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7.初恋とは……なんぞや?

「青木さん……! 青木さんだよね? どうしたの? 大丈夫?」

 私の後ろの席からトントンと背中を叩いてくれるのは確か、同じクラスの佐藤友香さとうゆかちゃん。


「……あ、うん。大丈夫! 全然平気!!」

 彼女の声に私はハッとして、姿勢を正す。


「だってさぁ、一限目の国語とっくに終わってるのに、ずっと教科書見つめたまま固まってたからさ、何かあったのかと思ったよ。ねぇ、紘?」

 友香ちゃんの隣で頷いてるのは、小島紘こじまひろくん。

 入学式から何度も目が合うのでよく覚えてる。


「せっかく近くの席だからさ、仲良くしてよ」

 ハイと差し出された手のひらには水玉模様の可愛いラッピングされた飴玉が乗っていた。


「いいの? ありがと!」

 私は嬉しくなって思わず彼女の手を握りしめた。


「夏帆ちゃんって呼んでいい? 私は友香でいいよ」

 ウインクする彼女が私の友達第一号かと思ったら嬉しくて笑みが零れる。


「私も夏帆でいいよ。……友香!」

 いきなり名前で呼ぶのがくすぐったい。


「これからよろしくね、夏帆! そうそう、隣のコイツは紘でいいよ! 私の幼馴染だからさ!」

 友香ちゃんにバンと背中を叩かれた衝撃で前につんのめる紘くん。


「分かった、紘!」

 彼の顔を見ていると頬がほんのり赤く染まっている気がした。


「お、おう。……な……なつ……ほ!」

 夏帆の『ほ』だけが緊張で強調されたのか、私も友香もおかしくて笑い合った。

 遅れて紘も一緒に笑い出す。


「私達、きっと仲良くなれるよね!」

 友香が私と紘を交互に見遣りながら、三人で目線を合わせた。


「ところで……夏帆? さっきは何で悩んでたの……?」

 早速過ぎる質問に、朝陽さんと西野先生の仲が気になるなんてとても言えずに口をパクパクする。


「こらこら、うちらには秘密事なしだよー!!」

 顔を覗き込んでくる友香に押されながら、相手が朝陽さんだと気付かれないように、遠回しに今の気持ちを打明けてみた。


「……実は……、私両親が居なくて、今お父さんの知り合いだった息子さんのところで一緒に住んでるんだけど……。その人、私に凄く優しくて……とは言っても年も離れてるし、お互い何とも思ってはいないんだ。でも、その息子さんが凄く美人でスタイル抜群な女の人と仲良くしてるの見たら……なんだかモヤモヤして……」

 もじもじと俯く私の肩にドシンと重みをかけながら手を乗せると、すぐさま友香はこう言った。


「それは恋ね!! 間違いない!! 私も今片想いしてる、三年の長谷先輩の事考えるとおんなじ気持ちになるもん!!」


「えぇっ?? そんな……!! だってその人24歳だよ?? 年違いすぎるし……!」

 友香が片想いしている人がいるって部分は完全に右から左に流れ、私は『恋』と言う言葉に慌てふためいた。


 そんなはずあるわけない。

 これが恋だなんて……!!



「おい!! そんなのまだ分かんないだろ? 友香は夏帆ちゃんのこと変に煽るなよ!」

 冷静なような……そうでもないような口調の速さに驚きつつも、紘が横から口をはさんでくる。


「これだから、男の子って、いつまでたっても子供ねーなんていわれちゃうのよ? 私がちゃんと教えてあげる。今の夏帆ちゃんは恋をしていて、やきもちを妬いているのよ!! 残念だったわね、紘!」

 友香はニヤリと紘を見る。


「……ったく何言ってんだよ?? ホント意味わかんねぇ! 俺トイレ行ってくるわ!!」

 そう言いながら早足で廊下に出て行くのを見送りながら、友香が私にそっと耳打ちした。


「実はさ、紘、絶対夏帆ちゃんの事好きなんよ。もしちょっとでも夏帆ちゃんの中に紘が入れる隙間があったら、是非入れてあげて!」

 ふふふと私の顔を見る。


「またまた……まさかぁ! 紘くんが私の事好きなわけないじゃん! 何にもかんじないよ……、彼見てても」

 私の言葉に、すかさず友香は反応した。


「もう、夏帆ちゃんったら、天然なの? それともまだ恋したことない?? だったら、きっと近いうちにわかるわよぅ。乞うご期待ね」


 恋かぁ……

 恋ってどんなんだろ……

 こんなんだったら、もっと少女漫画たくさん読んどけばよかった!


 ほんと、こんな子供じゃ朝陽さんが相手してくれるわけないよね……


「それにしても、妙ね。 夏帆ちゃんと一緒に住んでる24歳の男……こんなピッチピチの女子高生がいるのに手を出さないなんて……お坊さんとか何か?」

 真面目に聞いてくる彼女の口から出た『お坊さん』という言葉がおかしくて、ほんの少し笑ってしまったが、冷静に考えれば私達、夫婦である事もさる事ながら、自分で言うのもなんだけど、若さが匂い立つような女子高生だって言うのに、朝陽さんとは全くそんな空気にならない。


「やっぱおかしいかな……? 私そんなに魅力ないのかな……」

 制服のブレザーの上から貧相な自分の胸元を眺めてため息をつく。


「そんなことないよ、夏帆ちゃん。そいつが異常なだけだよ。俺だったら……」

 トイレから戻り、横から入ってきた紘が言い終わる前に、友香の平手が紘の背中に突進して跳ね返った。


「痛ってぇな!! 何すんだよ!!」

 またその声を被せるようにして、2時限目のチャイムが鳴る。


「じゃ、また次の休み時間ね!!」

 そう言って、二人とも自分の席に着く。


 大変な問題提起をされた私は一人、また国語の教科書を睨みつけながら、どれだけ自分に魅力がないのか考えていた。

 ……っていうか、その前に、私が朝陽さんに恋してるって……??


 そ、そんなわけない!!

 断じてない!!


 これが……初恋なんて……!


 ガラリと教室の扉が開き、朝陽さんがやってくる。

 問題の張本人の背中を眺めながら、『初恋』の文字が頭の中で踊っている。


 くるりと振り返り、教科書を読みながら、歩いて来た。

 だんだんと近づいてくる朝陽さんを見ないように、私は机に向かって頭を下げる。


 私の隣で足音が止まり、目の前に現れた大きな手がトントンと机を叩く。

 恐る恐る見上げてみると、あぁ、朝陽さんがいる!


「おい、今は国語の時間じゃないぞ?」

 そう言って、再び歩き始める。


「はっ、ヤダ……あれ、おかしいな……」

 急いで机の中をゴソゴソする私を見て、クラスメイトが爆笑している。


(あぁ、もう! ホント何やってんのよ私!!)

 額から流れ落ちる汗を拭いながら、勉強する心は一人だけ熱をあげてる私の頭上を昇り消えていく。


 くちゃぐちゃに絡み合った感情を整理整頓できたのは、もう帰りのチャイムが鳴っている頃だった……



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