53.運命の行く先
「わぁ!! 凄いお食事!!」
目の前に見たことのないような豪華なお食事……
小さな小鉢の中に色とりどりの野菜。
美味しそうな匂い……
朝陽さんよりも先に部屋に戻ってきた私は窓を開け外に出た。
空を見上げればたくさんの光を放つ星を引き立てるかのように町の夜景がひそやかにきらめいている。
その先には朝陽さんや、友香、紘と一緒に行った思い出の海が見えた。
傍で常に湧き出て湯船に流れ落ちるお湯の音が心地よく耳をくすぐる。
振り返れば本当に怒涛のような7か月だった。
今自分がここでこうしていることが夢の中の出来事のようにも思える。
「……これからもずっと朝陽さんと一緒に居られるのかな……」
またいつ離れ離れになってしまうかもしれない危うさに、今こうして感じられる一つ一つの満たされた感情をしっかりと記憶しておこうと目を細めた。
「いられるよ。ずっと、一緒だ」
私の背後から朝陽さんの声がした。
振り返ろうとすると温かい腕が私の肩に触れる。
彼の瞳の中には私だけがしっかりと映っているのが分かった。
「さぁ、冷えるから中に入ろう」
にっこりと笑う朝陽さんの笑顔につられるように、微笑みながら頷いた。
「こんなご馳走、私食べるの初めてだよぅ!」
美味しそうに口に頬張る夏帆の表情を見て一日の疲れが一気に吹っ飛び、顔が綻んだ。
「ここの料理は本当に美味いんだ。母さんによく連れて来てもらって小さい頃からよく食べさせてもらったよ」
これからは……夏帆と一緒にここに来るんだろうな。
素直に嬉しかった。
きっと実家は今頃は大騒ぎになっているだろうな……
もう……振り返るのはやめよう。
これからの夏帆との未来だけを考えればいいんだ。
食事が終わり、布団が二枚並んで敷かれている。
夏帆の様子がさっきからおかしいのは……きっとこのせいだろうな。
「夏帆? 今日は疲れたからもう寝よう」
緊張して布団の前に棒立ちしている彼女に声をかける。
「……は、はい!!」
あんまりにも分かりやすすぎて、思わず笑ってしまった。
「夏帆。そんないきなり襲ったりしないから安心しろって。ここまで待ってたんだ。俺はちゃんと夏帆の気持ちが落ち着くまで待てるから」
真っ赤な顔をしてる彼女が本当に愛おしい。
「……でも……!」
彼女なりに、俺の事を気遣ってくれてるんだろうな。
「じゃ、一緒に寝よう」
俺は先に布団に入って夏帆を呼び込んだ。
小さく頷き静々と俺に背を向け隣に横になる。
「今まで同じ家に住んでたのに、こうして添い寝したこともなかったもんな」
彼女を後ろから優しく抱きしめた。
夏帆の小さい震えが伝わってくる。
「怖いのか……? 別々に寝てもいいんだぞ?」
呼吸を忘れているんじゃないかってくらい固まっている彼女を気遣って声をかけたつもりだった。
突然くるりと振り返り首を横に振りながら俺の胸に蹲る。
「私は……先生と早く一つになりたいの……」
そういって俺を見た夏帆の眼差しに体の芯を撃ち抜かれたような衝撃が走る。
動揺が抑えきれず鼓動がコントロールできなくなりそうだ。
「無理するな……俺はこうしてるだけだって、十分幸せなんだから……」
自分の身体とは裏腹な言葉を口に出していた。
俺は夏帆の気持ちを大切にしたいんだ。
感情が高ぶらないように必死になりながら彼女が眠りにつくまで髪を撫でる。
こんなに近くで夏帆の寝息を感じれることが奇跡のようだった。
俺は、これで十分満足だよ……
「……ったく誰だ? こんな時間に」
今日は外回りもあって疲れていたから、もう10時には眠りについていた。
ところがスマホが壊れたんではないかと思う位の連発する着信に目を覚まし手に取ると、知らない番号が表示されている。
気味が悪かったが、あまりにもしつこいので怒鳴り散らしてやろうと電話に出た。
『あーやっと出た!! ごめんなさいね、遠野さん、こんな遅い時間に』
女の声がした。
どっかで聞き覚えのあるような……
「あの、どちら様ですか?」
名乗りもしない無礼な女に苛立ちながら眠い目を擦る。
『西野です! ほら、お見合い相手だった。この前喫茶店で会ったでしょ?』
その名前を聞いて背筋が凍り付いた。
一体こんな遅い時間に何度も電話をかけてきて何の用なんだ??
「……あぁ。なんですか? 突然」
感情を殺した声で淡々と問う。
『時間がないからいきなり本題で悪いんだけど、朝陽さんの彼女、あなた知ってるっておっしゃってたわよね? それが誰だか今すぐに教えて欲しいのよ!!』
何処まで無神経な女なんだ?
いきなり電話かけてきてしょうもない話しやがって!
「あなたにお話しする筋合いはないって、この前ちゃんと言いましたよね? どれだけ聞かれても僕は答えるつもりはありません」
そう言ってブチ切ってやろうと思った時だった。
『その子、今行方不明になってると思うんだけど』
その言葉に耳を疑った。
(行方不明……?)
工藤朝陽についに裏切られて傷心のあまり姿を消したとかか……??
「どういうことですか? なっちゃんが居なくなったって……」
口に出してしまってからハッとした。
今僕『なっちゃん』って言っちゃちゃった……??
『なっちゃん……ね。分かったわ! 情報としてはもう十分! ありがとう!』
ブチっと電話が切れた。
(これは……もしかしたら非常にマズいのでは……?)
僕はとても寝付ける訳もなく、飛び起きて上の階の彼女の部屋のインターホンを連打する。
こんな時間に全く無反応……
まさか……駆け落ち??
(あぁ!! どっちにしても、たぶんコレ……やっちまった……?!!)




