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前回のあらすじ
カレンは可愛い
「カレンはマナブさんが来ると伝えたら、大はしゃぎしていたんですよ」
口元に手を当て、ふふっ──と笑うシアン。
「……………………!?」
「おいおい、そんなに動くなって、落ちるぞ」
それを聞いたカレンは恥ずかしいのか、俺の膝の上でクマのぬいぐるみ片手に、もぞもぞと暴れていた。
「カレンったら恥ずかしがってまあ」
「なんだ、カレン。恥ずかしいのか?」
俺がそう言うと、顔を赤くしたまま、プイッと逸らした。その姿を見て、俺とシアンは目を見合わせると、笑い合った。
「カレンは本当に可愛いな。これは毎日でも教会に来て見ていたいくらいだ」
「……………………!」
俺の言葉にピクっと反応したカレン。
俺の胸に後頭部をグリグリと押し付けているのは多分、カレンなりの喜びの表現なのだろう。パールグリーンのふんわりした髪から、ほのかな香りが俺の鼻腔をくすぐった。
カレンを和やかな目で見つめていたシアン。
彼女はその視線を俺へと向けると、こう言った。
「ふふ、やっぱり嬉しそうですね。そういえばマナブさん、話は変わりますが、私の友人が近々ここを尋ねてくるのですが、その友人にマナブさんのことを紹介したいのですがよろしいでしょうか?」
「……それは別に構わないが、何でまた俺に紹介したいんだ?」
「……ええ、実はですね。私の友人、名前をモニカと言うのですが、モニカは今、信頼できる高ランク冒険者の方を探しておりまして、私にも伝手はないかと手紙に書いてあったのです」
そこで言葉を切り、シアンは俺の右手を両手で握りしめると、それを自分の胸の前に当てがった。
ゆっくりと沈み込むかのように、そして包み込むかのような感触が俺の右手へと伝わってきた。
「……私の知人で信頼できてお強い冒険者の方と言えば、もう一人しか思いつきません」
ジッと真剣な目で俺を見つめてくるシアン。
……しかし、このような美女に、こんな期待の目で見られたら、これはもう答えるしかないだろうな。
「……なるほどな。それで俺に白羽の矢が立ったと言うわけか」
「……はい、ただ会っていただくだけでも構いませんので、どうかよろしくお願いできないでしょうか」
そう言って、頭を下げるシアン。
少し暗めの金髪が、さらっと揺れ落ちる。
「シアン、まずは頭を上げてくれ。別に君の友人を紹介してもらうだけだ。そんなに頭を下げる必要なんてない、俺は嬉しいくらいだ。シアンに友人を紹介してもらえるなんてな。俺は友達少ないからな」
そう言ってにやりと笑うと、シアンは冗談だと思ったのか、肩を震わせて、クスクスと笑った。
そして、笑うたびに豊満な胸がプルプルと動くので俺の右手に幸せな感触が伝わってくる。ありがたや。
「……ふふ、すみません、笑ってしまって」
「いや、気にするな」
シアンが胸に当てていた俺の右手を離す。
……出来ればずっと胸にあてがっていて欲しかったが、どうやらそうはいかないらしい。残念だ。
「マナブさんにそう言っていただけて、私、本当に嬉しいです。モニカは大切な友人ですので紹介するなら、マナブさんしかいないと思っていました」
「おいおい、俺はそこまで大した冒険者じゃないぞ? まだCランクだしな」
「いえ、そんなことはありません。マナブさんはご存知ないかもしれませんが、私の知り合いの冒険者の方々が仰っていました。「最近、やってきた冒険者にやたら強いのがいる」と」
「そうなのか? 冒険者なら他にも沢山いるからな。誰かと勘違いしたんじゃないか?」
「そうでしょうか、他にもこう言うことを言っていました。「その冒険者はこの国では珍しい黒髪黒目の優男だ」と。この街に黒髪で黒目の冒険者はマナブさんをおいて他にいません。ですのでマナブさん。マナブさんが思っている以上にこの街の冒険者の方々から一目置かれているのです。そのような冒険者であるマナブさんが大した冒険者ではないわけがないじゃないですか」
と、ここまで早口で捲し立てるように言い切ったシアン。頬が少しだけ紅潮しているのが目に見える。息継ぎをせずに話をするからだぞ。
……しっかし、シアンの話には驚きを隠せないな。他の冒険者が俺のことをそんなにいい感じに思ってくれていたなんてな。
俺はギルドに行くたびに、受付嬢の女の子達と小一時間くらい雑談して、ミミカちゃんとももちろん話して、はたまたギルマスのロココちゃんにも軽くお喋りしてから、やっと依頼をこなしに、外へ出かけると言うサイクルだったのに、よくもまあ好意的に捉えてくれる人もいたもんだ。
俺だったらそんなナンパやろうは見た瞬間、即座に爆発しろ! と暴言を吐いちゃうだろうな。
「……そうか、それは知らなかったな。そんなに評価してもらっていたとは、驚きだ」
「マナブさんは良くも悪くも他人の評価など気にしないのですね。そこがまたマナブさんのいいところなのかもしれませんね」
そう言って穏やかな微笑を浮かべるシアン。
「まあ、俺の評価は何となくだがわかった。ところで、そのシアンの友人の…………何と言ったか」
「モニカですね?」
「そう、モニカだ。そのモニカのことを少し聞いておきたいな。彼女がなぜ、高ランクの冒険者を探している理由とかな」
俺がそう聞くと、シアンはカップに口をつけてから喋り出した。
「……先日届いたモニカからの手紙にこう書いてありました。とある迷宮でカレンの呪いを解くことができるというマジックアイテムがある……と」
「……それは、本当なのか?」
シアンの口から発せられた言葉に俺は耳を疑った。……カレンの呪いが解けるマジックアイテムだと……?
そんなものがあるとは……これはもう取りに行くしかないな。
「……はい、モニカからの手紙にそう書いてありました。モニカは信頼できる冒険者の方を募って、その迷宮に挑むみたいなんです」
「……なるほど、そんな理由がな……」
……しっかし迷宮ねえ。
この世界にあるとは思っていたが、やっぱり案の定あったようだ。
やはり、冒険の花形といえば迷宮探索。
少しだけ、モニカに会うのが楽しみになってきた。
「それで、シアン。その迷宮ってのはどこにあるんだ?」
俺は迷宮についてはまったくの素人だからな。迷宮のあれやこれやを、少しは知っておきたい。
「……すみません、手紙にはそこまで詳しくは書かれていませんでした。ですので詳細はモニカが来てからになるかと思います」
申し訳なさそうに頭を下げるシアン。
なるほどな、シアンは知らないのも無理はないな。何てったって教会のシスターだし。
「わかった、その件についてはモニカに直接聞くとしよう。……しかし、カレンの呪いが解けるかもしれないとはな」
俺の膝の上に視線を向けると、すっぽりとおさまっているパールグリーンの髪が特徴的な美幼女カレン。
俺達の話が難しかったのか、コクリコクリと頭が上がり下がりをしていた。……これはほぼ寝ているな。
……この幸せそうに眠るカレンの顔を見ていたら、何だが無性にやる気が出てきたぞ。迷宮でもどこでもいってやらあ!
「ふふ、カレンったら幸せそうな寝顔しちゃって。……モニカの話が本当なら、カレンは声を取り戻せるということですよね」
カレンの頭を撫でていたシアンは、そういうと俺へと視線を向けた。
その視線はどこか、懇願するようだった。
「……そうだな、だがまだ確定の情報ではないのだろう? 信じたくなる気持ちはわかるが、あまり期待しすぎるのもよくないぞ」
「……そうですね、……ですが私は今までまったく呪いが解けるという情報を聞いたことがなかったもので……少し期待しすぎているのかもしれませんね」
少し悲しそうに顔を伏せるシアン。
……これはちょっと言いすぎたかもしれないな。
「ま、まあ俺も期待しすぎるなとは言ったが、まったく期待しちゃいけないとは思っていないからな? それに俺は今の話を聞いて、モニカが迷宮に潜るつもりなら、絶対に付いていく。そしてこの手にカレンの声を取り戻せるマジックアイテムを持って帰ってきてやるよ。だから、そんな悲しそうな顔はやめてくれ」
俺がそう、早口で捲し立てると、シアンはパチクリと目を瞬くとクスッと口元へと手をやり、軽く笑った。
「……ふふ、マナブさん。ありがとうございます」
「……元気になったか?」
「はい、おかげさまで」
……危ないあぶない。あやうくこの超絶美女を泣かせるところだった。美女の涙は嬉し涙なら大歓迎だが、俺が悲しくさせてしまって流させた涙は絶対にダメだ。
俺は美女、美少女には常に笑っていてほしいと常々考えている。美女、美少女の笑顔プライスレス。
「マナブーー! な〜にそんなところで座ってチビチビ飲んでんのよ! こっちきなさ〜い!」
グラス片手にフラフラとこちらへとやってきたのは赤髪のツインテールさんだった。……何だが、頬が紅潮していて酔っているような気がする。
「……シアン、今日の席に酒っておいてあるのか?」
「……いえ、私が用意してのは紅茶などのほかにお茶くらいしか……」
ずしっと背中にレンちゃんの重みを感じつつ、シアンに聞くとどうやら違ったらしい。
「──実は私が持ってきていたのでした!」
そう言って、ワインボトルの様なものを両手に持って振り回しているロココちゃんがやってきた。
……おいおい、子供達のいるのに、このギルドマスターさんは……。
「さあさあ! マナブくんも飲んだ飲んだ!」
俺のテーブルの前にグラスを置き、並々と注いでいく。そして「はいっ!」と差し出してくる。
何だが、受け取らないといつまでも差し出していそうなので、仕方なく受け取る。
「……ありがとう」
「うん! 美味しいよ!」
そう言ってニッコリと渡すロココちゃん。……何だが早く飲めという無言の圧力を感じる。
ふと、シアンを見ると彼女はクスクスと笑っていた。……先ほどの俺とロココちゃんの掛け合いがそんなに面白かったのだろうか?
そのシアンの見惚れる笑顔を見つつ、俺はグラスを傾けた。
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