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前回のあらすじ
精霊ルディアはプンプン丸
「……んぅ」
すっかり日も落ち、辺りは薄い暗闇につつまれている樹木が生い茂った森の中。おれと精霊ルディアはしばらくの間、キスによる魔力供給を続けていた。
口元から力が、魔力が吸われている感覚を微かに感じることができる。が不快ではない、むしろ心地良いとすら感じる行為だ。受け取る側のルディアは心を奪われてうっとりとした表情を浮かべている。
「……………………ぷはぁ……ご馳走様です、お兄さん」
満足げな表情を浮かべるルディア、心なしか肌艶が良くなっている気がする。
「もう良いのか?」
「ふふっ、まだして欲しいのですか? お兄さんは……………………あら」
見つめあっていたサファイア色の瞳が、おれの後方へと向けられると、ほんの少しの驚きが瞳に宿る。
気になったおれは後ろを振り向くとそこには何故かワナワナと肩を震わせ、顔を怒りで染め真っ赤にしているレンちゃんの姿があった。
「──あ、ああ、あんたは何してんのよおおーーーーー!!!!?」
盛大ながなり声が森の中へと響き渡る。おいおい、そんなに大声を出すとモンスターが寄ってくるだろうと、多分その場にそぐわないであろう言葉がおれの頭に過る。
「レンちゃん、これは……だな。何というか、彼女に見張りを頼もうとしていたというか何というか……」
何故だろうか? 別におれとレンちゃんは恋人という仲でもないのに、おれは何故か、キスをしていた状況を見られて、ついつい言い訳している。
「──ど、どうして見張りを頼むのにキ、キスをしないといけないのよ!!」
「それは……必要であったからで、な?」
「何が必要なのよ!! というか誰よこいつは!!? 勝手に部外者を連れてくるんじゃないわよ!!」
どう言い訳しようが、レンちゃんの怒りは収まる気配がない、というかこの子は何をこんなに怒っているのだろうか? もしかしておれに惚れてるの? この怒りようだとそうとしか思えない。
すると、ルディアがすっとおれとレンちゃんの間に入り込むと、おれに正面から抱きつくように首元へ手を回した。
「ふふっ、いきなり現れたと思ったら無粋な人間ですね。お兄さんと私の逢瀬を邪魔するなんて……」
いきなりルディアに声をかけられ、たじろぐレンちゃん。小さく唸り声を上げている。どうやらルディアの神秘的な姿に威圧されているようだ。
「お兄さん? このような野暮な人間は放っておいて今夜は私と過ごしませんか?」
「──っ!?」
ルディアの言葉に強い怒りを瞳に宿すレンちゃん。顔に青筋を浮き立たせて、もうまさに怒髪天を衝く五秒前だ。
四、三、二、一、はいどうぞ!
「──ふっっっっざけんじゃあぁないわよっっっっっっっ!!!!!」
最初に出てきた時よりも、数倍数十倍の大声で怒鳴り散らす赤髪ツインテール。髪がゆらゆらと陽炎のように揺れ、怒りを表してる。彼女の身体からは、魔力が視認できるほど吹き出している。
……これは少しまずいのではないだろうか? と思ったが、女の子同士の戦いみたいなものに男であるおれが入る隙間などない。ここは傍観するしか今のおれにはなす術がなかった。
「マナブはっ!! 私のなんだからっっ!! 私のパートナーなんだからっっっっっ!!!! あんたなんかお呼びじゃないのよ!!! わかったら早くマナブから離れなさいよっっっっ!!!!!」
おれはどうやら、いつの間にかに、レンちゃんのものになっていたらしい。そしてレンちゃんにパートナーとして認識してもらっていたらしい。美少女にそこまで思われていたとは……。ありがたい限りである。
レンちゃんは、ツカツカとルディアへと詰め寄ると、おれとルディアを引き離そうとする──が、それより早くルディアが魔法を行使する。
「──っ!!? 何よこれ!?」
すると、二人を遮るように、薄い水の幕が張られた。その水の幕に阻まられ、ルディアへ触れることができないレンちゃん。あの一瞬で魔法を構築するとはさすがは上位の聖霊である。
驚くレンちゃんの様子を、小馬鹿にするような表情で眺めている水の精霊さんは軽蔑するような視線を向ける。
「私に触れないでもらえますか? 人間風情が。私に触れて良いのは世界でただ一人、お兄さんだけと決まっているのです」
悔しそうに顔を歪ませる赤髪ツインテール。互いに睨み合い、このままでは明日にかなり響きそうだ。ここは仕方がない。中立であるおれが女の子同士の戦いに無理やりにでも参戦するしかないようだ。
「二人とも、まずは落ちつけ」
「──何よ!! 邪魔しないでよ!!」
「……お兄さん? 私は落ち着いていますよ? このような愚鈍な人間に私が冷静さを失うわけないじゃないですか」
「──っあんたね!!」
ルディアの挑発にすぐ様乗っかる赤髪ツインテール。再び詰め寄るが、水の幕に阻まれる。
「だから! 二人とも落ち着けって言ってるだろう!!」
おれが少しの苛立ちを込めた声を発すると、レンちゃんはビクッと肩を縮こませ、軽く俯き黙り込む。ルディアは釈然としない表情ながらもおれの言葉に従い、おとなしくする。
二人が静かになったところで、おれはレンちゃんに近づき、優しく頭を撫でると穏やかな声で話しかける。
「レンちゃん、まずはおれの話を聞いてくれ」
「……何よ」
「最初に言っておくが、キスをしていたのは魔力を供給するためなんだ」
「……魔力……を?」
訝しげにこちらを見つめる瞳は、まだよく信じられないとでも言いたいみたいだった。
「そうだ、おれは彼女──精霊のルディアに夜の見張りを頼もうとしていたんだ。それで彼女を呼び出す代償として魔力を供給していたんだよ、キスをしてな」
まだ納得していない表情だが、何とかおれの言葉を飲み込んでくれたらしい。先ほどよりこちらを見つめる目が穏やかになっている。
「……それならそうと早く言いなさいよねっ」
そう軽口を叩くレンちゃん。それに反応したのは水の精霊だ。
「愚かな人間、先程の言動を見るに、お前はお兄さんの話を全く聞く気がなかったように思えますが?」
「……………………何ですって?」
がばっと、またルディアへと食ってかかろうとするレンちゃんの肩を押さえて止める。
「まあ待てって、ルディアもレンちゃんを挑発するような事は言わないでくれ。頼むから……」
「……お兄さんがそういうのであれば」
渋々と言った表情で口を閉じるルディア。いや本当にこいつら初対面なのに仲が悪いな。精霊と人間だからか? まだルディアはレンちゃんとしか会っていないからよくわからないが。精霊は気に入った相手の呼びかけにしか答えないというし、気に入った相手以外は本当にどうでも良いのかもしれないな。この感じだと。
「ありがとうなルディア。レンちゃんもルディアにあまり突っかかるな。彼女は上位の精霊で、しかも俺たちの夜営の見張りをしてくれるんだぞ? 仲良くしろとまでは言わないが、せめて面倒は起こすな、いいな?」
「……………………分かったわよ」
不承不承にこちらを見つめながら、コクリとうなずくレンちゃん。その頭をかるく撫でると、おれはルディアへと話しかける。
「それじゃ、ルディア。小一時間くらい見張りは任せるが良いか?」
「ふふっ、お兄さんの頼みであればしょうがないですね。見張りは私に任せてください。虫一匹通しませんので」
「そうか、助かる。じゃ任せるぞ」
「ふふっ、はい」
ルディアはそう返事をすると、途端身体が霞み、おれの視界から消え去った。……凄えな。あいつこんなことできたんだ。思わず感心してしまった。
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