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56.敵か味方か?

「佐藤さん! ちょっといいかしら」

 朝のHRが始まる前に急いで彼女の教室へ向かった私は早速呼び出した。


「はい。なんですか?」

 小島君と楽しそうに話をしていた佐藤さんは、急に表情を曇らせてこちらにやって来る。


「あの、ちょっと聞きたいことがあって。今大丈夫?」

 警戒する彼女の空気を感じながら私は柱の陰に連れていく。


「あなた、青木さんと仲よかったわよね?」

 ふふふ、困った顔しちゃって。

 もう青木夏帆が朝陽さんの相手だってことは大体予想ついてるのよ?

 どんな言い訳したって吐かせてやるんだから!


「えぇ、まぁ……。だから何なんですか?」

 リズムを刻むように踵を床にコツコツとやりだした。

 佐藤さんは部活の時もうまく行かないことがあると、いつもそんなふうに落ち着きなく動き出すわよね?

 まったく分かりやすいんだから。


「単刀直入に聞くわ。青木さんと工藤先生って……どういう関係なのかしら?」

 ぱっと顔色が変わった佐藤さんを私は畳みかけるように追い詰める。


「実は彼女今行方不明なのよ……。工藤先生も心配してるわ」

 わざと心配している表情を見せる。

 すかさず佐藤さんは私の肩を掴んだ。


「ちょっと、工藤先生は一緒じゃないの?!」

 物凄い力で揺さぶられた私は彼女の手を必死で止めた。


「こ、こら!! 危ないでしょ?? 工藤先生も心配してるのよ。私だって心配。何か心当たりがあれば小さなことでもいいから教えて欲しいのよ」


「そんな……!!」

 かかったわね! さあ、みんな吐いちゃいなさい!


「西野先生、今の話本当ですか?? だったとしたらとんでもないスキャンダルじゃないですか? 俺、青木さんと仲よかったのに初めて知りましたよ……」

 突然、小島君が私と佐藤さんの間を割って入ってきた。


「ちょっと、紘!!」

 小島君は佐藤さんを自分の後ろに引き込んだ。

「友香。本当に工藤先生と、青木さんの事知ってるんだな??」

 威圧的にも感じられるような語気で彼女に詰め寄っている。


「……あ、いや、良くわからない……かも」

 急に態度を変えた佐藤さんになんだか違和感……

 本当に分からないってことないわよね……?


「西野先生。こんなすごい話、もしみんなにバレたらとても学校に居られなくなりますよ。実は俺、最近夏帆にムカついてて。いっそのこと、盛大に学校中にスキャンダルをぶちまけるってのはどうですか?? 面白いかと思いますけど??」

 小島君の悪い顔……

 青木さんとはあんなに仲良さそうにしてたのに本気なの??


「ちょっと、紘!! なに言ってんのよ!!」

 この佐藤さんの慌てようなら……口裏合わせで何か企んでたってことでもなさそうかしら……?


「うるさい! 友香は黙ってろ!!」

 ピシャリと言い切り佐藤さんの口を封じる。

 佐藤さんの口から出る情報も喉から手が出るほど欲しいけど……

 まぁ、この様子だと小島君と手を組んだ方が有利かも。


「……いいわね。でもどうやって??」

 何だか面白くなってきたわ!


「もうすぐ文化祭があるでしょう? あの日、工藤先生も招待するつもりで話をしてたんです。ウチのクラス、体育館で劇やるんですよ。まぁ、夏帆とどんな関係だろうがお世話になったんで是非見てもらいたいってクラスメイトの声がたくさん上がってて」

 小島君は佐藤さんから視線を外さない。


「そこで、提案なんですけど……それが終わった後みんなの前でカミングアウトしちゃうってのはどうでしょう? 西野先生、工藤先生の事好きで、夏帆の事が邪魔なんでしょ?」

 佐藤さんを視界に収めたまま、小島君はコソコソと私の耳の元に話しかけた。


「文化祭で……?」

 とんでもない事になりそうだわ……

 もしそれが叶ったら、二人は当然もう一緒に入られないだろうし、あの子もこの学校を出て行かざるを得ないわね……


「そうですよ。夏帆が工藤先生に言い寄ったって話にすれば追及されるのは夏帆だけになるかもしれないですし」

 小島君の隣で佐藤さんが目に涙を溜めながら小刻みに震えている。


「いいわ!! その素敵な話乗らせてもらうわ!」

 こんなところに私の味方がいたなんて!

 なんてラッキーなの?


「西野先生。一つだけ約束してください。工藤先生と夏帆の話、当日学校中を沸かせたいんで、それまで夏帆が行方不明の事とか、二人の関係とか……絶対に誰にも言わないでください。俺が準備するんで、先生は待っててくれるだけでいいんですから」

 じっと私を見ている小島君はどうしてそんなに青木さんの事が嫌いなのか……

 それだけがどうしても私の中で腑に落ちなかったけど……


「分かった。よろしく頼んだわよ? 私と工藤先生の話は置いておいて、学校内で教師と生徒が付き合うなんてとんでもない話ですからね!」

 なんだかうますぎる話のような気もしたけど……

 でも、こんなに手っ取り早く青木さんを学校から追放して工藤先生の立場を守る方法なんて、私には思いつかなかった。

 ここは小島君を信じるしかないわ!


「じゃ、楽しみにしていてください!」

 小島くんは佐藤さんの手を引っ張り教室へと帰っていく。


 いい流れだわ……

 暫く静観している方がいいかもね……




「紘!! どういう事よ!! いくら夏帆の事が好きだからって、こんな風に裏切るなんて最低!!」

 物凄い音で平手打ちの音が教室に鳴り響く。


「痛った!!! ったく何すんだよ!!」

 俺は思わず友香を睨んだ。


「だってそうじゃない!! 紘はあの二人の味方だって私ずっと思ってたのに……!!」

 ボロボロと泣き出す彼女を俺は黙って抱きしめた。


「後でちゃんと話す。本気で言ってるわけないだろうが!」

 小さい声で友香の耳元で呟いた。


「……紘……??」

 涙目で俺を凝視する。


「おいおい!! 朝から痴話げんかかよ~! 激しいなぁホントお前ら!」

 クラスメイト達が激しい平手打ちを食らった俺を茶化しながら近づいてくる。


「うるせぇ!!」

 そんな奴らに踵を返して俺は席に戻った。

 友香は一人ボーっといつまでもそんな俺を見ていた。


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