58
57
前回のあらすじ
異世界に串刺し公の誕生(笑)
「……しかし、レンちゃんのあの魔法……、これは使えるかもしれないな……」
美しく咲き乱れる白い花と鬱蒼と生茂る木々達。スクロースの森はハイキラービー達の大合唱によってざわめきたっていた。
しかし、俺はそのざわめきなど、まったく介する事なく、黙々と敵を排除しながら、いかにすれば一気にこの蜂達を葬り去る事が出来るだろうかと思考を巡らせていた。
……やっぱり、さっきの氷魔法……あれを使うか……。
しかし、先程、レンちゃんが放ったと思われる極大の氷魔法、確かに威力は申し分無かったが、狙いが明後日の方向すぎて、一匹も倒せていなかった。……レンちゃんマジ使えない説浮上の巻き。……というか、レンちゃんこの試験でまったく活躍していない気がする。
……いや? 待てよ? レンちゃんは美少女である時点で俺の癒しとなっているじゃないか、そういえば! ……ふう、よかったねレンちゃん。君はまったく役に立っていないわけじゃ無かったよ?
……おっと、思考がアホな方向に流れてしまった。これはいかん、集中集中!
……しかし人の集中力ってのは、どんなに面白い事をやっても精々、一時間程度。それに『万能の人』と呼ばれていたレオナルド・ダ・ヴィンチだって、ちょっと絵を描き始めたかと思えば、すぐに飽きて別のことをし始め、かと思いきやまた、絵を描き始めるとか普通にやっていたらしい。
しかも、世界的に有名な『モナ・リザ』だって完成するのに十六年もの歳月がかかったらしい。あのダ・ヴィンチが、だ。
だから、俺が集中できていなくても、しょうがないのだ。うんうん。
……っと、また思考が変な方向へと飛んで行ってしまったな。飛ぶのは今相手にしているハイキラービーだけで十分だ。
さて、思考もある程度まとまったところで、俺は一旦《挑発》スキルを解除すると、レンちゃん達の方へ走り出す。途中、着いてきたハイキラービー達がいたが、俺の腹パン一発で黙らせる。が、やはり数匹は俺についてきた。
「──おーい! レンちゃん! イテム!」
「マナブ!? どうしたの!? ──ちょ! あんた、後ろ!?」
レンちゃん達に手を振りながら、走ってきた俺を見た彼女達は、俺の背後に迫るハイキラービー達を見つけると、慌てて俺の後ろへと指を指し、来てるきてる! と教え出す。
大丈夫だよ〜分かってるよ〜と笑顔でグッと親指を立ててアピールしてやると、レンちゃんはピキッと額に青筋を浮かび上がらせ、俺を睨みつけた。……どうやら美少女は怒っていても可愛いらしい。これはすごい発見だ。
「──ちょっとごめんよ!」
「「え?」」
そのまま走りながら、レンちゃん達を両脇に抱えこむ。……二人ともだいぶ軽いな。ちゃんと飯食ってんのか?
草木をかき分けながら走っていると、迫りくるハイキラービー達の羽音がブンブンと聞こえてくる。……これはあんまり悠長にしてられないな。
「──ちょ、ちょっと!? 来てる! 来てるからっ!!? マナブ! なんとかしなさいよ!!?」
急いで抱え込んだためか、レンちゃんは小さいお尻を正面にして抱えられている。……だからなのだろう、後ろから迫ってくる蜂達がよく見えるんだろうな。
「……マナブは何か考えがあるの?」
と、反対側に抱えているイテムが俺にそう問いかけてきた。……この子は察しがいいな、レンちゃんもわーわー喚くだけでなく見習って欲しいところだ。
「──そうだっ、奴らを殲滅する方法を考えた!」
「──っ! な、なら早くっ、やりなさいよ!!!」
脇に抱えている小尻がわーわーと何やら叫んでいた。……なんかイラっときたので叩いてやろうと思ったが、残念ながら今の俺はある意味両手に花の状態だ。悔しいことに叩いてやることができない。くそぅ!
──ブンブンと耳障りな羽音の数が増えてきた。これはますますゆっくりしていられないな!! 俺は走りながら、二人によく聞こえるように、大きな声で叫ぶ。
「それには二人の力が必要なんだっ!!!」
「……私の」「……ちから、が」
二人がそう、呟いた。
どうやらちゃんと聞こえたらしい。
「……よしっ、今から言うことをよく聞いてくれよ……」
ハイキラービーに追われる中、俺は二人に作戦を伝えるのであった。
*
「……分かったわ」
「うん! 僕も! 任せてよ!」
俺の脇に抱えられながらも、しっかりと作戦を聞いた二人は、どこか緊張した面持ちで俺にそう返事をする。
特にレンちゃんに伝えた内容はこの作戦の要になるので、顔の強張りがすごい事になっている。……だがそれでもやっぱり美少女、その表情もまた芸術品のように綺麗だった。
「……それじゃ、作戦通りによろしく!!」
そう言い残し、二人を優しく草むらへと放り投げた。
──そして、俺はすぐさま《挑発》スキルを発動。その瞬間、ハイキラービー達の視線は俺に集中した。ふぅっ、人気者はつらいぜ!
「──こっちだ!!」
走り出す俺に向かってブンブンと羽音を撒き散らしながら、突撃してくるハイキラービー達。俺はそれを横目に見つつ、駆け出した。
──ゴゴゴゴッ!!!
すると、俺の周辺にイテムの魔法、ロックピラーによって出現した岩の柱が、まるで階段でも作るかのように、段々で出来上がっていく。
──よしっ! まずは作戦の第一段階はクリアだっ!! さすがはイテムだ! 仕事が早くて丁寧だ!
俺はその岩の柱で出来た階段を、一つ一つジャンプして駆け上がる。そして、それに追従するように、ハイキラービー達も追ってきた。岩の柱の足場は人一人分くらいしかないため、ちょっと油断したらバランスを崩して真っ逆さまに落ちてデザイヤしてしまうだろう。
──ゴゴゴゴゴッ!!!!!
どんどん高く出来ていく岩の柱に飛び移っていく。そして地上から三十メートルの岩の柱の上で俺は立ち止まる。
……さて、ここからは俺の我慢の時間だ。……レンちゃんは上手くやってくれるだろうか? しかし、もう作戦は始まっている、今更、不安がってもしょうがない。
俺はレンちゃんを信じて、迫りくるキラービー達を眺めるのであった。
*
「……ふぅーっ、落ち着きなさい私、私ならこのくらい軽くこなせるわ……」
心臓の音がバクバクとまったく収まる気配がない。草むらの陰で私は胸を押さえながら、深呼吸を繰り返していた。その私を心配するような目で見つめるのは土精霊のイテム。
「……レン! 大丈夫だよっ、レンなら絶対に出来るって信じてるから!」
グッと拳を握りしめて、私を応援してくれている……でもイテム、あなたの言葉、今の私にとってはプレッシャーでしかないのだけど……。
……はぁ、何でマナブは私にこんな大役を任せたのかしら……。私に魔法をぶっ放せだなんて……。私が魔法を苦手としていることを知らないんだろうか? ……結構ギルドでは有名だと思ったけれど。
「……そんなことで、有名に何てなりたくなかったけれどね」
「……? どうかしたの? レン?」
「……いえっ、何でもないわ」
イテムが不思議そうな目で見つめてくるが、今は構っていられない。自分のやる事で精一杯だからだ。……この作戦は私の魔法にかかっている。……もし私が失敗したら、そう思うと思わず吐きそうになる。
普段は高飛車な性格の私だけれど、実際の私は臆病で優柔不断なただの女の子だ。男の人が多い冒険者の中でやっていくには、こうした性格ではダメなのだ。
必ず舐められる、冒険者は舐められたらおしまいだ。すぐに食い物にされる。現に前にパーティを組んだ冒険者にはカモられそうになった。……マナブがその時助けに来てくれたからよかったけど……。
「……大丈夫、私なら……出来る」
自己暗示をするように、繰り返し繰り返し、声に出す。両指を組んで、祈るように目を閉じて私はまた繰り返し繰り返し、声に……出す。
──静かに深呼吸をする。
そして、発動までにかなりの時間を要するたった一つの魔法の詠唱を開始する。
この魔法は発動するまでに、時間がかかりすぎるために今まで戦闘では、まったくと言っていいほど役に立ってこなかった。だけどマナブとパーティを組んでの戦闘で初めて私は自分の魔法を戦闘で使うことが出来た。
マナブが全てのモンスターを引き付けておいてくれたおかげだ。……素直には言えないが、私はマナブには色々と感謝している。だけど私はこんな性格だ。直接お礼を言うだなんて、恥ずかしくて、つい言葉が詰まってしまう。……いつもこうだ。私はいつも素直になれない。素直に言葉を伝えられない……。
──だから! だからっ! 私は行動で示す! この、たった一つの魔法で、必ず! 示してみせる!
「……レン」
イテムが不安そうに見ているが、私がふっと優しく微笑むと ぱぁっと笑顔になる。その笑顔を横目に見つつ、詠唱に集中する。
──威力だけはある私の魔法。だが命中精度は著しく低い。そんな欠陥品の魔法をマナブは、マナブだけは褒めてくれた。
マナブが言うには、要は使いよう、と言う事らしい。どんな魔法にも使い方次第で役に立つ……。いくら強力な魔法が使えても、使い方を間違ってしまえば、意味がない。
いかに考え、思考をやめずに、使い所を見極めるか、それが重要だとマナブは教えてくれた。……そう、私に教えてくれた……私を信じてくれたマナブのために、私は絶対にこの魔法を当ててみせる!!!
──詠唱が終わる、あとはもう放つだけ。
「──イテム! お願いっ!!」
「分かった! いくよっ! レン!!」
私の合図でイテムが魔法を放つ。
──すると地面がグラグラと揺れ始める。
盛り上がる足元の土。
私は一瞬にして、空へと押し上げる。
木々生茂る深い森しか見えなかった目にまず入ってきたのは青い空。
「──っ! あれはっ!?」
それと地面から伸びている岩の柱に群がる、数えるのも馬鹿らしくなって来る程のハイキラービー達の姿を捉える。
岩の柱の上で私はしゃがみ込んでいた私は素早く立ち上がると、群がりすぎてまるで黒い塊に見えるハイキラービー達を見据えた。
……大丈夫、私なら、必ず出来る……!
バクバクと高鳴る鼓動、乱れる呼吸、自分の体がまるで自分のじゃないみたいだ……。だけどそんな弱気な事なんて言っていられない!
──だって今あのハイキラービーの群れの中には、マナブがいて! たった一人で耐えているんだもの!!
震える右腕を左手で強引に押さえつける。
──そして、黒い塊へと狙いを定め、魔法の呪文を言い放つ。
「──これでもくらいなさいっ!!! 《フロスト・プリズン》!!!」
読了ありがとうございます。
もし、よろしければ
感想、レビュー、ブクマ、評価、
をして頂けると作者は有頂天外の嬉しさで喜びます。




