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19.ヤキモチ

 清々しく晴れ渡った大空に体育祭開催を知らせる花火が鳴り響く。

 私は早起きをして、お弁当作りに励んでいた。

 朝陽さんと一緒に食べることはできないけど、きっと大活躍するであろう彼の姿を想像して『お疲れ様』をせめてお弁当の蓋を開けた時に伝えられるような出来にしたかった。

 ウインナーや海苔にはさみを入れ、動物やお花などに形を作って綺麗に詰め込む。


「できた!! 今日のは最高の出来!!」

 自分でも褒めたくなっちゃうくらい可愛らしくできた。

 先生のお弁当に入りきれなかったおかずたちを、自分の小さいピンクのお弁当箱に詰めて、準備完了!


「先生、おはよ。今日のお弁当すっごい可愛くできたから、味わって食べてね」

 蓋を開けた時の驚く顔を想像したら、顔が緩んでしまう。


「お、ありがとう! 楽しみにしてるな!」

 そう言ってお弁当は私の手から先生の手に渡り、朝陽さんはいつもより少し早めに家を出て行った。

 彼の背中を見送って、私も学校に行く準備を始める。



 セミロングの髪の毛をポニーテールにしながら、昨夜の出来事を思い出していた。

 寝る直前まで、ずっと私たちはお互いの体温を心地よく感じながら抱きしめ合っていた。

(いつかはキスするときも来るのかな……?)

 そんなことをドキドキと鼓動を高鳴らせながら、早くまた一日の終わりににならないかなぁと朝から思ってしまう。

 一日十分だって恋人でいられる時間ができるなら、それを支えにどんな大変なことも一日ウキウキしながら過ごせると思った。


 今日の体育祭のイベントは、残念ながら私にはあまり関係のないものだけど、ウチの学校は先生が参加する競技がやたら多いって友香から聞いた。

 新しい朝陽さんの姿が見られるかと思ったら、それはそれで楽しみの一つだ。




「工藤先生ー!! 頑張ってー!!」

 女子たちの熱い視線が朝陽さんに注がれる。

 教師だけの学年対抗リレーが熱烈な応援のなか行われているのだ。


「凄いなぁ、工藤先生何人抜いたの?? 一気にトップじゃん!」

 友香が感心して先生の活躍っぷりを褒めている。


「それにしても、イケメンだし背は高いし……勉強も運動もできるとくりゃ、下手にうちの学校の男子の彼氏を探すより先生のファンでいた方がよっぽど有意義ね」


 友香の言葉に複雑な気持ちで相槌を打つ。


「先生って彼女いないのかな? なんか、そういう噂、あんまり聞かないよね? モテそうなのに」

 顎を手で摩りながらブツブツと友香が独り言を言っている。


「でもさ、俺この前見たよ? 保健の西野先生と工藤先生が生物実験室の中で大人な雰囲気醸し出しながらなんか楽しそうに話してたぜ?」

 並んで見ていた私と友香の間を割るように入ってきた紘が放った言葉に私の心が一気に凍り付く。


「え? いつ?」

 動揺を気づかれないように目は競技から離さないまま、紘に聞いた。


「3日くらい前だよ。てか、あの二人って前から噂あんだろ? 結構みんな知ってるぜ?」

『なんだ、知らなかったのかよ?』そんな意外そうな顔で私を見ながら情報通である自分を遠回しにアピールしてくる紘。


「あぁ、そう言えばそうだね。なんか一時は結構堂々と二人仲良くしてたって部活の先輩も言ってたもん。なんか今年に入ってからはあんまりそういうの見なくなったみたいだけど。まぁ、あの二人お似合いだもんね。工藤先生のファンだって、西野先生を前にしたら何にも言えなくなるでしょ」

 友香はフンと鼻を鳴らして、大人の世界の話は関係ないやと興味なさそうに吐き捨てた。


「……そう、なんだ……」

 西野先生とは婚約の話まで出た仲なんだから、そういう噂が出ても仕方がないとは思うけど……

 なんで3日前なんて直近に二人でコソコソ逢ってるの??

 一言も朝陽さん、そんな事言ってなかったじゃない!!


 なんだかモヤモヤしながらも、一位でゴールテープを切る先生の姿に見惚れている自分がいる。


 腕……あんなに逞しかったっけ……

 あぁ、あんなふうに嬉しそうに笑って、ハイタッチして……


 私の知らない朝陽さんはまだまだたくさんいる。

 出逢ってまだ数か月……

 恋人としての期間は……正味本当に僅かしかない。


 西野先生は朝陽さんのこと、私よりもっともっとたくさん知ってるんだろうな。

 なんか悔しい。


 そんな私の目の前で、さっそうとタオルを朝陽さんに差し出す西野先生が視界に入る。

 朝陽さんは白い歯をキランと輝かせ、笑顔の中『ありがとう』と口元が動いていた。


 何よ……

 昨日私と紘との事ヤキモチ妬いたって言ってたくせに!!

 凄く……嬉しそうな顔してるじゃない……


 朝、幸せでパンパンに膨らんだ心が、シューっと音を立てて萎んだ気がした。

『ヤキモチ』の涙が視界を歪ませる。

 ぼやけた景色の向こう側では『二人ともお似合いじゃん!!』と面白そうに囃し立てる生徒の声が必要以上に私の鼓膜を鋭く突いた。


 もう見ていられなくて、私はその場を逃げ出すように走り出した。





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