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34.先生から見たらやっぱり子供?

 楽しかった夏休みもあとわずか。

 秋の匂いのする透明に澄んだ風がマンションの窓からカーテンを揺らし心地よく入り込む。


「楽しかったなぁ……夏休み」

 なかなか片付かない宿題を広げながら、チラッと朝陽さんに助けを求める視線を送る。


「おいおい、ダメだぞ! 俺は一応夏帆の担任なんだから、そこはしっかり自分でやりなさい!」

 ピシャリと言いたいことを遮られ、現実はやっぱり甘くはないか……と剥れる私。


「……まぁ、答えは教えられないけど、解き方ならいいよ」

 諦めた顔で私の隣に座る先生を見上げて私は嬉しくて抱き付いた。

「わーい! だから先生大好き!!」

 先生は照れたように私を見つめてくれるんだけど……


 私たちは、まだ一日10分の恋人時間を生真面目に守り通している。

 それ以外の時間は、どんなにいい雰囲気になっても、先生は絶対に私に触れようとしない。

 せっかく入籍の約束もしたのに、最近の私は物足りなくて自分から先生の肌に触れることが多くなった。


「ほら、夏帆! 今はそんな時間じゃないだろ!」

 いつもそう。

 こんな風に近寄っても跳ねのけられてしまう。

「はーい……」

 仕方がない事だって思っても、そこまで恋人時間にこだわる先生の気持ちが私にはイマイチ理解できなかった。


 やっと訪れるたった10分の幸せな時間も、最近は変なぎこちなさがあったりする。

 私がキスを求めても、ふいと横を向かれてしまったり、抱きしめて誤魔化されたりする。


 海ではあんなに大人みたいなキス……私だってちゃんと出来てたよね?


 女性としての魅力がないのかな……

 こんな子供相手じゃ、そんな気持ちにまだ慣れないのかな……


 先生の『ダメだ』の言い方が日を増すごとにキツくなっていくことが、気にしないようにしていてもなんだか悲しくて、何とも言えないモヤっとした不安がいつも付きまとっていた。



 そんな調子で新学期はスタートし、夏休み前と同じように、今日も一日が始まった。

「夏帆! おはよう!! いい夏休み、過ごせたかなぁ??」

 いきなり茶化すように友香が絡んでくる。


「……うん、まぁ」

 ウキウキって言うには程遠かった日々を振り返って、私は返事を濁らせた。


「何? 一緒に住んでるんだから、もう夏帆は先生のなんでも知ってるんでしょ?? あぁ、なんだか想像するだけでドキドキしちゃう……!!」

 両手を顔の前で組んで乙女の顔をする友香を横目に、私は真逆の温度感を前面に出し、全く何もない事を情けなくも遠回しにアピールした。


「え? まさか、何にもないの? いまだに??」

 そうよ……驚かれたって仕方がない。

 普通に考えてあり得ないもの。

 そもそも同じ布団にすら寝たことないし。


「先生……実は男しか愛せない人なんじゃ……」

 引きつった顔をして、友香が静かに呟く。


「そんなことないわよ!! ノーマルに決まってんでしょ? ……たぶん」

 なんだか言いながら自信がなくなってくる。


 クラスメイト達が夏休み中に何があったのか色めき立っている空気に気づかないふりをして、私の周りを流れる時間は何も変わらず淡々流れて行く。思わず心のスイッチをオフにしないといられない。


 先生には何か事情があるんだろうか??

 それとも本当に私とそういう事をする感覚にはならないんだろうか??

 悶々と考え込む私の背中を憐れんで摩ってくれる友香。


「ほら、入籍するんでしょ? あれ? もうしたんだっけ? あんな風に夏帆にプロポーズする熱烈な工藤先生、私初めて見たし、そんなに心配しなくても時が来たらちゃんとたっぷり愛してくれるわよ」

 うんうんと、分かったように頷く友香に違和感を感じまくりながらも、そうであって欲しいと心底思う。


「入籍は、先生の誕生日11月だからその前後がいいかなってこの前話しあってさ」

 すぐにでもいいって思ったけど、大切な日だから慎重に選ぼうって先生が先に言い出した。


「あぁ、いいなぁ!! まぁでも夏帆はすでにもう人妻のようなもんだもんね。だって夏帆が全部家事やってんでしょ?」

 確かに、役割的には夫婦関係はちゃんと成立している気がする。

 でも……倦怠期な夫婦じゃあるまいし……もっとなんかこう……ハートが部屋中散らばるようなことがもう少しあってもバチ当たらない気がするんだけど。


「なんかさ、私思ったんだ。麦わら帽子一つでこんなにも想い合う二人って凄いじゃない? 夏帆は命を懸けて先生の大切にしているものを、先生ははそんな夏帆を必死で傷つかないように包み込むように支える姿がさぁ、なんか感動して私は泣けたけど」

 思い返しているのか友香の顔が蕩けそうになっている。


「結局麦わら帽子もみつかったし、あの時は本当に心配かけました」

 私はペコリと頭を下げる。

 麦わら帽子は帰る間際に落とし物がないか案内所に確認に行くと、奇跡的に浜辺に打ちあがっていたと届けられていた。

 今はちゃんとお手入れをして、大切にクローゼットの中にしまてある。


「まあさ、きっと先生にも考えがあるんでしょ? 私が考察するに、工藤先生は結構分かりづらい性格してるじゃない? 見た目とは裏腹に夏帆の事で頭の中一杯かもよ?? きっと二人がちゃんと繋がれる日はそんなに遠くないって!」

 一生懸命励ましてくれている友香の姿に、私も信じなきゃな……って気持ちになってくる。



「おはよう!! みんな久しぶりだな!!」

 小麦色に日焼けした先生はいつも通りに教壇に上った。


 キラキラと今日も輝きを放っている先生の姿をじっと見つめながら、私はなかなか近づきたくても近づけないもどかしさと情けなさに、思わず目を逸らしていた……







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