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討伐は、安楽椅子で  作者: 海土竜
王宮密室殺人事件
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国王・アルバトスが殺されていた

 大神官ラミュエルと別れ、王の間の扉の前まで来ると衛兵が謁見者の訪れを告げた。

 声が廊下にこだまし遠ざかるように小さくなっていく。扉が開けられ中へ通されるのを待っていたが、衛兵は動こうとしない。内側から返事が返ってくるのを待っているのだろう。

 国王に会うのだから、それなりの形式的な作法は予想していた。扉の前で待たされるのも、この国の礼儀作法なのだろうと辛抱強く沈黙に耐えていたが、どういう訳か、先に衛兵たちがしびれを切らした。


「……おい、返事がないのはどういうことだ?」


「特別な命令は、受けていないが……」


 ひそめた声で話をし始めるが、目の前にいるのだから当然に丸聞こえだった。

 彼らの様子からして、返事が返ってくるタイミングは決まっていたのだろう。いつまで待てば良いのか分からず待たされるのと、正確に決められた時間が分かっていて、それを過ぎてから待たされるのでは、どちらがより大きなストレスを受けるかは明白だ。


「どうしました? 国王は、いらっしゃるのでしょう?」


「はい、姫が来られる事も、ご存じのはずですが……」


「分かりました。私が中へ入り様子を伺ってまいります」


「はい、お願いします」


 姫らしい毅然とした態度で室内に入り数十秒ほどたった時、幼い子供が悪夢でも見たかのような悲鳴が扉の向こうから聞こえた。


「きゃーあぁーぁー。お父様!」


「おい、この声は? まさかセフィリア姫か?」


 さっきまでの落ち着いた声からは予想も出来なかった悲鳴に戸惑ったが、直ぐに事態を察した衛兵が扉を両側から開け放った。中はかなり広いが仕切りもなく扉から全体が見渡せた。謁見の間の扉の内側で待機している兵士が倒れている。そして、部屋の中央付近で、背中に深々と剣を突き立てられた国王アルバストうつ伏せに倒れており、その側らに両膝をついているセフィリア姫の姿があった。


「姫様、御無事ですか!」


「キーリア、お父様が、お父様が……」


 誰よりも早く侍女のキーリアが姫の元に駆け寄り、床に膝をついたまま倒れそうなセフィリア姫を抱きかかえるようにして支えた。


「背中から一突き。剣は兵士が持っていた物です。兵士を殺して剣を奪い王を殺す。これだけを扉の外へ居る者に気づかせずに行えるとなると、かなりの使い手、やはり魔物の仕業ですね」


 ロドニアスが冷静に死因を分析していたが、はっきりした事実は、国王が見張りの兵士諸共、殺されていた事。入って来た正面の扉の外には見張りがおり入る者を監視している事。

 他に入り口らしきものはないかと部屋の中を見回すが、大きな硝子の填まった窓は開閉が出来る作りではなく天井まで続いている。その代わり玉座のうしろで人の動く気配がした。


「誰だ!」


「誰だとは何じゃ! 国王の御前で……、まさか、アルバトス王!」


 騒ぎの様子を見に現れたのは、奥へ通じる扉の番をしていた国王の信頼の厚い老騎士だった。玉座の後ろにある扉は、国王が退室する時に使う出口だが、王の居住スペースに通じるためより信頼のおけるものが見張りに当たっている。


「どちらの扉にも見張りがいたのなら、犯人を見ているはずだ」


「わしは誰も通しておらんぞ……、いや、そういえばメイドが飲み物を運んだが……」


 真っ先に応えたのは、誰よりも国王の死に狼狽していた老騎士だった。

 国王アルバトスの背中に刺さった長剣は、胸に突き出るほど深く突き刺さっている。鍛えられた体形をしており、筋肉質の分厚い胸板を貫くにはメイドの腕力では無理だろう。だが部屋に入ったと言うなら何か見ているかもしれない。


「そのメイドはどこに?」


 直ぐに奥の控室から若いメイドが呼び寄せられた。部屋に入ると倒れている国王の姿に一瞬たじろぎはしたが、直ぐに無表情ともいえる落ち着きを取り戻す。


「アイナと申します。普段通り呼び鈴が鳴りましたので、冷水にライムをしぼった物をお出しいたしました」


「飲み物を運んだ時、国王はどんな様子だった?」


「陛下は謁見中であらせられました」


「誰かいたのか?」


「はい」


 意外なほど簡単に手掛かりが見つかった。国王に謁見した者がいたのなら犯人でなくとも犯人を見ている可能性がある。


「衛兵! 先に謁見に来たのは誰だ?」


「大魔術師・マカカイエ・ジェスト様が謁見に参られました」


「アイナと言ったな、謁見者は大魔術師・マカカイエ・ジェストで間違いないか?」


「分かりません」


「どういう事だ?」


 玉座の後ろに小さなテーブルがあり、空のグラスが置かれてある。そこに最短距離で運んだとしても謁見者の顔くらいは見える筈だった。


「余計なものは、見ず、聞かず、にございます」


 メイドはきっぱりと言うと言葉通り静かに目を閉じた。使用人の心構えか知らないが一番の目撃者のはずが融通の効かない話だった。例え何か見かけたとしても、見なかったと思い込むようにしている彼女たちからは、犯人の手掛かりになるような話を聞けそうにない。謁見に来た相手に直接話を聞くべきだろう。


「大魔術師・マカカイエ・ジェストを呼びましょう」

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