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その2☆お前、強いな·····?

「む……」


昇降口の自分の下駄箱にて、俺は唸っていた。


上靴の上に被さる白い封筒、地味だからラブレターではないと思うのだが……

周囲を警戒しつつ、ポケットに突っ込みトイレへダッシュした。

すれ違う生徒達は皆、奇異なものを見る目を向けてくる。刺さって痛かった。


個室の鍵をしっかりと掛けて、便座の蓋の上に座る。昔ここで飯を食っていたらクラスの男子にうんこですかー。うんこしながら飯ですかー。って言われたなぁ、ああ懐かしい。


やばい、ドアを全力で殴りたくなってきた。


疼く右腕を鎮まらせ、丁寧に封を切っていく。出てきたのは、几帳面な丸文字で書かれた手紙だった。


『東史郎へ


昨日は呼び出しに応じてくれてありがとう。


ライトノベルに対する興味が湧いて、ずっとうずうずしてた。


買いに行こうかとも思ったけど、本屋で知り合いに会ったら困るので東を待つことにしたよ。


今日の放課後、また同じ場所で話を聞かせて欲しいかな。


相良創』


「ぬおぉぉおおおおおッ!?!」


なんだこの口調、よくわからないが俺は今日も誘われたらしい。

勝手に舞い上がってたわけでは無いようで安心した。





「おはよう、茂明」


「ああ、おはよう史郎」


俺の席は廊下側の一番後ろ、つまり目立たない席ナンバーワンだ。

そして、その席の前に座っているのは桂茂明。ポジション的には主人公の友人キャラといったところだろうか。二次元に関心があり、時々偶に深夜アニメの話をしている。


「なんかお前嬉しそうだな」


ニヤリと頬を緩めると、茂明は俺を揶揄してきた。こいつ、どこまで当たりをつけてやがる。


「分かるか?」


「分かりやすいからね」


俺がそう答えると、これまたニコリと憎たらしいほど爽やかな笑顔を向けてきた。ナチュラルにイケメンとか、お前が主人公になれよと言いたくなってしまうのも無理はなかろう。


「女子生徒とちょっとな」


「何!?お前遂に告られたのか」


これ以上ないくらいの大仰な驚きを見せる茂明だが、残念ながらそんなことは有り得ない。お前じゃあるまいし、俺は告られねえよ。


「まさか、ただ話すだけだ」


「ふーん。ま、ささやかな春だと思って享受することだよ。相手もお前も実はその関係性を望んでいた……ってね」


「微妙な距離感いいよな。あんたとは気が合いそうだ」


「その台詞、僕は何度も聞いているよ。詰まり、僕とお前のたった数回の会話の中で、互いの価値観がすれ違ったり交わったりを交互に繰り返してるわけか」


なんだこいつ、とんでもなく面倒くさい理論を並べ立てやがったぞ。


「そんなことは知らないが、価値観なんて違ってて当たり前だろ」


「僕もそれには同意見。だけど、いい加減友達くらいには思って欲しいかなーってね」


「仕方ないから知り合い以上と思ってやる」


「そんなんじゃ、本当に一生一人だよ。成人式とか大丈夫?」


俺がそう言うと、茂明はかなりの衝撃を受けた様子で目を見開き、成人式を持ち出してきた。どうやら、ボッチとは常に友達を探してるものだとでも錯覚していたようだ。


「滝中の奴らか。あの頃はよかったな」


成人式は地区ごとに行われる。俺は見滝原中学校に通っていたので当然そこら辺とやることとなる。


俺、二年生までは陽キャの一人だったんだよ。


「あー、お前滝中って言ってたね。僕は河中、十河中学校だったけどそこまで仲のいいやついないんだよ」


「茂明も結構遠くから来てるんだな」


「まあ、九冬高校に来るやつ少ないから好都合だけど、これくらいの距離は」


「おお、俺と同じこと思ってるやついたわ」


高校一年生で調子乗ってデビューするやつとは少し違うが、去年までの行いを無かったことにしようする人間は思いのほか多いかもしれない。これは朗報。


「で、実際どうなんだ。高校生活二ヶ月間送ってみて」


「僕は、まあ。中心グループとのパイプも完成したしそろそろ成り上がりの時間かなぁ」


嘘です。デビューするやつとは少し違うとか言ったけど、この人めっちゃ野心ありました。まあ、そりゃ顔面偏差値高めだしコミュ力あるしで調子乗っても怒られやしないか。


というか、下手な主人公タイプよりオタクとも仲良くできる友人キャラの方がモテる気がする。男女問わずというかなんというか……


「史郎は?」


「調子乗ってた中学生時代の反省を踏まえ、高等学校では大人しくしたいと思います。や、やばい、お前を殴りたくて右腕が疼く……」


「気持ち悪い厨二病ごっこはいいから、暴力やめようか」


「俺は女だって殴れるぞ」


「そんなことは聞いてないよ。というか、実際に殴ってるところ見たことあるし」


ああ、そういえばそうだったな。


入学してすぐの頃、家が近所の女、新川月夜が話しかけて来たっけ。それで、俺がこの世で一番嫌いなキャラクタ設定が幼馴染と知ってか知らぬか訳の分からない罵倒をしてきた。よくエロゲ主人公やラノベ主人公はあの文句に耐えられるな。


世話焼きぶって自身の思想を押し付けるゴミだと俺は思うが。あれか、天動説ならぬ世動説か。世界はあたしを中心に回っているよ☆


そして、大人げなくというかなんというかイライラし過ぎて反射的に手を出してしまったわけだ。


幸い、自制心くらいは残っていたため鼻血で済んだ。違う高校だったことも作用してかその話が明るみに出ることは無かったはずなのだが……


茂明のやつ、隣にいたわな。


「女子の顔平気で殴るやつがいるのかと衝撃を受けたが、お前は当たり前なんだな」


「違う。あいつの顔と発言と性格と声が嫌いなだけだ。女の子虐めて楽しい?とか冤罪にも拘らず言ってくる方が悪い」


「そうか?僕にはよくわからない」


「あの言葉、五指に入るくらい嫌いだぞ」


「まあ、ギャルゲだったら攻略後回しにするくらいしか思わないけど」


「リアルで言われたら気持ち悪いことこの上無いぞ、いやマジで」


少し口論になって、言い負かすというか理屈で返していただけなのに、何故あそこまで腹のたつ言葉を言われなければならない。理不尽で不条理だ。


「あ、うちのクラスのギャルポジ来たよ」


「お前今ギャルゲで連想しただろ……」


唐突にするりと話題を変えてくるもんだから驚いたじゃないか。


そう思い、視線を移すと……


──夕日の天使が、降臨していた。

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