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前回のあらすじ
エメさんに見られてた。
*
「……全く、街中で何をやっておるのじゃ」
「うう……、あれは、その……ごめんなさい、お婆さま」
場所は変わってシルクちゃんの家。
こじんまりとした室内の中、俺達は木製の椅子に腰掛けている。
家に帰ってきてからと言うもの、というか家に帰ってくるまでも、街中でイチャイチャしていたことをエメさんに注意された。
シルクちゃんは現在進行形で今もエメさんに色々と言われていた。
……まあ、確かに街中でいきなり抱き合うのはちょっとやりすぎたかもな。
「──あっ、もうそろそろお夕飯の準備をしないといけないのでした。お婆さま、失礼しますっ」
「──あ、ちょっと待つのじゃ! シルク!」
エメさんの静止を全く聞かず、シルクちゃんはそさくさと炊事場へと向かっていった。
その様子をエメさんはまったくしょうがないやつじゃ──とでも言いたげな表情で見ていた。
「エメさん、そんなに怒らないでくれよ。シルクちゃんも反省しているようだし」
「……いや、マナブ。お主もちょっとは反省した方がよいぞ?」
ジト目で見つめてくるエメさん。
テーブルにグイッと上半身を乗せ、前のめりにそう言ってきた。
……見た目が子供っぽいから、何だかただをこねているように見えて、思わず顔がにやけてしまった。……バレてないよな?
「確かに街中でやる事ではなかったな。反省している。ちゃんと場を弁えるべきだったな。今度からは人がいないところでするよ」
「……人がいないところならしてもいいとは言っておるぬのじゃが……」
唇を尖らせ、モゴモゴと呟いているエメさん。……はは〜ん、わかったぞ? これはあれだな?
俺は椅子から立ち上がると、エメさんが座っている椅子の後ろに回った。
すると、エメさんはあからさまにビクつき、身を縮こませている。……ちょっとそういう加虐心を煽るような動作はやめてほしい。
「──な、なんじゃ!? 何をする気じゃ!?」
エメさんの驚きの声を無視し、俺は背中から小さい体を抱きしめる。
ふわっと香る女の子特有のいい香り。
硬いところなど一つのなく、ふにふにと全身が柔らかい。ずっと抱いていたい──そんな感触だった。
「何って、エメさんもこうして欲しかったから、だからあんなにシルクちゃんを叱っていたんだろう?」
「──そ、そそ、そんなことあるわけないのじゃ!!? 儂はただ一般的な意見として注意しただけじゃ! 周りに人も集まっていたし……」
「本当か? 自分もやってほしいなと思って嫉妬したんじゃないか?」
「──んなっ!!? な、ななな、なんで儂がそんなことを思わないといけないのじゃ!!?」
ボフッと頭から上気を昇らせ、きめ細かい白い肌を真っ赤に染めるエメさん。
バタバタと俺の腕の中で暴れているが、実際のところ、俺は軽く腕で包んでいるくらいの力しかいれていないので、逃げようと思えばいつでも逃げられるはずだ。
逃げないってことは、これはただのフリである。
「やってほしいと思ってなかったの? シルクちゃんにしていたように、抱きしめてもらいたいなって」
「……………………」
「俺はこうして抱きしめるの好きなんだけど、エメさんは好きじゃないのか……残念だ」
あからさまに、沈んだ声を出し、俺は落胆していることをエメさんにこれでもかと伝える。
そして、俺がそう言って抱きしめるのをやめようとした時。
「……………………じゃないのじゃ」
蚊が鳴くようなか細い声。
きゅっと掴まれた掴まれる裾。
小さい指でちょこんと掴むエメさんは、下を向き桜色に染めた頬を俺に見せないように隠している。
「ん? どうしたんだ?」
ぷるぷると震えながら、恥ずかしそうに呟いているエメさんの顔を覗き込む。
だが、プイっと顔を見せないように反対側に背ける。
「……いやではない言っておるのじゃ」
「え? すまないがもう一度言ってくれないか? ちょっとよく聞こえなかった」
もちろん聞こえているが、ここはもう少しエメさんをからかうとしよう。
たまには鈍感系主人公になるのも悪くないからな。
「じゃ、じゃから! お主に抱きしめられるのは嫌じゃなかったと言っておるのじゃ!! 何度も言わせるでない!」
「え? すまないがよく聞こえなかったのでもう一度言ってもらえるか?」
「──いや、嘘じゃろ!? 絶対聞こえていたじゃろ!?」
「いや、本当に一部しか聞こえなかったんだ。なんか、抱きしめられるのは嫌じゃない──くらいしか聞こえなかった」
「──いや、それ全部聞こえておるからな!!?」
エメさんをからかうのは、なんか楽しい。
俺の言葉言葉にちゃんと反応してくれるのがいいな。あと一つ一つの受け答えっていうのか、動作っていうのか、そういったのが激しいから見ていて面白い、あきない。
子供をあやすように、頭を撫ででいるとエメさんは「子供扱いするでない……」と小さな声で言っていたが、そのまま撫でられ続けている。
「エメさんの綺麗な金髪はさらさらで触っていると何だか癒されるな」
「……そ、そうなのかの? 儂の髪よりもシルクの方が若くて張りがあると思うのじゃが……」
「いやいや、エメさんの髪だって負けてないぞ? こんなに滑らかな触り心地の髪を持っているのは見たことないよ」
「……本当かの……?」
キュートな碧眼で不安そうに見つめてくる。それに俺は満面の笑顔で言ってやった。
「ああ、見たことも聞いたこともない」
「──それじゃあ、意味が変わってくるからの!?」
ビクビクっと体全体で驚きを表現しつつ、ツッコミを入れるエメさん。
今度は本当に俺の腕の中から出て行こうとしたので、慌てて抱きしめると少しだけおとなしくなった。
「ごめん、エメさん。軽い冗談だ、許してくれ」
「……ふ、ふん! もうお主のことは信用できないのじゃ!」
つーんっと俺から顔を背けるエメさん。
その可愛い姿に俺はエメさんを撫でたい症候群にかかってしまった。
「ほら、よしよししてやるから機嫌を直してくれ」
「──ちょ、子供扱いするでない!」
今度はさっきよりはっきりとした、子供扱いするでない──いただきました!
しかし、なるほど。
エメさんは子供扱いして欲しくないようだな。
「エメさんの言う、子供扱いっていうのは、具体的にどういうことを指すんだ?」
「……今みたいに、頭を撫でられたり、こうして抱きしめられていることじゃ……」
「でもさっきは抱きしめられるのは、嫌じゃないってエメさん自身が言ったけど……?」
俺の言葉にうっ──っと少し呻く。
そして真っ赤にのぼせ上がったような顔をすると、消え入りそうな声で囁いた。
「……………………あれは、その……なんと言うかの……ええい! とにかく儂が言いたいことはそういう事ではないのじゃ」
「……と言うと?」
「……もっと雰囲気を……そう、もっと大人な雰囲気を大事にしてほしいのじゃ!」
……大人な雰囲気か。
これはまた難しい注文だな。そもそもエメさんにとってどういうシチュエーションが好みなのか俺にはさっぱりとわからない。
だがしかし、わからないなら試していくしかない。
俺は失敗を恐れない男、マナブ。
果敢に突撃あるのみだ!
「……大人な雰囲気をいうのは、こういうことか?」
「──なぬっ!?」
透明感のある肌が印象的なエメさんの整った顔を見つめつつ、俺はエメさんの顎を指で軽く持ち上げる。
見開かれた碧眼色の瞳がエメさんの驚きを物語っていた。
茹で蛸のように染めた頬、あわあわと震える桜色の唇。体は硬直して微動だにしない。
「……エメさん」
「──な、ななな、な!? えっ!? えっ!?」
驚きつつも、上目遣いで甘えるような表情を見せるエメさん
その姿は本当はしたいのに、恥ずかしくてできない──と思わせる姿だった。
そして俺は徐々に顔を寄せていく。
「──ちょ!!? ま、まま、まつのじゃ! ──まっ!?」
「……どうしたんだ……?」
まつのじゃ──と連呼していたエメさんが、急に動きを止め、若干顔を青くしながら、どこかに視線を一点に向けている。
俺のそれに釣られて顔を向けると、そこには調理場の方から鍋を両手に抱えながら、こちらに何故か熱い視線でみつめているシルクちゃんの姿があった。
「──シ、シルク! こ、ここ、これは違うのじゃ!!!」
何だがエメさんがまずいものを見られてしまった──というような顔でシルクちゃんの弁明をしていた。
まだ、顎クイの状態で。
ちなみに俺は全然力を込めていないので、エメさんが自分で退けようと思えば退けられるはずだ。
「……お婆さま」
鍋を持ちつつ、ゆらりとこちらへと歩いてくるシルクちゃん。
「──ちょっといったん落ち着くのじゃ! シルク!」
「……なんて可愛らしいのでしょうか……」
「……………………えっ……?」
惚けた表情でエメさんを見つめ、シルクちゃんはテーブルへと鍋敷きを置き、その上に鍋をおいた。
「お婆さま、失礼します」
「へ……?」
そしてエメさんのお腹の辺りに抱きつくと、顔をグリグリし出した。
……これは一体どういう状況なのだろうか?
俺が目線でエメさんに訴えかけるが、エメさんもよくわからないようで困惑したような顔で俺を見つめ返すだけ。
シルクちゃんの乱入により、どうやらエメさんとの大人な時間は終わりを告げたようだった。
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