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前回のあらすじ
レンちゃんの心境の変化
「……………………ルディア、一体レンちゃんに何をしたんだ?」
おれがそう聞くと、ルディアは蠱惑的な笑みを浮かべ、おれの耳元へ透き通った声で囁いた。
「ふふっ、私はただ、あの人間に立場というものをわからせてあげただけですよ? それ以外は何もしていません」
「……………………」
立場をわからせるって、一体全体何をしたのだろうか? 水の精霊さんこえーっ。彼女のことは怒らせないようにしようとおれは心に誓った。
「ささっ、お兄さん。あの人間が作った朝食が冷めますよ? そろそろいきましょう」
「そ、そうだな。──そうだ、ルディア。今日はどうするんだ? このまま一緒に付いてくるか? それとも一旦帰るか?」
「そうですね、私は一旦帰ることにします。私が常時召喚されていると、昨日みたいにお兄さんに負担がありそうですし、また必要な時にでもお呼びいただければと」
「そうか? というか昨日のあれはルディア、お前が必要以上に魔力を吸い取ったから、おれが気絶したんだろう」
「ふふっ、申し訳ございません」
可愛らしく小首を傾げながら、謝ってくるルディア。サラリと流れる空色の髪が鼻をくすぐった。いい香りもする。それだけでもう何でも許せる気がした。やっぱり美少女ってのはずるいと思う。
「では、お兄さん、ご機嫌よう」
そう言い残すと、ルディアはおれの背中から離れ、霧のように霧散して消えた。そういうところを見るとやっぱり精霊なんだなと思った。
ルディアを見送り、テントの外へ出ると、朝の眩しい光がおれの目を入ってきた。日の光に照らされている木々たちはさらさらと風に揺れている。森林の澄んだ匂いの中に、朝の空きっ腹を刺激するような芳しい匂いがおれの鼻に漂ってきた。これはベーコンか?
「あっ!! やっと出てきた!!」
「すまん、待たせたな」
テントから出てきたおれに気づいたレンちゃんの前には彼女が作ったであろう朝食が簡易テーブルの上に所狭しと並んでいた。
パンや、ベーコンを軽く火で炙ったもの、木の実といった簡単なものだが、おれのために作ってくれたこと自体が嬉しい。しかも昨日まであんなにわがままばかり言っていたレンちゃんがだ。
「早く座って食べましょうよ」
「ああ、ありがとうな。おれの分までつくってくれて」
「ふ、ふんっ! ついでよ、ついで! 一人分作るのも二人分作るのも変わりゃしないわ!」
ぷいっと顔を背ける美少女の顔は朱に染まっているとても可愛らしい。それを眺めつつ、パンと手にとり口へと運ぶ。うん、このパン固くなくて美味しいぞ! 普通異世界でのパンって固いのが相場と決まっていたが、そうでもないんだな。おれは固いパンでも好きだが。
次にベーコンでも食べようかなと思っていたところでレンちゃんが口を開いた。
「……ねぇ、あの精霊様はまだいるのかしら?」
「……精霊様?」
何いってんだこいつ?
「だから、昨日あんたが召喚したっていうあの精霊様よ」
「……? ルディアならもう帰してるぞ? 夜の見張りを頼みたかっただけだし」
「──っ! ……ほっ、そ、そうなのね……」
どこか安堵したような表情をするレンちゃん。どうかしたのだろうか? いや先程のルディアといい、いまのレンちゃんの反応といい、何かあったに違いない。というか絶対に何かあっただろうこれ!
「……なぁ、レンちゃん。昨日ルディアと何かあったのか?」
「──!? い、い、いえっ!! なな、何でもないわよ!!?」
「……いや、その反応何でもないわけないだろう……」
「──とはいえっ、あのクソ精霊が今いないのであれば、もう猫を被る必要はないわね!! よしっ! マナブ! さっさと食べてスクロースの森いくわよ!!」
「……ああ」
パクパクと朝食を食べ始めるレンちゃん。おれもそれに習い、箸を進めることにした。やっぱりルディアが何かしたんだろうなぁと思ったがおれはこの件には関わらないでおこうとそう思ったのであった。
*
プレの街を出てから二日目。
朝食を終えた俺たち二人は、スクロースの森へ向け、草木深く生茂る森の中をひたすら歩いていた。永遠と続く木々の変わらない景色をずっと見ていると退屈で死にそうだ。早く着かないものか……。
「……ねぇ、まだ着かないわけ?」
「……………………」
どうやらレンちゃんもおれと同じ気持ちだったようだ。今この瞬間おれとレンちゃんは以心伝心していた。
「ねぇってば! 聞いてんの!?」
「……聞こえているから、そうでかい声出すなって、モンスターがいたらどうすんだよ」
「あんたが返事をしないからでしょうが!」
「はいはい、すまんかったすまんかった」
「何よそれ? それで謝っているつもりなの? もっと心を込めて謝りなさいよ」
レンちゃんがおれに詰め寄り、謝罪を強要してくる。面倒この上ないぞ。
「めんどくさいなぁ〜、はいはい、すみませんでした! これでいいか?」
「──ぜっんぜんだめ!! これっぽっちも申し訳ない感じが出ていないわ! ほっんとダメね、あんたって!」
「……………………」
くう! 腹たつなこの女はっ!!
だがしかし、見た目が美少女であるが故に、その怒りの感情はそれ程長続きはしない。本当に美少女という生き物は、見た目で得をするんだなと改めて思った。
「それで? いつになったら着くのよ?」
「まだプレの街を出てから二日目だ。片道三日かかるって最初に言ってただろ?」
「まだ後二日も歩かないといけないわけ? はぁ〜めんどうだわ〜──えっ!?」
でっかい溜息を吐きながら歩いていたレンちゃん。彼女はその途中で何か気になるものを見つけたらしく、驚きの声をあげた。
「……どうしたんだ?」
「──マナブ、あれを見て!?」
レンちゃんが視線を向ける方向におれも顔を向けてみるとそこには藪の中から人の足のようなものが飛び出してた。あれはなにか? こんなところでどうしたんだ? モンスターにでも襲われたのだろうか? しかしとやかく考えるよりすぐに助けた方が良さそうだ。
「ここで見捨てるのも何だ、助けようと思うがいいか?」
「もちろん、断る理由はないわ、さっさと助けましょうよ」
おれたちはその藪に突っ込んでいる足へと近づくと、その足を持ち上げ引っ張り出す。すると中から出てきたのは、一人の子供であった。
見た目は十歳くらい、暗めの茶髪を短めに整えている。中性的な顔立ちだが、女の子であることはわかった。何故なら足を引っ張る際に、つい履いているスカートの中が目に入ってしまったからだ。これは不可抗力なのでしょうがないことなのだ。
「おい、大丈夫か?」
ぺちぺちと頬を軽く叩くと、この女の子は「……ううっ」と呻き声を上げて、苦しそうにつぶやいた。
「……お」
「お?」
「……………………お腹すいた」
「……………………」
ただの腹ペコな女の子だったようだ。
確かに、見たところ外傷などはない。まぁ何事もなくて良かったとそう思うことにし、おれはバックから干し肉を取り出すと、女の子の口の前に差し出す。すると女の子はパッと目を開け、素早い動きで干し肉を奪うと、がつがつと食べ始めた。何だ? めちゃ元気だな、さっきとは大違いだ。
その様子にレンちゃんも思わず呆れたようだ。
「……マナブ、この子、どうするの?」
「……どうしよっか?」
このまま連れて行くわけにもいかないしなぁ……。かといってここにおいて行くわけにもいかない。さてさてどうしたもんか……。
と、おれが頭を悩ませていると、干し肉を食べ終わったのか、彼女はこちらへ目を向けると立ち上がり、ペコリとお辞儀をする。
「干し肉ありがとね、……えっと」
おれやレンちゃんの顔を見て思案顔の彼女。もしかして名前が知りたいのか?
「……おれはマナブという、そんでこの後ろにいるのはレンちゃんだ」
「そっか! ありがとね! マナブ! レン! 僕の名前はイテム! 土の精霊だよ!」
──おれたちが助けた女の子はまさかの土の精霊さんだった。
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