21
20
前回のあらすじ
シルクちゃんは野営の準備万端だった。
「野営の道具まで持ってきてるなんて凄いならシルクちゃんは」
「いえっ、戦いではわたしはお役に立てませんから他のことで役に立とうと考えたんですっ」
「そうか、実際そのおかげで助かったよ。ありがとう」
「マナブさんを助けられたので有れば、用意しておいて良かったです」
ニコッと朗らかに笑うシルクちゃんは、本当に女神のようだった。女神がいるのであらばシルクちゃんのような美少女なのだろうなと全人類が満場一致で意見を統一するだろう。
「じゃ、サクッと準備するか」
「はいっ」
そういうと、おれはシルクちゃんのバックから野営に使う為のテントのようなものを取り出す。ワンポールテントのようなものだった。これならある程度簡単に組み立てることができそうだ。
大きさも大人三人くらいなら何とか入ることができそうなサイズだ。まぁ、見張りもしないといけないからシルクちゃんとエメさんの二人分あれば問題ないがな。
「それじゃ、おれはテント張っておくから、シルクちゃんはエメさんを見ておいてくれ」
「はい、わかりました」
テントを張るのはやった事ないが何とかなるだろう。よくよく見てみると一本の長い棒のようなものを立てるだけの簡単な作りだった。よしっ、これやらおれでもなんとか立てることができそうだ。
おれはさっとテントを立ててしまい、その中へエメさんを運び込む。やはり狭いな。人二人が寝れられるくらいしかないな。
「今日はここで一夜過ごすわけだが、やはりモンスターの襲撃が怖いからな。だがおれが見張りをしている限り問題はない」
「助かります、マナブさんが見張りをしていただけるならわたしもお婆さまも安心です」
「あぁ、シルクちゃんはエメさんを看病してやってくれ。じゃ、おれは外で見張りをしてくる」
「あっ、マナブさん」
「ん? どうした」
「あのヨドシダ草の件、ありがとうございます。あの白い花がなければ今頃お婆さま……」
シルクちゃんが不安そうに顔を俯かせる。
「いや、お礼を言うならあのヨドシダ草を売ってくれた子供とそれを育てたシスターに言うべきだな。おれはただそれを買っただけにすぎないからな」
「それでもです、マナブさんがヨドシダ草を買ってなければお婆さまは助からなかったかもしれません」
「まぁ、運が良かったとしか言いようがないな。エメさんもシルクちゃんも日頃の行いがいいからじゃないか? なんてな」
「ふふっ、ありがとうございます。マナブさん」
シルクちゃんの笑顔を横目に見つつ、おれはテントの外から出る。さて、取り敢えずは一晩、なんとか守り抜くとしますかな。何か灯りの魔道具でも持ってくれば良かったかな。おれ暗いのあまり得意じゃないんだよなぁ。
夜だって出来れば明かりつけておいた方が寝れるくらいだし。まぁ身体的には真っ暗で寝た方が良いんだろうけど。
さてと、水精霊の水辺の近くにテントを立てたもののどんなもんかな。水精霊ってのは出てこないもんだな。いったいどこで何をしているのやら……。暇つぶしに水切りでもするか。日本にいた頃の最高記録二十回を目標にやるとしますか。
そう考えて適当な平たい石を探そうと、辺りを見渡していると、
「お兄さん、バジリスクを倒してくれてありがとうございます」
おれの目の前に突如として、二十歳くらいの女の子が現れた。
「えっ?」
「ふふ、お兄さん、驚いていますね? くすくす、驚かすつもりはなかったんですよ。わたしも普段は人に姿を見せることは無いですから」
その女の子はくすくす笑っておれを中心として周りの歩き出した。水色の髪色が特徴的な美人さんだ。おれは年下好きだけど、大人の魅力を纏った女性というのもまた良いものだと知っている。
「あんたは一体……?」
「ふふ、わたしは水の精霊です。名前をルディアと言います。この度はバジリスクから助けていただきありがとうございます。改めてお礼を言わせてください」
「いや、それは別にいいが……精霊という存在は人間の言葉を喋ることができるのだな」
ルディアはふふっと楽しそうに笑うと、
「はい、わたしはこれでも人より何十倍も長生きですから、人の言語は暇つぶしには丁度いいのですよ?」
「そうか、確かに長く生きるとやりたい事も無くなってきそうだな」
「そうなんですよ、わたし、かなり好奇心が旺盛な方で、この付近で野営をしている人間の話をよく盗み聞きしているんですよ。本当は直接お話をしてみたいのですが、わたし、かなり人見知りするタイプですので、何というんですかね。こう、波長が合う人間としか話せないというか、話したくないというか」
「まぁ、わからんでもないな。人間も誰とでも仲良くするわけでもないからな。すべての人と仲良くするのは不可能だ。自分が好きな人と、自分を大切にしてくれる人とだけ付き合っておけばいいとおれは思う」
「お兄さんもそう思いますか? 良かったです。意見が合いますね」
また、ふふっと微笑してくるくるおれの周りを歩くルディア。なんだか儀式っぽくて落ち着かないな。何これ? もしかして、おれ、生贄? そうだったら今すぐにやめて欲しいです。切実に。
「さっきからおれの周りを回って何がしたいんだ?」
「いえいえ、久しぶりに波長の合う人間とお話しするので嬉しいなりまして、あっ、そう言えば名前を聞いていませんでしたね?」
「あぁ、そうだったな。おれはマナブだ。まぁ、好きに呼んでくれ」
「マナブさん……ですね。しかと覚えました。ですがわたしはマナブさんのことはお兄さんと呼びますけれど」
「いや、まぁ、別にそれでもいいんだが……好きに呼べと言ったのはおれだからな」
ルディアはおれの正面にピタッと止まると、綺麗な碧い瞳でおれを見つめる。するとぐいっと唇が触れ合うほど顔を近づけてくる。
あと少し前に進むだけでキスしてしまいそうな距離。なんだろう? これはキスしても良いのだろうか? 精霊だからファーストキスもノーカウントだろうか?
おれのファーストキスは人間の女の子じゃなくて、精霊の女の子になるのもまた一興だな。全然問題ないな。むしろして欲しい。
「お兄さん」
「……なんだ?」
「わたし、今、お腹が空いているかもしれません」
「…………」
お腹が空いていると言われても……。おれの頭に浮かんだのは、精霊って何食べるんだろう? だぞ? バックに干し肉や果物なんかは入っているが人間が食べる食べ物を精霊が食べるものなのか?
「お腹が空いています」
「…………」
「何かください」
「いや、直接来たなっ!」
「お兄さんが無視するからですよ?」
「無視したというか、ルディアは精霊だろ? だから人間が食べるものを精霊が食べるのかどうかそれを考えていたんだよ」
おれの言葉を聞いて、ルディアは両の手のひらをパチンと合わせて、くすくすと微笑する。
「なるほどなるほど、それは確かにお兄さんの言う通りですね。どうやらわたしの言い方が悪かったようです。改めて言い直しましょう、お兄さん、わたしに魔力をください」
「魔力?」
「はい、お兄さんからはとても潤沢な魔力があるように感じます。今まで見てきた人間で一番の魔力量です」
「そうか……それで? おれとしては魔力をやるのは構わないが、どうやって渡せば良いんだ? 魔法でもぶっ放せば良いのか? 自慢じゃないが、おれは攻撃魔法は使えないぞ?」
すると、ルディアはくすくすと肩を震わせ、軽く微笑みを浮かべた。
「いえいえ、違いますよ、お兄さん。魔法をぶっ放すのではありません。そうではなくてですね、わたしと触れ合っていただければ、あとはこちらでやらせて頂きますから」
「触れば良いのか? どこに?」
「ここにです」
ルディアが指を刺したのは、彼女の唇だった。




