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前回のあらすじ
レンちゃんはとにかく目が離せない
「ふう、何事もなく着いたわね」
「いや、何事あっただろうがっ!」
日もだいぶ落ちていて、あたりは夕暮れ。ここは木々が鬱蒼と生茂る森の中。名もなき草原をなんとか抜けたおれたちは、本日一日目の夜営場所まで到着したのであった。
しかし、このペチャパイはここまで来る道中の記憶を完全に忘却の彼方へと追いやっているようだ。本当にこいつのせいでここに来るまでに相当苦労したぞ……。
確かに戦闘面では目を見張るものがあるものの、問題はそれ以外のところだ。こいつは目に付くもの興味が惹かれるものにすぐに突撃するので、わざわざ戦わなくてもいいモンスターと戦闘になったり、どうみても毒がありそうなキノコとか口に入れようとするし、しまいにはおれに向かってレイピアをぶん投げてくる始末。これに関してはおれじゃなかったら、ドジではすまなかったぞほんとに。
とまあ、道すがらいろいろなことがあったが、なんとか無事に夜営場所まで行き着くことができたのであった。
「何事かあったかもしれないけど、二人とも無事なんだからいいじゃない。結果が全てよ結果が、私のおかげね」
「──んなわけあるか! どの口が言うんだまったく……」
このアホな赤髪に構っていては、夜営の準備すらままならない。こいつは放っておいておれはテントを張ることに集中する。
しかし、レンちゃんはテントを張る様子が気になるのか、こちらのチラチラとさっきからずっと見ている。おいコラ、見ているくらいなら手伝えや、この貧乳が!!
「レンちゃん、テント張りしてみたいのか?」
「べ、別にっ、ただ初めて見るから、少し気になっただけよ、ただそれだけなんだからっ、気にせず続けなさいよっ」
「……そうか」
ぷいっと、あさっての方向を見るレンちゃんを気にしないようにして、再びテント張りに着手すると、またもやチラチラと視線が背中に突き刺さる。
……こいつ、おれに全部やらせる気じゃないだろうな? 夜営場所の周りにモンスター用に罠を仕掛けたり、薪を拾ってきたりと色々やることがあるだろうが!
と思ったが、もしかしたら、この貧乳、今までそう言うことをしてきたことがないのかもしれない。確かプレの街のギルドではほとんど誰ともパーティを組んでくれないらしいからな。まぁ確かに、ここまでの道中でこいつが半端ないトラブルメーカーなのは十分に確認できたし、並大抵の冒険者ではこいつと一緒にいたら、やってけないだろうなとも思った。
それと同時に、並大抵の冒険者じゃこいつの実力は引き出せないだろうなとも思ったが。レンちゃんの戦闘スタイルは剣と魔法をバランスよく使えるオールラウンダーだ。
レイピアでの高速での突進攻撃や、連続での突きには思わず感心してしまった。それにプラスして、さらに魔法攻撃だ。確かに発動までかなり時間がかかるが、威力は絶大だ。これを直撃したら、そこいらのモンスターは一撃で葬り去るだろう。ここまではいい、全然問題ないのだが、問題はここからだ。
あのアホガールの魔法は狙いがアバウトすぎるんだ。あのバカは敵味方構わずに魔法をぶっ放してきやがる。本当にあれはこれじゃなかったら、死人が出ているレベルだ。これまじで。リアルに。
だから誰もパーティを組んでくれないんだろうな。と改めて思った。
……でもなぁ、レンちゃん、おれと一緒に戦っている時、すごく楽しそうに笑うんだよな。初めて会った時に一緒にいた冒険者の男に見せた表情とは大違いだった。何だかおれはその笑顔を見たら、少しくらいなら後ろから魔法をぶっ放されても許してやるかな、という気分になってしまうのである。我ながら、美少女にはかなり弱い。おれの弱点は美少女だ。効果ばつぐんだ!
と、まぁそんなこんなでおれはレンちゃんにはかなり甘々なので、この貧乳がなんも夜営の準備をしなくても気にしないのだ。心の中では罵倒するがな。
「……ねぇ、マナブ」
「……どうした?」
おれが一人で黙々と作業をしていると、後ろから話しかけてきたレンちゃん。なにようだろうか? あまりにも手持ち無沙汰すぎて手伝いたくなったのだろうか? それなら勿論歓迎するが。
「……私、早く寝たいのだけど」
「……………………」
……こいつっ、全部人に任せておいて自分はさっさと寝たいだと? 随分とふざけたことをぬかすフラットチェストだな。よおし、そっちがその気ならおれのとことんやってやろうじゃないか。
「フラッチェ、いいか? よく聞け?」
「……フラッチェ言うなしっ……何よ?」
眠いのかレンちゃんはツッコミに元気がない。まだそんなに日は落ちていないのに、なぜそんなに眠いのだろうか? 魔法の使いすぎか? 魔力切でも起こしているのか? まぁ今はそれはおいておいて。
「今ここにいる人間はおれたち二人しかいない。そして夜営をする時は寝ている時にモンスターに襲われないように誰か一人は起きていて見張りをしないといけない、わかるか? 今ここにはおれとお前の二人だけだ。だからおれたちは交互に睡眠をとらないといけない」
「なんで私が見張り役なんてしないといけないのよ!! あんたが一人で夜通し見張っていなさいよ!!」
やっぱり無茶を言ってくると思ったよ。このアホな赤髪のことだ。絶対そう言ってくると思ったぜ。まぁ、これは予想通り、想定内だ。
おれなら確かに一人で見張りをするくらいは、なんともない、なんともないが、それはシルクちゃんの時みたいにこうおれを心配してくれていて、それでいて遠慮がちにお願いしますと頼まれた場合のみだ。美少女にそのように頼まれてしまったのであれば男として夜通し見張りをすることに異論などあるはずもない。
が、しかしレンちゃんのようにあまりに生意気すぎる頼み方ではおれはテコでも動かない。ここは何かしらの見返りをいただくとしよう。
「わかった、見張りはおれが引き受けよう。だがそれには一つ条件がある」
「条件? 何よそれ」
おれの言葉に怪訝な表情を浮かべる赤髪ツインテール。何故かびくついているが、気にしない方向で行こう。
「先ほどの戦闘を見ていて思ったのだが、レンちゃん君はどうやら身体の軸が少しばかりずれているようなんだ。だからおれにマッサージをされてくれないか?」
「はぁ? マッサージ? 何それ?」
レンちゃんは眉を潜め、意味が分からないとばかりにおれをみつめる。まぁ知らないの無理もないな。この世界に、マッサージという概念が存在しているのかも怪しいところだ。
しかし、おれは負けじと言葉を紡ぐ。
「マッサージとはおれだけの特別なスキルだ。身体のあらゆる調子を整え、本来の実力が出せるようにする、まぁバフスキルってやつだな」
「へぇ〜、そんなスキルがあるんだ」
おれの大嘘にすっかりと騙されているアホガール。この子は本当に騙されやすいのな。お兄さんは心配です。騙している本人がいうのもなんだがな。
「そうなんだ、そのマッサージを行えば、レンちゃん、君は今まで以上に動きが良くなり、本来の動きを取り戻すことになるだろう」
「……今まで以上に……本来の実力……」
ぶつぶつと俯いて、おれの言葉をリフレインするレンちゃん。騙されてる騙されてる。よし、あと少しだな。
「それにマッサージは疲労回復の効果もある、夜もぐっすりと眠ることができて、明日目覚めはとても心地よいものになっていることだろう」
「……ぐっすり……心地よい目覚め……」
ぐふふ、落ちたな……。
「どうだ? やってみる価値はあると思うが?」
「──いいわ!! お願いしようじゃないの!!」
はい、一名様ご案内〜。
おれはそのあと、爆速でテントを張り終え、薪拾いをし、周りに罠を仕掛けて回ると、レンちゃんと簡単に夕食をすませる。
そしてレンちゃんにはさきにテントに入ってもらい、おれはマッサージをしている間にモンスターに襲われないように、ある奴を呼び出すためにテントから少し離れた場所へと移動するのであった。
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