27.恋のライバル?
電車の窓の外に見える広大に広がった海の沖には小さく船が浮かんでいる。
俺と工藤先生は二人仲良く並んで電車に揺られていた。
前々から立てていた四人で海に行く計画が今日晴れて叶い、早朝から慌ただしく支度をして、最寄りの駅で俺と友香、夏帆と先生は待ち合わせをした。
最初に夏帆が姿を現し俺と二人で友香と先生を待つ。
大きな麦わら帽子にノースリーブのレースがあしらわれたシャツと、ショートパンツ。
俺は彼女の私服姿が余りにも眩しくて頭が真っ白になった。
「紘、日焼け止め持ってきた?」
白い腕を摩りながら日焼けを気にしているのだろうか?
「俺はサンオイルしか持ってきてないけど……」
何処か日焼け止めの売っている売店はないかとキョロキョロするが、早朝の為どこも開いていそうにない。
「そっか……テーブルの上に置いて忘れてきちゃった」
はぁ、とため息をつく姿も今の俺にとっては、なんだか夏帆のオフショットを覗いているようでたまらない。
「現地に着いたら、どっかしらに売ってるだろ」
俺はさりげなく彼女の肩に手を置く。
「そうだね。ま、友香に借りればいいか!」
気を取り直したようにニッコリと笑う横顔にまた見とれてしまう。
やばいな。
先生と夏帆の関係を探る前に俺が彼女の魅力にやられてしまいそうだ……
彼女の肩に置いた手が感動で痺れを感じる始末……
あぁ、俺の彼女だったらどんなに幸せだろう?
もう友香も先生もいらないから、二人で先に行ってしまおうかとさえ思う。
「ごめん! 遅くなった!!」
約束の時間より少し遅れて工藤先生と友香が同時に到着する。
「ごめんねー! スマホ忘れちゃってもう一度家に取りに戻ってたらさ、途中で工藤先生に会って、ね!」
先生を見つめる視線の中に、どことなく嬉しそうな友香をみつけて、俺はなんだか気分が悪い。
「さて行くか!」
複雑な気持ちを絡ませながら、そうみんなに声をかけ特急電車に乗り込んだ。
どうしても友香と夏帆、工藤先生と俺の組み合わせに自然となってしまうのだが……まあ仕方ない。
本当は夏帆の隣に座りたいな、なんてほくそえんでた俺の願望はすぐに崩れ消え去った。
窓側に座って外を見ている工藤先生を見ていると、悔しいほどに綺麗な顔立ちをしている。
おんなじ人間から生まれてくるのに、神様はどうしてこんなに容姿に差をつけるなんて残酷な試練を与えてくるのだろう?
俺だって、先生の顔で生まれてくれば絶対にモテモテだったに決まってる!
「工藤先生、すみません、今日は付いてきてもらって」
後ろの女子たちの盛り上がりとは対照的に男二人の俺たちは全く会話を交わせずにいた。
この固い空気に耐えられなくて、なんでもいいから話題を探す。
「いや、いいよ。こういうの実は好きなんだ。自分が高校生の時なんてこんな機会、与えてすらもらえなかったからな」
なんだか闇が深そうな先生のテンション。
特に興味もなかったが、沈黙よりはマシかと耳を傾ける。
「友達いなかったんですか?」
俺はこんな金持ちでイケメンにまともな友達なんで出来る訳ないないだろう!そう心の中で嘲笑った。
「友達がいなかったっていうか……自由がなかったんだ。俺の父さん知ってるだろ? とにかく厳しくてさ」
ハハハと話の内容とは裏腹に爽やかに微笑む工藤先生。
「まぁ……先生ってなんだか恵まれてますもんね。お金も家柄も」
おっとしまった、つい本音が出てしまった。
「恵まれてる? そう見えるか? 一日8時間以上の勉強を強いられて、ほんの少しできた自由になるはずの時間も習い事や、作法の勉強で埋められる。自分の結婚相手すらも好きに決められないんだぞ?」
……結婚相手? 先生はまだ独身だったよな??
「……でもな、俺生まれて来てから初めて父さんの敷いたレールに乗っかってきてよかったって、今初めて思えてるんだ。俺がどうしても逢いたかった人に引き合わせてくれたんだから……」
それはまるで独り言を言う様に、工藤先生の瞳はどこか遠い場所を見ている様だった。
「逢いたかった人?」
ほんの少しだが気になった。
工藤先生がそこまで逢いたいと思った人って誰なんだろう?
「あぁ。俺恥ずかしいけどマザコンでさ。母さんは厳しすぎる父さんからいつも守ってくれる優しい人だった。でも3年前に亡くなって……。もう未来なんかないって思ってた時に彼女が現れてな? 地獄の底に落ちて這い上がる気力もなかった俺を明るい光で照らしてくれるような子だった」
男の俺でもそんな優しい目でニコッとされたら変にドキッとしてしまうだろう?
きっと……俺が思っているより先生は悪い奴じゃないのかもしれないな……
「なんか、先生そういうの普段全然見せないから意外です」
ライバルと思っていたこの完璧男の魅力に無意識に取り憑かれそうになっている俺は、一体何を喋ってるんだ……?
「まぁ、こんな事あんまり人に言う事でもないだろ? でも不思議だな。小島にはなんか話したくなったんだ」
頬図絵を付いて外を眺めていた視線をフッと俺に向けて笑った。
「先生……」
なんだ……?
冷静になれ、俺!!
相手はライバルだぞ?
何を女子みたいにキュンとしてるんだ!
まぁ、明らかにそういう恋だ何だとは違う感情ではあるが……
なんで女子がこの男にキャーキャー騒ぐのか、なんとなくわかった気がしたんだ。




