57
56
前回のあらすじ
休憩中にハイキラービーの襲撃
「──この羽音は!?」
ここは、白い花生茂るスクロースの森の中。休憩中だった俺達を焦らせたのは、ブンブンと遠くから聞こえてくる爆音だった。……これは、どう考えても、先程の数とは比較にならない。
「──マ、マナブ!?」
レンちゃんの焦ったような声が耳に入ってくる。視線を向けると、顔面を若干青ざめさせ、こちらを不安そうに見つめているレンちゃんの姿が目に入った。
……不謹慎だが、レンちゃんが怖がっている姿はとても可愛かった。その姿を見て、俺は今なら、どんな敵が来ても余裕で倒せそうな気がしてくる。……やはり、美少女という生き物は男に素晴らしいやる気を与えてくれる。
「……さてと、ちゃっちゃと片付けるとしますか……、レンちゃん、イテム、お前らは後方から魔法で俺を支援してくれ、あまり無理はするなよ?」
「──わ、わかったよ!」
「……あ、あんたは、どうするのよ」
レンちゃんが何やら、心配げな表情で俺を見てくる。……そんなに俺のことが大切なのだろうか? ……う、嬉しい! 俺はレンちゃんの頭に手をのせると、軽く撫でる。
「……そんなに心配そうな顔するなって、さっきの戦闘も見たろ? 俺なら何匹こようがサクッと終わらせて来てやんよ」
「──べ、別にあんたの事何て、まるで心配してなんかないんだから!! ただあんたがやられたら私の仕事が増えるかもしれないからっ!! ただそう思っただけなんだから!! か、勘違いしないでよね!!?」
パシリと、俺の手を優しく払い除けるレンちゃん。
「……………………」
……で、出ました……伝家の宝刀、カンチガイシナイデヨネ! ……百聞は一見にしかず、と昔の人はよく言ったものだ。……確かにこれは……百回聞くより、今のように実際に一回見た方がより、分かりやすかった。……ちょっとだけ、本当にちょっとだけ、この赤髪ツインテールにドキッとしてしまった。……くっ! 不覚。
「……わ、わかったよ。……それじゃ、行ってくる」
「──マナブ! 気をつけてね!」
イテムも心配そうに見つめてくる。俺はそのイテムにグッと親指を立てて見せてから、ハイキラービーが来ているであろう方向へと駆け出した。
*
「……しっかし、この数は反則だろう」
駆け出した瞬間に、俺は《頑丈》《挑発》のスキルは発動させていた。走り出して直ぐに、見えてきたハイキラービー達の恐ろしいまでの大群勢を見て俺は少しだけたじろいだ。……一匹だとそれほど怖くないのに、集団ともなるとこんなに怖くなるのはなんでだろうな……。
さてさて、後ろにはレンちゃんやイテムがいるからな、俺がここでミスをしてハイキラービー達を後ろにやるわけにはいかない。少しプレッシャーだが、このくらいは神様チートがある俺にとってはわけのない事だ。これは神様チートを持つが故の俺へと試練的なものだと思って、いいように考えることにした。
──そして、ハイキラービー達の先行してきた数匹が俺の挑発にかかり、ブンブンとうるさい羽音を撒き散らしながら、襲ってきた。
「──はっ! 返り討ちにしてやるよ!!」
俺は少しだけ高鳴ったテンションで、ハイキラービー達と対峙する。
──迫りくるデカい蜂型モンスター、ハイキラービー。尻の部分にある長さ二十センチの針が陽光に照らされ、きらりと光る。……あれは麻痺毒なんだよな、確か。
スキル《鑑定》で確認したから、間違いない。俺は平気だが、レンちゃんやイテムにはかなり効果的だろう。やはり後ろにこいつらを生かせるわけにはいかないな。
──ガッ!!!
毒針を素手で掴み取り、そして引きちぎる。……まずは一匹。そして続け様にそのまま足でもう一匹のハイキラービーの腹を踏みつけ、絶命させる。
──グシャっと虫特有の気色悪い感触が、本当に気持ち悪かったが、今の気持ちが高揚している俺にはそれほど気にならなかった。
「──ほら、お前らのお得意の毒針だっ!! 受け取れ!!」
俺は先程毟り取った毒針をこちらへ飛んできたハイキラービーへと投げつける。高速で飛んで行ったその毒針は数匹まとめて貫通してから、空の彼方へと消えていった。ボトボトと絶命したハイキラービー達の死体が空から落ちてくる。
「……す、すごい」
「……あ、相変わらず、こういった事は得意なんだから……」
……いつの間にか、俺の近くまで寄ってきていたレンちゃんとイテム。先程の俺の戦闘の見て感想を述べていた。……そんなにすごいのだろうか? 俺は他の冒険者の戦闘をまともに見たことがないから比較の仕様がないのだ。
「……レンちゃん、イテム、あんまり俺に近くなよ? 今の俺はスキル《挑発》を発動している、モンスターが寄って来やすくなっているから近くと危ない、三十メートルは離れておけ」
「……わ、わかってるわよ、そんな怖い目で見なくてもいいじゃない……」
「……ご、ごめんねっ、マナブ、……う、うん! 少し離れているね!」
……そんなに怖い目をしていたのだろうか?
レンちゃんとイテムは若干怯えたように、俺から離れていった。……しかし、あの表情はどちらかといえば、親に叱られた子供みたいな感じだったから、そう気にする事はないだろう。
後方へ下がったレンちゃん達は、草木にかくれながら、魔法で支援してくれている。特にイテムの土魔法は強力だ、次々と地面から鋭く尖った岩の柱が突き出し、ハイキラービー達を仕留めている。……俺も負けていられないな。
「……さてと、久々に俺の伝家の宝刀《腹パン》を見せてやりますかね」
ニヤリと口元を片方だけ上げ、笑うと俺は向かってくる数匹のハイキラービーの腹に意識を集中する。──そして、右の拳をグッと握りしめると、一気に、腹を貫く気持ちで右拳を打ち込んだ。
──グシュッ!!!
まるで抵抗なく俺の拳はハイキラービーの腹部を貫通した。そしてそのまま右腕にハイキラービーの死体を付けながら、別の個体に拳を叩き込む。
──グチャリッ!!!
……よしっ、二匹目。そして俺はすぐさま、他のハイキラービーに狙いを定め、右腕に二匹のデカい蜂を串刺しにしながら、もう一匹の敵へと向かっていき、これもまた右の拳を殴りつける。
──グキャリッ!!!
……なんか絶命した三匹のハイキラービーの串刺しみたいなものが完成してしまった。……どうやら俺はこの世界の串刺し公ウラド・ツェペシュになってしまったようだ。
……後方で、レンちゃんがまるで「……あいつ、何してんのよ……」みたいな表情で見ているが、俺の精神衛生上の都合で見なかったことにした。……人は自分が思っているより、強くはないのだ。ふとしたことで体調は悪くなる。油断せずに常日頃からのケアが大事なんだ。……ということで嫌な事には蓋をするっと。
「……しっかし、もう結構な数を倒したはずなんだがな……一体何匹倒せば終わるんだ? この戦闘は」
これが65535ターンくらいあったら、俺はつかれきってしまうぞ! ……某RPGのように。……とまぁ、冗談は置いといて……さて、どうしたもんかな。……何か一気に纏めて倒せる方法はないものか……。
と、俺が迫りくるデカい蜂達を無言で黙々と相手にしていると、ふと俺の全方、上空に馬鹿でかい氷の塊が出現した。
「──おっ! あ、あれは確か……」
──そう、あれは……あれはそうだ! レンちゃんの氷魔法だ! レンちゃんが全然戦闘に参加しないせいで、彼女が氷魔法の使い手である事をすっかりと忘却していた、危ない危ない。
……しかし、レンちゃん見た目、赤い髪で瞳の色も灼眼で、あの烈しい性格で、如何にも私火の魔法使いますけど!? みたいな感じなのに、実際に使えるのは氷魔法とか最初はわりとマジでびっくりした。……やっぱり人を見た目で判断するのはよくない事だね。
しかし、分かってはいるけれど、どうしようもないのが人の心理ってものだ。それに生物というものは目で見たもの、視覚情報で物を判断するように進化してきた生き物だ。
嗅覚や聴覚などから得られる情報よりも、圧倒的に視覚の方が一秒あたりに得られる情報は多い。
だから、人を見た目で判断するのはもう、本能的な物なんだ。本能には人は逆らえない。……だから俺は美少女には逆らえないのか?
読了ありがとうございます。
もし、よろしければ
感想、レビュー、ブクマ、評価、
をして頂けると作者は有頂天外の嬉しさで喜びます。




