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いま、おれはシルクちゃんの身支度を待っているところだ。
ここ二週間の出来事を振り返る。おれの毎日は、朝起きるとシルクちゃんの手料理を食べ、ギルドへ行きEランクの依頼をこなし、銀貨を稼ぐ。
そして、余った時間をシルクちゃんのポーション作りの手伝いをし、就寝するというルーティンの日々を過ごしていた。
「ふぅ〜、なんとかこの世界での生活基盤ができてきたった感じだなぁ〜」
やはり、ある程度の金は必要である。ここの安寧のためにはな。
もう、結構金は貯まったので、シルクちゃんのところではなく、宿を探してもいいんだか、シルクちゃんには「ずっといてください!」とアプローチを受けているので、このまま居座る所存です。
そして今日は二週間に一度のシルクちゃんと薬草採集の日である。否、薬草採集と称してのデートである。とおれは妄想する。
おれはこの日のために、毎日ギルドへ行き、銀貨を稼いでいるようなものだ。稼ぎの大半はシルクちゃんの護衛のためのアイテムを買っている。
シルクちゃんの安全第一だ。
そう安全第一である。その安全第一をなすべくとあるスキルロールを手に入れたのだ。
「このスキルは使えるぞ〜、おれの《頑丈》とかなり相性がいい」
おれが買った新しいスキルロールとは《挑発》である。この《挑発》のスキルロールを店で見たときは、ピピンとおれの第六感が騒ぎ出した。
この《挑発》があれば、全てのモンスターの攻撃はおれに集中する。おれに攻撃が集中するということは、シルクちゃんにはまったく攻撃がいかない。
これがおれの、シルクちゃんの護衛依頼完璧計画なのだ。そしておれはぶっつけ本番などという愚行は犯さない。
なぜなら、この《挑発》のスキルの有用性はもう検証済みであるから。適当なEランク冒険者と組んでモンスター討伐依頼をこなし、そこで《挑発》のスキルを百回以上は試した。
結果、《挑発》を使うと半径三十メートル内のモンスターは他の冒険者には目もくれずに、おれの方へと向かってきた。
そして、おれに近づいてきたモンスターは自慢の怪力でボコボコにしてやった。
「よし、これなら安心して護衛の依頼をこなせるな」
二週間頑張った甲斐があった。いかにしてシルクちゃんを安全に護衛できるか試行錯誤の毎日だった。これまでの努力はこの日のためにあったようなものだ。
「すみませんっ、お待たせしてしました」
「いや、全然待ってないよ」
なにこれ? 恋人とのデートの待ち合わせのあのシーンじゃねぇか! おいおい異世界に来てやっと青い春が来たのか! おれ!
「では、今日は薬草採集の護衛、よろしくお願いします」
「あぁ、任せろ。今日のために色々と用意したからな。準備は万端だ」
さぁ、安心安全の薬草採集をしよう。
〜
プレの街の門を潜り抜け、半刻ほど、おれたちはプレの森に来ていた。
「まだこちらに来てから二週間くらいしか経っていないが、懐かしさを感じる」
ここで、あのクマ公を倒してシルクちゃんと出会ったんだよなぁ〜。と周りを警戒しつつ、薬草を探しているシルクちゃんの隣を歩く。
「シルクちゃん、今回採る薬草はなんでいう薬草なんだ?」
「今日は、《アサツキ草》を取ろうかと思います」
「《アサツキ草》?」
「はい、《アサツキ草》は治癒のポーションに使われる薬草の一種でして非常によく使うので、今回はこちらの袋三つ分くらい取ろうとと思います」
ぐいっと持ち上げたその袋は、人一人の頭がすっぽり入るくらいの大きさ。まぁまぁの量を取るみたいだ。
「なるほどな、んでその《アサツキ草》はどの辺りに自生しているんだ?」
「《アサツキ草》はよく綺麗な水が流れる場所の近くに自生しています。あと匂いが独特なので近くにあればすぐにわかりますよ」
ほ〜、めちゃ詳しいなぁシルクちゃん。さすがは凄腕錬金術師の孫。博識でいらっしゃる。
「あちらの方に綺麗な川がありますので、行ってみましょう」
シルクちゃんが、指差す方からサラサラとせせらぎの音が聞こえて来る。なんかおれ、耳までよくなってない?
「そうだな、行ってみよう」
二人並んで散策する。
少し歩くと、だんだんに川の音が大きくなってきた。そして、実際に川が見えてきた。
「ほ〜、なかなかこれは綺麗な川だな」
日本じゃ滅多にみられない。とても澄んだ水が流れる川だった。これはそのまま飲めるではないか?
「プレの街の周辺の川は、あそこに見えるコーポリ山脈から流れて来るんですよ。あそこは山脈には精霊が住まうとか言われているみたいです」
「へぇ〜精霊がね。誰が実際にみたことがあるの?」
「なんでも、ギルドマスターのロココさんは見たことあるような事はおっしゃっていました」
あの銀髪美少女は、なんかとんでもないな。精霊とお友達なのかもしれない。
「精霊がいる場所は、なに? 水が綺麗になるのか?」
「水の精霊がコーポリ山脈に住んでいるらしくて、そのおかけでここに流れる水は澄んでいてそのまま飲めるほどなんですよ」
「すごく綺麗だと思ったら、やっぱり飲めるんだな」
どれどれ、そう聞くと精霊の力で洗浄されて水を飲んでみたくなるな。一杯いただきます!
ゴクリっ。
うわっ! おいしい! これお持ち帰りしたい。こんなにおいしい水が大量にあるとはな。この水で育つ《アサツキ草》は、それは治癒の能力がつくわ。
「美味しいですよね。このお水」
「水の精霊って凄いんだな。ありがたいよ」
精霊のおかげで、美味しい水が飲めるんだなぁ。いつかコーポリ山脈にいって精霊に会ってみたいな。
「あっ!」
まだ見ぬ精霊に感謝をしていると、シルクちゃんがなにやら見つけたようだ。
「どうしたの? シルクちゃん」
「《アサツキ草》がありました!」
おっ、どうやら見つけたようだ。《アサツキ草》が生えているってことは、ここの水はやっぱり綺麗なんだな。
《アサツキ草》は見た目は濃い緑色の大人の掌くらいある葉っぱだった。見たところ広範囲に渡って群生しているようだ。
さっき見せてもらった麻袋くらいだったら、すぐに満杯になりそうだ。
「んじゃ、周辺を警戒しておくからシルクちゃんは薬草採集に集中していて大丈夫だよ」
「はい、助かります。よろしくお願いします」
シルクちゃんはそういうと、麻袋を抱えて、《アサツキ草》の群生地に向かって行った。
さてさて、そろそろ《挑発》を発動しておきますかね。この《挑発》を使用しておけば半径三十メートル以内のモンスターは全ておれに攻撃を仕掛けるだろう。
シルクちゃんも、範囲内に入っているが、これは人には効かないらしい。もしシルクちゃんに効いてしまったら、めちゃ悲しいことになるとこだった。危ない危ない。
「ここら辺は空気も澄んでいてなんか気持ちいいなぁ〜」
木漏れ日がほんのりと差し込み、おれを和ませる。森の優しい香りがおれに癒しを与えてくれる。
「森林浴ってなんか気持ちいいなぁ〜」
おれが精神をリラックスさせていると、
ガサッ。
なにやら、怪しい気配。これはまさか?
「ギャギャギャ!」
木々から飛び出す怪しい影。おれの目の前に現れたのは、ここ周辺でよく出るというモンスター《ゴブリン》であった。
「!? ま、マナブさん……」
「ゴブリンね。またか……」
正直、この二週間で嫌と言うほど相手にしたモンスターである。おれの《挑発》の練習台、第一号にして、もっとも《挑発》を受けているモンスター一位である。
「大丈夫、シルクちゃんは心配せずに、おれの後ろに隠れていて。奴らの攻撃は全て、おれを向くようにしてあるから」
「だ、大丈夫なんですか? け、怪我とかされるんじゃ」
「全然大丈夫だよ。なんたってこの二週間で腐るほど相手にしてきたモンスターだし」
「そ、そうなんですか……」
プルプルと震えているシルクちゃんは、こう言う時に不謹慎だけど可愛らしかった。守ってあげたくなるよ。
さて、《ゴブリン》は全部で五体。棍棒片手に気持ち悪い顔をさらに気持ち悪くしている。キモさの二乗である。
すでに《挑発》スキルが発動しているので、奴らの目はおれにしか向いていない。オレオマエマルカジリって言いそうな顔をしている。五体とも。
「ギャギャ!」
《ゴブリン》の一体が、オレに向かって棍棒を振りかざした。正直なところ簡単に避けられるが、せっかく《頑丈》スキルがあるので、避けずに頭で棍棒の一撃を受けるおれ。
バキキッ!
おれの頭が割れる音と勘違いした《ゴブリン》がニヤリと笑っている。馬鹿な奴らだ。実際に壊れたのは棍棒なのに。
《ゴブリン》は、ニヤニヤしていたが、今頃気づいたように割れた棍棒とを見て驚きの表情を浮かべている。きも。
驚きに戸惑っている《ゴブリン》におれは瞬時に近づき、腹部に一発。ボディーブローをかます。吹き飛び、別の《ゴブリン》へとぶち当てる。
「《頑丈》スキルがあると、拳で殴っても全然痛くないなぁ〜。拳がまるで鋼のようだ」
さてさて、残るはあと三体。
《ゴブリン》の買取部位は耳、歯、爪、あとは体内にある魔石である。《ゴブリン》の魔石は、Fランク。買い取ってもらっても雀の涙にしかならない。
だが、銅貨一枚を笑うものは、銅貨一枚に泣く、ということでしっかりと回収させてもらいます。
「ふん! ふん! ふん!」
残り三体を、全てボディーブローで決めた。鳩尾を正確に決め、絶命させる。おれの糧となってくれてありがとう。大事にするよ。
「す、すごい! マナブさん! すごく鮮やかな戦闘でした!」
「そうか? それはよかった。今後をしっかりと守るから安心して薬草採集をしてくれ」
「はい! マナブさん! 頼りにしてます!」
若干興奮したように頬を上気させ、鈴のような声でおれを褒め称えてくれる天使シルクちゃん。はぁ〜リザクゼーション。
いまの声を録音しておきたかったが、またおれこの世界で録音できる魔法やスキルは知らない。悔しい。
シルクちゃんはまた薬草採集に戻ったようだ。おれも《ゴブリン》の魔石やら、買取部位を剥ぎとりますかな。
「Fランクの魔石一つで、銅貨一枚か。こんなに綺麗なのにな」
《ゴブリン》から魔石を抜き取り、空へとかざす。火の光に当てられ、キラキラと輝く魔石は宝石のように美しかった。
「まぁ、これが魔道具とかのエネルギー的なものになっているとはすげぇよなぁ」
魔石は様々な魔道具に使われている。もっともポピュラーな物がランプとかかな。Fランクの魔石で一晩もって言うもんだからすんごい効率がいいよね。
Fランクの魔石なんて掃いて捨てるほどあるみたいだし。
「さて、終わりっと……シルクちゃんはどうかなっと」
シルクちゃんの様子を伺う。どうやら三袋目。もう終わりそうである。
「やっぱり、綺麗だよなぁ〜」
シルクちゃん観察中。日の光に当てられてキラキラと輝く金色の髪。出るとはでて引っ込んでいるところは引っ込んでいる。ワガママボディ。
後ろ姿でも一発で美少女だとわかる。
正面から見てもすんごくかわいい。
こんな美少女と一つ屋根の下に暮らせるとはおれは本当に幸せ者だなぁ〜。
シルクちゃんをのほほんと眺めていると、
「マナブさん、《アサツキ草》を目標の数取れましたので帰りましょう」
「わかった。んじゃ帰ろうか。あ、薬草もつよ
」
薬草が入った三袋とも、受け取り持ち上げる。異世界転生により手に入れた怪力が役に立つ時が来た。
「あ、ありがとうございます。すみません、護衛をしていただいているのに荷物持ちまでさせてしまって」
「いやいや、シルクちゃんみたいな可愛い女の子に重いものを持たせるわけにはいかないよ」
「か、可愛いだなんで……そ、そんなからかわないでください……」
「からかってないよ? 本心だよ、本心」
「うぅ……恥ずかしい」
両手をほおに当て、真っ赤に茹で上がった顔を隠そうとするが、ただ可愛くなっているだけだった。頬に手を当てるポーズかわいい説濃厚。
「ところでこの量の薬草だと、どのくらいのポーションが出来るんだ?」
「は、はい。そうですね。三袋くらいだと治癒のポーション三十本くらいですね」
「一袋十本って感じか」
「はい、大体そうなる様に計算して袋の大きさをお婆さまが調節しましたから」
なるほどなぁ、それは便利だな。スキル《おばちゃんの知恵》が発動したのか。金貨三十枚くらいしそうだな。そのスキル。
「シルクちゃんのおばあちゃんなんだか凄そうな人だね。いま一人で薬草採集に行ってるんだって?」
「はい、いまお婆さまはコーポリ山脈へ《ミモザ草》の採集に出掛けていらっしゃいます」
おばあちゃん一人でモンスターがウヨウヨいるコーポリ山脈にいけるなんて超人おばあちゃんじゃねぇか。凄すぎる。
「シルクちゃんのおばあちゃんは、冒険者か何かなのか? 一人でコーポリ山脈に行けるほどの実力者なのか?」
「はい、お婆さまはいま現在もBランク冒険者でして、生涯現役を謳っている自慢のお婆さまです」
Bランク! すげぇ! そのくらいともなると一人でコーポリ山脈に行けるんだなぁ。
「Bランクってまた凄いな。薬草採集にはよく出掛けるのか?」
「そうですね。お婆さまが家に帰ってくるのは一月に一度あるかないかですね。帰ってきても自分の工房に篭りっきりでポーションを作っていますし」
どこか寂しそうな表情になったシルクちゃん。ここはおれが慰めねば!
「でも、いまはマナブさんがいるので全然寂しくはないですけどね」
ぐはっ! ハートをいま鷲掴みにされました! にぎにぎされてしまった。慰めようとしたところ、逆に不意打ちをくらってしまった。なんて可愛いんだ。この美少女天使は。
「そ、そうか。それならいいんだけど……」
なんか照れる。くそぅ、なんてことだ。これはもうおれがお嫁に頂くしかないな。うんうん。おばあちゃんに会ったら即相談だな。
5秒時間をください。
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