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13.先生のお嫁さんになりたい!

「ただいま!」

 夏帆ちゃんが帰ってきた。

 俺のクラスの佐藤友香と小島紘と三人で映画に行くっていってたけど、最近どうも小島の夏帆ちゃんを見る目が気になって仕方ない。

 今日はずっと嫌な予感がして、そのことばっかり考えていた。


 24歳にもなって、何やってるんだ、俺は……?


「お帰り。どうだった?」

 このくらいは聞いてもいいよな……?


「……う、うん……色々あってなんか疲れちゃった……」

 力なく笑う夏帆ちゃんに、やっぱり何かあったんだ……!


「楽しくなかったの……? 佐藤と小島、最近夏帆ちゃん仲いいだろ?」

 遠回しに聞いてる卑しさに自分が嫌いになりそうだ。

 彼女は言いづらそうに俺をチラチラと見ている。


「言いたくないなら、無理して言わなくてもいいけど……困ったことがあれば何でも言えよ?」

 あんまりしつこくして嫌われるのが怖い……正直そんな気持ちもある。

「夕飯まだだろ? 今日いいお肉買ってきたから一緒に食べよう」

 そう言って彼女をダイニングテーブルに座らせた。




 ステーキを焼いている先生の後姿を見ながら、今日の紘の告白が頭の中をぐるぐると回っている。

『なんでも言えよ!』なんて言ってたけど、告白された話を朝陽さんにするのはどうなんだろうか……?


 まぁ、人助けの気持ちで私と夫婦を装ってるんだから、言ったところで、朝陽さんにとっては痛くもかゆくもないのかもしれない。

 ただ紘の事を、私の恋愛事情まで気にしてくれた上で夫婦役を演じてくれている朝陽さんに内緒にしているのが申し訳なくて、つい口に出したくなってしまう。


「はい、お待たせ!! いい感じに焼けてるだろ」

 得意気に鼻の下を擦る朝陽さんを見て本当に癒される。

 こんな先生の姿を見たい女子たちはきっと山ほどいるだろうに……

 私って、ホント恵まれてるなぁ……


 とはいえ、片想いなのが哀しいけど……


「いただきます!!」

 二人で声を合わせてお肉にナイフを入れる。


「あぁ~美味しい!!」

 口の中で蕩けるようになくなっていくステーキは生まれて初めて!


「ねぇ、朝陽さん、今日何かの記念日とか??」

 普通の日にこんなご馳走、私の今まで生きてきた人生の中では考えられない!!


「ほら、ボタン付けてもらっただろ? そのお礼。それに、いつも美味しいご飯作ってもらってるし、感謝の気持ちを込めてさ」

 照れくさそうに笑う朝陽さんに私の方が蕩けそうになってしまう。


「嬉しい……!」

 大好きな人に、感謝してもらえることがこんなにも嬉しいなんて!!

 今日一日の憂鬱が一気に吹き飛びそうだった。


「ボタン、ちゃんと外れずに付いてました?」

 一応確認しておく。


「あぁ、夏帆ちゃんがちゃんとつけてくれたからバッチリだったよ。準備室で悪いことしてるわけじゃないんだけど、変な緊張感あったよな」

 クククと笑う。


「ホント! すっごいビックリしたんだから!! いきなり誰かが扉叩いて先生のこと呼んだ時は!」

 アハハと私も笑い返した……と、ふと朝陽さんの顔を見たら、真っ赤になっている。


 ……そういえばあの時……

 あの時、先生が扉の外から呼ばれなかったら……

 一体どうなってたんだろう……?


 朝陽さんは……

 どういう気持ちだったんだろう……??




「……あの……、今日は……本当にありがとうございました」


 先生以上に私の顔は赤くなってるかもしれない。

 でも、凄く幸せだったんだ、先生と二人で過ごしたあの時間が。


 この家に来て、朝陽さんと同じ時間を共にして……

 間違いなく、隙間だらけだった私の心は満たされている。


 うまく説明はできないけど、ちゃんと感謝の気持ちを言葉にして伝えたくなった。


 朝陽さんは準備室で私を見ながらどう思っていたのか分からない。

 その時の本音なんて聞きたくても聞けないし……

 でも、私の中で一つだけ確信したことがある。


『ずっと、ずっと……朝陽さんの傍に居たい』


 私の心の中は今間違いなく、その気持ちでいっぱいになってる。


 本当は、すぐにでも婚姻届けをだしたいくらいに……

 何があっても、二度と離れないように……



 ……でも、やっぱり、ちゃんと私の事を好きになってもらいたい!!


 同情なんかじゃなくて……

 ずっと私と一緒に居たい!

 離れたくない!

 そう言って欲しい。


 だから、その言葉が聞ける日が来るまで頑張ろうって思えたんだ。


「朝陽さん……。私、頑張るから……」

 決意の言葉が思わず口から出てしまう。


「……? どうした? 勉強か?」

 不思議そうに私を見ている。


「違います。朝陽さんが本物のお嫁さん欲しくなるくらい、私頑張るから……」

 私だけを見て欲しい。

 他の誰も好きにならないで……


「今も十分頑張ってるだろ??」

 突然お礼を言ったり、頑張るって言ったり……

 先生の頭の上にハテナが浮かんでるのが見えるようだ。


「……あの……あの……、私、ちゃんと先生のお嫁さんになりたいんです!! ……今は……同情してくれてるだけだろうけど……そうじゃなくて、ちゃんと朝陽さんの奥さんとして……好きになってもらえるように頑張りたいんです……」


 先生に気を遣わせたくなくて、変に遠回しな言い方になっちゃってるけど……

 今の私にできる、精一杯の告白。

 ちゃんと伝わってなかったとしても、自分自身に決意表明したかった。


「……夏帆ちゃん……?」


 真っ赤な目……

 朝陽さん泣いてるの……?


「……十分なんだよ……今のままで……。俺の中で……夏帆ちゃん以外、俺の奥さんになる人なんて最初からいないんだから……」


 ……え……?

 どういう意味……?


「頑張るのは俺の方だ……。夏帆ちゃんの旦那さんにしてもらえるように……」

 そう壊れそうな笑顔で私を見てる。


「朝陽さん……?」


「俺は夏帆ちゃんと結婚したかったんだ……。夏帆ちゃんに俺のお嫁さんになって欲しくて……」

 こんなに震えてる先生をはじめて見た。

 学校ではいつも凛としていて、頼りにされていて……


 でも、今、とてつもなく愛おしい。

 なんで? 私の事?

 いっぱい聞きたいことはあるのに。


 そんなことどうだってよくなるくらい、朝陽さんの気持ちに今触れられてる気がして嬉しいんだ……

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