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前回のあらすじ
シルクちゃんはお婆ちゃん子だった。
「それにしても昨日はびっくりしたな」
教会へ向かう道すがら。
俺は昨日のシルクちゃんの痴態──? というべきかどうかはよくわからないが、まあそんな言動を思い出していた。
あの後は少しだけ、大変だった。
興奮したシルクちゃんがエメさんに抱きついてまったく離れようとしなかった為、急遽として俺が調理場に立つことになった。
(……俺はあまり料理は得意じゃないからな。しかも異世界の調味料とか見た感じだとよくわからんし)
何とか、シルクちゃんがやっていたのを思うだしながら手探りで料理をして、なんとかことなきを得た。
「……しかし、自分の料理の腕前があんなに酷いとはこれは少し練習が必要だな」
腕を組みながら、うんうん唸って歩いていると前からタッタッタッと俺の方へと走ってくる音がする。
「お兄ちゃ〜ん!」
「おお、マリーじゃないか」
赤みがかった茶色の髪を肩で切りそろえられた癖っ毛がふわふわと風に揺れる。
それがまるで小動物のような雰囲気を醸し出している。。
将来が楽しみな顔貌の美幼女だ。
マリーはそのままの勢いで俺の胸に飛び込んでくる。
身長の関係で腹の辺りに顔を埋めている。子供の暖かな体温を肌で感じ、女の子の柔らかさも感じる。
「お兄ちゃん、何だが久しぶりだね!」
「そうか? まあ三日ほど出かけていたから、それのせいかもしれんな」
「そうなんだ……あっ! そうだ!」
腹に埋めていた顔を上げると、何かを思いついたのかマリーは視線を向けてきた。
「どうした?」
「マットのお願いを聞いてくれてありがとね! ずっとお礼を言いたかったんだよ」
「ああ、そういえばそうだったな。何、試験のついでだったから気にするな。それにイテムがいてくれたおかげで俺達も助かったからな。WIN-WINという奴だ」
「うぃーんうぃーん……? 何それお兄ちゃん?」
「いや、わからなかったら気にしなくて良いぞ」
頭にはてなを浮かべながら、これは鳥の真似だろうか、両手を横に伸ばして飛んでいるようなポーズでうぃーんうぃーん──と呟いていた。
あまりに可愛い仕草だったので、何気なく頭を撫でてしまった。ふわふわした癖っ毛がまた病みつきになる触り心地だった。
マリーもまた、気持ちよさそうに目を閉じていた。
「マリーは今日もシスターシアンのお手伝いか?」
「うん! ほら見てお兄ちゃん! 今日は全部売れたんだよ! すごいでしょ! 褒めて褒めて!」
マリーは空になったカゴをニコニコ笑顔で見せてくる。その天使な笑顔を見せたら誰でも買ってしまうだろうから当然の結果だな。
……しかし、今日は全部売れてしまったのか。もし残っていたら俺が全部買い占めて、マリーから大好きお兄ちゃん──と言ってもらう算段だったのに……誠に残念である。
「お兄ちゃんはこれからどこに行くの? もしかして教会?」
「よくわかったな。そうだ、ちょっとシスターシアンに話があってな」
「わあ! そうなの!? ならマリーと一緒に帰ろうよ! マリー最近お菓子作りも手伝っているんだよ!」
「おっ、それは良い話を聞いたぞ」
「──ん、どうしたの? お兄ちゃん」
「ちょっと待ってろ」
バックの中から、小さなツボを取り出すとマリーに差し出す。
マリーは不思議そうな目でツボを見つめると、目線を俺に向けてきた。
「……ツボ? お兄ちゃん、これは何が入っているの?」
「これはな? 普段食べているお菓子をもっと美味しくしてくれるものが入っているんだ」
「お菓子をもっと美味しく……?」
コテンっと首を傾げるマリー。
きょとんとした表情が愛くるしい。マリーは将来、男性からのアプローチがひっきりなしにきそうだな。
もちろん、俺もその一人になるつもりだが。
「そうだ、中を開けて見てみな」
「……うん」
ツボを覆っていた袋を取り、蓋を開けた瞬間──。
「──わあ!! 何この良い香り!?」
「そうだろう、良い香りだろう」
ツボの中から薫ってくる仄かに甘い香り。
ハイキラービーの巣から採れた『極上ノハチミツ』だ。
それを見て、マリーは目を輝かせている。
「──お兄ちゃん! これってもしかしてハチミツなの!?」
「そうだ、だがただのハチミツじゃないぞ? これはハイキラービーの巣から採ってきた極上ノハチミツだからな」
「極上ノハチミツ!? それって普通のハチミツよりも美味しいの!?」
ぴょんぴょん跳ねながら、興奮したようにそう聞いてくるマリー。
「もちろん美味しいぞ、何といっても極上だからな」
「──極上すごい!!」
とびっきりの笑顔でハチミツの入ったツボを覗き込むマリー。わあ〜っと色んな角度からツボの中身を見ていた。
「それを使ってお菓子作りをしようと思ってな。その事をシスターシアンに話そうと思って教会に向かおうとしていたんだ」
「やった! そのお菓子ってマリーも作るの手伝ったら食べても良い?」
「ああ良いぞ。教会のみんなの分のちゃんとあるから心配はいらないぞ」
「ホント!? やったあ! みんな喜ぶぞ〜!」
癖っ毛を揺らしながら、またぴょんぴょんとジャンプする。ハチミツの入ったツボはしっかりと抱えられていた。
「それじゃあ、そろそろ行くか」
「うん! 早く帰ってシスターに伝えなきゃ!」
マリーはハチミツの入ったツボの蓋をきっちりと閉め、俺に渡すとすぐに行こう──と俺の服を引っ張りながら急かす。
ツボをバックへと戻し、俺は服を引っ張っているマリーの向かうままに教会へと歩いて行った。
*
「それじゃあ、シスター呼んでくるね〜」
俺を部屋に案内してくれたマリーがシスターを呼びに出て行った。
前に来たときと同様に、俺は教会の客間に通された。
広さは六畳。
中央にあるテーブルと、それを囲むようにソファーが二つ置かれている。
(……しかし、やっぱりボロいソファーだな。前来た時も思ったけど)
そのボロいが掃除が掃除が行き届いているソファーに腰掛け、手で撫でながらそう心の中で呟く。
(俺もCランクになったし、報酬も中々の額になってきたからな。お金の使い道なんて全然考えてなかったから教会に寄付するのも良いかもしれないな)
我ながらナイスアイディアだと自画自賛をしているとコンコンと窓を叩く音が室内に響く。
音の方へ顔を向けると、そこには窓越しに一人の少女の姿が見えた。
ランクアップ試験で一緒だった土の精霊イテム、暗褐色の髪を短めに揃えたボクっ娘だ。
そのボクっ娘が今、窓の向こうで何かいっているようだった。
俺はソファーから立ち上がると、窓に向かい開け広げた。
「マナブ! ちょうどよかった!」
「……どうしたんだ? こんなところで」
窓を開けてすぐに、前のめり気味に顔を寄せてきたイテム。何やら若干焦っているように見えた。
指をチョンチョンと合わせながら、横を向き、何やら言いづらそうにしている。
「……実はマットにどうやってハチミツを渡したらいいか悩んでいて」
「何だイテム、まだ渡してなかったのか?」
「……だってそのままただ渡すより、驚かせて渡したかったから」
「……なるほどな。それならいい法法があるぞ」
「──えっ!? いい方法って何!?」
先ほどよりもさらに前のめりに顔を寄せてきたイテム。その瞳は期待に満ち溢れていて、いまか今かと俺の言葉の続きを待っていた。
その興奮を落ち着かせるように、俺は両手で制するようにする。
「それをこれからシスターシアンと話し合うところだったんだ。……まあ軽く説明するとだな」
イテムに手でチョイチョイと近くに寄るようにジェスチャーをすると耳元で俺の作戦を話す。
そしてそれを聞いたイテムは嬉しそうに笑うと納得いった──という顔をした。
「……そういうことだからマットを驚かせたいっていうイテムの希望は叶うと思うぞ?」
「──それはいいね! よろしく頼むよ、マナブ!」
「ああ、任せておけ」
イテムはありがとう──と言うと何処かへ元気よく走り出して行った。
相変わらず元気な奴だな。
その後ろ姿を眺めていると、
コンコン。
イテムが去っていったのと同時に、部屋のドアからノックの音が響いた。
「お兄ちゃーん! シスターをよんできたよー!」
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了




