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第一章
目が覚めると辺り一面鬱蒼とした緑が広がっていた。上を見ても右を見ても左を見ても下を見ても草や樹木が生い茂っている。微かに漏れる木漏れ日が眩しかった。
「着いてそうそうにモンスターに襲われなくてよかったぁ」
まぁ、あの神様もおれが幼女を助けたお礼みたいな感じでチートをくれて転生させてくれた感じだしな。ここでソッコー死ぬことはないだろうとは思ってた。
「しっかし、全方位見渡しても森ばっかだな」
人っ子1人確認できない。
森の中で暮らしていくなんて論外だから、とりあえずどこか近くに村でも街でもあればいいんだが。まぁ、ここでじっとしていてもしょうがない! 勝手気ままに進んでいけばいつか着くだろう。
「っし! さて行くか……ん?」
ふと、おれの耳に誰の悲鳴が聞こえてきた。
誰だ? こんな森の中に人がいたのか? だとしたら好都合だな。現地人に街へ案内してもらうのが1番早いからな。
たが、警戒はしておかないとな。ちゃんと信用できるやつならいいが……。
おれは、足早に悲鳴が聞こえた方へと駆ける。声からして女だったはず……。
駆けること早三分。
目的地に到着だ。この体は全然疲れないな。全力疾走をしたのに息ひとつ上がらない。最高だ!
「さてさて? いきなり飛び出すのはやばいからなぁ。まずは様子見だな」
襲われているのがたとえ美少女でも、流石に勝てない相手に挑むほどおれは愚かじゃない。まぁでも、《頑丈》チートがあれば死ぬこともないから大丈夫だとは思うんだけどな。
そこで見たのは、なんかでっかいクマに襲われている女の子だった。年は15.6歳くらいで金髪で腰くらいまであるロング。出るとこは出て引っ込んでいるところは引っ込んでいる。かなりの美少女だった。
「へぇ、めちゃ美少女だなぁ。でもなんか絶体絶命みたいな感じだなぁ」
だって、もう襲われる三秒前みたい感じだからなぁ。顔も青くなりすぎて、白くなってるわ。助けてやりたいけどどうやって助けたものか……。
《頑丈》を使ってあの美少女を強化してやるのが良いのか、それとも、おれが直々にいって一緒に戦うのがいいのか。
助けたあと、どこか人がたくさんいるところに案内してもらうにはやっぱり、直々にいって戦う方がいいな。
「よし、少し怖いがおれには《頑丈》チートがついてる! なんとかなる! いくぞ!」
若干の恐怖を感じつつ、クマに向かって走り出す。途中で木の棒を拾い、《頑丈》チートで強化する。多分これで普通のどうのつるぎよりは強いだろ。なんてったって神様の力だし。
「おーーーい!! クマみたいな奴! こっちだ!!」
「!?」
美少女が目を見開き、驚いた様子でおれを見る。碧眼の澄んだ目が涙で潤んでめちゃ可愛い。俄然やる気が湧いてきた!
クマはおれの突然の大声にもビビらず、のっそりとした感じで振り向いた。ていうか、めちゃでかい。
体長はおれの倍、340センチくらいありそうだ。腕とかも丸太のように太く、これで殴られたら普通の人だったら、1発KOだな。
「かかってこいやぁ! テメェなんぞにいくら殴られようがいたくも痒くもないわぁ!」
実際、まだ本当に《頑丈》が発動するのか分からないからちょっと怖かったりする。でも、ここは、美少女の前やっぱり格好つけたい!
あと惚れられたい。
この金髪碧眼の美少女めちゃ可愛いし!
そんなことを考えていたら、クマのモンスターがおれに向かって走り出す。うぉ! 速い! クマってこんなに早く走れるんだ。
確か、クマは時速60キロで走るらしいからな。こいつはモンスターだし、それよか速いかもしれん。
「かかってこいヤァ!」
地面に足を踏ん張りつつ、受け止める構え。3メートル弱の巨体が向かってくる。やべぇ、ちょっとやめとけばよかったかも。
ガシッ!!! ズサササァァァ!!
「いったぁーーーくない?」
《頑丈》が発動したらしく、全然痛くなかった。さすがチート。てか、そこそこ力も強くなってる気がする。以前のおれだったらこんなデカブツ受け止められるわけないからな。
「ほらほら、どうした! クマやろう! 全然おれは余裕だぞ! 痛くも痒くもないわ!」
ちょいちょいクマのモンスターをおちょくる。《頑丈》がしっかり発動したから、若干気が強くなるおれこと28歳、サラリーマン。なんだか肉体まで10年くらい若返っている気がするわ。神様ありがとう。
さてさて、クマの相手はなんとかなりそうな気がしてきたから、美少女の様子でも窺ってみるかな。
美少女は、女の子ずわりで相変わらずへたり込んでいた。ブルブル震えて腰が抜けているみたいだ。
ふと、美少女の目が驚きに見開く。
「あっ! あの! う、後ろ!」
「ん?」
ガブリッ!
なんか、視界が真っ暗になった。
と思ったら、クマ公に頭をガブガブやられていた。顔面に唾液がベッチャリとつく。
くせぇ! 最悪だ!
「あぁ……」
美少女の落胆する声が聞こえる。
多分、おれがやられてしまったと思っているのだろう。がしかし、《頑丈》チートがあるおれには全然効いていないんだよ。
唾液は臭いがな。
「しゃらくせぇ!」
「!?」
取り敢えず、勘でクマの顔面を殴りつける。おれの拳は《頑丈》仕様のめちゃ硬拳。そして異世界で転生したことにより、腕力マシマシ。
ぐじゃり
とまぁ、あっさりとクマ公の画面陥没。
ここいらのモンスターの強さは分からんが、まぁ圧倒的ではなかろうか? さすがは神様チートである。
うわぁ、手をクマ公の血がたくさんついちまった。ばっちい。なんか洗い流れる川とか湖とかないかな?
「あ、あの……」
なんだか美少女が話しかけてきた。
こう正面から見ると、ほんとに可愛いことがわかる。バッチリとした目に長い睫毛。色白の肌はほんのり朱がさしている。
ほんとに、出るとこ出てて引っ込んでるところは引っ込んでいるなぁ。すごい黄金比。かわいい。
あっと、返事をしないとな。
「怪我とかなかった? 大丈夫?」
まず、相手の心配をするおれ、マジ紳士。
「はい、私は全然大丈夫です。あなたの方こそあの《ビックベアー》に頭をかじられていましたけれど怪我とかはないのですか?」
美少女が心配そうな目でおれを見てくる。なにこの子、かわいい。美少女は見てるだけで癒されるわ。一家に1人は欲しいわ。
「いやいや、おれってばマジで体とか丈夫だからあんなクマ公の噛み付きなんて屁のかっぱお茶の子さいさいよ!」
「へのかっぱ? おちゃのこさいさい?」
「……まぁ、取り敢えず体はなんともないってこと。だから心配しなくて大丈夫! おれ、元気!」
腕をぶんぶん振り回し、元気アピール!
おれの元気アピールが効いたのか、美少女がほんのりと笑顔になる。
「ふふっ、それならよかったです。ところでこの度は助けていただきありがとうございました。本当に助かりました」
「いやいや、あれくらいどうってことないよ」
おっと、そういえば聞きたいことがあるんだった。
「ちょっと聞きたいんだけど、この場所が1番近く人がたくさんいる場所っていうとどこになる?」
「人がたくさんいる場所ですか? でしたら、私とプレの街までご一緒しませんか?」
「プレの街?」
「はい、ここから半刻の距離にあるのですがどうでしょう? 出来れば私の護衛として依頼したいのですが……どうでしょう?」
護衛の依頼か。
まぁ、街に行くことは決定事項だし、ここは受けておいた方がいいな。街にも行けるし。
5秒時間をください。
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