22.まさか……?!
「くそっ! 夏帆はどこに行ったんだよ!!」
救護室で手当てをしていた彼女は西野先生の顔を見るなり、また泣きそうな顔になる。
一体何があったんだ?
何度聞いても俺にも友香にも話してくれない。
いつもどんなことがあってもニコニコしているのに、こんな俯く彼女を見るのは初めてだった。
よほどの事情があるに違いないと思ったし、しつこく聞いて嫌われるのも嫌だったので、今はそっとしておこうと彼女を置いて友香と救護室を離れた。
お昼になっても夏帆は戻ってこないので、心配になり探し始めたけど……
実は友香だけじゃなくて、俺も最後のフォークダンスを楽しみにしていた一人だった。
一度彼女に中途半端に告白して以来、いつか必ずちゃんと決着をつけようと心に決めていた。
入学当初より、確実に仲良くなった俺たち。
そろそろもう一度夏帆に自分の気持ちを打明けてもいい頃なんじゃないかと、朝から密かに気合を入れていた。
ところが最後のビックイベントを目前にして、忽然といなくなった彼女を今いくら探しても見つからない。
俺は焦った。
このチャンスを逃したら、この先告白できるタイミングなんていつになるか分からない。
「夏帆!! 夏帆!! どこだ??」
校舎のどこかにいるんじゃないかと、教室一つ一つ覗いて行く。
あぁ、もうフォークダンスの音楽が始まってる……
いそがねば!!
だんだん早足になり、2階3階と上がっていく。
屋上へ続く階段の前で立ち止まり、もうここしかないかと思った。
そろそろ陽が沈みかけた夕焼けの空を眩しく思いながら前に進む。
彼女の包帯を巻いた足らしきものが見えて『夏帆!!』と呼んだが、広い校庭一帯を包むような、大音量のダンスの音楽にかき消された。
きっと彼女だろう……そう思って近づいた時、俺は目を疑った。
そこに居たのは夏帆と……工藤先生だった。
何を話しているのか……気になったが何やら近寄れない空気だ。
あぁ、あんなに楽しみにしていたフォークダンスの音楽が今はとてつもなく煩わしく思う。
この角度からは彼女の表情は全く見えない。
でも……工藤先生の瞳はいまだかつて一度も教室で見せたことのない色をしていた。
まさか……とは思う。
でも嫌な予感しかしない。
こんなところで、二人きりで……
暫く柱の陰に隠れて様子を伺っていた。
彼女の髪を撫でているのか……?
くそっ!
やたらデカい先生の背中が夏帆を全部隠してしまった。
先生の表情するら伺えなくなった。
それにしたって、見えなくたって全てに違和感しかない。
なんで、今ここで二人きりでいるのか?
俺は決定的な証拠が何も見つけられないまま、立ち上がる二人に視線を走らす。
沈みかけた夕日越しに見つめ合う二人はどっからどう見ても恋人同士のようだった。
待て待て。
だってあいつは先生だぞ?
今まで二人の間のどこに接点があったって言うんだ??
普通に夏帆は工藤先生のクラスの一員だった。
色恋の雰囲気なんて、俺には何処にも見つけることはできなかったぞ?
あんなに夏帆の事を毎日毎日見ていたのに……
分からん!!
二人が屋上を出ようとこっちに歩いて来た。
俺は慌てて柱の陰に身を隠す。
二人が校舎の中に消えていくまで必死で目で追い続けた……
「紘!! 紘ったら!! 聞いてるの??」
あぁ、友香の声は今の俺にとって『煩い』この一言に尽きる。
「なんなんだよ! 今考え事をしてるんだって言ってんだろ??」
そんな俺の話は、都合良く彼女に耳には届かない仕様になっているらしい。
「ねぇ、長谷先輩彼女いたなんて、私全然知らなかったぁ……! しかもめっちゃ美人の3年生……。最初から叶わない恋してたのよ、私。ほんっとバカみたい!!!」
机に突っ伏しうわーと泣き出した。
「はいはい、もう泣くなって……」
友香の頭を撫でながら、泣きたいのはこっちだと心の中で苦虫を噛み潰す。
体育祭終了の後は各自解散となって、今俺たちは教室に戻ってきたが、夏帆の姿はそこにはなかった。
「なぁ、友香。夏帆どうしたか知ってる?」
ヒックヒックと泣きじゃくる友香の背中をトントンと叩きながら、俺は俺で今日あった出来事を何とか整理したかった。
「……夏帆なら足が痛いからって、すぐに家に帰ったけど……?」
そもそも夏帆は今日に限らず、いつもわき目もふらず一目散に帰宅する。
何度も『一緒に帰ろう?』と誘っては見たものの『ごめん無理なんだ!』と考えることもせず即答する。
「夏帆さぁ、24歳の男と住んでんだろ?」
良からぬ想像しかできそうにないから現実をあまり考えないようにしていたが、今日は聞かないわけにはいかないと思った。
「うん、何よ今更」
ズズっと鼻水をすすりながら真っ赤な目をして俺を見る。
「一緒に住んでて……なんかあったりしないのかな……?」
こんな質問をするキャラじゃないんだ俺は。
あえてこの話題になると避けるようにしてきたのは俺自身だったが……
でも今日は聞かずにはいられない。
「は? 今更何言ってんの? 何もないわけないでしょ? 付き合ってんだから」
さらっと友香の口から出てきた言葉に俺は全身硬直した。
「……え? どういう事?? いつから??」
……聞いてない。
聞いていないぞ?! 俺は!!
「ねぇ、その話題、しょっちゅう私と夏帆の間で話してた時、紘はいつも隣にいたよね? 何聞いてたの??」
呆れたように泣きはらした目で俺を見る。
「いや……その話題はあえてシャットアウトしてたっていうか……なんていうか……」
もうパニックだ。
視点が定まらない。
だって24歳って……
ドンピシャじゃねーか!!
「友香、相手の人、見たことあんの?」
わざとあんまり興味のなさそうな表情を作ってみる。
「ないわよ! 何度も紹介してっていってるのにさぁ、なんだかひた隠しにしてんのよね。よっぽどオジサンなんじゃない?」
頬を膨らまし悔し気な表情をする友香を横目に、
(間違いない……)
俺はそう確信してしまったんだ……




