大神官・ラミュエル
姫に連れられて召喚の儀式の部屋を出ると、背の高い帽子をかぶった小柄な女性が廊下の側らから進み出てくる。
「セフィリア姫。儀式は無事終わりましたか?」
一見して神官だと分かる白を基調とした服装に、青を金色で縁取った紋章が描かれている。幼い子供くらいの背丈しかないが、その他に身に付けている装飾品の精巧さからも、かなり高い地位の者であろう。
「ラミュエル大神官、御心配をおかけしました。この通り、無事儀式を終える事が出来ました。こちらが、導師アンラ・クイス様です」
「そちらが導師様でしたか、失礼いたしました。私は大神官ラミュエル。神の加護を受けた神聖術を使い、悪しき者どもと戦う皆さまを支援させていただきます」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
小さな彼女は目の前に来ると大きな帽子で顔が見えない。声も幼い子供の者であったが、言葉使いに立ち振る舞いは勇者・ロドニアスとは対照的なほど礼儀正しい。彼女の前では、自分の挨拶が礼にかなっているのか自信が持てず、慌てて何度も頭を下げた。
「失礼ですが、貴女も勇者と共に魔王討伐に向かわれるのですか?」
「もちろんです。神の加護を受けなければ、勇者や他の方々も真の力を発揮する事が出来ません。神聖術を使う私が共に魔王と戦うのは当然の役目です。それが、いかに困難な戦いになるであろう事も覚悟はできております」
神聖術がどういうものなのか分からないが支援魔法のような物だと推測できる。体格からしても魔物と殴り合えるはずもないし、戦闘での立ち位置は後方支援だろう。前に出て戦う者より、細かな指示を伝えておくには打ってつけだ。僅かな挨拶を交わしただけだが、思慮深く落ち着いた物腰の彼女は信頼に足る人物だと思えた。
「これからアルバスト王に挨拶に行くのですが、大神官様もご一緒しませんか?」
「私は……、いえ、少し用事がありますので、後から伺わせていただきます」
「そうですか、では、後ほど」
軽く頭を下げてラミュエルを見送ると彼女と反対方向へ歩き出す。好印象を持ったが、肝心の勇者は彼女の大人びた態度に好感を抱いていないようであった。
「あの大神官は、子供のくせに小難しい話し方をする。まったく、どういう育ち方をしたら、あんな風になるのか」
「大神官と言う大役を担ってるからこそ自制しているのだろう?」
「子供は、子供同士、子供らしく遊ばないと、まともな大人になれませんよ。俺が同年代なら友人として、あの帽子にみっちりカエルを詰め込んでやるものの……」
いたずらを実行できない事を本当に悔しそうにしていたが、悪意のある訳ではないらしい。むしろ彼女を心配しての発言であるが、もし、本人の耳に入れば、とても許してはもらえないだろう。いや、挨拶するときに真っすぐこちらに来たのはロドニアスを避けたのではないだろうか?
それが気のせいであっても、他の者たちがもっと曲者だったら、既に人間関係にひびが入っていてもおかしくはない。出発前から仲違いを始める勇者一行。それを見込んで筋書きを考えるのが役目なのだろうかと、不安がわき上がった。