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31.憧れの男(ひと)

「どういう事か説明してもらえますか? 先生!」

 今俺たちは4人で海の家のテーブルを囲んでいる。

 横に座って先生と夏帆を追求する友香の顔は、昔から何か企んでいるときの含み笑いをしているようにも俺には見えた。

 そんな友香を横目に俺は、先生が夏帆を救出する一部始終を思い出して、ひとり複雑な気持ちになっていた。



 夏帆が居なくなった後、先生に止められていたにも関わらず、結局居ても立ってもいられなくて、俺と友香は時間差で後を追った。

 普段何があっても冷静沈着な先生が大雨の中、必死で彼女の名前を『青木さん』ではなく『夏帆!』と叫んでいる姿を目にした時、俺はもう夏帆のことを諦める覚悟をしなければいけないだろうな……そう思った。


 その後、先生が夏帆を見つけて救出する姿が悔しいけど猛烈にカッコよくて……

『もう俺に勝ち目はない』って認めざるを得なかった。


(きっと俺にはあんなふうに夏帆を助けることは出来ない……)

 クソ……!! 完全敗北だった。

 夏帆の事がこんなに好きなのに、男として何もできない自分に嫌気が差した。


 まぁ、正直麦わら帽子の話をしているときの二人の姿を見て俺はなんとなくだが、もう二人はそういう関係なんだってことに気がついてはいたんだけどな……。

 あんなに仲のよさそうな二人を目の前に……現実を認めたくなかっただけなんだ。



「いや……説明って言われても……だな……」

 先生は頭をポリポリ掻きながら何とかこの話を誤魔化せないだろうか……?そんな顔をしている。


「今更誤魔化さないでくださいよ! 夏帆も! 24歳の彼氏って、先生の事だったの??」

 友香の尋問は止まらない。


「……えと……」

 助けを求めるように夏帆が先生の顔を見た。

 それに気づき二人だけの目の会話。

 あぁ、嫌だ!!

 さっきまで俺は夏帆を数パーセントだって彼女に出来るかもしれないって期待を持っていたのに。


 結局諦めたような表情で頷きあった二人。

 先生がゆっくりと口を開き語りだす。


「ちゃんと二人に話をするから……一つだけ約束してくれないか? 絶対に誰にも言わないでくれ。学校でも俺と夏帆の事は何も知らなかったようにふるまって欲しいんだ」

 深く頭を下げる先生にやっぱりバレたらただ事じゃないだろうな……と俺ですら容易に想像できる。


「……分かった! その代わり、もちろん二人の話をちゃんと聞かせてもらった上で……先生と夏帆の家に遊びに行っていいかな??」

 あぁ、友香の悪い癖が出た。

 興味津々なのは分かるが、今はそんな空気じゃないだろう?

 そう思ったがそんなことを言ったら、また友香にどつかれそうなので、ぐっと口を噤む。


「……分かった。約束する」

 ふうと重たく息を吐き先生は項垂れている様だった。


 先生は夏帆との出会いから、今どういう状況なのかを順を追って俺たちに話し始めた。

 途中途中夏帆の表情を伺う様に覗き込んで微笑みあいながら、話は前に進んでいく。


 聞きたくない話だった。


 でも気がつけば普通では考えられないような運命的な繋がりを見せる二人の馴れ初めの話に、段々と夢中になっている自分がいた。


 聞けば聞くほど、先生が俺からすれば魅力的な大人の男性に見えたし、夏帆がそれに惹かれることも素直に頷けてしまう。


 自分もああなりたい。

 ライバル心がいつの間にか憧れに変わっていた。



 俺は自分の心にケジメをつけるために、先生が全て話し終えて暫くの沈黙が続いた後、深く息を吐いて口を開いた。



「夏帆……。俺本当に夏帆の事好きだったんだ」

 そうだ。入学式から、俺はずっとずっと夏帆だけを見てきた。

 誰が何と言おうと、俺は本当に夏帆が大好きだったんだ。


「紘……」

 夏帆の泣きそうな顔が俺の心をチクチクと差す。


「夏帆にはもう工藤先生がいるんだって、それはちゃんと理解してる。だから、俺は今日夏帆から卒業するよ」

 俺は大きく深呼吸をした。

 これから先また俺に好きな人は現れるんだろうか?

 もし現れたら……先生のように一途で、強くて、優しくて……そんなふうに彼女を包み込めるような彼氏になりたい。


「先生。俺、先生の事もっと知りたいんだ。先生みたいになりたい!」

 この湧き上がる感情をうまく言葉に出来ないのが悔しい。

 目を丸くしている工藤先生の視線をしっかりと捕まえながら宣言する。


「小島……」

 先生はきっと俺の夏帆への気持ちは知っていたに違いない。

 なんだかその時男にしか分からないものが通い合えた気がした。


 そうして、俺はこの二人に引き続き張り付くことを決意したんだ。




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