勇者・ロドニアス
「姫! セフィリア姫!」
セフィリア姫との話を遮るように、部屋の外から姫の名を呼ぶ大声が響き、返事も待たずに扉が押し開かれた。
「召喚魔法は、うまくいきましたか?」
大声を張り上げながら歩き回る礼儀知らずとも言えるが、大胆不敵な、この男こそ、エル・スフィア王国の命運を託された勇者ロドニアスであった。
二十歳前後で背負った体験は身の丈ほどもあったが、それを扱う鍛え上げられた屈強な筋肉は、服の上からでも十分に見て取れる。名前だけではなく、勇者と呼ばれる実力も兼ね備えているようであった。
「お戻りになられましたかロドニアス様。儀式は滞りなく済みました。こちらが、私たちを導いてくださる導師アンラ・クイス様でございます」
姫の方は、嫌な顔一つせず礼をして勇者を迎えた。むしろ誰にでも分け隔てなく接する勇者の態度に少なからず好意を持っているようであった。
「クイス殿か。よろしく頼む! では、さっそく町の包囲を破って魔王を倒しに行きますか!」
「それは豪気ですな。勇者ロドニアス」
「はっはっは、豪気ではありません勇気ですよ。クイス殿!」
断るタイミングを計ろうとしたが、よく分からない冗談で返された。話を合わせるべきか迷うところだが、実際どうやって戦うのか好奇心も湧いてくる。それに、魔王を倒すためには彼の実力を知っておくのも良いだろう。
「ふむ、勇者ですからな……。無数の魔物が押し寄せてきた場合は、どうやって戦いますか?」
「ん? 当然、剣を振るって薙ぎ払います。そうですな、普通の魔物でしたら一振りで三から五体はいけますよ」
ロドニアスは、一瞬だけ困惑した表情を見せたが、直ぐに質問の意図を理解していた。
「巨大な魔物と相対した時は?」
「斬り落とせる関節や急所に届きそうな所を狙いますが、手っ取り早く頭を狙う事も多いですね」
背負っている巨大な剣で戦うのは予想通りだが、見た目から予想したよりも身体能力が高く感じるのは、彼の話の誇張と言う訳ではないだろう。そして、実戦の経験も十分にあるようだ。だが兵を率いる訳でも、罠を用意る訳でもない。
「お待ちください」
話を続ける前に、セフィリア姫が丁寧に礼をして、きっぱりとした力強さで割って入った。
「導師様。先にアルバトス国王にお会いになってください。そして、魔王討伐に向かう他の者たちとも」
そして、つまらぬ好奇心で断るタイミングを逸したと気づいた。国王に会い、勇者の仲間に会えば、役目を断る事は出来ないだろう。
失敗を許されない役目をこなす事が出来るだろうか?
他種族を殲滅しようと戦いを始めた相手、多くの軍勢を率いて攻め込んできた相手がどこにいるか見つけられるとは思わないが、個々の能力に物を言わせて攻めて来るのなら相手の方から名乗り出て来るかもしれない。相手の居場所さえ分かれば、推理小説のトリックを考えるように護衛の目をそらして暗殺する筋書きを書けばいい。楽観的過ぎる見通しかもしれないが、自力で家に帰る方法を考えるよりは現実的だと思えた。