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討伐は、安楽椅子で  作者: 海土竜
王宮密室殺人事件
8/50

傭兵王・ゼイガス・ア・ルドス

 不敗の傭兵王・ゼイガス・ア・ルドスは、屈強な体に分厚い金属の鎧を着けているため人間としては規格外の大きさだ。その巨大な金属の肩をきしませ、倒れた国王のかたわらに膝をついて子供のように泣いていた。


「アルバトスよ! 何故こんな事に……。俺が、俺が、護衛していれば!」


「ゼイガスは、国王が若い頃ともに戦った友だったんですよ」


 いつの間にか隣に立っていたロドニアスが小声でつぶやいた。


「なるほど、国王とは仲が良かったのか?」


「そうですね、良かったと言えるでしょう」


「どうですかな。城壁の守備兵の配置について、意見が違ってたようですがね」


 マカカイエ・ジェストが耳ざとく会話に割って入った。


「たんなる議論なら良いのですが、意見の食い違いから直情型の性格の彼が、突発的に襲い掛かったとしても不思議じゃありませんね」


 気心の知れた相手だからこそ激情に任せての行動もあり得る、と。

 彼の考えも分からなくもないが、ゼイガスの嘆きが演技や他へ向けた物であるとは考えにくい。そんな事を器用にこなす相手には思えなかった。


「まだだ、まだ間に合う! 血を止めさえすれば!」


 ゼイガスは、アルバスト王の体から剣を抜き、乾き始めた傷口を押さえる。蘇生させようと言うのか。


「治療できるのか?」


 思わず身を乗り出した。彼らの魔法ならば可能なのかと考えたが、呆れたように肩をすくめるロドニアスとマカカイエ・ジェストの冷笑がそれを否定していた。


「おのれ、我が王を笑うか!」


 立ち上がったゼイガスの手には巨大な戦斧が握られていた。直情型の性格と言われる通り、一時の感情で武器を振り上げる。迷いが命取りとなる戦場では必要な資質かもしれないが、文明社会では受け入れられる性格ではない。だがゼイガスの行動は性格の問題で片付けられるとは思えなかった。

 血走った血管で眼球自体が赤く変色し、全身から沸き立つ瘴気に背後の景色が歪み、戦斧を振り上げた腕がメキメキと甲冑をきしませた。それはまるで、押さえつけられた筋肉が内側から鎧を突き破ろうとするかのような音だった。


「本当に人間か?」


 怪物へと変化しそうなゼイガスの変容に思わず後退ったが、元々の巨体から考えもっと後ろへ逃げた方がいいのではないかと思えた。だがそれが、彼らに対する引き金となった。


「導師、任せてくれ。わしがあの怪物を大人しくさせて見せましょう!」


 マカカイエ・ジェストが両手で印を結んだ。制止する暇もなく、どうやって発音しているのか分からない呪文を唱え始めていた。


「怪物を撃ち落とせ、裁きの雷!」


 ゼイガスが咆哮と共に地面を蹴った瞬間、紫色の雷が炸裂した。叩きつける様な轟音が窓ガラスを内側から吹き飛ばす。だが止まったのは一瞬だった。鎧の隙間から白い煙を上げながら、再びゼイガスが咆哮を上げた。


「止まれ、ゼイガス!」


 二人の間に入ったのはロドニアスだった。足を大きく開いて背中の大剣の柄に手を伸ばし、引き抜くと同時に上段から大剣を振り下ろした。

 金属のぶつかり合う音。ゼイガスの巨体が吹っ飛び、一瞬遅れて、空気を切り裂く音が続き、扉を突き破って廊下へ飛び出したゼイガスを追って無数の斬撃の跡が床や天井を切り裂く。一振りにしか見えなかった動作で、何度大剣を振ったのだろうか。


「武器を持った狂戦士は、簡単に止まりはしないですからね」


「狂戦士? 何の話だ?」


「ああ、それはですね……」


 ロドニアスが何か説明を付け加えようとした時、ゼイガスの開けた壁の穴から幼い少女の声が響き言葉を遮った。


「あなた方は、王の御前で何をやっているのですか!」


 大神官のラミュエルが戸板の無くなった扉の前に立っていた。

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