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16.困難は一度じゃ終わらない

 夢見心地のまま、カーテンの隙間から差し込む光。

 軽やかな小鳥のさえずりに気づいてアラームよりも先に目が覚めた。

 ふかふかのベットの上で昨夜の朝陽さんのセリフを何度も思い出しては口元が緩みまくる。


「本当に夢じゃないんだよね?」

 両手でパンパンと頬を叩くその痺れすら、幸せという感覚に変わっていくようで顔の綻びが止まらない。


 リビングに移動すると、まだソファーで朝陽さんが眠っていた。

 そっと顔を覗き込む。


(寝顔……見るの初めてだなぁ)

 いつもパリッととスーツで決めて教壇に立っている姿を思い出すと、無防備なスヤスヤと寝息を立てている様子がたまらなかった。



 なんだかいつものことが、全部違った感覚に思えるのが不思議。

 お湯をシュンシュンと沸かす音も、包丁でサクサクとネギを刻む音も、キッチンカウンター越しに見えるリビングの風景も……

 一つ一つが命が吹き込まれたようにキラキラしていて、愛おしい……



「おはよう」

『恋人』に言われるその一言は心地よく耳をくすぐり、向けられる眼差しに吸い込まれそうになるのを息を止めて堪える。


 向かい合って朝食をとり、今までの3倍は朝陽さんと目が合う回数が増えた。

 そのたびにドキドキ心臓が高鳴って、目の前にある焼き鮭やみそ汁の味の記憶が残っていない。



「夏帆ちゃん……あのさ、呼び方なんだけど……家と学校での境界線が俺の中で危うくなっててさ……。昨日も『夏帆ちゃん』って何度も呼びそうになっちゃったから、今更なんだけど極力『青木さん』でもいいかな?」

 突然の提案に少し寂しい気もしたけど、正直自分も何度も学校で『朝陽さん』と呼びそうになって冷や汗をかいていたから、仕方がないかと思った。


「うん、私も同じ。その方がいいかも。私も出来るだけ『先生』って呼ぶようにするよ」

 ふふふと思い出し笑いをしながら彼を見る。


「俺気付いてたよ、夏帆ちゃんが言い間違えそうになってたの」

 クククと笑った。


「ほら、『夏帆ちゃん』なってるよ!!」

 すかさず突っ込み朝陽さんを覗き込む。


「ほんとだ! 俺たち重症だな」

 二人の溶け合う笑い声が爽やかな朝に色どりを添えた。



 きっと私達上手くいく……

 そう揺るぎない確信があった。


 たとえ立場が真逆の先生と生徒であっても、今の私達ならどんな困難だって乗り越えられるってそう思ったんだ……






「……夏帆!! 夏帆ったら!!」

 ぼーっと今朝までの事を思い出してニヤついていた私。

 突然友香に後ろから肩を叩かれハッとする。


「ご、ごめん! なに?」

 くるりと後ろに向きなおすと友香は周りの様子をキョロキョロと伺いながら、私の耳にコソコソと近づいてきた。


「……ねぇ、昨日どうだったの?? 紘にちゃんと『好き』って言われた??」

 小さな声で囁かれたその言葉が一気に私を昨日の夕方へとタイムスリップさせる。


 あぁ!! そうだった……!

 朝陽さんとのことで頭がいっぱいで、紘に告白されたことをすっかり忘れてた!!


「……え? う、うん?」

 なんだか友香に言っていい事なのかそうでないのか判断もつかず変にごまかすと、彼女は何もかも見切ったような眼差しで私をジリジリと追い詰めてくる。


「ふふふ、ちゃんと言えたのね、紘。……で? 夏帆ちゃん返事は??」

 友香主導でどんどん話が前に進んでいく勢いを止められず、私は考える暇も与えられないまま口をモゴモゴさせた。


「ねぇ、はっきり教えてよ! 紘に聞いても何にも教えてくれないんだもん!!」

 ぷぅと口を膨らませて拗ねる友香を横目に、ややこしい事になりそうだったので、簡単に紘との昨日の出来事を小声で説明する。


「……そっか……。なんか余計な事しちゃったみたいでごめんね? アイツ、ああ見えてもなかなか優しいし、いいやつだからさ、夏帆にも幼馴染の太鼓判押して紹介できるくらいおすすめだったんだけどね……。まぁ、しょうがないか」

 残念そうな表情を浮かべながら、納得してくれた友香。

 きっと、紘の事も私の事もちゃんと考えて取り計らってくれた事だったんだろうけど……


 私に『恋人』が出来たってこと、ちゃんと友香には伝えておいた方がいいかな?

 色々紘とのことで気を遣わせちゃうのも悪いし……

 朝陽さんが相手だって事さえバレなければ大丈夫でしょ。


「ねぇ、友香。この前言ってた同居してる24歳の人と……私実は付き合うことになってさ」

 さらっと言って、さらっとこの話題を終わらせよう!!

 心なしか早口になってる私。


「えっ?? 今なんて??」

 顔のすべてのパーツがバラバラになって飛び出しそうなくらい驚いた友香の顔を見て私は嫌な予感がした。


「え? ホントに?? いつ?? どんな人???」

 高波が押し寄せてくるような勢いでにじり寄ってくるその勢いは『パパラッチ』そんな言葉を思い起こさせた。


「……そんな、えと、普通の人! サラリーマン!! だから、私はもう誰とも付き合えないからさ」

 もう紘と私をくっつけようとすることをあきらめてもらいたい、ただそう思っただけだったのに……


「ねぇ! 紹介してよ~どんな人なの?? 気になるぅ!!!」

 目を爛々と輝かせながら私の机に回り込んできた。

 どう伝えたら、穏便にこの話が終わるのか……

 ただひたすらそれだけを宙に目を泳がせながら考えていた。


「ちょっと、今日夏帆んち行っていい?? だってその人と一緒に住んでんでしょ??」


(いやぁぁぁ!! それ以上大きい声で口に出すのをやめてぇ!!)

 それを言葉に出そうと口を開けた時、チャイムが私たちを横割りするように鳴り響く。


「なんだぁ! じゃ、続きは次の休み時間ね!!」

 そう言って自分の席に戻っていく。



 はぁ……

 友香があんなにゴシップ好きだったなんて……


 あぁ、これからどうしよう……


 一難去ってまた一難……

 私はがっくりと机に突っ伏した。


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