37.西野先生の逆襲
「工藤さん。ご無沙汰してました」
今吉平さんに挨拶しているのが、私のお父様、西野巧。
私とお父様は朝陽さんのご実家で彼の父親である吉平さんにビジネスの話をしに来てるの。
「午前中にも電話でお話しした通りなんですが……」
お父様が鋭い眼差しで吉平さんを見た。
「その前に……その節は本当に申し訳なかった。お嬢さんにも嫌な思いをさせてしまって」
全くその通りよ!!
でも吉平さん?
もう謝る必要もなくなるわ……!
「いやいや。実はその話も含めて、今回ちゃんとお話しさせていただこうと思いましてね?」
チラッとお父様が私を見た。
早く本題を!と私は目で合図する。
「我々が手を組んでお互い協力し合えば、まぁうちもITって言っても手広くやってますしね、インターネットがどんどん盛り上がっていくこれからの時代に、将来的に工藤さんのところでもうちの知恵や技術って言うのは十二分に学校教育にも生かしていただけると思うっていうのは、以前お話したときご理解いただいたかと思うんです。うちとしても教育の場って言うのは十分に未来が望めるおいしい場所でもありますから、ウインウインでしょう?」
私と朝陽さんの婚約話が出た時に散々聞かされたこの話。
結局この二人にとって、私たちは駒の一つでしかないって言うのは哀しいけど現実。
朝陽さんの方から断りの話が出た時は、運が悪くも私に別の大きなお見合い話が舞い込んできていて……
それを知ったお父様は手のひら返しで、朝陽さんとの破談を簡単に受け入れたのよね。
あの時は泣いたわ……
そのお見合い相手がどんなにいい人だったとしても、朝陽さんに比べたら全部ジャガイモに見えるもの。
ほんの少し喋ったその人の顔も思い出せないわ。
「まぁ、それは十分分かってはいますが……、一度こちらから辞退したお話をなぜ今また……?」
不審そうな吉平さんの表情を見て私は笑いが込み上げてくる。
事実を知ったら……どんな顔をなさるのかしら?
「条件としては、この可愛い一人娘美野里と朝陽君の結婚話をもう一度考えていただきたい」
驚いた顔の吉平さんはすぐさま口を開いた。
「いや、もうご存じかとは思いますが、朝陽はもう妻がおりますから……」
そんな無茶苦茶な……そう思ってるでしょうね?
「朝陽さん、入籍していないのご存知でないんですか?」
私は我慢できずについ口走ってしまった。
「こら! 美野里! 話には順序ってものがあるだろう?」
そう私を窘めた後、お父様はゆっくりと話し始める。
「いやね、申し訳ないとは思ったんですが……、美野里が余りにも朝陽君の事を忘れられないと散々駄々をこねるもので……ちょっと調べさせてもらったんです。 そしたら、そのお相手の方とはまだ入籍してらっしゃらないようで……。事実上、朝陽君はまだ独身でいらっしゃいますよね?」
お父様、目つきが厭らしいわ。
「……そ、そんなはずは……」
慌てふためく吉平さんの様子をさりげなく伺いながら、私は勝利の道を確信する。
「もし、それが本当だって朝陽君本人とちゃんと確認が取れたら、もう一度、うちの娘との結婚考えていただきたいんですよ。工藤さんにとってもメリットだらけじゃないですか? 今の朝陽君のお相手が彼とどんな関係になっているかまでは私には分かり兼ねますが、入籍していないってことはそれだけの関係なのでは?」
畳みかけるようにお父様が吉平さんを追い詰める。
「うーん……」
唸るような声を出しながら顎の髭をひたすら撫でている。
「あの、つかぬ事をお伺いしますが……、朝陽さんのお相手って、まさかうちの学校の生徒じゃないですよね?」
あのショッピングモールで見かけた娘……
明らかに高校生くらいの女の子……
「……そんな……訳ないじゃないですか!」
ハハハと不自然に大笑いするところを見るともしかして図星?
もし本当ならとんでもないスキャンダルじゃない!
彼の将来どころか、藤吉学園の危機よ!!
あぁ、なんだか笑いが止まらない。
今まであきらめないでよかったわ……
その時だった。
扉をノックする音が聞こえた。
「失礼します……!」
そう言って入ってきた朝陽さんは完全に私たち親子の姿を見て固まっていた。
「朝陽さん、お疲れ様!」
私は自分の出せる最高の笑顔で彼を迎える。
「父さん……これは一体……?」
そんな言葉を遮るように吉平さんが朝陽さんを追い詰める。
「朝陽……入籍してないって……本当なのか??」
「……え……?」
俺は父さんの言葉に耳を疑った。
何故……なんでそれがバレたんだ……??




