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2.ホントに私でよかったの?

 私は学校が終わると、一目散に家に帰る。

 仲良くなった友達に、今の生活風景を覗かれることが恐怖だからだ。


「はぁ……。いつ見てもデカいわ……」

 大きく聳え立つタワーマンションを見上げながら、先月までとは一変した身の回りの景色に今だ慣れることはない。

 オートロックの入り口を通過すると、最上階の25階まで一気にエレベーターで駆け上がる。


 今までは六畳一間、風呂トイレはかろうじて別。

 お母さんは早くに亡くなって、私と病床に就いたの父との二人暮らしだった。


 去年までは別人のように元気だった父の癌が見つかったのは、つい半年前。もう手の施しようがないと告知されるほどの末期だった。




 玄関の扉をカードキーでサクッと開けると、広い大理石の玄関が広がる。

 ローファーを脱いで下駄箱にしまい、すぐにお風呂掃除に取り掛かった。


 結婚したから……ってわけじゃない。

 毎日小学生の頃からずっとやってたことだから、何の違和感もない。

 毎日のご飯も、お弁当作りもそう。

 お父さんに作ってた分が、先生の分に変わっただけ。


 そうそう、スーパーでの買い物はめっきりしなくなった。

 同じクラスの子たちに目撃されるのが怖かったからだ。

 なんてったって、同じクラスの先生と生徒が夫婦なんて、万が一噂が広がったら大問題でしょ??

 今は、ネットスーパーって便利なものがあるおかげで本当に助かってる。


 なんか一見いい奥さんしてる風でしょ??

 でもね、ほんと上っ面だけ。

 そう……、形だけ……



「もうすぐ先生帰ってくる時間だ」

 私はキッチンに行って、準備をする。


 オートロックのベルが鳴り、鍵を開けた。

 もうすぐ玄関のドアが開く。


「ただいま」


 ほら、聞こえた。

 さっきまで学校で聞いていた声。


「おかえりなさい、センセ」

 私は先生のカバンを受け取り、迎え入れる。


「おい、家で先生はやめろって! なんだか犯罪っぽいだろ、この関係」

 やや本気な顔に、そんなこと気にしてたんだ……そう思ったけど、口には出さなかった。


「ご飯、作っといたから、食べてね」

 そう言って自分の部屋に私はさっさと戻る。


「あぁ、ありがとな」



 おかしいでしょ?

 これでも一応夫婦なの。

 形だけは。




 私のお父さんと、先生のお父さんである吉平さんは実は10年来の飲み友達だったらしい。

 結婚の理由はホントに単純な事で、余命を知ったお父さんが、独りぼっちになってしまう私の身を案じて吉平さんに相談したところ、息子の嫁にもらってやるから安心しろ!っていう簡単な口約束。


 お父さんが亡くなる前にチラッとその話を私にしてくれたけど、会ったこともない誰かもわからない、しかも16歳の子供と結婚だなんて、相手の息子さんの方が了承するわけないでしょ? って、その時は鼻で笑ってたんだ。


 でも、いざ、お父さんが天国に行っちゃって、私は引き取ってくれる予定だった伯母さんのところに身を寄せたんだけど……


 住み始めてからたった一日で、もうここには居られないと限界を感じてしまう。

 伯母さんの家は七人も子供がいて、とても私を養う余裕はないってことを、まざまざと見せつけられたのだ。

 みんな気を遣って、アンパンを半分分けてくれたり、おにぎりも少し私のだけ大きくしてくれたり……

 でも、その気遣いがとても苦しくて苦しくて……


 そんな時、彼のお父さんである吉平さんから連絡があって、一度息子に会ってみないかと。

 最初はあんまり乗り気じゃなかったんだけど、どうしてもおばさんの家から出て行きたくて……

(あ、決して嫌いとかじゃないからね!)


 そうして、初めて彼に対面して……

 どんなオジサンなのかと思いきや、物凄いイケメンで、礼儀正しくて、話も面白くて……

 もう、結婚なんかどうせ無理なんだから、そんなのじゃなくて、普通に吉平さんの養子にしてくれればいいのに……って何度も思ったけど、流石に私の方からは図々しくて言葉にできなかった。


 どの道、先生には簡単にお断りされるって思ってたから、私はイケメンと会って目の保養になったなぁ……くらいの気持ちで、帰る間際、私のために時間を割いてくれて申し訳なかったと、深々と彼に頭を下げたんだ。


 そしたら……

「じゃ、父さん。結婚の話、進めてもらっていいから。じゃ、夏帆ちゃん、来月待ってるな」

 そうさらっと言って、キランと白い歯を見せ忙しそうに、私に背を向けた。


 そこから、怒涛の引っ越しが始まり、学校も元々決まっていた公立高校から、吉平さんの経営している私立の学校に決まり……一瞬にして、ガラリと変わった私の生活は、今だに実感がわかないことがたくさんあって、所々浮足立ってしまっている毎日。



 ……こんな成り行き任せの結婚だったから、私は先生の事、何にも知らないんだ。


 年が離れすぎていて、恋愛の『好き』っていうのが上手くあてはめられず、結局『先生』が一番しっくりくる。


 私の旦那様だなんて、誰にどう説明されても自分の中に定着しない。

 まぁ、周りから見ても信じてもらえないだろうけどね。


 先生の事は嫌いじゃないよ。

 むしろ好き……だとは思う。



 そんな私の複雑な気持ちを知って気を遣ってくれているのか、先生も全く私にそんな気持ちにならないのか……


「無理して夫婦とかやんなくていいんだからな? 普通に生活してろ。俺も自分の生活大切にしたいしな」

 そんなことを真顔で言われたんだ。


 ね? 意味わからないでしょ??

 一生に一度の結婚を、簡単に私に決めちゃって、これから先、先生はどうするの??

 本当は後悔してるんじゃないの……??


 なんか、本音を聞きたいんだけど、聞けないんだ。

『じゃ、夜のお勤めも果たしてもらおうか? 夫婦なんだから』

 なんて言われたらどうする??

 恋愛もしたことないのに、そんなの無理に決まってる!!


 だから……とりあえず、この仮面夫婦的な生活を続ける以外、私に選択肢は残されていない……


 部屋の隙間から、先生の後姿をチラッと覗いてみるものの……

 無言で淡々と、私の作った食事を食べている。



 先生……

 なんだか、私の人生に巻き込んじゃったみたいで……ホントにごめんなさい……








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