエメさんが入ってきたようだ。
「……失礼するのじゃ」
薄めでエメさんを見てみると、なぜか緊張したように忍足で俺のベットまで近づいてくる。起こしに来たのに、起こさないように忍足で寄ってくるエメさんにちょっと笑いそうになった。
エメさんは俺のベットの側まで来ると、そっと声をかける。
「マナブ、もう日が上ってだいぶたつのじゃ。そろそろ起きるのじゃ」
「……………………」
しかし、俺はガン無視。
というか、寝たふりを決め込む。俺は声をかけられたくらいでは起きない仕様となっているのだ。
それから何度か、声をかけてきたエメさんだがどうやら声をかけるだけでは俺が起きないと思ったらしい。
今度は体を揺さぶってきた。
「ほれ、マナブ。もういい加減に起きるのじゃ」
エメさんの小さな手が俺の胸におかれ、軽くユサユサされる。胸から伝わってくる手のひらの体温は何だかとても心地よい。その心地よい手でユサユサされると何だが眠くなってきたぞ。起こしに来たのに逆に眠らされるとはこれいかに。
そうして、しばらく揺さぶられていると、何だが本格的に眠くなってきてしまった。意識も何だがまどろみの中にいるような感じだ。
「……早く起きないと、いたずらするのじゃ」
「……………………」
何かエメさんが言っている気がするが、今の俺は眠気が再来していて頭がうまく働かない。
「……っ、ほ、本当にするからの……?」
「…………………」
「……い、いいんじゃな……」
「………………」
……俺のシーツの中にもぞもぞと何か入り込んでくる気配があったが、今の俺はエメさんの快眠マッサージのおかげで絶賛二度寝中だ。何人たりとも俺の睡眠を妨げる事はできない。
しかし、何だろうか?
俺のベットに何やら、柔らかくていい匂いのする抱き枕のようなものがある。俺のベットにはこのような抱き枕はなかったはずだ。
シルクちゃんが買ってきてくれたのだろうか? シルクちゃんに感謝しつつ、俺はその抱き枕を抱きしめると──。
「──ひゃん!」
抱き枕から、艶かしい声が上がった。
だが、今の俺はそんな些細な事が気にならないほど眠いのだ。さらに抱きしめる力を強くして体全体で包み込むように、足も絡めせ、抱き寄せる。
「……………………うぅ」
抱き枕から発せられるか細い声。
……この抱き枕、抱きしめた感触がすごくいい。肌に感じる体温はちょうどいい人肌で、触り心地はまるで天国にいるかのよう。
それに心が安らかになるような、ほのかな香りもただよってくる。
思わず俺はその抱き枕へと、顔を埋め、思いっきりその香りを胸いっぱいに吸い込んだ。
「──ちょ、ちょ!? やめっ!?」
抱き枕が軽くみじろぎした。
……何だ、この抱き枕。今、俺の胸あたりをグリグリと押さえつけてくれている。
……これは、まさか、マッサージ機能!
そうだ! そうに違いない! この抱き枕、なんとマッサージ機能まで標準装備している。なんていいものか買ってきてくれたんだ! シルクちゃんありがとう! 大切に使わせてもらうよ!
俺は仰向けになると、その抱き枕を胸の上にのせ、両手でしっかりと抱きしめた。
「──ふ、ふぇっ……!?」
俺の耳元に何か慌てているのような声が聞こえた。
その声に構う事なく、俺は抱き枕へと顔を埋め、ぐいぐいと抱きしめる腕に力を込める。
抱き枕とは思えない柔らかな感触に何だかちょっと言葉では言い表せることのできない気分になってきた。
さすがにこんな朝から、そのような気分になるのは些かいただけない。性格習慣の乱れは心の乱れ。ここは眠気とはきっぱりとお別れして覚醒とお付き合いすることにしよう。
まだまだ眠気まなこな目を開けると、いつもの知っている天井だった。
「……知っている天井だ」
思うだけでなく、つい口でも言ってしまった。朝から自分でもバカなことを言っているなあ、という自覚はある。しかし一度口に出てしまったものはもう取り返しがつかない。
「……め、目が覚めたかの……?」
と、俺がそんなあほなことを考えていると、ふと俺の上に乗っかっている抱き枕から何やら声が発せられた。
抱きしめた抱き枕へと意識を向けると、至近距離に綺麗な碧眼と目があった。とても綺麗な瞳で吸い込まれそうな魅力を感じる。その瞳は少々驚いているような、恥ずかしいような、それとも批難めいたような、そんな様々な感情が入り混じっていた。
「……エメさん? なぜ俺のベットで抱き枕をしているんだ?」
「……それは、その……何というかの……儂もなぜこのような状況になったのか、いまいちよくわかっていないのじゃが……」
エメさんは俺の胸の上でしどろもどろになっていた。あわあわする金髪美幼女の姿を朝一で拝めるとは今日はなんともいいスタートをきれたものだ。日頃の行いがいいせいかもしれないな。
「……もしかして、無意識で俺がエメさんをベットに連れ込んでしまったのか……?」
俺がそう言うと、エメさんはビクッと体を強張らせた。……この反応を見るに、俺が無理やりエメさんをベットへと連れ込んだ感じで間違いない気がしてきた。
俺は嫌がるエメさんを無意識で無理やりベットへと強引に連れ込み、抱き枕と勘違いした挙句、匂いを嗅いだり、何度も抱きしめたりと無茶苦茶やってしまったというわけか。
側から見たら何ともやばい状況だ。
この状況について俺が頭を悩ませていると、いまだに俺の上にいるエメさんから声がかかる。
「……いや、お主よ。……その、ベットに入ったのは儂の意思じゃ。お主が無意識に連れ込んだわけではないのじゃ」
「……そうなのか? ……しかし、なぜエメさんは俺のベットに入り込んで、抱き枕になっていたんだ?」
俺の当然の疑問にエメさんは顔を赤らめると、わかりやすく狼狽した。
「──そ、それはっ! ……何と言うかの、お主を起こしに来たのじゃが、あまりにも起きないお主に……ちょっといたずらをしようとベットに潜り込んだのじゃが……」
「それでそのまま、寝ていた俺に抱きしめられて抱き枕にされてしまったと言うわけだな?」
「……ま、まあ、端的に言うとそうじゃな」
気恥ずかしそうに頬に朱をさしながら、もじもじするエメさん。動くたびにサラサラの金髪が日に照らされキラキラとしていた。何だがその姿が妙に可愛らしく見えた。
……しかし、こんな近くで見てもこんなに肌が綺麗とか反則だろう。きめ細かすぎる、まるで赤ちゃんのモチモチのお肌みたいだ。エメさんは俺よりも大分長く生きていらっしゃるのにこのモチ肌とは何か肌にいいことでもしているのだろうか? それなら是非とも教えていただきたいものだな。そしてその秘密を全ての美少女に教えて美少女をさらに美少女にしていきたい。
うんうん、自分の考えながらなかなかいい考えだなと頭の中で思っていると、
「お婆さま、マナブさんは起きられましたか」
ガチャリと扉の開く音とともに、シルクちゃんが顔を見せた。
シルクちゃんを見たエメさんは激しく慌てふためいていた。
「──シ、シルクっ!?」
「……お婆さま? ……えっとマナブさんに覆いかぶさって何をしているのですか?」
「──い、いやっ! これには深いわけが!? マ、マナブ! お、お主からも何か言ってくれぬかっ!?」
エメさんが俺に助けを求めてきた。
よしっ、美幼女からの求めだ。これは答えないわけにはいかないな。
俺はシルクちゃんの方へと顔を向けると、こう言った。
「エメさんにはすこしだけ俺の抱き枕をしてもらっていただけだ」
「──そうそう抱き枕を……って! そうじゃないじゃろうがっ!?」
「ん? 抱き枕じゃなかったか?」
「──いや! 確かに抱き枕みたいになっていたかもしれんが、今はそう言うことを言っている場合じゃないじゃろ!? このままではシルクに変な勘違いをされてしまうのじゃ!」
俺の上に馬乗りのまま、エメさんはそう捲し立てる。
「……お婆さま、マナブさんを起こしに行くと言っていましたが、実は抱き枕をするためのカモフラージュだったのですね……勉強になります」
「──ほら見い!? すでにシルクが変な勘違いをしだしたではないかっ! もう儂ではどうすることもできん! マナブ! どうにかしてくれい!」
「わかった、俺に任せておけ」
俺はエメさんを安心させるように、真剣に目で見つめる。そして上半身を起こすと、シルクちゃんへとある言葉を放つ。
「シルクちゃんも一緒に抱き枕になるか?」
「──そうじゃないじゃろーーー!!?」
とある部屋の一室から金髪美幼女の叫び声が辺りに響き渡った。
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了




