5.先生から朝陽さん……?
(先生……、朝陽さん……、先生……、朝陽さん……)
朝のホームルームで今日も爽やかに私たちに笑顔を向けるのは、担任の先生であり、旦那さんである……朝陽さん。
昨日から突然、先生の呼び方が朝陽さんに変わった。
いつもと変わらない朝なのに、不思議と私の目から見える景色は一気に鮮明な明るい景色へと変化する。
あの後朝陽さんの作ってくれたお粥を食べて、すっかり疲れた体は回復していった。
「もう、私、自分の部屋に戻ります」
これほど回復すれば大丈夫だろうと思い、布団から起き上がった。
すると、朝陽さんの大きな手が私の肩を力強く引き留める。
「いいからここで寝てろって。最初から言ってるだろ? ここで寝ていいって」
朝陽さんが私を見つめる眼差しが優しすぎるよ……
学校でみんなに向けられているものが、今日は私が独り占め出来ていることが、なんだか嬉しくて仕方がない。
それにしても……
「……でも……」
(そんな……一緒に寝るなんて……まだそんな……)
変に想像を巡らせて一人慌てふためく私。
モジモジしているのに気づいたのか、それとも最初からそんなつもりはなかったのかはわからないけど、
「じゃ、俺、リビングのソファベッドで寝るから、ゆっくり休めよ」
朝陽さんはそう頭をポンと叩いて、すぐに寝室を出て行った。
(やだ……!! 私、何勘違いしてんだろっ!!)
かぁっと顔に血が上るのを熱で感じる。
そりゃ、そうだよね……
こんな子供の私と何かなんて、考えもしないよね……
恥ずかしさに溺れそうになり、嫌な汗がじっとりと身体を濡らした。
安心した気持ちのなかに、ほんの少しだけ寂しく思う自分がいる。
なんだろう……この気持ち……
「……青木さん……、青木さん!!」
窓の外を見ながらぼーっと昨日の事を思い返していたら、聞き慣れた声で大きく名前を呼ばれている。
「……ん……?」
間の抜けた顔で、声のする方へ顔を向けた。
「……おい! 起きてるか?!」
振り向けば目の前に朝陽さんの顔が!!
「あ……っ! ふぁい!!」
危なく『朝陽さん……』そう呼ぶとこだった。
余りにも驚いて、変な声が出ちゃったよ……!!
「どうした? 昨日はちゃんと寝れなかったのか?」
クラスメイトの爆笑の中、突然家でするような会話を投げかけてくる。
「勉強は、ほどほどにな」
ニコリと笑顔を見せ、背を向ける朝陽さん。
昨日私が勉強なんてしていないことは、一番近くに居て知っているくせに……!!
教卓に座り、ひょうひょうと次の子の出席を取っていく彼の姿に私の心は振り回されっぱなしだ。
(……はぁ、なんだ……出席か……)
名前を呼ばれた理由を理解して、ほっと溜息……
眠れないわけがない。
昨日の夜は、何年振りかに誰かに守られているような幸せな気持ちで、朝陽さんの匂いのする布団に包まれ、朝までぐっすりだった。
朝起きて、いつものように朝ごはんをつくり、テーブルの上に並べ用意をする。
昨日までは彼がひとり朝食を食べ終わり洗面所を使っている間に、入れ替わりで私がご飯を食べるのが定番だった。
今日も何ら変わることなく朝陽さんに朝食を用意して、私は制服に着替えようと部屋に戻ろうとした時……
突然、手首をグッと掴まれた。
「今日から、一緒にご飯食べるんじゃないんだっけ??」
昨日、私が言った事……覚えててくれたんだ……!
嬉しくて嬉しくて……、思いっきり顔に出てたかもしれない。
控えめに朝陽さんの向かい側に座り、顔を合わせる。
「じゃあ、いただきます!」
私の目の前で、ご飯を口いっぱいに放り込む。
嬉しそうに焼き鮭に箸を入れ、もぐもぐと幸せそうな顔……
「夏帆ちゃん、ホント美味いよ! いつもありがとうな!」
そんな優しい顔しないでよ……
胸がいっぱいでご飯が喉を通らなくなっちゃう……!
「今日は、たぶん早く帰れるから、また一緒に食べような!」
あっという間に空になった朝陽さんのお茶碗は、綺麗にご飯一粒残っていなかった。
「……うん!!」
幸せってこういうのを言うんだな。
お父さんと二人だって、私は十分幸せだと思ってた。
でも、なんか違うの。
なんか……胸がかぁっと熱くなって……
涙が込み上げてくるの。
なんなんだろう?
この気持ち。
板書している先生の背中が……
今日は朝陽さんの背中に見えるんだ。




