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前回のあらすじ
もうすぐハチミツ!
「……しかし、巣を凍らせたあとは、どうしたもんかな……やっぱり俺が拳で壊していくしかないのか……?」
草むらの陰でレンちゃんが顔を伏せ、瞳を閉じると鈴の音のような声で詠唱を開始した。普段見せる少し怒った表情ではなく、真面目な表情だったのでつい少しだけ目を奪われてしまった。
「それじゃ、マナブ! 大変だろうけど、また敵を引きつける役、よろしくね!」
「ああ、任せておけ、そっちには一匹も行かせない」
レンちゃんの隣で彼女を守るように佇んでいるイテムが俺に視線を向け、激励を飛ばした。彼女はあと少しで目的の品が手に入ることで若干興奮気味だ。このような美幼女がこう期待しているのであれば答えてあげねばという気持ちになってくる。
俺はイテムを微笑ましい目線で見てから、ハイキラービーの巣へと視線を移した。相変わらずの大きさである、巨木にぶら下がるその形は歪な丸、表面は波を打ったような紋様で飾られている。そしてその周りにはブンブンと耳障りな羽音を撒き散らすハイキラービー達の姿が無数。
……これは少しは倒しておかないと、ハチミツを採るときにあとあと面倒になりそうだな。
巣を凍らせても、もしかしたら中でまだ生きている個体がいるかもしれない。俺達が生身で巣に入った時に中でご対面とか面倒くさくて嫌だ。そうならないためにも、今外に出ているハイキラービーぐらいは倒しておきたい。
「さてと、一丁やりますかっ」
草むらから飛び出した俺は、ハイキラービーの巣へと向かって走り出す。
そして俺はいつものごとく《挑発》スキルを発動させる。《頑丈》スキルは毎度のことながら常時展開しているのでここは言わずもがな。
《挑発》スキルを発動した瞬間──。
巣の周りを添うように飛行していたハイキラービー達が一斉に俺に向かって進撃を開始した。押し寄せてくる無数の羽音に、その羽の羽ばたきが発生させている風が俺のほおを撫でる。キシキシと気色の悪い音がハイキラービー達の口から発せられている。
……あの顎で噛まれたら並の冒険者では太刀打ちできないだろう。俺にはまったくの無意味だがな。
「キシャァァァァーーー!!!」
正面から、奇声を発しながら近寄ってきた一匹のハイキラービーを俺はまず軽くかわす。正面からの突撃など見え見えすぎて当たってやる気も起きない。
すれ違いざまに俺はそのハイキラービーの羽を引きちぎる、すると突進の勢いのままハイキラービーは地面へ激突し、首がひしゃげるとそのままピクピクと痙攣し動かなくなる。
その様子を眺めているのも束の間、後ろからの軽い衝撃に俺は振り返る、すると数匹のハイキラービー達にブッ刺されていた。
「──後ろから攻撃するなんて、なんて卑怯な奴らなんだ!!」
まぁモンスターなのだから、そんなことを言ってもしょうがないのだが、ついそう言いたくなる口は止められない。
右へ左へとブンブン飛び回るハイキラービー達の動きを先読みし、右にいた敵に狙いを定めると、俺は地面を蹴り上げ、一瞬で懐に潜り込む。そしてこれまた伝家の宝刀《腹パン》を叩き込んだ。
「──キ、キシャッ……」
ハイキラービーの口から緑の液体みたいなものが吐き出される。……うえ、気持ち悪い、あやうく俺にかかるところだった。……しかし拳を叩きつけたつもりがうっかり貫通してしまった。俺の腕は奴の体液まみれになってしまう。
……くそ、前の戦闘で串刺し公はもうやめようと思っていたのに、またやっちまった。
しかし、人間という生き物は分かっていてもついつい同じ過ちを繰り返してしまう生き物なのだ。いわゆる弱化の法則という奴である。
串刺しにしてしまったハイキラービーを腕を振って引き抜くと、別の個体へと向き直る。……しかし俺がこれだけハイキラービー達を倒しているのに奴らはまったく怖れとかそういう感情がまったくないようである。まったくモンスターというのには困ったものだ。
「……しかし、俺も何か一気に敵を殲滅できる必殺技的なもんがほしいところだよなぁ」
左から迫ってきたハイキラービーを横目で見つつ、俺は思考を開始した。
……レンちゃんのような氷の魔法もいいよなぁ。
キシキシと深い極まりない音を立てながら、俺に噛み付いてこようとしたハイキラービーをかわす。
……イテムみたいな岩の魔法もすてがたい。
右ななめ前方から飛んできた毒液も後ろへひとっ飛びして、すんでのところでのらりくらりする。
……だが、やっぱり剣での戦闘もいいよなぁ。俺使ったことないけど、というか武器を持ったことすらないけど。いままで拳があれば十分だったし。
──と、考え事をし過ぎたのが不味かったのであろう、急に俺の頭に衝撃が走った。
「──いっ、たくはないけど、なんだ!?」
まったく傷のない頭を撫でながら、俺は横へ飛び、上を見上げる。するとそこには一際でかいハイキラービーを視線に捉えた。
「……な、なんだ、このでかさは……?」
体長は今まで戦ってきたハイキラービー達より一回りでかい。鉄をも噛み砕いてしまいそうな大きな顎に、力強く羽ばたく八枚の羽。そして特徴的なのは尻にある二本の毒針だ。
「──キシャ、ッキシャ、シャーーー!!!」
「──っ一体なんなんだ!?」
突然──、その一際でかいハイキラービーが雄叫びのようなものをあげると、巣の方から大量のハイキラービー達が姿を見せた。
──まだ、こんないたのかよっ!!
そう思わずにはいれらないほどの数が巣から飛び出す。先程の戦闘でレンちゃんが氷の魔法で倒した数よりも倍はいそうだ。
しかも、そのハイキラービー達は俺にすぐさま襲いかかるわけどもなく、一際でかいハイキラービー……ええい面倒くさい! 女王蜂とでも仮に呼ぼう!
その女王蜂の後ろに綺麗に整列し始めた。
……俺の《挑発》スキルが効いていないのか……? そう思考するのも束の間──。
「キシャーーー!!!」
女王蜂の号令。
それを聞いたハイキラービー達は、一斉に飛び上がり、俺の上空へと旋回し始める。そして四方から接近すると毒液を飛ばし出した。
「──あっ! あぶねっ!」
地面を転がりながら一回転。
すんでのところでかわした。が、すぐさまかわした場所に毒液が降りかかってくる。それもまた転がりながら回避する。まるで止むことのない連続の毒液の雨。
さすがに避けきれずに、少し腕にかかってしまった。が、さすがは神様チートである。特に身体に痺れなどまったく起きなかった。誠に《頑丈》チート様様である。
「……しかし、攻撃は効かないが、どうしたもんかな……」
耳障りな羽音をブンブンと鳴らし、俺の上空を飛び回り続けているハイキラービー達。女王蜂の指示なのか、俺にまったく近寄って来なくなった。その代わりに毒液をバンバン飛ばしてくる。まぁ効かないがな。
しかし、このままではジリ貧だ。
ただただ時間だけが過ぎていってしまう。このまま待って、レンちゃんの魔法が発動出来ても、ほとんどのハイキラービー達はきっと巣から出てきているだろう。
たとえ魔法が発動しても、ハイキラービー達を無力化することはできない。……どうにか打開策はないだろうか? と俺が悩み苦しんでいると──。
「──マナブ! 援護するよっ!」
俺の耳に入ってきたイテムの声。
俺の後方から聞こえてきた声と同時に俺の周りの地面がざわめきだす。すると突如として、高さがまばらな岩の柱が無数に空に向かって突き出してきた。
「それに乗って敵を倒してマナブ!!」
……なるほどな、そういうことかイテム! これなら空を飛べない俺でも奴らに攻撃する事が可能になった。
俺はイテムへグッと親指を立てると、岩の柱へと飛び乗った。
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