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32.王子様の再来?

「さて、紘! 夏帆と先生の謎も解けたことだし、天気も良くなったことだし! たまには幼馴染で仲良く泳がない??」

 友香はスッキリした顔をしていた。

 ずっと親友だって口では言ってたくせに、私は友香に秘密にすることが余りにもたくさんありすぎた。


「友香、紘……。本当に今まで黙っててごめんね」

 心からそう思った。

 これからは……きっと本当の自分を全部曝け出せると思う。


「いいのいいの!! 私だって夏帆の立場だったら言えないよ。ちゃんと分かってるからさ。まぁ、かなりビックリはしたけど」

 ふふと微笑んだ。


「夏帆、困ったことあったら何でも相談しろよ? まぁ、俺は夏帆にフラれたって意外とモテるんだからさ。遠慮なんて絶対すんなよ!」

 紘の大きな手が私の頭にポンと乗っかる。


「……本当にありがとう」

 紘の優しさが心に沁みた。

 ずっと私を想ってくれてたのに……

 どうすることもできなくて泣けてくる。


「ちょっと、先生? 早速紘にヤキモチ妬いてんじゃないの?」

 友香の鋭い突っ込みにハッとしたように立ち上がる朝陽さん。


「べ、別にそんなことあるわけないだろ!! ほら、泳いでくるんだったらさっさと行ってこい!!」

 追い払う様に二人を海へと向かわせる。


「気、遣ってくれたんだね。二人とも」

 二人の温かい気持ちがこれから先の私たちの未来をきっと支えてくれるに違いない。

 ふと立ち上がっている先生を見上げた。


「そうだな……。てか、ついにバレたな」

 疲れの色を見せながらも、口元は微笑んでいた。


「夏帆、行こう」

 そっと差し出された手を受け取って、指を絡ませる。


「今日は恋人でいられるかな……」

 隠さなきゃいけないことはもう何もない。

 海の家を出て急に立ち止まった先生は、逞しい胸に私を抱き寄せる。


「……とにかく……無事で本当に良かった……」

 噛みしめるように囁いたその声に、本当に心配をかけてしまったんだと実感する。


「ごめんなさい……。帽子失くしちゃったことも……」

 苦しい位にきつく私を包み込んだ腕がゆっくり動き、髪を撫でる。


「そんな事どうだっていいんだ。だから約束してくれ。何があってももう俺から離れないって……」

 顔を上げると目を真っ赤にして私を見つめていた。

 もう、人目なんてどうだっていい。

 大好きで、愛おしくて……

 私たちは夢中で唇を重ねていた……




 帰りの電車に揺られながら心地よい睡魔が襲う。

 寄りかかった先生の肩は私の安心できる場所。


 向かい合った座席から友香と紘のひやかすような視線を感じながらも私は意識を失った。

(どうか、ずっとずっとこんな幸せな時間が続きますように……)

 そう願いながら……




「夏帆!! 起きろ!!」

 先生に大きく揺り動かされて私は目を覚ます。

 目の前には友香と紘が仲良く肩を並べて眠っていた。


「おい、二人とも、もう着くぞ!!」

 先生に膝を叩かれ紘が目を覚ます。

 なかなか起きない友香を皆で声をかけながら、ドアが閉まるギリギリで何とか電車から駆け下りた。


「はぁ、危なかった……」

 寝起きでいきなり走ったからか、足の力が入らずよろめいた時だった。

 歩いて来た若い男性に思いっきりぶつかり身体ごと投げ出され尻もちをついた。


「イタタ……ご、ごめんなさい」

 その男性も私とぶつかった衝撃で壁に強く肘を打っている様だった。


「大丈夫ですか? すみません、こちらもちゃんと前を見ていなくて」

 視線の先の足元には高級そうな革靴が見えた。


「はい。ごめんなさい、私フラフラしてて……」

 そう言いながら恐る恐る相手の顔を見上げる。


「……なっちゃん……?」

 その男性はまさかという顔でじっと私の顔を見ていた。


 どこかで……見たことあるような……

 そうだ……、小さい時に……


いつき兄ちゃん……?」

 昔遊んでいた頃よりもずっと大人びて、一瞬同じ人とは思えなかった。

 でも間違いない。優しい目元に全身から放つ気品あふれるオーラ。

 相変わらず王子様のような輝きを放っていた。


「なっちゃん……!! 本当にひさしぶりだな!!」

 樹兄ちゃんは昔みたいに私をお姫様を扱う様にそっと前に手を差し出した。

 私はなんの違和感もなくその手を取って、立ち上がる。


「どうしてここに……?」

 小学校の頃、近くに住んでいた樹兄ちゃんは近所でも大富豪だと有名だったお屋敷に住んでいた。

 小さい頃に、公園でたまたま出会い一緒におままごとや鬼ごっこをするようになってから、よく私の家にも遊びに来るようになった。

 樹兄ちゃんはご両親がとても厳しく教育熱心な方だったので、よくケンカしてうちに逃げ込んできたものだ。

 でも私が小学校卒業するくらいに海外に留学することになって、それ以来、逢うことはなかった。


「今度この街に住むことになったんだけど、まだ部屋が見つかってなくて。不動産屋巡りしてたんだよ。なに、なっちゃんもここの駅なの?」

 そう話す笑顔は眩しい位にキラキラと輝いている。


「うん。お父さんも今年亡くなって……。いま彼のところに住まわせてもらってるの」

 朝陽さんに目線を移すと、何やら不穏な表情をしていたが、こちらを見て軽く会釈をしてくれた。


「ふうん……」

 樹兄ちゃんはポツリと呟きながら、じっと先生を見た。


「じゃ、またきっと逢えるかもしれないね!」

 ニコリと笑って先生をはじめ友香や紘にも会釈する。

「よかったら、今度ご飯でもいこうよ!」

 そう言って私の手の中に名刺を手渡した。

「いつでも連絡して! 待ってるから!」

 そう言って軽快に私たちの前から去っていく。



「夏帆!! 誰?? あのイケメン王子!!!」

 友香が鼻息を荒くしながらにじり寄ってくる。


「ま、幼馴染……みたいなもんかな?」

 私たちの関係をどう例えたらいいのか分からないから適当に答えたんだけど……


「おさな……なじみ……ねぇ」

 先生の視線が完全に私にロックオンしていた。


「な、何でもないよ? ただの近所のお兄ちゃんだから!」

 穏やかでない空気を察して、聞かれてもいないのに言い訳のようなことを口走る私。


「じゃあ、続きは帰ってからたっぷりと聞こうかな?」

 あぁ、目が全然笑ってない……


「じゃ、小島、佐藤! 夏休み悪いことするんじゃないぞ!!」

 急に先生の顔になって二人に別れを告げると、私の手を引っ張り高速で歩き出す。

『はーい』とダルそうに返事をしながらニヤニヤしている二人を背にして、海の余韻に浸ることもせず、高速でマンションへと向かう。


「ちょっと!! 先生!!」


 あぁ……やだ……なんか誤解してるよね??

 私は先生の強く握る手に、ちょっとだけ嬉しさを感じながら一生懸命歩幅を合わせたんだ。

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