28.彼女の水着姿は特別だ
「うわー! 綺麗!!」
今日は天候が快晴にもかかわらず、思っていたよりも海水浴場に来ている人の少なさに驚いた。
空にはアルパカのような雲が沖の方からニョロっと伸びている。
(天気予報だとこの地域夕方から雷雨になってたけど、まぁそのころには引き上げるだろう)
そんなことをうっすらと思いながら、きゃあきゃあとはしゃぐ女子たちの声に俺は心を弾ませていた。
夏帆の水着姿が拝めるなんて、今年一番のビックイベントと言っても過言ではない!!
着替えを済ませて友香がニヤニヤしながら夏帆の腕を引っ張って連れてくる。
「ちょっと、男性諸君! 夏帆がこんなにスタイル良かったって知ってましたぁ?」
二ヒヒと笑いを堪えながら自分の前に夏帆を差し出した。
白い薄手のパーカーを羽織っているからまだ俺の目には足しか映っていないが……
太すぎず細すぎず、俺の好みドストライクな足だけでも十分目のやり場に困っている。
「ちょっとやめてよ! そんなこと言われたら上脱げないじゃない!!」
そんな夏帆が可愛くて俺は先生の表情を観察することをすっかり忘れていたが……
「青木さん、ちょっと!!」
急に先生が夏帆の手を引き、俺たちから離れた。
コソコソ何かを話しているように見えたが会話まではよく聞こえない。
ここに来てまで、何か注意でもされているんだろうか?
海に来て水着になるのは当然なのにな。
彼女が先生を説得しているように見えたのは気のせいか?
「夏帆どうしたんだろうね? 別に先生に何か言われるようなこと一つもないでしょ?」
心配そうに友香も遠目で二人の姿を見守っている。
なんだか……彼女が先生を宥めているのか??
「ったく、海に来てまで教師の仕事持ち込むなってんだよ」
ボソッと俺は呟いた。
「先生誘ったの紘でしょ?? 何言ってんのよ!」
暑い中待たされている友香がだんだんイライラしてくるのが分かった。
あぁ、あれは爆発10秒前の顔だ。
そう思った時にはもう友香の姿は隣になかった。
運動部で鍛え上げられた強靭な足で砂浜を蹴り、先生と夏帆のところへ突進していく。
「先生! なに夏帆に注意してるのか知らないですけど、水着の事だったら気にしすぎですよ? 高校生だってみんな普通にビキニを着てますから! 周りを見ればわかるでしょ??」
壊れたマシンガンのように額から汗を垂らし、抗議する友香を俺はあんぐりと口を開けて傍観する。
「……ま、まぁそうなんだけど……」
かなり押され気味な先生は友香の勢いをかわせない。
「せっかく夏帆可愛い水着着ててるんだから、そんな固い事ばっかり言ってないでちゃんと見てあげてください!!」
そう言って夏帆のパーカーのファスナーをジャットと下して現れた彼女の水着姿に、俺以上に顔を真っ赤にして硬直しているのは工藤先生の方だった。
「ち、ちょっと!! 友香!!」
夏帆は慌てて隠したがおかしくなった空気は簡単には戻らない。
「何よ、どうせすぐ脱ぐんでしょ? 別に今だっていいじゃない」
フンと腕を組み友香は呆れたように言う。
「ま、まぁそうなんだけど……私もなんか調子に乗って露出の多い水着選んじゃって反省してるっていうか……」
モジモジと答える夏帆。
「何言ってんのよ? この海水浴場見渡して、夏帆と同じくらい露出してる子どれだけいると思ってんのよ? 気にしすぎ!! もう暑いから海に早く入りたいの!!」
そう言って夏帆と大して露出の差のない水着姿を友香は溜めらいもなく曝け出し、俺の腕をがっしりと引っ張って海に連れ出された。
「ちょっと、パラソルとかの準備はもう任せたからね!!」
大声で小さくなっていく先生と夏帆に叫び散らす友香に俺は引きずられながらそんな勇ましい彼女の姿を唖然と見ていた。
「先生……ごめんなさい。先生に可愛いって言ってい欲しくて私、この水着選んだんだけど……」
さっき一瞬見えたそれは黒いシンプルなビキニだったが、彼女の白い肌には一段と際立っていた。
俺は夏帆のこんな姿を彼氏なのに初めて見るし、そうでない他の男の目の前に晒すなんてもっての他だと我を忘れて取り乱してしまった。
こんなことなら、どんな水着を買ってたか、買い物の時にちゃんとチェックをしておけばよかった!!
「可愛い……可愛すぎるくらい可愛いんだ……。でもほら、ここには他にも知らない男がたくさんいるだろう? 誰にも見せたくなかったんだ……ごめん」
女性の水着姿を見たことがないわけじゃない。
大学の時は普通に友達と海に来たことだってあった。
でも何だろう、彼女は特別だ。
彼女の周りを通り過ぎていく男全てが、夏帆の事をチラ見しているような錯覚に陥っている。
「ねぇ、今日水着になっちゃダメ?」
申し訳なそうな表情で俺に聞いてくる彼女に、『ダメだ!!』なんて言いたいけど言えるはずがない。
「ごめん、俺神経質になりすぎてた……。せっかく海水浴楽しむためにここに来たんだもんな。思う存分楽しんできなよ」
あぁ、早く連れて帰りたい。
そんな水着姿は俺限定で見せてくれた方が嬉しかった。
「ありがと! センセ! 早くパラソル出して、友香と紘のところに行こう!!」
彼女はパーカーをザッと脱いだ。
彼女の水着姿の全貌を今俺は初めて自分の視野に収めた。
思わず触れたくなるような柔らかそうな身体に想像以上の胸……いや、これは頭の中でも言葉になんかしたくない!
このままでは変態教師みたいじゃないか!!
慌ててスッと彼女から目を逸らす。
(今日夏帆の事を直視したら、今まで隠し通してきたすべてのネジが緩み吹っ飛ぶかもしれない)
ゴクリと生唾を飲んで、今日一日がなんとか早く過ぎることをひたすら祈っていた。




