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前回のあらすじ
やっと戻ってきたフラッチェ
「よく聞けよ、フラッチェ。まずはこの草原を抜けた先、急に木々が変わってくる場所がある。まず今日はそこまで行くことが目標だ。わかったか?」
「なんであんたが仕切ってんのよ!! 私の方がランク的に上なのよ? 私が指示を出すのがスジってもんじゃないの?」
おれの胸に人差し指を指しながら、端正な顔を近づけそう声を荒げるまな板の持ち主。言われていることはむかつくが、なにせ美少女である。こんな近くに美少女の顔があるとなるともう、何を言われてもなんの怒りも湧いてこない。おれは今怒りを忘れた一人の地球人だった。我が入っていないだけでこの言葉は全然違う意味になるのな? 今気づいたよ。
「そうか、なら代案をだせ。人の意見を否定するだけなら誰にでもできる。もちろんそれをわかっていての発言なんだろうな?」
「──っ!! も、もちろんよ!! あったりまえじゃない!!」
「ほう、それじゃ言ってもらおうじゃないか。もしも何にも代案がないようだったら、この試験の間ずっとお前のその平たい胸を撫で回すからな!」
「──んなっ!!」
「そして、もし代案があるようであれば、おれはこの試験の間、仕方なく本当に仕方なく、前にいったレンちゃんの胸が大きくなるように協力してやる」
「──えうぅ!!」
レンちゃんに考える間も無く、畳み掛ける。そのレンちゃんはというと、何やら頭を悩ませ、うーうー唸っている。どうやらこの様子を見るに何にも考えていないようだった。
というか、ちゃんとよく聞けば分かるのだと思うが、代案があろうがなかろうがレンちゃんは結局おれに胸を差し出すしかないのである。しかし誠に残念なことにレンちゃんは差し出す胸は今現在持っていない。なのでそこは未来に期待したいところである。
「──って!! よく考えたら私が代案を出そうが、ださまいが一緒じゃないの!?」
「──っ、気がついたか」
「あったりまえでしょ!!」
さっきまでうーうー唸っていたくせに、よくそんなに胸を張って言えるものである。ある意味いい性格をしている。
「だが、フラッチェ。代案はあるのか代案は? おれに意見したくば代案を出せ代案を」
「代案ならあるわよ!! 一日でスクロースの森まで行って、一日でハチミツを採って、でまた一日で帰ってくればいいのよ!!」
はい、ここにアホの申し子がおります。まるで話にならない。てんでダメ。スクロースの森まで何十キロあると思ってんだ? こいつは? 地図でみたがざっと九十キロはあったんだぞ? それを一日で歩いていくと無謀を通り越してもう笑いが出てくるわ。
「馬鹿かお前、一日で辿り着けるわけないだろうが! スクロースの森まで何十キロあるのか、知ってんのか?」
「さぁ? 歩いて三日って言っていたし、走ったら一日でつくんじゃないの? 私、体力には自信があるのよ」
「アホか! 九十キロだ! 九十キロ! しかもお前の胸のように道は平たくないんだぞ!」
「──ちょ、ちょっと!!? 私の胸は
今関係ないでしょ!!?」
ない胸を押さえて、身動ぐレンちゃん。
「いや、関係あるね。お前、胸に栄養がいっていないんだから、せめて頭に栄養をやっておけよ。食ったもんどこ行ってんだ全く」
「んなっ!? 私だって毎日胸が大きくなるようにデイパカ牛のミルク飲んでいるんだから!! 努力してんのよ!!」
えっ? そんな努力をしていたんだ……、と一瞬で悲しくなり、おれのフラッチェに対する怒りはすぐさま収まる。代わりに悲しみが胸の中に溢れてきた。うう、なんて不憫な子なんだ。
「……それはすまなかったな。影ながらそのような努力をしていたとは知らずに……酷いことを言ってしまって」
「……いきなりなんなのよ……ふ、ふんっ、わかればいいのよわかれば……」
おれが急に謝ってきたもんだから、レンちゃんも怒りをどこに向けたらいいのかわからないようだ。なんだか落ち着きがなくなったいた。
「それじゃおれがちゃんと責任を持って、胸を揉んで大きくしてやるから許してくれないか?」
「──何で私の胸を揉むことで許す許さないの話になってんのよ!! 意味わかんないんだけど!!?」
「あれ? 違ったか?」
「何キョトンとしてんの!? 違うに決まってんでしょうが!!」
ぎゃあぎゃあと騒ぎ立て、地団駄を踏む赤髪ツインテール。彼女の怒りに反応してツインテールがわさわさと逆立っていた。あれどうなってんだ? 魔法か?
しかし、このままこんな所で騒いでいても埒が明かない。ここは無理やりにでも話を進めさせてもらおう。
「一旦話を整理するぞ? まずスクロースの森まではどう頑張っても、二日はかかるんだ。鬱蒼とした森の中、しかもモンスターたちがウヨウヨしている中で、それらを無視して走り抜けるのはどだり無理な話だ。ここまではいいな?」
「……ええ、いいわよ」
おれの言葉をおとなしく聞くフラッチェ。
「レンちゃんがいうように、確かに八時間ぶっ続けで走り続けられるのであれば、一日で着く距離なのかもしれないが、これはただ単に目的地に着けばいいという問題ではないんだ。わかるか?」
「……うぅ、そ、そうね……」
罰が悪そうに俯き出すレンちゃん。どうやらやっと自分の無謀さがわかってきたようだ。
「それにな? レンちゃんなら走っていくことも可能かもしれないが、おれにはとてもじゃないがそのような体力はない。だからここはEランクの若輩者である、おれに合わせてもらえないか?」
おれの作戦、相手を立てつつ、下手に出て、自分の条件を飲ませるというテクニック。どうだ? レンちゃんに効果はあるだろうか?
「……しょ、しょうがないわねっ。ここは先達である私が折れてあげるわ!! 感謝しなさいよね!!」
「ありがとう、わかってくれて嬉しいよ」
「……ふ、ふんっ、今回だけよ!! こういうのは!!」
ぷいっと明後日の方向へと視線を投げる美少女ツインテール。馬鹿め、おれの作戦ともつゆ知らずに。しかしこれでなんとか一日でスクロースの森へ行くという無謀なチャレンジから無事に手を引くことができたようだ。そんなアホな行為には付き合ってられないからな。
「それじゃあ、まずは最初に言った通りの場所で夜営をするからな? もちろん準備は大丈夫だよな?」
途端、だらだらと冷や汗を流しまくる赤髪ツインテール。サッと視線をそらされる。
「……………………」
「……大丈夫だよな?」
おれがその視線を追うように顔を近づけると、また反対方向に顔を背けた。
「……おい」
「──だって、しょうがないじゃない!! 夜営が必要だなんて聞いてなかったんだもの!? 私は悪くないわ!! 悪いのはちゃんと夜営の準備がいるって言ってくれなかったロココよ!!」
なんか人のせいにし出したぞ、このアホガールは。しかしおれも以前に夜営の道具を忘れている身。人にとやかく言えるような立場ではない。なのでここは波風と立てずに行こうと思う。
「別に怒っているわけじゃない。おれはただ準備をしているかと聞いただけだ。それにもし準備していなくても、おれのテントであれば二人くらい余裕で入るスペースがある。だから持っていなくても大丈夫だと、そう言いたかったんだ」
「な、なぁ〜んだ、そうならそうと最初っからそう言いなさいよね!! 勘違いしちゃったじゃないのよっ」
自分の不備を棚に上げてこの絶壁ガールは本当にいい性格しているぞ、まじで。これが美少女じゃなかったらおれは我慢も限界に達していたかもしれない。よく我慢しているぞおれ!
「まぁいい、とりあえずいつまでもここにいてもしょうがない。さっさと行くぞ」
「あっ!! ちょっと!! 待ちなさいよ!!」
レンちゃんとおいて先に進むと、後ろ方から追いかけてくる。ふう、こんな調子で無事に試験をこなすことができるのか何だか心配になってきた今日この頃であった。
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