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前回のあらすじ
ロココちゃん、ハチミツ鑑定
「ふん! あったり前じゃない! この私が採ってきたハチミツなのよ!」
執務室のソファーに深く腰掛け、偉そうにレンちゃんは腕組みをしていた。
(……レンちゃんがまたない胸を張っている)
その光景に俺は悲しみの眼差しをレンちゃんへと向けるが、レンちゃんは全く気がつかない。
ロココちゃんはハイキラービー産のハチミツを見て、ニコニコとご満悦だ。
「ふんふん、まぁレンちゃんが言うことは置いておいて」
「何でよ!?」
テーブルから身を乗り出し、コロロちゃんへ向かって抗議の声を上げるレンちゃん。
だがそれを全く意に返さず、ロココちゃんはツボの蓋を閉め、居住まいを正すと俺達を見据えた。
「マナブくん、レンちゃん、今回のランクアップ試験は本当にご苦労様でした。ギルドマスターとして2人をCランク冒険者として認める事をここに宣言します」
「ああ、ありがとう」
「ふ、ふん! 当然よ!」
レンちゃんは喜びを隠せないのか、口がヒクヒクと動いていた。今にも嬉しくて笑顔になりそうなのを我慢しているようだ。
俺とロココちゃんはそんなレンちゃんを微笑ましげに眺める。
すると、ロココちゃんが懐から小さな箱みたいなものを2つ取り出した。
「何よこれ?」
レンちゃんが興味深げにテーブルへと置かれた小さな箱を見つめる。
……しかし、このタイミングで渡すものと言ったらもう大体は予想が付くものなのだが、レンちゃんにはわからなかったらしい。
頭にはてなを増やすレンちゃんを苦笑しながら見ていたロココちゃんはその箱を開ける。
「これはCランク冒険者の証である『ゴールドの指輪』だよ」
「──わあっ!」
「へえ、綺麗なもんだな」
キラリと室内の灯りを反射させるゴールドの指輪。人を惹きつける不思議な魅力がある。金が人にとってなぜ大切に扱われるのか、こうして実際に見るとなんだか納得できてしまう。
「ねえねえ! これ貰っちゃっていいのよね!」
「いいけど、なくさないようにね? レンちゃんはそこが心配」
いいと言われた瞬間に、目にも止まらぬ速さで奪い取ると、レンちゃんは早速指にはめていた。
まるでロココちゃんの話を聞いていない。ロココちゃんもどこか呆れ顔だ。
……しかし、それにしても金がかかってそうな指輪だな。
「……ロココちゃん、この指輪って無くしたらいくらで作り直してくれるんだ?」
俺の疑問にロココちゃんは顎に指を当て、うーんっと感がる仕草をした。大人びた銀髪の美少女がそのような仕草をするのは反則である。あまりの可愛さに少しの間、見惚れてしまった。
レンちゃんも気になるのか、ロココちゃんの言葉をコソッと聞き耳を立てている。
「……確か、金貨5枚くらいあれば大丈夫だと思うけど……まあ、そのくらいかな!」
「……これが、金貨5枚……なくさないようにしないと」
あまりの金額にレンちゃんは指輪を見つめながら、呆然としていた。扱いとか超丁寧になっているし。
まあ、確かに金貨5枚は大金だよな。
日本円にすると、50万だぞ、50万。とんでもない金額だ。こんなん気軽にはめて出掛けるなんてできないな。これはネックレスに通して首にでもかけておくか。
「じゃあマナブくん、試験前に約束した通り、このハチミツを使って一緒にお菓子作りしよっか♪」
ロココちゃんが壺を持ちながら、満面の笑みを浮かべ俺にそう声をかける。
……そうだそうだ、それを楽しみにして俺は
この試験を突破したんだった。人間ってのは楽しみもないとハリが出ないよね、人生にな。
程よく働いて程よく休み遊ぶ。
これが1番だと俺は思っている。……しかし、ずーっと仕事しかしていない人はどうなんだろうか? 自分の好きなことで何時間やっても全然苦じゃありません! っていう人は俺は別にいいと思うが、嫌々長時間働いている人は少し自分を見直して方がいいと思う。
嫌々仕事をやっている人は死ぬ間際に絶対後悔しか言わないからだ。あれがやりたかったとか、もっと色々やっておけば良かったとか、何であんなに仕事ばっかりしていたんだろう、とかそういう後悔ばかりすると思う。
だから、仕事なんてものは程々がいいんだよ。
……おっと話がどっか言ってしまったな。俺は心の中で慌てつつ、ロココちゃんに返答する。
「そうだな、今回採れたのは超高級なハチミツだからな、今から楽しみだ」
「そうだね、それでマナブくん。場所はどこにしよっか? ……私の家とか空いているけど」
少し恥ずかしそうに俺を家へと誘っているロココちゃん。……しかし、ロココちゃんの家かあ〜、一回くらいは見ておきたいな。ギルドマスターの家とか見たことないが、きっと豪邸なんだろうな。執事とかメイドさんが沢山いそうなイメージだ。
俺が透かさず、行きます! と力強く返事をしようと声をあげようとした時。
「……………………ん」
俺の服を横から摘んで引っ張ってくる美少女がいた。何故か赤面していて顔を俯きげにしている。
これを見て俺はピピーン! と直ぐに察する。俺は鈍感系主人公属性は持っていない。なのでこういうのには人並みに敏感だ。レンちゃんの顔を見てすぐにわかった。もう聞くまでもない。
レンちゃんの肩に両手を置くと、俺は微笑みながらレンちゃんへと語りかける。
からかいタイムだ。
「レンちゃん、今日までありがとう。一緒に試験をこなせていい経験になった。またどこかで会った時には気軽に声をかけてくれ。じゃ」
今までにないくらい爽やかな笑顔でそういうと、レンちゃんはがーんっ! っと誰から見てもわかるくらいショックを受けていた。
その様子にロココちゃんは腹を押さえながら、クスクスと笑いと堪えている。
しかし、レンちゃんはそれくらいでめげるほど弱くはなかった。ショック顔から素早く戻り、また俺の服を引っ張ってくる。
「……試験前に約束したのは、あの女だけじゃないでしょ?」
レンちゃんにしては穏やかな喋り口で俺にそう語りかけてきた。それに何だが雰囲気も媚びこびな感じ。……なんだろう、この違和感。
不審なものを感じながらロココちゃんへと視線を向けると、俺とレンちゃんを見て、ただただニヤニヤしているだけだった。……何か知ってそうな感じだな。でも聞いても教えてくれなさそうだ。
「……そうだな、確かに俺は他の人とも約束をした」
「──!? そうでしょうね! さあそれは誰なの?」
俺はもったいつけて数秒ためると、レンちゃんと視線を合わせこう言った。
「あとはシルクちゃんだな」
「──だれよそれ!? あんたわざとやってんでしょ!?」
「……………………ちっ、バレたか」
「──バレバレよ! あんた私を馬鹿にしてんの!?」
「まあ、そうだな」
「何はっきりと答えちゃってんのよ!!?」
やはりレンちゃんをからかって遊ぶのは最高に楽しい。
「……あとは、そうだな。教会のみんなと俺はお菓子作りする事になっているな」
「だ、か、ら! 私という存在のことを忘れているわよ! 私を忘れるなんてありえないんだから!」
「それで以上だな」
「──以上じゃないわよ! 私がいないんじゃ異常なのよ!」
……なんかうまいことを言い出したレンちゃん。座布団を差し上げたいが、俺は生憎持ち合わせがない。というかこの世界に座布団というものがあるのかどうかも怪しい。
せっかくうまいことを言ってくれたレンちゃんには申し訳ないが、ここはスルーの方向で行かしてもらう。
さて、いい加減レンちゃんをからかうもの悪いだろう。そろそろやめ時だな。
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